悪魔☆道具

東導 号

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大地を砕く魔剣編

第6話「帰還」

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 深い迷宮の奥で、絶体絶命の窮地に陥っていた冒険者ジャン……
 バルバ達が、助けを求めるジャンを、冷たく見放すように別れて2週間後……

 ラウルス王国王都エードラムの路地を、土地勘がないと丸わかりに、きょろきょろしながら進むひとりの男が居た。
 既に防具としての用をなさない、切り傷や破れ穴だらけな、超が付くぼろぼろの革鎧を着た男は……
 あっさり見捨てられた冒険者……ジャンであった。
 
 どうやら……
 あれから生きて、迷宮より生還出来たようだ。
 ちなみにバルバから借用した、恐るべき魔剣カラドボルグもしっかり小脇に抱えていた。

 しかし、何か様子が変である。
 
 大怪我をしていたのはバルバの回復魔法により、回復した筈である。
 だが、今のジャンは血の気が全くなく頬がこけ、身体はやけに重そうにして歩いていた。

 律儀なジャンは、教えて貰った僅かな記憶を頼りに、バルバが営むという魔道具店を探していたのである。
 
 王都の中央広場から職人通りに入る道の、すぐ手前の路地。
 入って右に曲がって突き当り……

 時間は今、お昼を過ぎたくらいである。
 昼食を摂る人々が大勢王都を歩いていて、この通りにも誰かしら出歩いている筈であった。
 だが、裏通りの路地とはいえ、今ジャンが歩いている道には人の気配が全くない。

 変だ?
 ……店など見当たらない。

 そんな事を考えたジャンが、ふと目を向けると……

 何と!
 今迄、普通の民家だった筈の場所に、いきなり古ぼけた建物が出現していた。
 見れば、築20年は経っているだろうという、渋い雰囲気。
 ガーブルタイプという庶民向けの造りではあったが、若干小さめの規模で築年数のせいか風格がある。
 1階の店舗の扉は重厚な樫の木で出来ていて、渋い獅子のドアノッカーが取り付けられていた。
 そして、そんなに大きくない木製の看板が掲げられている。
 表面には、達筆な文字で店名が書かれていた。
 魔道具の店『放浪ストレイアラ』と。

「こ、ここなのか? やっと……着いた。うう、身体がすっげぇ重い……」

 ジャンは息も絶え絶えにそう言うと、獅子のドアノッカーを掴み「ごんごん」と打ったのである。

 同時に「がちゃり」と扉が開かれた。

 「すっ」と顔を覗かせたのは、ジャンが迷宮で出会った小柄な美少女……
 シルバープラチナの髪を持つ、あのツェツィリアである。
 相変わらず、独特な仕様のメイド服を着用していた。

「ふふ、確か迷宮で会ったジャン……だったわね。ようやく来たの?」

 首を傾げて尋ねるツェツィリアは、面白そうに微笑んだ。
 
「くうう……」

 片や、息も絶え絶えのジャンは、まともに返事すら出来なかった。
 だが、ツェツィリアは心配する素振りもなく、笑顔のままだ。

「あらぁ? やっぱり苦しそうね? でも……何とか間に合ったみたい」

「やっぱり苦しそう? ま、ま、間に合った? ど、どういう事だ?」

「うふ、早く中へ入って……すぐ処置するから」

 ツェツィリアは、いきなりジャンの腕を掴んだ。

「ひ、ひえっ」

 ジャンは思わず悲鳴をあげた。
 ツェツィリアの手が、極北の氷を押し当てられたような冷たさだったからである。

「もう! 情けない声出さないの……男でしょ」

「あ……う……」

 唸るジャンへ、叱咤の言葉を投げ掛けるツェツィリア。
 店の奥で、ふたりのやりとりを見ていたバルバが苦笑する。

「ツェツィリア、並みの人間にはお前の体温が耐えられん。少し合わせてやれ……」

「そうお? ……ジャンたら思ったより根性が無いのね、まあ仕方がないわ……」

 根性がない?
 容赦ない罵倒に、ジャンは気力を振り絞って言い返す。

「ここ、こ、根性? お、お、俺は根性無しかよぉ」

「ええ、いっぱしの冒険者としてこの先やって行くなら、このままじゃダメ。少しは性根を据えなさいって事よ」

 ジャンが見つめるツェツィリアの瞳が、妖しく光っていた。
 深いルビー色の輝きに、ジャンは思わず吸い込まれそうになった。

「…………」

「……まあ良いわ。バルバ、お願い」

 ツェツィリアは「すっ」と手を放す。

 まだ身体が冷たいままでぼうっとしたジャンは、奥に居るバルバと同時に店内を見た。
 過度な装飾がない殺風景な店であった。
 いくつかの陳列棚があったが、魔道具屋というわりに商品は殆ど並べられていない。

 あるじのバルバは、応接用の長椅子に座って手招きをしていた。
 ジャンはふらふらと、まるで何かに取り憑かれたように歩いて行く。

「うむ、ジャン、そこへ座れ」

 言われるがままに、ジャンは客用の長椅子に座り込む。
 座ったのは、派手なつくりではなく実用的な長椅子だ。
 程よく固いクッションが効いた、座り心地の良い椅子である。

「う、そ、その前に剣を……あんたから借りたカラドボルグを……返す」

 ジャンは、抱えていた剣をバルバに渡した。
 頷いたバルバは剣を受け取ると、目の前のテーブルへ置く。

「ふむ、ご苦労、お前は偉いぞ。その様子だと変な欲を出して剣を持ち去りなどせず、ちゃんと依頼をこなしたようだからな。後でじっくり話を聞こう」

 バルバは僅かに微笑むと、指をピインと鳴らす。
 途端にジャンの身体が「すうっ」と軽くなった。

「あ! ど、どうして? 身体が!? き、急に、ら、ら、楽になった!」

 ジャンは気付いていなかったが、バルバの魔法が発動されたらしい。
 回復したジャンは、目が真ん丸になっていた。
 襲っていた酷い倦怠感が、全くなくなったからだ。

 驚くジャンに対し、バルバはしれっと言う。

「楽になったか? 今のは解呪ディスペルだ。楽になったのは俺が掛けた呪いを解いたからさ。リミットを過ぎていたお前は死なずに済んだ」

「へ? 呪い? リミットを過ぎていた俺が……死なずに済んだ?」

「ああ、お前には一時的に貸したが……カラドボルグの正当な所有者は俺だ。依頼に10日という期限を切ったのはその為さ。それ以上、俺以外の者が所有すると死の呪いが降りかかる」

「はぁ!? し、し、死の呪い、って……俺、死ぬところだったの?」

「うむ、あと数日で、全身から大量の血が噴き出し、内臓は焼けただれ、終いには跡形もなくなるところだった」

「えええっ!? ま、ま、まじ?」

「まじだ。この店へ来るのが、あと数日遅れれば死んでいる」

 当たり前のように言い放つバルバ。
 容赦ない物言いを聞いたジャンは、あまりの非情さを感じ、言葉を失う。

「…………」

「俺のコレクションは全てそう処置してある。もし盗みでもしたら、その不埒者へ、ちょっとした罰を与える為だ」

 は?
 ちょっとした罰?
 呪い殺す事がちょっとした!?

 ジャンの目は、驚きと呆れでまだ真ん丸になっている。

「…………」

「さあ、これでもう身体は大丈夫だろう? お前がカラドボルグをどのように使ったのか話してくれ」

 平然と言うバルバに、ジャンは背筋が「ぞおっ」と冷たくなってしまったのである。
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