隠れ勇者と押しかけエルフ

東導 号

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第146話「運命の岐路②」

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 淡々と語る、リストマッティの話は、筋が通っている。
 
 だが、決定的なモノが欠けている。
 それは……話を裏付ける証拠である。

 当然それは、リストマッティも、分かっているようだ。

「……いくら私が、創世神様に誓ったからと言って……大抵の者はこれらの話を信じはしない……デックアールヴに都合の良い作り話、または妄想だとな」

「…………」

「だが、誰もがすぐに理解してくれる。明確な証拠がある」

「…………」

「第一に、世界から忌み嫌われるデックアールヴ……呪われたダークエルフなどと、自ら名乗る者など居ないという事」

「…………」

 確かにそうだ。
 誰もがわざわざ、自分を貶め、窮地へ追い込む事などしない。
 納得出来る。

「第二に……英雄の迷宮で危機に陥り、私達に助けられ、話しても……一緒に居ても、暮らしてみても……伝承のように、死んだり、呪われたりはしない事」

「…………」

「以上2点の話と、私達の風貌を見た、大抵の者は信じてくれる」

「…………」

 リストマッティの示した証拠に、ダンとエリンは納得する。
 ふたりが出会い、暮らしてからの出来事がはっきり物語っている。
 幸せで楽しい日々がずっと続いたのだから。

 一方、小さく頷いているヴィリヤも、全く同じ気持ちらしい。

 今や、ヴィリヤは……
 エリンが、とても大切に思えるから。
 いつでも支えてくれる、大事な友なのだ。
 もう絶対に手放せないと、強く感じてしまうくらいに。

 ダン達から反論がない、そして3人の表情を見て、満足したのだろう。
 リストマッティは、嬉しそうに微笑んだ。

「更に、別の証拠もある。また話が長くなるが、ぜひ聞いて欲しい」

「…………」

「ラッルッカ達と別れた私達の先祖は……必死に考えた。どうしたら地上へ出れるのかとね」

「…………」

「最初は戦ってでも、自分達の住む土地を、新たな祖国を勝ち取ろうと考えた。つまり戦争をすると……」

「…………」

「だがすぐに、愚策だと気付いた。戦っても、輝かしい未来などないと」

「…………」

「子供でも分かる事だ……私達は、地上の者に比べ、数が絶対的に少ない」

「…………」

「個々の能力は優れていても、所詮大軍には勝てない。戦い続ける為の物資もない」

「…………」

「勝算がないまま、無理やり世界を戦いに巻き込んだら……それこそ、永遠に逆賊の汚名を着る。戦う相手だって、リョースアールヴ以外は恨みも何もない。不毛な戦いだ」

「…………」

「どの種族と戦っても……数で劣る私達は負ける。負ければ、容赦なく全員が殺され、完全に滅びるだろう。下手をすれば、ラッルッカ達へも害が及び、一族全てが滅びる……」

「…………」

 エリンは唇を噛んだ。
 
 リストマッティは知らないらしい……
 ラッルッカの子孫と仲間は、もうひとりしか残っていない。
 エリンしか、生き残ってはいないのだ。

「万が一、生き延びる事が出来ても……永遠に追われる。ずっと逃げながら、戦い続けなくてはならない……悲惨な暮らしとなる」

「…………」

「かといって……このまま、地上に紛れ込もうとするのも、難しい」

「…………」

「純血のデックアールヴは……ひと目で分かる、独特な風貌をしている」

「…………」

 リストマッティの話を聞きながら、エリンは納得し、ため息をついた。
 そう……自分の容姿は、ひと目で分かる独特のものだった。
 王都にも、他には見当たらなかった。

「散々考え、試行錯誤の上……行きついた唯一の答えは……融合だった」

「…………」

「融合……すなわち他種族と血を交わり、見た目も中身も、デックアールヴではなくなる事……そうなれば誰も私達だと分からない」

「…………」

「種族としてのアイデンティティを捨てるのは誠に辛い。だが……悲願達成の為に思い切った」

「…………」

 ダンの推測は……やはり当たっていた。
 デックアールヴ達は様々な種族と交わり、風貌と能力を変え、地上に戻ろうとしていたのだ。

 ここで、リストマッティは含み笑いをした。
 どうやら、苦笑のようである。

「でも、他者を迎え入れる手立てがないという事も気が付いた。アイデンティティを捨てるという、死ぬ思いで決意した事なのに……」

「…………」

「先ほども言った通り、私達がそのまま地上に出れば、この風貌ですぐに分かる」

「…………」

「……呪われた民ダークエルフとさげすまれ、全種族から迫害され、果てに殺されるかもしれない」

「…………」

「……一体、どうすれば良いのか? 先祖達は、頭を抱え込んでしまったに違いない」

「…………」

「忸怩たる思いを持ちながら、何も出来ず……また長い月日が流れた」

「…………」

「そんなある日……国を拡張する作業をしていた先祖達は偶然、何者かが作った……石造りの、古ぼけた迷宮を見つけたのだ」

「…………」

「それこそまさに、後に英雄の迷宮と呼ばれるものだった」

「…………」

「……今や、君達が人喰いとも呼ぶ……迷宮だ」

「…………」

「迷宮には地上から、様々な種族の冒険者が探索の為に降りていた。隠された財宝を獲得する為に」

「…………」

「怖ろしい罠が張り巡らされ、強靭な魔物が跋扈する迷宮では遭難する者が絶えなかった……探索者にとって、地獄のような場所とも言えた」

「…………」

「逆に! 私達は喜んだ。この迷宮は、まさに天の助けだと!」

「…………」

「何故ならば……地上へ繋がった迷宮は、私達の悩みを一気に解消してくれる」

「…………」

「自然ともいえる、地上への入り口を確保したと同時に、新たな仲間を得る事が出来る」

「…………」

「命の危機に瀕した者を助け慈しみ、説得すれば……仲間に、同志に出来る可能性がある、新たな民に、なってくれるかもしれないと考えたのだ」

「…………」

「私達は早速、我が国と迷宮を、様々な仕掛けを使い、繋げた。そして瀕死になった者を救い、困窮した者へ手を差し伸べた」

「…………」

「幸い、計画は上手く行った。恩を感じた者は残り、僅かずつだが民は増えて行ったのだ」

「…………」

「どうしても地上へ帰りたい者、説得に応じない者は魔法で記憶を消し、迷宮へ戻したがね……」

「…………」

「素質があると判断し、接触したら、私達の話に納得してくれた者も居た……ダン、君のように……」

「…………」

「こうして……私達は新たな種族となる、第一歩を踏み出したのだ」

「…………」

「そんなある日、大きな転機が訪れた」

「…………」

「地の底へ追われ……長きに渡り彷徨さまよえる私達にとって、本当に大きな転機だったのだ」

 リストマッティはそう言うと、大きく息を吐いたのであった。
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