姫は王子を溺愛したい

縁 遊

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1. 王子様は女の子!?

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「はぁ~、やっと見つけた…」

 会社の先輩の杉ノ原(すぎのはら)さんが息をきらして話している。

 薄暗い地下倉庫まで先輩が私を探しに来るなんて珍しいことだ。

 私…王子 光(おうじ ひかる)26歳は現在スポーツメーカーの社員として働いている。

 いつもは企画、制作担当として部屋に籠っていることが多いのだが、今日は探し物があり地下倉庫に来ていた。

 因みに倉庫は会社の地下の奥の奥にあるので滅多に人は来ないのだ。

「何かありましたか?」

 余程の事で来たのだろうと思い聞いてみたが…。

「予定が変更になって明日、姫野選手が採寸に来るから頼むぞ」

「え!?明日!?わ、私がするんですか?」

「姫野選手の御指名だそうだ。学生時代からの顔見知りなんだろ?頼んだぞ~。あ~、やっと帰れる」

 手をヒラヒラとさせながら杉ノ原さんが私の肩をポンポンと叩いて去って行った。

「何で…アイツが私を指名…?」

 私は訳が分からなくて悩む。

 先輩のいつもの冗談?

 それにしては姫野の名前が出てたし…。

 姫野 優(ひめの ゆう)26歳、現在プロリーグで活躍中の人気バレーボール選手だ。

 身長188センチの爽やか系王子様と言われているらしい。高身長でパッチリ二重の肌も艶やかで顔も綺麗だからね。

 昔は女の子みたいだったのにな。

 私と姫野は小学生の時からの知り合い…腐れ縁と言うやつかもしれない。

 出会いは小学生の時のバレーボールクラブからかな。

 お互いに同じバレーの強豪高校に進んだんだけど、私が女子高に行って、姫野は違う高校に行ったのでそれからはバレーの試合以外に会うことは無かったのにな…。

 自分で言うのも何だが、私達は学生バレーの中で有名な二人だった。

 なぜ有名だったか…それは小学生の時にバレーチームで練習していたのだが、それがバレーボール雑誌の人の目にとまり撮られた写真が雑誌に載ってしまったからだ。

 私達のいたバレーチームは男女混合で練習するのが当たり前で姫野と私はその日同じチームになり練習していた。

 夏の暑い日に汗を流しながらコートに立つ二人の姿を撮った写真だったのだが…それがなぜかバズったんだよね。

 どうやら私達の見た目が原因だったみたいなんだけど…私としては複雑な心境だったんです。

 当時の私は小学生ながら身長168センチのベリーショートで肌も日焼けしていて色黒ボーイッシュな女子で、姫野は今からは想像つかないけど身長155センチでボブヘアーの色白(日に焼けないタイプ)で可愛い系男子だったので私が王子様、姫野が姫様と呼ばれたんだよね…。

 女の子なのに王子様…これは今でも呼ばれてる。身長が175センチもあるからね。女の子にしては高いし、出るとこでてないから仕方ないんだけど…。

 その時はなぜ自分達がそんなに人気者になったのか小学生だったからよく理解できなかったけど高校生の時にできた今や親友の相羽柚菜(あいば ゆずな)ちゃんが教えてくれて理解できたんだったな~。

 「ビジュアルが美少年BL(ボーイズラブ)だからよ」

 柚菜ちゃんはキッパリと私に言いきった。

 BLって?のレベルだった私にBL大好き柚菜ちゃんはそれは熱く、熱く語ってくれましたよ。

 「女子と男子の間の様な雰囲気を醸し出している女の子の王子様と儚げな雰囲気を醸し出している姫の様な男の子の姫様…その二人が汗を流しながら切磋琢磨している…最高の写真!いや!神写真以外の何者でもないわ!」

 途中、危ない顔になりながら高校の昼休みに熱弁をふるってくれたからそれが男の人同士の恋愛の事なんだって理解できましたよ。

 その後、柚菜ちゃんは私の理想とする女の子そのものだったから私から友達になってほしいってお願いして今は親友。

 実はそんな柚菜ちゃんは今や立派なBL漫画家としてデビューして有名になってるという、できる女なんだよね。

 好きなことを仕事にできる、夢を叶えるって凄いですよね。

 あ…話がそれちゃった。

 ともかく私と姫野はその雑誌が発売された後、他のスポーツ雑誌からも取材を受けたり、テレビに出演したりすることになり、二人でひとつみたいな扱いを暫くされていたんだよね。

 小学生、中学生時代はどこで取材をされるのも姫野と一緒だったかな。

 だけど思春期の私達の距離は微妙だった…。

 まあ、それが嫌で環境を変えようと思って高校は女子高に行ったというのもあるんだけど…。

 あの頃の姫野は女の子と言ってもバレないような美少年だったから横に並んで比較されるのが辛くなってきてたんだよね。


 高校生になると姫野も身長が急激に伸びてガッチリとした体型になっていたけど、私は相変わらず身長だけが少し伸びて他の肉付きは…曲線を描ける体型にはならなかった。残念。


 それに大学生の時のケガが原因で唯一の接点であったバレーボールからも今は遠ざかっているしね。

 姫野と最後に話をしたのはいつだったのか…。


「あっ、あった」

 考え事をしながらも探していた資料がみつかったので倉庫から出て自分のデスクに戻った。

 デスクの上にはメモが張られていた。

「冗談じゃなかったんだ…」

 メモには"明日、姫野さんは10時に来られますので宜しくお願いします"と書かれていた。


 明日…何年ぶりかの姫野とのご対面だ。





 



 

 



 
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