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32. 優しい人
しおりを挟む朝早くから今まで通っていた洗濯場ではなく少し離れた所にある小屋みたいな小さな部屋に連れて来られた。薄暗くて書類が沢山ある部屋だな。
「今日からお前達にはここで働いてもらう。お給金は洗濯の時より少し上乗せするから頑張るように」
宦官なのかな?男の人がここでは指示を出しているみたい。
「「分かりました」」
茉央と2人で顔を見合わせながら返事をした。
実は昨日は青晶のことがあってよく眠る事が出来なかったんだよね…。頭がボーとしている感じがするけど失敗しないようにしないと!
「じゃあ、お前はここの書類の仕分けをしなさい。お前はこっちだ…」
てっきり茉央と同じ作業をするのかと思っていたら私は違う場所に連れて行かれた。
一体何をさせられるのだろうか…。
「失礼します。昨日申し上げた者を連れて参りました」
豪華な扉の前に立って部屋の中の誰かにお伺いをしている。
「入りなさい…」
「おい、くれぐれも失礼の無いようにするんだぞ!」
男は小声で私に注意をしてきた。もっと早くに教えてくれても良かったと思うのだけど。
「「失礼します」」
顔を下げたまま部屋に入る。とても甘い花のような薫りのする部屋だ。
「顔をあげて」
「「はい」」
顔を上げて驚いた。目の前に居たのは青晶のお姉さんだった。なぜ…ここに連れてこられたの?
「まあ、可愛らしい子ね。突然ごめんなさいね…急に私の女官が病気になってしまって人が足りなくなってしまったのよ。少しの間だけ手伝ってほしいのだけど大丈夫かしら?」
「もちろん大丈夫だよな!」
男は強制するように私に話しかけている。もちろん断ればすぐに首にされるだろうな…。受けるしか私には選択肢はない。
「はい。私で良ければ喜んでお受けします」
「あら?言葉遣いも丁寧な子なのね…。あなた…本当に洗濯場にいたの?」
私は荒れた手を見せた。
「はい、昨日まで洗濯場に居ましたのでこの様な荒れた手をしております」
荒れた手が証拠になるかは分からないけどね。
「まあ…」
青晶のお姉さんは女官に何かを耳打ちした後私の所にやって来た。
「頑張りやさんの手ね…」
私の手を握った後女官から何かを受け取り私に塗り始めた。
「これはね手荒れに良く効くクリームなのよ」
私は驚いて手を引っ込めた。
「そんな高い物を私に使ってはいけません…」
青晶のお姉さんは優しく笑い、もう一度私の手を握った。
「気にしないで…私があなたに使いたいのよ」
なんて優しい人なんだろうか…。
この国の身分の高い者達はだいたいが偉そうでふんぞり返っている。身分の低い者達を虫けらの様に扱う人が多いのに…。
こんな人は初めて会った。
少しの間とはいえ青晶と会う危険はあるがこの人にお仕えできるなら一生懸命頑張ろうと思えた。
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