隠れ勇者と押しかけエルフ

東導 号

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第107話「迷宮初心者①」

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 ダン達一行は、迷宮地下2階へ降りたが……
 そのまま先に進まず、階段脇にある小スペースに座っており動かない。

 その間、おびただしい数のクランが降りて来て、どんどん先へと進んで行った。
 冒険者達の反応は様々だ。 
 座り込んでいるダン達を全くスルーするクランは稀で、訝し気に眺める者達が多い。

 実は、ここで動かず待機しているのは、ダンの指示である。
 
 だが……
 エリンとヴィリヤはここに座って居ると、他の冒険者達から、好奇の目を向けられるのが辛い。
 まるで、さらし者になったような気分がする。
 すぐにでも出発したいらしく、とても不満そうな顔をしていた。
 
 だが、ダンは首を横に振る。

「ふたりとも焦るなよ、今回の迷宮探索はお前達の冒険者デビュー戦だ。1階で簡単な打合せと情報収集をやったが、まだ準備が不十分だ」

「え? 準備が不十分って、旦那様、まだ行くのは駄目?」
「どうしてですか、ダン」

「俺もそうだったけど……迷宮に初めて足を踏み入れた時は気合が入り過ぎて、必要以上に力んでしまう」

「力む?」
「無駄な力を使うって事ですね?」

 エリンが首を傾げ、ヴィリヤは問い返した。
 ダンは、小さく頷く。

「ああ、ゲルダ(※ダンの変身魔法で外見がゲルダ、中身が実はヴィリヤ)の言う通りだ。最初は慎重に行動するに越した事はない」

「慎重かぁ……むむむ、エリンはちまちまやるのが面倒くさくなって、どんどん行っちゃうかも」
「私も……同じく、魔法連発で」

 エリンとヴィリヤの性格は違うが、ふたりとも猪突猛進的な傾向がある。
 皮肉としか、言いようがない。

 ダンは、ちょっとだけ苦笑いする。

「俺達のレベルを考えれば、こんな表層の相手は大した事はないが、最初を慎重に、確実にやれば、後はさくさく行けると思う」

 やっと自信が持てる言葉が、ダンから出る。
 エリンとヴィリヤは顔を見合わせ、お互い笑顔になった。
 会話をする事で、徐々に気持ちがほぐれ、打ち解けて来たようだ。
 多分、ダンはここまで読んでいるに違いない。

「さくさく?」
「徐々に慣れて、後は円滑にって事ですね?」

「ああ、コツを掴んだら、後は順調って奴だ」

「旦那様、了解!」
「ダン、分かったわ……」

 ダンの言う事は尤もだ。
 エリンとヴィリヤは、全くの迷宮初心者である。
 焦りは禁物……なのだから。

 エリンは元気に即答、ヴィリヤは噛み締めるように返事をする。
 反応の違いこそあれ、ふたりは納得した。
 更に、ダンは話を続ける。

「まずは、ここで待機。改めて作戦会議と、冒険者の観察ウオッチングをやる。余計な事を聞かれたくないから、以降の会話は念話で行うぞ」

「念話?」

 エリンにとっては初めて聞く言葉であった。
 しかし魔法の造詣が深いヴィリヤには、聞き覚えがある。

「念話って、あの高難度の魔法ですか?」

「ああ、内緒話をする時、あると便利かも。補足すれば魂と魂を繋いで話すのが念話、つまり心同士の会話だ。実は俺も最近習得したんだが、敢えて使っていない。心の中を読む事になるからな」

「心同士? 読む?」
「…………」

 エリンは「きょとん」としたが、ヴィリヤは少し赤くなった。
 自分の秘めた心の内が、エリンにも知られてしまうと思い、少し心配になったようだ。 

 ダンによれば、ひとりでも念話を使える術者が居れば、習得し易い魔法だという。

「論より証拠、まずは俺が話し掛けるから、少しずつ慣れるんだ。ふたりとも魔法使いとしての素養は素晴らしいから、試してみて覚えられるならやってみる価値があるぞ」

「了解!」
「りょ、了解!」

 ダンは急遽ここで、念話へと切り替える。

『お~い!』

 ダンの声が、やけに大きく心に響く。
 何とも、奇妙な感覚である。
 エリンもヴィリヤも、共に吃驚してしまう。

「わ!」
「きゃ!」

『ははは、これが念話だ。じゃあ早速、これからの方針の刷り合わせをする。この中では俺が冒険者として一番キャリアを積んでいるし、迷宮にも慣れている。だから今回はクランのリーダーとして指示を出す』

『同じく、了解』
『ダンが、リーダーになるのは妥当だわ』

 エリンもヴィリヤも、異存はない。
 ダンは強くて頼りになるし、3人の関係を考えたら、間に立って貰った方が話を通しやすいだろう。
 それにふたりとも、クランにはリーダーが必要だと考えたからである。

『俺達が行動するに際しての基本方針とクランの戦い方に関して言っておくぞ』

『はいっ! 旦那様、また勉強だねっ』
『ぜひ聞かせて下さい』

 エリンとヴィリヤはわくわくして来た。
 ダンと共に目的を持って、成し遂げる為に頑張る……
 そんなシチュエーションが、期待を呼び起こすからだ。 

 人間、エルフ、ダークエルフ……
 普通に考えれば、ありえないクランである。

 ダークエルフであるエリンの正体は、まだヴィリヤは知る由もない。

 しかし種族を超えたエリンの気持ちはヴィリヤへ、確実に通じて来ている。
 逆もまた然りである。

 ほんの少しずつだが……
 ダン達3人には、確かな絆が結ばれていたのであった。
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