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第四十三話 連絡手段
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全て話し終わると、黒の君が深い溜息を吐かれました。
「という事は、その水を手に入れられれば王宮の歪みを正せる訳だな?」
「おそらくは」
「おい」
「兄上、お忘れではないと思いますが、まだオリサシアンが迷宮産の呪いの道具を使ったかどうか、定かではないのでしょう? 他の方法を使っていた場合、いくら解呪の水を手に入れても意味はありません」
「……」
ニカ様の言葉に、黒の君は何も言い返しません。ニカ様が正しいですからね。
ただ、魔法ではない力が働いている事は確かですから、迷宮から出た道具が使われている可能性は高いと思います。
ここはやはり、急いで解呪の水を手に入れるべきでしょう。
黒の君も同様の事を考えたようです。
「いずれにしても、手に入れておいて損はない。お前達は引き続き、その解呪の水とやらを探してくれ」
「ええ、わかっています」
「承知いたしました」
サヌザンドの王宮を、このままにしておく訳にはいきませんもの。
塔から出て、黒の君を見送ります。
「兄上、そろそろ連絡手段を講じてください」
「それはベーサに命じたはずだが?」
う……宿題の件ですね。ですが、それに関してはこちらも言い分があります。
「彼女には塔での探索の仕事があります。これ以上負担をかけさせたくありません。それに、魔道具を作る為には少なくとも三年は勉強しないとならないそうですよ」
ニカ様が全て言ってくださいました。
「他の者に作らせればいいだろう」
「私も知らなかったのですが、魔道具は作るものが術式を使えなければ作れないそうですよ」
「そう……なのか?」
「ええ。ですから、職人を捕まえて作らせる訳にもいかないのです。解呪の水を探すのを辞めて、魔道具作りに専念させますか?」
「それは困る」
「でしょう? ですから、魔道具に頼らない連絡方法を用意してくださいね」
にっこり笑うニカ様に、黒の君は苦笑しています。
「わかった。そうだな……次に塔に入るのはいつだ?」
「明日には入ろうかと」
「では、明日の午前中までに連絡役を紹介する。何かこちらに伝えたい事があれば、その者に伝えてくれ」
思わずニカ様と顔を見合わせてしまいます。連絡役と言われましても、その方に伝えた内容が黒の君に渡るのは、いつになるのでしょう。
私達の考えがわかったのか、黒の君が笑いました。
「安心しろ。その者は中継に過ぎない。ここからサヌザンドまで、飼い慣らした鳥型の魔物を使う予定だ」
「魔物を飼い慣らしたのですか!?」
驚きました。私にとって、魔物は全て討伐対象です。それを、飼い慣らすなんて……
「黒の会でやっている実験の一つだ。比較的おとなしい鳥型の魔物を使って、長距離間の書類のやり取りを出来ないか……とな」
鳥型の魔物と言っても、小型のものを飼い慣らしているそうです。どうやってるんでしょうね。気になります。
「ベーサ、飼い慣らす方法はまた後で、ね」
「はい……」
ニカ様には、見抜かれていました。黒の君は首を傾げてらっしゃいますが、どうして私がいない時にそのような面白い実験をするのでしょう。
ちょっと恨んでもいいですか? いいですよね?
知らなかったのですが、黒の君は国外にも何人か手の者を潜ませていたそうです。
「兄上、いつの間にそんな事を……」
「国は長い事閉じていたが、いつまでもそうしている訳にもいかないからな」
サヌザンドは殆ど国交をしておりません。唯一繋がっているのはエント王国くらいです。
それでも、最低限の付き合いしかないと聞いています。ですが、黒の君はこれからはもっと外に目を向けて、国同士で付き合う必要があると考えてらっしゃるようです。
その下準備として、信用出来る配下の者を選んで、国外に出しているのだとか。
そのうちの一人が、今回の連絡役です。
「レセドと申します。僭越ながら、黒の君と姫君方との連絡役を仰せつかりました。どうぞお見知りおきください」
翌朝、黒の君に紹介されたのは、平民出身の彼でした。
黒の会で身分関係なく活動していたせいか、あまり庶民に偏見はありません。黒の君も同様のようです。
「レセドは優秀な男だ。彼に言付けてくれれば、数日でこちらに届くようにしてある」
「よろしくね、レセド」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
彼は迷宮区の宿屋街の外れにある宿に宿泊しているそうです。
最初、毎日決まった時間に協会の前ででも落ち合うようにしましょうと言われましたが、それだと不便なのでこちらから彼の宿に出向く事にしました。
大変恐縮されましたけど、こちらの都合ですもの。何とか押し切りました。
「レセド、この二人はこういう性格だ。慣れてくれ」
「は。では、大変畏れ多い事ながら、宿で待機させていただきます」
「ええ、その方がこちらも助かるわ」
ニカ様が上機嫌です。何せ、いつ水が見つかるかわかりませんし、他にも黒の君に伝えなくてはならない事が見つからないとも限りません。
いつでもこちらの都合で連絡出来るのは、大変便利ですね。
「という事は、その水を手に入れられれば王宮の歪みを正せる訳だな?」
「おそらくは」
「おい」
「兄上、お忘れではないと思いますが、まだオリサシアンが迷宮産の呪いの道具を使ったかどうか、定かではないのでしょう? 他の方法を使っていた場合、いくら解呪の水を手に入れても意味はありません」
「……」
ニカ様の言葉に、黒の君は何も言い返しません。ニカ様が正しいですからね。
ただ、魔法ではない力が働いている事は確かですから、迷宮から出た道具が使われている可能性は高いと思います。
ここはやはり、急いで解呪の水を手に入れるべきでしょう。
黒の君も同様の事を考えたようです。
「いずれにしても、手に入れておいて損はない。お前達は引き続き、その解呪の水とやらを探してくれ」
「ええ、わかっています」
「承知いたしました」
サヌザンドの王宮を、このままにしておく訳にはいきませんもの。
塔から出て、黒の君を見送ります。
「兄上、そろそろ連絡手段を講じてください」
「それはベーサに命じたはずだが?」
う……宿題の件ですね。ですが、それに関してはこちらも言い分があります。
「彼女には塔での探索の仕事があります。これ以上負担をかけさせたくありません。それに、魔道具を作る為には少なくとも三年は勉強しないとならないそうですよ」
ニカ様が全て言ってくださいました。
「他の者に作らせればいいだろう」
「私も知らなかったのですが、魔道具は作るものが術式を使えなければ作れないそうですよ」
「そう……なのか?」
「ええ。ですから、職人を捕まえて作らせる訳にもいかないのです。解呪の水を探すのを辞めて、魔道具作りに専念させますか?」
「それは困る」
「でしょう? ですから、魔道具に頼らない連絡方法を用意してくださいね」
にっこり笑うニカ様に、黒の君は苦笑しています。
「わかった。そうだな……次に塔に入るのはいつだ?」
「明日には入ろうかと」
「では、明日の午前中までに連絡役を紹介する。何かこちらに伝えたい事があれば、その者に伝えてくれ」
思わずニカ様と顔を見合わせてしまいます。連絡役と言われましても、その方に伝えた内容が黒の君に渡るのは、いつになるのでしょう。
私達の考えがわかったのか、黒の君が笑いました。
「安心しろ。その者は中継に過ぎない。ここからサヌザンドまで、飼い慣らした鳥型の魔物を使う予定だ」
「魔物を飼い慣らしたのですか!?」
驚きました。私にとって、魔物は全て討伐対象です。それを、飼い慣らすなんて……
「黒の会でやっている実験の一つだ。比較的おとなしい鳥型の魔物を使って、長距離間の書類のやり取りを出来ないか……とな」
鳥型の魔物と言っても、小型のものを飼い慣らしているそうです。どうやってるんでしょうね。気になります。
「ベーサ、飼い慣らす方法はまた後で、ね」
「はい……」
ニカ様には、見抜かれていました。黒の君は首を傾げてらっしゃいますが、どうして私がいない時にそのような面白い実験をするのでしょう。
ちょっと恨んでもいいですか? いいですよね?
知らなかったのですが、黒の君は国外にも何人か手の者を潜ませていたそうです。
「兄上、いつの間にそんな事を……」
「国は長い事閉じていたが、いつまでもそうしている訳にもいかないからな」
サヌザンドは殆ど国交をしておりません。唯一繋がっているのはエント王国くらいです。
それでも、最低限の付き合いしかないと聞いています。ですが、黒の君はこれからはもっと外に目を向けて、国同士で付き合う必要があると考えてらっしゃるようです。
その下準備として、信用出来る配下の者を選んで、国外に出しているのだとか。
そのうちの一人が、今回の連絡役です。
「レセドと申します。僭越ながら、黒の君と姫君方との連絡役を仰せつかりました。どうぞお見知りおきください」
翌朝、黒の君に紹介されたのは、平民出身の彼でした。
黒の会で身分関係なく活動していたせいか、あまり庶民に偏見はありません。黒の君も同様のようです。
「レセドは優秀な男だ。彼に言付けてくれれば、数日でこちらに届くようにしてある」
「よろしくね、レセド」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
彼は迷宮区の宿屋街の外れにある宿に宿泊しているそうです。
最初、毎日決まった時間に協会の前ででも落ち合うようにしましょうと言われましたが、それだと不便なのでこちらから彼の宿に出向く事にしました。
大変恐縮されましたけど、こちらの都合ですもの。何とか押し切りました。
「レセド、この二人はこういう性格だ。慣れてくれ」
「は。では、大変畏れ多い事ながら、宿で待機させていただきます」
「ええ、その方がこちらも助かるわ」
ニカ様が上機嫌です。何せ、いつ水が見つかるかわかりませんし、他にも黒の君に伝えなくてはならない事が見つからないとも限りません。
いつでもこちらの都合で連絡出来るのは、大変便利ですね。
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