上 下
39 / 50

第39話「断る×8」

しおりを挟む
 ここは勇者タウンの外れ……
 魔法障壁越しに制止するスパルトイ軍団をタバサを完全スルー。
 大声でわめくよう咆哮していた押しかけアルパッドであったが……

 呆れ顔のダンとスオメタルが来たのを見て、やっと咆哮をやめた。
 
 そしてダン達を含め、全員の前で『人化』する。
 いわゆる人狼の人化である。
 アルパッドの身体のシルエットがぼやけて行く。

 初めてアルパッドに会った時は、半狼半人の姿だったから、
 彼は3形態を使い分けられるという事となる。

 あっという間に人化が終わったアルパッドは……
 15,6歳の短髪でたくましい黒髪の少年の姿となった。
 ダンに、ほんの少しだけ似ていないわけでもない。

 そして何と!
 アルパッドはダン達へ向かい、魔法障壁ごしに土下座した。

 さすがにダンとスオメタルは駆け寄った。
 
 人化しても、アルパッドとの会話は念話である。
 ちなみに魔法障壁は、物理魔法とも弾くが、
 念話だけは通る仕様となっていた。

『おいおい、どうした?』
『こいつ、またも無理やり、ストーカーでございますか?』

 しかしアルパッドは無言で、土下座したままである。

『…………』

 当然、ダンとスオメタルはれて来る。

『黙ってたら、どうしたいのか分からんぞ』
『さっさと用件、言うでございます』

 しかし、何故かアルパッドは無言のままだ。

『…………』

『勘弁してくれよ』
『……いい加減にしないと、ぶち殺すでございます』

 再三の通告を無視された、
 ダン達が切れそうになった瞬間。

『兄者達から叱られ、メシ抜きにされて、ぺこぺこに腹減ったんす~~!! 何でも良いから、食わせてください~』

 絶叫したアルパッドはまるで蛙のようにべったりと、
 四肢を伸ばし、見えない魔法障壁にしがみついたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 アルパッドは相当空腹だったらしい。
 魔法障壁を解除し、敷地内で農業用の作業台に食器を並べ、
 ダンとスオメタルが食べきれなかった『鱒ランチ』の残りをぱくついていた。
 ちなみに犬族に塩分は禁物なので、魔法で完全に塩抜きをしていた。

『激うっま!』

 アルパッドのコメントを聞いたダンが苦笑する。

『おい、スオメタル。あいつ、お前と同じ感性持ってるぞ』

 しかし固く腕組みをしたスオメタルは、冷たい目でダンをにらんだ。

『……はあ? 何か、おっしゃいましたでございますか、マスター』

『い、いえ! 何でもありません!』

 そう、スオメタルは超が付く不機嫌なのである。

 食べ物の恨みは怖い!
 スオメタルが「夕食の楽しみに!」と決めていた、鱒料理の残りを、
 いきなり押しかけたアルパッドが『横取りする形』となったからだ。

 最初ダンはアルパッドを城内へ入れようとした。
 城の大広間でメシを食わそうとしたのだ。
 
 しかしスオメタルの超が付く炎のような猛反対で、現在の状況となった。

 やがて……
 鱒料理を食べ終わったアルパッドは満足そうにため息を吐いた。
 そしてダンとスオメタルへ深く礼をすると、またまた土下座。
 衝撃の言葉を発したのだ。

『勇者ダン様! スオメタル様! おふたりは凄い!』

『はあ』
『……何でしょう? メシ食ったらさっさと帰って頂きたいでございますけど!』

『貴方様方が、魔王デスヘルガイザー様を瞬殺した救世の勇者様、そして、ともに戦った美貌の従士様とは露知らず、失礼を致しましたあ~っ! ひらにひらに、ご容赦を~っ!!』

『良いって、そんなん、もう帰ってくれよ。メシをたっぷり食わせただろう』
『ストーカーワン公! 速攻ゴーホームでございます!! いきなり押しかけた上、飯食わせろなんて! もうウチには出入り禁止でございます!』

 しかしアルパッドは、ダンとスオメタルを華麗にスルー。
 一方的に言い放つ。

『さすがは勇者様と、従士様。不死者アンデッドどもを従え、何もないこの地に素敵な街まで造り上げてしまうとは! 感動致しましたっ!』

『はあ……』
『感動? だから、何をどうしたいのでございますか』

『お聞きくださいっ! この人狼第三王子アルパッド! おふたりに一生忠実に仕えまぁす!! そして、ででで、弟子にもしてくださぁ~い!! 鍛えて強くしてくださ~い!!』

『はあ!? 一生仕える? 弟子? 鍛えて強くしろ?』
『コイツ、ただ飯喰らった上、何寝言、言ってるんでございますかっ!』

 アルパッドからの、想定外の懇願に戸惑うダン達。
 
 しかし、すぐに答えは出た。
 次のひと言が、アルパッドの墓穴を掘ったのである。

『ダン様! スオメタル様! ぜ、ぜひ! ご自宅の城に住み込みでっ!!』

『だめ! 俺達の城に住み込み断る! そんなんOKしたら、俺がスオメタルに殺される!』
『絶対断る! 断る! 断る! 断る! 断る! 断る! 断る~~~!!』

『え~~!!!』

 落胆の絶叫がこだました。

 住み込みで、家臣としてダン達へ仕える、そして弟子になりたい!
 アルパッドの切ない願いはあっさり却下されたのである。
しおりを挟む

処理中です...