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第136話「今回の一件は、フェルナンさんの結婚問題絡みだが、仕事の一環に違いない」

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正門前における夜戦が終わり、村へ凱旋した俺たちは、
アンベール村長以下、村民たちから、大歓迎を受けた。

うおおおおおおっ!!!
うおおおおおおっ!!!
うおおおおおおっ!!!

の大歓声に加え、

「ありがとうございます!」「お疲れ様です!」「強いですね!」
「かっこい~!」「素敵!」「勇気を貰いました!」

などなど、賛辞の声も、大合唱。

握手攻めも凄まじく、さすがに痛くはならないが、手が疲れるほどであった。

村長へ聞くところによれば、村民のほとんどが、
仮眠しながら夜戦を見届けたようである。

自警団以外の村民も多くの者が、子供も含め、物見やぐらへ登ったようなのだ。

しかし、「勝って兜の緒を締めよ」である。

ここで気を緩めてはいけない。

決して、油断をしてはならない。

ゴブリンどもは、巣穴に残っており、まだ全滅はしていないのだ。

頃合いと見たローラン様から促され、俺は声を張り上げる。

「皆さん! 先ほどもお話しした通り、ゴブリンどもへ大ダメージを与える事が出来ました!」

うおおおおおおっ!!!

「しかし! 戦いはまだ終わっておりません! 我々は、ひと休みした後、巣穴へ赴き、ゴブリンどもを全滅させます!」

うおおおおおおっ!!!
うおおおおおおっ!!!
うおおおおおおっ!!!

大歓声はなかなか鳴りやまなかった。

ここでローラン様が俺へ耳打ち。

俺は再び、声を張り上げる。

「そして! これからも、このような危機は起こるかもしれません! 大切な家族、故郷を、村民の皆さんご自身の手で! しっかりと守って行きましょう!」

うおおおおおおっ!!!
うおおおおおおっ!!!
うおおおおおおっ!!!

大歓声の中に「そうだ!」「その通りだ!」と賛同する声が数多混ざった。

「では! 我々は休憩に入ります! お昼過ぎに出撃し! ゴブリンどもを殲滅して参ります! アンベール村長! 宿舎へ戻りますので先導をお願いします!」

うおおおおおおっ!!!
うおおおおおおっ!!!
うおおおおおおっ!!!

アンベール村長に先導を頼んだのは、村長たる彼に花を持たせる為。
彼の立場上、目立たせてあげれば、気持ちよく協力してくれると考えたからだ。

そして宿舎でいろいろと話をし、打合せが出来るという流れに、
持ち込みたかったという事もある。

……と、いう事で、アンベール村長と助役さんに先導され、
宿舎へ戻った俺たちグランシャリオは、

午後の出撃に関する打合せ。
及び、自警団増員強化等の話を存分にする事が出来たのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

上機嫌のアンベール村長と助役さんは、巣穴への出撃の際の対応、
自警団の強化に関して、全面協力すると約束してくれた。

対してローラン様も、領主アングラ―ド侯爵へ、
「村に対する善政をするように伝える」と約束した。

準貴族扱いで、英雄たるローラン様ならばこそのやりとりである。

普通の冒険者なら、このように政治的な話など、絶対に出来ない。

本来冒険者は、冒険者ギルドを介し、依頼主から仕事を請け負い、
求められた結果に着地すべく、粛々とまい進するだけである。

それ以上でもそれ以下でもない。

今回の依頼に関して言えば、単にゴブリンを討伐すれば良いだけ。
それで任務完了。

村民のモチベーションアップや意識改革、自警団の強化など、
余計な事、依頼の範疇外はんちゅうがいのはずなのだ。

さらに依頼主である上級貴族へ、直接物申すなど、絶対にありえない。

ただローラン様は、ギルドにちゃんと筋を通し、一報を入れた上で、
依頼主のアングラ―ド侯爵へは、『友人』として忠告する形をとるという。

そうは言っても、心配性の俺は結構気になったので、
アルベール村長と助役さんが去った後に、

「出すぎているとか言われませんか?」

と尋ねてみた。

対してローラン様は、

「ふふ、エルヴェ、大丈夫だ、心配は無用さ。天下御免の称号を持つ私の立場ならば、このような事をやって欲しいと、さる筋から頼まれているのだよ。当然報告もね」

そう言って、にやりと、笑った。

ローラン様はそれ以上、詳しい事を話してはくれなかったが、

「さる筋から頼まれているのだよ。当然報告もね」

というコメントから、ローラン様の行動が、王家からの依頼なのは間違いないと、
下級貴族の子弟であった俺にも想像はついた。

多分ローラン様は、監察官プラスアルファのような事も引き受けている。

補足すると、監察官とは、官吏等の監督査察などを担当する職名である。

そもそも監察とは、調べ、取り締まり、監督する事。

ローラン様は、王国貴族の調査、取り締まり、監督を、
国王陛下、宰相閣下の命令で行っているのだと思う。

今回のアングラ―ド侯爵の一件は、フェルナンさんの結婚問題絡みだが、
仕事の一環に違いない。

俺は、グランシャリオからドラフト一位指名され、魔法剣士となり、
素敵な彼女シャルロットも見つけ、凄く運が良いと思ったが……

人生のピンチとなったフェルナンさんも、ドラフト指名された事で、
剣技が抜群に上達し、運命の相手オレリアさんと結ばれる事となり、
俺と同じく、凄く運が良かったのだ。

幸せな気分となった俺は、次の出撃の時間まで、
心穏やかな気持ちで、まどろむように仮眠をしたのである。
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