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29. ビリー様の歌声
しおりを挟む『ミレーナ、元気ない。どうした?』
ビリー様が心配してくれていますが、言葉を返す元気もありません。
リリル様とデートだと思ってドキドキしながら出掛けたものの…人目が気になって楽しめなかった。
私みたいな小心者ではリリル様の様なイケメンの横に並ぶだけでも危険なのかも…。
今日は体調が優れないと嘘までついてレッスンをお休みしてしまったし、本当に私は根性もないんだな。
昨日、帰宅したら侍女の皆さんの熱い視線を感じました。
きっと、いろいろと期待していたんだよね。
「はあ~…」
私は身体の中の悪い物を吐き出すかのように大きな溜め息をついた。
『ミレーナ、不幸の溜め息。ビリーは不幸嫌』
ビリー様酷い…確かに溜め息は不幸の始まりとか言って、近くにある人にも伝染するって迷信が言われてるけど、私とビリー様の仲でしょ。
『ミレーナ、今日はゆっくりする。ビリーが歌唄う』
慰めてくれているのかな?
…って、ビリー様!歌はダメ!
絶対に駄目です!
ビリー様は器用で頭も賢いんだけど、唯一酷いのが歌なんだよね。
ひどいオンチというか、ガラガラ声というかなんというか…。
とにかく聞いている人を失神させたことがあるくらいの兵器になるような歌声なんです。
「ビリー様慰めてくれてありがとうございます。だけど、歌は遠慮します。それより、物語が聞きたいです」
ビリー様の機嫌を損ねないように止めてもらわないとね。
『遠慮いらない。ビリー喉調子良い』
最近、お話するのが少なかったから喉の調子が良いのか?!
しまった…どうしようかな。
「ビリー様、今日は歌よりビリー様の好きな綺麗なお姫様を助けた話が聞きたいです。駄目ですか?」
ビリー様は少し考えてから、
『唄ってから話す。それが良い』
良くな~い!
『あっ、あ~!』
発声練習を始めてしまいました…。
こうなると、覚悟するしかないかも。
お屋敷の皆さん…ごめんなさい。
『あああーーー!』
ビリー様オンステージが開催されてしまいました。
私はビリー様に見えない様に素早く耳栓をして笑顔で歌を聞いているふりをしています。
きっと、屋敷の皆さんはこの騒音は何事だと思っているかもしれませんが…。
暫くすると、急に後ろから腕を捕まれました。
誰?と思って顔を見ると、リリル様が驚いた顔をして私の腕を掴んでいます。
何かを話されていますが耳栓をしているのでよく聞こえません。
急いで耳栓を外しました。
「あなたは…ミレーナなの?」
え?リリル様…記憶でもなくされたのですか?
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