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第156話「よし、ここまでダメ押しすれば、大丈夫だろう。 後は野となれ山となれだ」

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「はい、本当ですが」

俺がしれっと答えれば、

さすがに教室内は「おおおおお!!!!!」とざわめいた。

しかし、50代のおっさん講師は言う。
最初こそ、ていねいだったが、しょせん、16歳の小僧だとみたのだろう。

良く言えばフレンドリー、悪く言えば馴れ馴れしく、

「いやあ、エルヴェ・アルノー君よ、グランシャリオのメンバーで、ランクAたる君の話を疑うわけじゃないんだが、冥界の魔獣ケルベロスを呼んだというのがどうにもなあ……」

「はあ……信じられないと」

「あ、ああ、その通りだ。デルフィーヌの話だと、一旦、異界へ帰還させたそうだが」

「です」

ここまで話をして、講師さん、ハッと我に返り、

「悪い! 今更だが、初めましてだな! エルヴェ・アルノー君。それと受講生の諸君。私はアルフォンス・バロー、上級召喚術の講師だ。今後とも宜しく頼むぞ」

と、自己紹介。

そして、講師さん――アルフォンソさんは、にこにこっと笑い、

「まあ、その、何だ。私にもデルフィーヌ同様、君が召喚したケルベロスを、実際に見せて貰っても構わんかね?」

そう言われたんで、お約束の言葉。

「成る程、論より証拠って奴ですね」

「ははは、まあ、そういう事だな」

「了解っす。召喚の練習にもなりますし、俺は全然構いません」

これは本音。

ケルベロスを召喚したのはたった1回のみ。

復習にもなるし、いずれ違う魔物も呼びたい。

一度に複数を呼ぶ事もしたいし。

「ああ、じゃあ、頼むよ、エルヴェ君」

「わっかりました。という事は、擬態じゃなく、素の本体の方が良いですね」

俺がそう言うと、アルフォンソさんは少し口ごもる。

「う、うむ」

あらら、少し怯えの波動が出ている。

もしかして、びびっている?

ケルベロスの本体を思い浮かべたら、無理もない。

まあ、ケルベロスの本体を想像したら無理もないか。

とんでもなく凶悪な合成獣って感じだものなあ。

なので、俺は念の為、警告を発する事にした。

「先ほど、ケルベロスの本体を見て、デルフィーヌさん以下、教室の全員が固まってしまったのですが、何かあっても自己責任って事で構いませんね?」

そう俺が尋ねれば、アルフォンソさんは少し、しかめっ面。

「お、おお、ケルベロスの本体を見てか……」

「はい、です」

「成る程な。でも固まるって、石化とか、命にかかわるって事ではないな?」

石化かあ……俺の威圧スキルのMAX効果でもあるなあ。

いかんいかん、そんな事を考えている場合ではない。
今の話の論点はそこではないから。

確か……ケルベロスには石化能力はない。
だが、素の姿を見て、ショックのあまり〇〇……
……というヤバイ事態は充分に考えられる。

なので俺は、再び警告を発する。

「アルフォンソさん! 石化までは行きませんが、全員固まって、俺の回復魔法で治癒しました! だから、『何があっても自己責任』! という事を了承するのなら!魔獣ケルベロスを召喚しますよ!」

結構大きな声で言ったので、アルフォンソさんは勿論、
教室の受講生、全員へ聞こえたはず。

すると、アルフォンソさんはしっかりと念押ししてくれる。

「お~いっ! 今のエルヴェ・アルノー君の言葉を聞いたか! これから彼は、魔獣ケルベロスを召喚する! 何があっても全て自己責任! それを了承する者のみ! この場へ残れ!」

対して、

「は~いっ!」

と、隣席のシャルロットがすっくと立ちあがり、挙手。

「私! 残りま~す!」

と可愛い声で、にこにこしながら、叫んだのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

シャルロットが叫んだ後、教室はし~んと静まり返った。

うむむ、これって微妙。

一体どうなるのか?
誰か出ていくのか?

と、俺は見守っていた。

だが、誰も動かない。
教室を出て行く者はゼロ。
皆無だった。

……そりゃそうだろう。

可憐な18歳の超絶美少女が、何のためらいもなく、

「私! 残りま~す!」

と笑顔で言っているのだ。

ここで臆し、出て行ったら、
「ぼくちゃん怖いよ~」などと、後でいじられ、からかわれる原因を作ってしまう。

誰もが皆、そう考えたに違いない。

自己紹介の際に感じたが、この場に居る受講生は、結構プライドが高そうだから、
メンツを最優先する方々が多いのだろう。

そんな事をつらつら考えた俺だが、思い直す。

でも……まあ、良いか。
細かい事は。

講師のアルフォンソさんがああ言い、確認してくれたのだ。

何が起ころうとも……自己責任である。

ちなみに、今居る教室の仕様は、先ほどの召喚術の教室と全く一緒。

前方に、召喚場がある。

ここで魔法陣を生成し、召喚を行うのだ。

俺は召喚場まで行き、ここで再度、念押し。

「じゃあ、魔獣ケルベロスを召喚しま~す。何があっても自己責任って事で!」

しばらく待ってみる。

反応はナッシング。

し~んと、教室は静まり返っている。

やはりというか、誰も退出する者は居ない。

よし、ここまでダメ押しすれば、大丈夫だろう。

後は野となれ山となれだ。

俺は呼吸法を使い、体内魔力をアップし、精神集中。

心の中でケルベロスの本体を思い浮かべ『召喚!』と強く念じたのである。
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