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第82話「伝説の序章」

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 局長室で話すシモンとエステルの下へ商業ギルドのサブマスター、ペリーヌ・オリオールからも出勤の連絡があり……
 エステルが迎えに行った。

 という事で午前9時少し前……
 シモンが3階の支援開発戦略局のオフィスへ入ると、エステルを含め、局員全員が揃っていた。

 建築の専門家イネス・アントワーヌ。
 農業の専門家バルテレミー・コンスタン。

 そして出向して来たふたり。
 冒険者ギルドのサブマスター、ジョゼフ・オーバン。
 商業ギルドのサブマスター、ペリーヌ・オリオールだ。

 全員それなりの経験を積んでおり、新人ではない。
 しかし、さすがに勝手の分からない新たな組織へ初出勤という事もあり……緊張していた。

 緊張を和らげる為なのか、局員達と話をしていたエステルが、シモンの傍らに並び、朝の挨拶を告げる。

「皆さん、局長専属秘書のエステル・ソワイエです。改めまして、おはようございます!」

「「「「おはようございます!」」」」

「本日から支援開発戦略局が発進致します。それぞれ自己紹介をして頂き、その後で早速依頼された案件の遂行に入りたいと思います。では局長からお願い致します」

 エステルに促され、シモンは一歩前に出た。

「おはようございます!」

「「「「おはようございます!」」」」

「支援開発戦略局局長のシモン・アーシュです。少し長くなりますし今更ですが、王国復興開拓省について簡単に説明致します。

 我々、王国復興開拓省の役割は王国内で難儀する人々をケアし、フォローする事です。王国内の土地に発生する危険を解消し、暮らしを豊かにする手助けをする事で王国民の生活レベルを向上させる。その結果、ティーグル王国が豊かになり、国力も上がる事となるからです。

 そして我が省は、デュドネ国王陛下とマクシミリアン殿下の富国強兵施策から創設されたばかりの省でして、王国内の各組織、プロフェッショナルな個人と提携し、共存共栄しながら行きたいと考えております。

 皆さんは各分野に秀でた選り抜きのプロフェッショナル達です。ぜひそのお力を省のかなめたる支援開発戦略局において存分に発揮して頂き、難儀する王国民達を支援してください」

 ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち!

 シモンが口上を述べると……
 エステルを含め局員全員が拍手をしたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 イネス、バルテレミー、ペリーヌ、ジョゼフ。
 4名が挨拶と自己紹介をし、簡単に抱負を述べた。

 早速業務に入る。
 課題は例の王都近郊にある小村の復興支援策である。

 シモンはエステルに命じ、小村の資料を各自へ配布した。
 各自へ事前に渡してあるものを、更にシモンとエステルが改稿、修正したものである。

 今回が初対面という組み合わせもあり……
 互いにまだまだぎこちない。

 ここで共通の話題となるのは、シモンのオーク討伐である。

 その裏付けとなるのが、ジョゼフのコメントである。
 負けず嫌いのジョゼフだが……
 けた外れのシモンの強さには完全に脱帽していた。

「局長がオーク100体を延べ一日で倒すのも充分に納得だ。いやあ、この人、化け物だわ。俺、戦ったけど動きが早すぎて、数秒でのされていたよ」

 そして更に新たな情報が……
 シモンが腕相撲で大勢の騎士達に圧勝した事。
 そして『竜殺しの英雄』アンドリューが引き分けた事が騎士達の間で大層な噂になっているらしいのだ。

 イネスとバルテレミーが出勤した際に言われたという。
 身分証明書が新しくなり……
 所属が『支援開発戦略局』となっていたからである。

「きょ、局長! お、俺とイネスさんが、き、騎士達から散々言われましたよっ! お、お前のところの局長は、ホ、ホント凄いって!」
「は、はいっ、きょ、局長が! 英雄アンドリュー・ラクルテル公爵と引き分けたって聞きましたっ!」

 ジョゼフとペリーヌはまだ『支援開発戦略局』の身分証明書が出来上がっていない。
 だから王宮内に入る手続きの際も、騎士達は好奇の目を向けただけ。
 何も言わなかったらしく『衝撃の事実』を知らなかった。

 当然、ふたりは驚愕する。

「うえええっ!? ほ、ほ、ほ、本当ですかぁぁぁ!!!」
「うっそぉ!」

 ここで、エステルが手を挙げる。

「はい! アレクサンドラ長官と私が証人です。ふたりともはっきりと見ました」

「おいおい、エステル」

 「話を大きくしたくない」シモンが慌てて止めるが……

「大丈夫ですよ、長官からは情報公開の許可を頂いております。公爵閣下のご了解もお取りしておりますよ」

「そ、そうなの?」

 このリークOKにもいろいろと思惑があった。
 人の口に戸は立てられぬということわざがある。
 家の戸を閉めるように、人の口の戸を閉める事は出来ない、つまり世間の噂が広がって行くのはどうしようもないという意味である。

 下手に箝口令を敷いてもみっともない。
 トレジャーハンターとして名を馳せたとはいえ、戦士としては全く無名のシモンと引き分けた。
 一部始終を見届けた配下の騎士達は主アンドリューに対し、何故隠すのか、疑問を持つに違いない。
 で、あればあえて大々的にオープンとし、シモンの強さを伝える方が得策だとアンドリューは判断したのだ。
 
 また愛娘クラウディアがシモンと交際する事が発覚しても、
「自分と引き分けるくらい強いから認めたのだ」という確たるロジックにもなる。

 片やアレクサンドラにも思惑がある。
 アンドリューと引き分ける局長シモンの強さが世間に響きわたれば……
 王国復興開拓省に箔が付き、ありとあらゆる仕事がやりやすくなるからだ。

 「竜殺しの英雄と引き分けた」と聞き、局員達は畏敬の眼差しをシモンに集めた。
 だが、アンドリューと引き分けた事は……
 後に『最強の賢者』とうたわれるシモンの伝説をスタートさせた単なる序章に過ぎなかったのである。
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