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第十話 初攻略
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浅い層……このノンジェゾのダンジョン「ムラーブカの巣」では、十階までをそう呼ぶんだそうです。
で、中層というのが十一階から二十階まで、二十一階から最奥三十階までが深層なんだとか。
ただいま、私達はその中層に入る十一階に来ています。
「先程まで人が多かったのに、途端に少なくなりましたね」
「ここからは、この迷宮特有の魔物も出てくるからな。それなり腕のある探索者じゃねえと、命を落とす」
何だか、重い一言です。
十一階は、これまでの浅い層と同じく、土壁の洞窟がずっと続いています。この迷宮は、最奥部までこんな感じだそうです。
だから、ついた名が「ムラーブカの巣」。ムラーブカというのは、蟻が巨大化したような魔物だそうです。出会いたくないですね、そんな魔物。
サヌザンドでも多くの魔物を狩りましたが、私は虫型とは相性が悪いんです。怖くて、どうしても高火力で焼き切ってしまうので、素材が取れないと他の方に嘆かれました。
結果、虫型が出る時は、私は最後方で皆様の支援のみをするという形になりました。そのくらい、虫は苦手です……
「あの、カルさん」
「何だ?」
「今の今まで確認していませんでしたが、この迷宮、虫型の魔物は出ますか?」
「いや、名前に反して実は虫型は殆ど出ないんだ。お嬢、虫型を倒したかったのか?」
「いいえ! その逆です!!」
なんて事を言うんでしょう、カルさんてば。怖気に振るえていると、ニカ様がそっと寄り添ってくださいます。
「ベーサ、わかるわ。私も苦手なの」
「まあ、ニカ様もですか!? 良かった……いえ、よくありませんね。二人だけの時に虫型に出くわしたら大変です」
私の言葉を聞いたカルさんが、からかうような声で聞いて来ました。
「何だ、お嬢二人で逃げ出すか?」
「いいえ、最大火力で焼き消します!」
「え……」
ただ、ここのように狭い通路で高火力を使うのは、危険だと思うんですよね。なので、ここで虫型が出ないのはいい事です。
ところで、カルさんが若干引いているように見えるんですけど、気のせいでしょうか?
中層の入り口に当たる十一階は、無難にやり過ごす事が出来ました。出てきた魔物はモグラ型のクロートと呼ばれる魔物が中心です。
これは簡単に倒せました。何せモグラ型、光に弱いのです。閃光という術式を使って目を焼いてしまえば、行動不能に出来ました。
ただ、こちらもちょっと眩しいのが難点ですね。でも、そこはニカ様が補助してくださいました。
光を遮る遮光の術式を使って、閃光の威力を落としてくれたんです。ありがたい事ですね。
十二階、十三階も同様に、モグラ型が中心でしたから楽でした。
「いや、こんなに簡単に進める迷宮も珍しい……」
「そうなんですか?」
「ああ。クロートだって、数がいれば厄介な魔物なんだぜ? 何せあいつら、迷宮の床や壁を掘り進んで来るからな」
まあ、いくら迷宮とはいえ、そのような事をしては崩れてしまうのではないかしら。
ですが、カルさんによるとそれはないそうです。魔物が掘り進める範囲は壁や床から一定の場所までで、迷宮が崩れる程掘れないんだとか。
本当、迷宮って不思議ですねえ。
そんな話を聞きながら進んでいたら、中層もあっという間に過ぎてしまいました。
迷宮と名が付くだけあって、ここは迷路のように入り組んでいるんですけど、カルさんが案内をしてくれるおかげで迷わずに済んでます。
「この迷宮にも、何度も潜ったからなあ……」
カルさん、目が遠いですよ。ここ「ムラーブカの巣」は初心者に向いている迷宮だそうで、カルさんも新人の頃に何度か訪れたそうです。
それはともかく、ただいま深層と言われる二十一階に到達しました。
「ここからは、魔物の強さがぐんと上がるから気を付けてくれ。……と言っても、お嬢達の前には意味ねえか」
「どういう意味ですか? それ」
「普通はな、ここに来るまでが結構大変なんだよ。なのに、お嬢達ときたら、まるで庭先を散歩している程度じゃねえか」
カルさんの嘆きに、ニカ様と顔を見合わせます。確かに、苦労という苦労はしていませんねえ。
でも、庭園の散歩とはさすがに違いますよ? 着ているのも散歩着ではありませんし、何よりここには日が差しません。
不思議なのですが、ここは光が差し込まないのに一定の温度を保ち、壁が所々淡く光っています。薄暗いので、見通しは悪いですけど。
でも、そんな時には魔法です。ここよりも光のない真っ暗な場所も歩いた事がありますから、その為の術式は開発済みなのです。
光の術式は割と簡単なので、ちょっと先を照らすように浮かせて先行させます。並行して、少し先の状況を探る術式も起動中です。
それによると、ちょっと先の曲がった先に、何やら魔物の気配が。
「カルさん、この先に魔物がいます」
「……お嬢、念の為聞くが、それも魔法か?」
「そうですよ?」
どうしてそんな当然の事を聞くのかしら。首を傾げていると、カルさんは大きな溜息を吐きました。
「お嬢には、今更だよなあ。んじゃ、行ってきますか」
何だかよくわかりませんが、失礼な事を言われているのはわかるんですからね。
カルさんは背中の大剣を手に、道の向こうへと駆けだしていきます。あ、魔物の数をまだ言ってません!
「カルさん! その先、魔物の数が多いです。ざっと三十程」
「問題ねえ!」
ええー? 三十もの魔物ですよ? それを、大剣だけで、しかも一人で?
ニカ様を見ますけど、軽く頷かれるだけです。あ、カルさんに結界を張ったんですね。
ニカ様は、攻撃よりも支援の方が得意のようで、多種多様な結界を張れるようです。でも、野営の時は私が全てやりますよ。
ニカ様をお守りするのは、私の役目ですから。
私達が追いついた時には、もうカルさんが魔物を全て一人で倒してしまいました。カルさん、強いんですねえ。
二十五階までくると、単体の強さというよりは、数の暴力といった感じです。とにかく魔物が出て来て、しかも数が多いです。
先程など、モグラ型の魔物に加えてコウモリ型の魔物、犬型や狼型の魔物が複数で襲ってきました。
ちなみに狼型の魔物は、犬型のものより少し大きいくらいです。カルさんが変身した狼のような大きさのものは、いませんでしたね。
「……何だ? 何か言いたそうだが」
「いいえ、何も」
いけないいけない。ついカルさんと先程の狼を比べてしまいました。
深層の特徴としては、中層までより通路が縦横大きくなってます。その分、出てくる魔物の数が多いみたいです。
「通路一杯に出てきたぞ!!」
「任せてください!」
カルさんの声に反応するように、まずは閃光を使って魔物の足を止め、それから氷結系の術式を使います。
いくら通路が広くなったとはいえ、下手に火を使うとこちらまで倒れそうな気がして。
黒の会でも、狭い場所では燃焼系の術式は使うなと教えられました。
その後も数だけは多い魔物を倒して倒して倒し尽くします。最後には、出てきた素材を拾うのが大変な程でした。
迷宮探索者の中には、強い探索者に同行して落ちた素材を拾うのを専門にしている人もいるそうです。世の中、色々ですね。
「深層って、こんなに簡単に踏破出来る場所だったっけかな……」
カルさんが遠い目をしています。現在、私達はこの迷宮の最奥である三十階に到達しました。
階段を下りたら、目の前には大きな扉が。
「この奥に、迷宮の主がいる」
「主……」
「そいつを倒せば、この迷宮の攻略完了だ」
「では、主を倒した後の迷宮はどうなるんですか?」
「どうもならねえよ。主は、倒されても一定時間経つと復活するんだ。一説では、主の他に迷宮を作り出す創造者ってのがいて、そいつを倒すと迷宮が消えるってんだが。まあ、試した奴は一人もいないな」
という事は、この扉の向こう側にいるのは本当の主ではないのかもしれませんね。
「話に聞いた限りだが、ここにいるのはモグラ型のデカいのとコウモリ型のデカいのがそれぞれ二匹ずつ。厄介なのはコウモリ型で、移動速度がこれまでとは比べものにならんそうだ」
「素早いんですね」
「目にも止まらぬ速さ、という話だ」
「カルさん、ここの主を倒した事はないんですよね?」
「ああ。この手前まででやめといた。まだその頃は駆け出しだったからなあ」
駆け出しで手前まで来られたんですから、この迷宮が大した事ないのか、それともカルさんが最初から強かったのか。どっちでしょうね。
「お嬢達、準備はいいか?」
「はい」
「いつでも」
私もニカ様も、準備は整っています。扉の前で少し休憩をしましたし、甘い物も食べたので気力体力万全です。
カルさんが重い音を立てつつ扉を開けました。中は……円形の大きな部屋ですね。
三人が入ると同時に、後ろで扉が閉まりました。途端、円形の部屋の壁に、等間隔で明かりが付きます。あ、見やすくなりましたよ。
「おいでなすった」
カルさんの言うように、部屋の奥に魔物が四匹出現しました。今まで見たどのモグラ型、コウモリ型の魔物よりも大きな個体ですね。
なるほど、迷宮の主と言われるだけはあります。
「※@*:;/*@※!!!!」
聞くに堪えない音を発し、コウモリ型の魔物が一瞬消えました。が、すぐに私たちの両脇に転がってます。
「防御は任せてちょうだい」
ニカ様、笑顔が眩しいです! カルさん、どうしてそこで怖いものを見るような目でニカ様を見るんですか? 事と次第によっては許しませんよ?
「次、来るぞ!」
カルさんの声に前方を見れば、ドスドスと重い足音を立ててモグラ型がやってきます。
まずは。
「閃光!」
からの。
「氷結!」
モグラ型にはこれが良く利いたんですが、さすがは主。抵抗しますねえ。もう一回氷結を使おうかと思いましたけど、あれを試してみましょう。
黒の会では、素材をダメにするから使うなと言われていましたが、迷宮ならば問題ありません。
ここでは素材は魔物が消える際に落とすものであって、倒した魔物を解体して得るものではありませんから。
「氷結、槍状!」
まだ氷結から逃れられずにジタバタするモグラ型に対し、氷を槍状にして飛ばします。一発で大体八~十本程度でしょうか。
これでダメなら、もう一回か二回、打ち込んでみます。氷の槍は、見事モグラ型に命中し、二匹を同時消滅させました。
「すげえ……」
「コウモリ型も仕留めたわ」
まあ、私がモグラに手こずっている間に、ニカ様がコウモリ達を倒してくださいました。
「さすがです! ニカ様!」
「これもベーサのおかげよ」
え? どうしてですか? 首を傾げる私に、ニカ様は笑顔で教えてくださいます。
「野営の時に、襲撃者対策として結界の形状を外に向けて棘状にしていたでしょう? あれを使わせてもらったの」
「ああ、なるほど!」
コウモリ型の攻撃は、速度を生かした一撃離脱方式。しかも、全体に硬化魔法を掛けての体当たりが中心のようです。
その硬化魔法を貫く結界の棘。素晴らしい腕ですよ。
私とニカ様がキャッキャと喜ぶ隣で、カルさんが複雑そうな顔をしていたそうですが、私、気付きませんでした。
主の落とした素材は、モグラの毛皮とコウモリの牙と羽根。毛皮の方は防御力向上に、牙と羽根は速度上昇の効果があるそうで、協会でいい値段で引き取ってもらえるんですって。
オーギアンでは、こうやってお金を手に入れていくんですね。
で、中層というのが十一階から二十階まで、二十一階から最奥三十階までが深層なんだとか。
ただいま、私達はその中層に入る十一階に来ています。
「先程まで人が多かったのに、途端に少なくなりましたね」
「ここからは、この迷宮特有の魔物も出てくるからな。それなり腕のある探索者じゃねえと、命を落とす」
何だか、重い一言です。
十一階は、これまでの浅い層と同じく、土壁の洞窟がずっと続いています。この迷宮は、最奥部までこんな感じだそうです。
だから、ついた名が「ムラーブカの巣」。ムラーブカというのは、蟻が巨大化したような魔物だそうです。出会いたくないですね、そんな魔物。
サヌザンドでも多くの魔物を狩りましたが、私は虫型とは相性が悪いんです。怖くて、どうしても高火力で焼き切ってしまうので、素材が取れないと他の方に嘆かれました。
結果、虫型が出る時は、私は最後方で皆様の支援のみをするという形になりました。そのくらい、虫は苦手です……
「あの、カルさん」
「何だ?」
「今の今まで確認していませんでしたが、この迷宮、虫型の魔物は出ますか?」
「いや、名前に反して実は虫型は殆ど出ないんだ。お嬢、虫型を倒したかったのか?」
「いいえ! その逆です!!」
なんて事を言うんでしょう、カルさんてば。怖気に振るえていると、ニカ様がそっと寄り添ってくださいます。
「ベーサ、わかるわ。私も苦手なの」
「まあ、ニカ様もですか!? 良かった……いえ、よくありませんね。二人だけの時に虫型に出くわしたら大変です」
私の言葉を聞いたカルさんが、からかうような声で聞いて来ました。
「何だ、お嬢二人で逃げ出すか?」
「いいえ、最大火力で焼き消します!」
「え……」
ただ、ここのように狭い通路で高火力を使うのは、危険だと思うんですよね。なので、ここで虫型が出ないのはいい事です。
ところで、カルさんが若干引いているように見えるんですけど、気のせいでしょうか?
中層の入り口に当たる十一階は、無難にやり過ごす事が出来ました。出てきた魔物はモグラ型のクロートと呼ばれる魔物が中心です。
これは簡単に倒せました。何せモグラ型、光に弱いのです。閃光という術式を使って目を焼いてしまえば、行動不能に出来ました。
ただ、こちらもちょっと眩しいのが難点ですね。でも、そこはニカ様が補助してくださいました。
光を遮る遮光の術式を使って、閃光の威力を落としてくれたんです。ありがたい事ですね。
十二階、十三階も同様に、モグラ型が中心でしたから楽でした。
「いや、こんなに簡単に進める迷宮も珍しい……」
「そうなんですか?」
「ああ。クロートだって、数がいれば厄介な魔物なんだぜ? 何せあいつら、迷宮の床や壁を掘り進んで来るからな」
まあ、いくら迷宮とはいえ、そのような事をしては崩れてしまうのではないかしら。
ですが、カルさんによるとそれはないそうです。魔物が掘り進める範囲は壁や床から一定の場所までで、迷宮が崩れる程掘れないんだとか。
本当、迷宮って不思議ですねえ。
そんな話を聞きながら進んでいたら、中層もあっという間に過ぎてしまいました。
迷宮と名が付くだけあって、ここは迷路のように入り組んでいるんですけど、カルさんが案内をしてくれるおかげで迷わずに済んでます。
「この迷宮にも、何度も潜ったからなあ……」
カルさん、目が遠いですよ。ここ「ムラーブカの巣」は初心者に向いている迷宮だそうで、カルさんも新人の頃に何度か訪れたそうです。
それはともかく、ただいま深層と言われる二十一階に到達しました。
「ここからは、魔物の強さがぐんと上がるから気を付けてくれ。……と言っても、お嬢達の前には意味ねえか」
「どういう意味ですか? それ」
「普通はな、ここに来るまでが結構大変なんだよ。なのに、お嬢達ときたら、まるで庭先を散歩している程度じゃねえか」
カルさんの嘆きに、ニカ様と顔を見合わせます。確かに、苦労という苦労はしていませんねえ。
でも、庭園の散歩とはさすがに違いますよ? 着ているのも散歩着ではありませんし、何よりここには日が差しません。
不思議なのですが、ここは光が差し込まないのに一定の温度を保ち、壁が所々淡く光っています。薄暗いので、見通しは悪いですけど。
でも、そんな時には魔法です。ここよりも光のない真っ暗な場所も歩いた事がありますから、その為の術式は開発済みなのです。
光の術式は割と簡単なので、ちょっと先を照らすように浮かせて先行させます。並行して、少し先の状況を探る術式も起動中です。
それによると、ちょっと先の曲がった先に、何やら魔物の気配が。
「カルさん、この先に魔物がいます」
「……お嬢、念の為聞くが、それも魔法か?」
「そうですよ?」
どうしてそんな当然の事を聞くのかしら。首を傾げていると、カルさんは大きな溜息を吐きました。
「お嬢には、今更だよなあ。んじゃ、行ってきますか」
何だかよくわかりませんが、失礼な事を言われているのはわかるんですからね。
カルさんは背中の大剣を手に、道の向こうへと駆けだしていきます。あ、魔物の数をまだ言ってません!
「カルさん! その先、魔物の数が多いです。ざっと三十程」
「問題ねえ!」
ええー? 三十もの魔物ですよ? それを、大剣だけで、しかも一人で?
ニカ様を見ますけど、軽く頷かれるだけです。あ、カルさんに結界を張ったんですね。
ニカ様は、攻撃よりも支援の方が得意のようで、多種多様な結界を張れるようです。でも、野営の時は私が全てやりますよ。
ニカ様をお守りするのは、私の役目ですから。
私達が追いついた時には、もうカルさんが魔物を全て一人で倒してしまいました。カルさん、強いんですねえ。
二十五階までくると、単体の強さというよりは、数の暴力といった感じです。とにかく魔物が出て来て、しかも数が多いです。
先程など、モグラ型の魔物に加えてコウモリ型の魔物、犬型や狼型の魔物が複数で襲ってきました。
ちなみに狼型の魔物は、犬型のものより少し大きいくらいです。カルさんが変身した狼のような大きさのものは、いませんでしたね。
「……何だ? 何か言いたそうだが」
「いいえ、何も」
いけないいけない。ついカルさんと先程の狼を比べてしまいました。
深層の特徴としては、中層までより通路が縦横大きくなってます。その分、出てくる魔物の数が多いみたいです。
「通路一杯に出てきたぞ!!」
「任せてください!」
カルさんの声に反応するように、まずは閃光を使って魔物の足を止め、それから氷結系の術式を使います。
いくら通路が広くなったとはいえ、下手に火を使うとこちらまで倒れそうな気がして。
黒の会でも、狭い場所では燃焼系の術式は使うなと教えられました。
その後も数だけは多い魔物を倒して倒して倒し尽くします。最後には、出てきた素材を拾うのが大変な程でした。
迷宮探索者の中には、強い探索者に同行して落ちた素材を拾うのを専門にしている人もいるそうです。世の中、色々ですね。
「深層って、こんなに簡単に踏破出来る場所だったっけかな……」
カルさんが遠い目をしています。現在、私達はこの迷宮の最奥である三十階に到達しました。
階段を下りたら、目の前には大きな扉が。
「この奥に、迷宮の主がいる」
「主……」
「そいつを倒せば、この迷宮の攻略完了だ」
「では、主を倒した後の迷宮はどうなるんですか?」
「どうもならねえよ。主は、倒されても一定時間経つと復活するんだ。一説では、主の他に迷宮を作り出す創造者ってのがいて、そいつを倒すと迷宮が消えるってんだが。まあ、試した奴は一人もいないな」
という事は、この扉の向こう側にいるのは本当の主ではないのかもしれませんね。
「話に聞いた限りだが、ここにいるのはモグラ型のデカいのとコウモリ型のデカいのがそれぞれ二匹ずつ。厄介なのはコウモリ型で、移動速度がこれまでとは比べものにならんそうだ」
「素早いんですね」
「目にも止まらぬ速さ、という話だ」
「カルさん、ここの主を倒した事はないんですよね?」
「ああ。この手前まででやめといた。まだその頃は駆け出しだったからなあ」
駆け出しで手前まで来られたんですから、この迷宮が大した事ないのか、それともカルさんが最初から強かったのか。どっちでしょうね。
「お嬢達、準備はいいか?」
「はい」
「いつでも」
私もニカ様も、準備は整っています。扉の前で少し休憩をしましたし、甘い物も食べたので気力体力万全です。
カルさんが重い音を立てつつ扉を開けました。中は……円形の大きな部屋ですね。
三人が入ると同時に、後ろで扉が閉まりました。途端、円形の部屋の壁に、等間隔で明かりが付きます。あ、見やすくなりましたよ。
「おいでなすった」
カルさんの言うように、部屋の奥に魔物が四匹出現しました。今まで見たどのモグラ型、コウモリ型の魔物よりも大きな個体ですね。
なるほど、迷宮の主と言われるだけはあります。
「※@*:;/*@※!!!!」
聞くに堪えない音を発し、コウモリ型の魔物が一瞬消えました。が、すぐに私たちの両脇に転がってます。
「防御は任せてちょうだい」
ニカ様、笑顔が眩しいです! カルさん、どうしてそこで怖いものを見るような目でニカ様を見るんですか? 事と次第によっては許しませんよ?
「次、来るぞ!」
カルさんの声に前方を見れば、ドスドスと重い足音を立ててモグラ型がやってきます。
まずは。
「閃光!」
からの。
「氷結!」
モグラ型にはこれが良く利いたんですが、さすがは主。抵抗しますねえ。もう一回氷結を使おうかと思いましたけど、あれを試してみましょう。
黒の会では、素材をダメにするから使うなと言われていましたが、迷宮ならば問題ありません。
ここでは素材は魔物が消える際に落とすものであって、倒した魔物を解体して得るものではありませんから。
「氷結、槍状!」
まだ氷結から逃れられずにジタバタするモグラ型に対し、氷を槍状にして飛ばします。一発で大体八~十本程度でしょうか。
これでダメなら、もう一回か二回、打ち込んでみます。氷の槍は、見事モグラ型に命中し、二匹を同時消滅させました。
「すげえ……」
「コウモリ型も仕留めたわ」
まあ、私がモグラに手こずっている間に、ニカ様がコウモリ達を倒してくださいました。
「さすがです! ニカ様!」
「これもベーサのおかげよ」
え? どうしてですか? 首を傾げる私に、ニカ様は笑顔で教えてくださいます。
「野営の時に、襲撃者対策として結界の形状を外に向けて棘状にしていたでしょう? あれを使わせてもらったの」
「ああ、なるほど!」
コウモリ型の攻撃は、速度を生かした一撃離脱方式。しかも、全体に硬化魔法を掛けての体当たりが中心のようです。
その硬化魔法を貫く結界の棘。素晴らしい腕ですよ。
私とニカ様がキャッキャと喜ぶ隣で、カルさんが複雑そうな顔をしていたそうですが、私、気付きませんでした。
主の落とした素材は、モグラの毛皮とコウモリの牙と羽根。毛皮の方は防御力向上に、牙と羽根は速度上昇の効果があるそうで、協会でいい値段で引き取ってもらえるんですって。
オーギアンでは、こうやってお金を手に入れていくんですね。
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