隠れ勇者と押しかけエルフ

東導 号

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第22話「眩い大地④」

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 ダンとエリンは今、とんでもない高所に居る。
 とはいっても、大空を飛んだエリンは、もう高さに対する恐怖はない。

 ダンのお気に入りの場所とは、この付近の森の中で、最も高い木の上であった。
 広大な森の中で、唯一突き出た趣きでそびえる木だ。
 先ほどダンとエリンが、鹿と狼を見下ろした木よりはるかに高く、ゆうに100m以上はある。

 ふたりは今、その大木の頂上付近の梢に、立っているのだ。
 ちなみに梢は太くしっかり生えており、ダンとエリンのふたりが乗って、びくともしなかった。

「ねぇ、ここがダンのお気に入りの場所?」

「ああ、そうだ」

「凄く高いね~、遠くまで見えるね~」

 エリンはぐるりと見回して、360度の大パノラマを楽しんでいた。
 ダンが、簡単に説明してくれる。

「ここから南を見ると、草原や俺達の家まで見渡せる。逆方向の北側は遠くに山々が見えて本当に綺麗なんだ」

「山って、あの大きな三角の? あれが古文書に書いてあった地上の山なんだ! たくさんあるねっ!」

「エリン、見てご覧。朝の太陽の光が山に当たって、とても綺麗だぞ」

 ダンの言う通り、東に登った太陽が、山々を美しく照らしていた。
 地上とはこんなに美しいのだ。
 エリンは、胸が高鳴って来る。

「本当だ! 眩しい、山が綺麗! ダン、ほら見て! エリン達が歩いて来た草原も太陽の光で輝いてすっごく綺麗!」

「だな! どうだい、エリン。どうしてここが、俺の好きな場所なのか分かるだろう?」

「うん、分かるよ。エリンもここが好きになったもの」

 ダンが好きな場所は、エリンも好きな場所。
 エリンは素直に、そう感じる。

 景色の美しさに感動するエリンに、ダンが問う。

「エリン、さっき俺が、鹿の親子を助けるのをためらったのが何故か、分かるか?」

 ダンの問いに対し、エリンも即座に答える。

「エリンも……それずっと考えてた。ダンはあんなに簡単に助けられるのに、何ですぐ行かなかったのかって……でも、分からない」

 ダンが、一瞬見せた躊躇《ためら》い。
 
 だけど、狼の群れを殺さずにあっさりと追い払った事実。
 そのギャップを、エリンはずっと考えていたようであった。

 エリンを見つめるダンが優しく笑う。

「そうか、じゃあ説明しよう。エリンがこの前食べたスープに何の肉が入ってた?」

「ウサギ!」

「よっし正解……じゃあさっきの鹿の親子をウサギに置き換えたらどうだろう」

「え?」

「ウサギを食べる為に捕まえようとする俺達、鹿を捕まえようとする狼……変わらないだろう?」

「え? で、でも……ううう……そうか、そうなんだ」

 エリンには、何となく分かって来た。
 
 生きる為には、何かを食べなくちゃいけない。
 狼も生きている。
 生まれたからには、生きて行かねばならない。
 だからエリンも狼も、生きるのは一緒なのだと。

「狼だって、巣に帰れば子供が腹を空かして待っているかもしれない。今日、俺達が狩りを邪魔したから、親も子供も飯が抜きだろうな」

「飯抜きって、何も食べ物がないって事……そうなるよね。でも難しいね、こういう話」

 悩むエリンに、ダンは同意する。

「ああ、エリンの言う通り難しいな。もう少し詳しく言えば、これは食物連鎖といって自然――すなわち創世神が定めた理《ことわり》なんだ」

「創世神様が!?」

 この世界は全て万物の長たる神、創世神が創ったと伝えられており、種族の関係なく厚く信仰もされている。
 創世神の怒りにより追放されたといわれるダークエルフだが……
 いつの日か赦される事を信じて、ずっと信仰は続けていたのだ。

 食物連鎖を創世神が決めたと聞いて、驚くエリンにダンは説明をしてくれる。

 「食物連鎖は簡単に言えば食う、食われるの因果関係だ。種から草……植物が生えて、それを兎のような草食動物が食べる。俺とエリンのような人間とエルフがその兎を捕まえて食べる。そして人間やエルフは肉食動物の狼からすれば食べ物なんだ」

「ダンとエリンが……狼の食べ物」

 ショックだった。
 エリンもダンも、ある者からすれば餌……なのだ。

「さっきの鹿だって俺達は捕まえて食べる。鹿達がエリンを見て逃げたのはエリンが狼と同じに見えたからだ」

 鹿から見たら、狼も俺達も一緒……
 さっきはつい冗談っぽく返してしまったが、エリンにはダンの言葉の意味が改めて良く理解出来たのである。

「…………」

 黙り込んだエリンに、ダンは言う。

「俺達は大きな理《ことわり》の、厳かな仕組みの中で生きている。ニンジンのような植物だって生きているんだ。俺達は食べる相手に感謝して生きるべきなのさ」

「……でもエリン、狼に食べられるのは嫌。ダンが食べられるのはもっと嫌、だから戦うよ」

 餌として黙って食べられるわけにはいかない。
 エリンは言い切る、抗う事を。

 ダンも、大きく頷く。

「エリンの言う通りさ。だからウサギも鹿も逃げた。彼等の唯一の武器は足だからな」

「うん、分かるよ」

 エリンの脳裏には草原であっという間に逃げてしまったウサギの姿が甦った。

「俺も素直に食われるのは嫌だ。そしてエリンが食われるのはもっと嫌だ。俺達も鹿のように逃げる事は出来るが、エリンの言う通り戦う事も出来るんだ。エリン、お前がアスモデウスに抗ったように」

 エリンはアスモデウスと戦った。
 それはある意味『餌』となるのが嫌だから、抗い戦ったのである。

 そしてダンも、戦ってくれた。
 エリンを守る為に戦ってくれた。
 単に任務を遂行するだけではなく。

 だから……
 エリンは思いを込めて言う。
 あの時、エリンはダンの優しさを感じていたのだ。

「そうだよ、ダンはあの時……エリンの為に戦ってくれた。エリンなんか放っておいてもあいつと戦えたのに、エリンをしっかり守りながら戦ってくれた! ……エリンは凄く嬉しかったよぉ」

 エリンは、信じる。
 絶対に信じる。
 やっぱり、エリンとダンの出会いは運命なのだと。

 エリンの、そんな気持ちを証明するようにダンが叫ぶ。
 宣言する。

「ああ、俺はエリンの為に戦う! その為に魔法がある。剣を使える身体もある。エリン見ろ、この世界の美しさを! 俺達は戦い抜いて生きているぞ、今、生きているんだ」

「ああ、エリンは生きている。ダンと一緒に今、ここで生きているんだね!」

 高い木の上でふたりは肩を寄せ合って、目の前の眩い大地をずっと見つめていたのであった。
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