悪魔☆道具

東導 号

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奇跡の救援者編

第6話「使命と対価」

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 絶対的な破壊者、青銅の巨人タロスに対し、圧倒されたオーク達は最後の抵抗を試みる。

「がああああっ!!!」

「あおあおあ~っ」
「きいえ~っ」
「おおおおっ」

 一旦は、巨人に怯えたオーク達も……
 相手がたったの一体で、自分達が多勢なのに励まされたのであろう。
 指揮官らしき者から、号令らしき大きな咆哮が発せられると、手に得物を持って、次々に襲いかかった。

 しかし!

 ガインっ!
 カンっ!
 キンっ!

 オーク達が渾身の力を振るって攻撃した剣やメイス、斧などは全て軽く弾かれてしまった。
 
 その時。
 またもバルバの声が、ベルナールの心に響く。
 青銅の巨人タロスは……
 彼の自慢の魔道具コレクションなのだろう。
 いかにも、面白そうに笑っている。

『は~ははははっ、そんな攻撃は無駄だ……青銅の巨人タロスは、俺が丹念に手を掛けて、徹底的に全身をビルドアップした』

『…………』

『全身の装甲を最高級のオリハルコンに変えてある。それ故、あのようなちゃちな武器は一切受け付けぬ。性能も極限まで高めてあるしな。まあ見た目と名前だけは青銅だが……』

『…………』

 伝説の金属オリハルコンで強化した……
 性能も極限まで高めた……
 
 ベルナールは唖然としてしまう。
 バルバの語りは、魔道具青銅の巨人タロスに対する『自慢』でしかない。
 ベルナールが聞こうが聞くまいが、お構いなしに熱く、一方的に喋っているのだ。

 ぶしゅううううっ!
 
 仕様上なのだろうが……
 鼻と口と思しき穴から、超高温と思われる大量の水蒸気を噴き出す青銅の巨人タロスは、まるで憤怒の感情を吐き出すように見える。
 
 だが、これでオーク達は完全に怖気づいた。

 ほぼ逃げ腰になったオーク達へ、オリハルコン製の巨大な塊が叩きつけられる。
 青銅の巨人タロスの拳が、凄まじい速度で繰り出され、打ち込まれたのだ。

 ぶちゃっ! ぐちゃっ!
 という、肉が不気味に粉砕される音が響く。
 破砕される度に、それを上回るオークの断末魔の悲鳴が響き渡る。
 
 ……形勢は完全に逆転した。
 青銅の巨人タロスの巨大な両足も、逃げ惑うオーク達を容赦なく踏み潰して行く。

 終いには、巨大な手が開き、無造作にオークを次々に掴む。
 いつの間にか真っ赤になった手からは、派手な音を立てて水蒸気が吹き上がった。
 オークの肉が焦げる嫌な臭いが、辺りに充満する。

 どうやら巨人の手は、超が付くくらい高温化しているらしい。
 掴まれたオークはあっという間に炭化し、原形を留めずちりぢりになってしまったのだ。

 ロック以下兵士達は呆然として、一方的な殺戮を眺めていた。

「た、隊長……あ、あ、あの巨人! ……わ、我々の味方……でしょうか!?」

「そうだ、ロック、我々の味方さ……」

「み、味方! なのですか?」

「ああ、そして今起こっているのは、奇跡だ。守備隊として使命を果たした我々に対し、創世神様が奇跡を起こしてくだされたのだ」

 ベルナールは、実感を込めて言う。
 
 バルバは、けして人間を守る存在ではないだろう。
 絶対に、真逆である。
 確信がある。
 人間に対し、災いをもたらす怖ろしい悪魔なのだ。
 
 しかし……今、現実として守備隊が助かったのは、正しき者を見守る創世神の意思だ。
 全知全能、そして運命をも司る創世神が、悪魔バルバを遣わしてくれた……
 実直なベルナールは、そう確信していた。

 固唾を飲んでベルナール達が見守る中、決着はあっという間についた。

 非道な魔物とは言え、オークはそれなりの知能も持っている。
 青銅の巨人タロスには、とても敵わないと判断したのだろう。
 隊列も何も関係なく、己の命を拾う為、我先にと魔境の奥へ逃げ出していたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 1時間後……

 守備隊の兵士達は放心し、あちこちで座り込んでしまっていた。
 歴戦の勇士である、副隊長ロックも例外ではない。

 兵士達にとってオーク同様、青銅の巨人タロスは恐怖の対象だったから。
 それが現れた時と同様、不思議な事に「すうっ」と消えてしまった。
 
 巨大な身体を……まるで煙のように消してしまったのだ……

 とりあえずこれで、青銅の巨人タロスが守備隊を害する事はない。
 兵士達は、今迄の疲れと安堵感で気が抜けてしまったのだ。

 その中で、ベルナールはひとり、しっかりと立っていた。
 今回のオークとの戦いで、第一の柵は突破され、多くの犠牲者を出してしまった……
 
 だが……砦は死守した。
 
 襲って来たオークの大部分を倒し、残りは撃退した。
 ベルナールは立派に、命じられた任務を果たしたのだ。
 更に生き残りの部下全員も救えたし、本当に奇跡としか言いようがない。

 あのような巨人を呼び出すなど、全く予想外の展開ではあったが……
 結果として、あの謎めいた男バルバは、きちんと約束を守ったのである。

 で、あればベルナールは契約通りに『対価』を払わねばならなかった。
 だが、愛する妻の魂を渡すなどなどもっての外である……
 
『バルバ、助かったぞ! では代償に私の魂を受け取れっ! 次は私が約束を果たす番だ』

 ベルナールは、青銅の巨人タロスが消えた虚空へ、念話で話し掛けていた。
 
 何故か、ベルナールの表情は明るい。
 
 砦を任された軍人として、やるべき使命を、やり遂げたからである。
 バルバとの契約により、自分の命を失うと分かってはいたが、不思議と晴れ晴れした気分でもあったのだ。
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