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第42話「わけありと変わり身①」

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 二軒目の店以降……
 ダンとスオメタルが買物で行く店、行く店が、『勇者の噂』で持ち切りだった。

 魔王を倒した事と、不可解な追放で、人々は勇者ダンに大いに注目していた。
 噂は良いモノ、悪いモノ様々、多種多様であった。
 
 最初はいろいろと念入りに、用心深く探りを入れていたのだが……
 あまりにも多い!
 なので、ダン達はいちいち反応する事をやめた。
 考える事もやめた。
 
 いろいろざっくりと聞いたが……
 ありもしない『幻の財産』を狙う盗賊らしき存在以外は、
 大至急で対応する必要がない。

 全ての噂をスオメタルの魔導回路に記憶させた。
 なので、帰宅してからじっくり精査、分析する事を決めたのである。

 さてさて!
 買物も終わり、今日のランチも終了。
 ランチは……
 ダンの提案通り、露店のハシゴだった。
 いわゆる食べ歩きである。

 市場にはたくさんの露店が毎日威勢の良い声で、食欲をあおるよう、
 巧みに言葉を投げかけて来る。

 王都の人々は、五感に訴える様々な刺激に釣られ、
 つい手を伸ばしてしまうのだ。
 
 串焼き肉、揚げ肉、ミートパイ、パテ、ラグーなど……
 食欲旺盛なダンとスオメタルは、目移りしてあれもこれもと、
 い~っぱい食べてしまった。
 
 最後に果実を絞ったジュースを飲むと、
 珍しくデザートが食べられなかったほどである。

『わぁお! 凄く、美味しかったでございます!』

『だな!』

『買い物もめぼしいものは、無事購入出来ましたし、全くのノープロブレムでございます』

『うん、良かった、良かった』

 美味しいものをたくさん食べ、スオメタルは機嫌がすこぶる良い。
 ダンも「うんうん」と気分よく頷いていた。

 しかし、ここでスオメタルが何故か『ジト目』となる。
 疑いの眼差しかもしれない。

『でも……』

『え? ええっ? で、でもって! な、何?』

『珍しくマスター、ゴミ集積場やリサイクルショップへ行かないと思ったら……』

『お、お、思ったら、な、何?』

 いきなりの突っ込み。
 やはりダンの行動は、しっかりとチェックされていた。

 ダンの顔を凝視するスオメタル……

『あれ? マスターが発する魔力の波動が大いに乱れているでございます』

『え? み、乱れてる? そ、そ、そうかな?』

『はい、見た目もきょどっているでございますよ、マスター。それにだらだらだらと……滝のように、マスターの額に汗が流れ、完全に動揺しているのが、凄~く怪しいでございます!』

『う~……そ、そ、そ、そ、そうかなぁ?』

『ですが、う~ん。とりたてて今日の行動に不審な点はございませんし……』

『ないない、ないな~い! ふ、不審皆無、怪しくな~い!』

『その慌てぶり……非常に怪しいでございますねぇ……たとえば、スプーンいっぱいあるのに、金物屋さんで、何故にたくさん買ったでございます?』

『い、い、いや! ほ、ほら! あ、新しいスプーンを使いたいと思ってさ。ほ、ほら、美味い食事を摂る際、き、気分がリフレッシュするだろ?』

『いえ! 今あるものは、まだまだ使えるでございます。むむむ……何故か、金属フックとかもいろいろと、い~っぱい買ったでございますよね?』

 スオメタルは「ぐいぐい」迫って来る。
 ダンの滝汗も、だらだらだらと止まらない。

 こうなったら……
 ダンはスオメタルと、約束するしかない。
 それしか収拾がつかない。

『城に帰ったら分かるって! スオメタルも絶対喜ぶって! 保証する!』

『ふうむ。スオメタルが喜ぶ? 保証する……でございますか? じゃあマスターを信じるでございます』

 そんなこんなで、念話のやりとりが盛り上がっているうちに、
 ふたりは、冒険者ギルド王都支部へ到着した。
 
 時間は午後0時30分過ぎ。
 業務カウンターは多分昼休み。
 だが、午後1時の業務開始とともに並ぶつもりだ。

 正門の守衛に挨拶し、しれっと1階フロアに入るダンとスオメタル。
 当然だが……
 完全に擬態しているから、正体がバレる気配はない。

 と、その時。

「あ~!! 久々にぃ! わけありクラン来た~!! やった~!!」

 ダンとスオメタルの姿を見つけ、ひとりの女性職員が絶叫すると、
 脱兎の如く、駆け寄って来た。

『はあ? わけありクラン?』

『私達の事みたいですが、どういう意味でございますかね、マスター』

 ダンとスオメタルが首を傾げていると、 
 ふたりの傍らに立った女性職員は、身を乗り出し、ぐいぐい迫って来る。

「待ってたよぉ! 私の事、憶えてるよね!」

「はあ、何となく」
「確か、冒険者ギルド王都支部、特別渉外担当のネリーさんでございましたか?」

「そうよ! 特別渉外担当のネリーでっす! 久しぶりだから聞くわね。ええっと貴方達は、ルウさんとツェツィリアさんよね?」

 ネリーはダンとスオメタルの『偽名』を口にした。
 ここは当然、肯定するしかない。

「はあ、そうです」
「その通りでございますが、何用でございますか?」

「じゃあ、こっち来て! 早く!」

 ギルドの職員ネリーは……
 別人の冒険者に擬態したダンとスオメタルをもどかしそうに促し、
 業務カウンターへ連れて行ったのである。
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