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第33話「助けて貰った者同士」

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 数日後……
 ダンの下へ、魔法鳩便で連絡があった。

 数日前、城のリフォーム工事を依頼したドワーフことドヴェルグの職人ラッセ・ムルサからである。
 「1週間どころか、既に工事施工の準備が出来たから速攻で迎えに来て欲しい」という趣旨の手紙が送られて来たのだ。

 なので、ダンとスオメタルは早速、ドヴェルグ族の巨大地下国家、イングズの王都ザガズへ転移魔法で一気に跳んだ。

「いよ~っ、ダン、スオメタルちゃん、即、来てくれたかい! こっちは準備万端、職人全員、スタンバって待ってたぜ!」

「申しわけない、手間をかける」
「ただただ感謝! でございます!」

「お安い御用だ! まずは上物の引き渡しだ。展示場へ来てくれるか」

「了解!」
「期待大でございます!」

 ダンは城の改築と同時にドヴェルグ族が作る上物も多く依頼していた。
 オルヴォの店では《建売仕様》のいろいろな上物うわものを売りだしていたからだ。
 先述したが、ダンの言う上物《うわもの》とは、土地の上にある建物等を指す。
 オーダーしてあったのは、厨房設備付きの店舗、大型の宿舎、倉庫、家畜小屋、中型の馬用厩舎、宿泊室&応接室付きの会議棟、そして牢獄である。

 引き渡す上物が置いてある展示場は、ラッセの店に隣接した広大な空き地である。
 建築物の上物だけでなく、いろいろな商品のサンプルが展示してあり、客は自由に見る事が可能であった。

 ラッセはダンとスオメタルを、上物がずらりと並んだ一画へ連れて行く。

「どうだい! 頼まれたものは全部用意したぜ。それと大サービスだ。ここにあるサンプルなら、好きなモノを自由に持って行ってOK。料金は追加なしだ」

「えええっ! そんなのだめだよ。ただでさえ、いろいろと無理言ってるのに」

「全然構わんよ、というか、ぜひ持ってってくれ。どうせここらの上物は新商品に差し替えるから」

 有無を言わさないという雰囲気で、ラッセは「にやり」と笑った。

「わ、分かった。じゃあ、ありがたくお言葉に甘えるよ」

「ははははは! ついでに今回のリフォーム工事に使う資材も収納しておいてくれ」

「了解、ありがとう。」

 返事をしたダンは、スオメタルと相談。
 オーダーしたもの以外、数多の上物を譲って貰う事に決めた。

 アパートを数棟に、各種の住宅付き店舗を……共同浴場もぜひ持って行けと進められた。
 受け取り商品が全て確定後、ダンはすぐに収納の腕輪を起動させる。
 魔法の力で亜空間につながれている魔法腕輪を使い、今回の購入物と資材を保管するのだ。
 そしてオルヴォと職人達を転移魔法で現場に運び、作業して貰う段取りなのである。

 上物を収納。
 資材置き場へも行き、『全て』を収納すると……ラッセは言う。

「よっし! じゃあ、店に戻るか。今回同行する職人どもを紹介するぜ」

 上機嫌のラッセと共に店へ戻ると……
 驚いた事に、100人以上の職人が待ち受けており、ダンとスオメタルを歓迎してくれた。

「おいおい……」

 「いくら何でも《工事に》従事する人数が多すぎる」という意味で、ダンがアイコンタクトする。
 だが、ラッセは豪快に笑い飛ばす。

「全員、一族の恩人たるお前の自宅工事に参加したいと志願して来た。弁当持参で行くから、飯の心配も無用だ」

「ありがとう! 本当にありがとう!」
「感謝という言葉しか見つからないでございます!」

「良いって事よ! なあ、みんな!」

「「「「「「「「お~~~~っっっ!!!」」」」」」」」

 ラッセが職人達へ同意を求めると、大きな歓声があがった。

 と、ここでダンは伝えておかねばならぬ大切な事を思い出した。
 今やダンの自宅の城には居候いそうろうが数多居る。
 それも亡霊少女のタバサに、スパルトイ、不死者アンデッドばかりである。

 ラッセ以下、職人達を驚かせぬよう、事前に正直に伝えておいた方が良いだろう。

「なあ、ラッセ」

「おお、何だよ、ダン」

「実は、居候がいっぱい増えてなあ……」

 ダンは……
 タバサとスパルトイ軍団をピックアップし、共に暮らしている経緯と現状を話した。

「おお、不死者アンデッド達が居候か! な、何かものすげぇけど……つまり、ダンは誰にでも好かれるって事だ。それでいいんじゃねえか」

 意外にもラッセは納得してくれた。
 しかし居並ぶ職人達100人にも説明する必要がある。
 納得してくれなかったり、臆したら、もうしわけないが、作業の段取りは考え直さなければいけない。

 そんなダンの気持ちを察したのか、ラッセは大きく手を挙げた。

「おおい! みんな! 魔王の一味に殺され亡霊になった女子と、心を操られていた不死者アンデッドをダンが助けたそうだ」

「「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおっ!?」」」」」」」」」

 さすがに職人達は驚いた。
 ラッセの話を更に聞こうと耳をすませる。

「そんでよ! 恩を感じた奴らにえらく懐かれちまって、ダンとスオメタルちゃんは、見放せず、一緒に暮らしてる」

「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおっ!!」」」」」」」」」

 再び歓声が響いた。
 ラッセは更に話を続ける。

「現場に行けば、奴らは居るぞ。亡霊の女子1名と、骸骨のスパルトイ達だそうだ。もしもそれが嫌だって事なら、不参加でも構わねえ。俺は行くが、どうだ? 断っても全然OKだ。ペナルティはいっさいナシだぞ!」

 「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」」」」」」」」

 一段と大きい歓声が店に響き渡る。

 ……誰も不参加を名乗り出なかった。
 「イヤイヤ参加させられる」という者は皆無であった。
 
 気合が入る! 頑張ろう!という前向きな声があちこちから、上がっていた。

 ダン達と暮らす亡霊と不死者アンデッドも、
「魔王から助けて貰った者同士だ!」という強い連帯感が生まれていたのだ。

「と、いう事だ。さあ、ダン、スオメタルちゃん、さっさと行こうぜ!」

「お、おう!」
「しゅ、出発……でございます」

 ダンとスオメタルは何とか返事が出来たという面持ちであった。
 熱く大きな喜びがふたりの心には生まれていたのである。
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