永久不変の剣を手に、人々の命の守護者となる

なで鯨

文字の大きさ
1 / 66
第一章 白銀成長編

第一話 命を守るために傭兵の国へ

しおりを挟む
 右手方向には深い森。
 左手方向には小川とその先にまた深い森。
 その小川に沿って作られた舗装されていない道。そこを歩く少年がいた。
 にぶい銀髪で碧眼のその少年の眼前に、明らかに人相の悪い男が3人立ちはだかった。

「ようお坊ちゃん。そんな荷物と似合わねえ剣を持ってどこへ行くんだぁ?」
「一人で森に入っちゃいけませんって、お母さんお父さんに教わらなかったのかなぁ?」
「ってことで、その荷物と剣を置いて、素っ裸になって土下座すれば、命はとらねえぞ。寛大な心ってやつだ。」

 3人は手斧や刃こぼれしているナイフをちらつかせながら、じりじりと少年に近づいていく。
 当の少年は顔色一つ変えずに、そして一言も発さずに、荷物を地面にゆっくりと置いた。
 そして剣の柄に手をかけて、これまた落ち着いて抜剣して体の正面に構えた。
 その剣を見た盗賊たちは、気味の悪い笑顔を浮かべる。

「キレイキレイされている剣でちゅねー。人を切ったことあるんでちゅかー?」
「宝石とかで作った剣なのかなー? キラキラしてて……高そうだなぁ!!」

 言うや否や少年に飛び掛かっていく。
 身構えた少年と盗賊の剣が交わるかと思われたその時、近くの木の枝を揺らしながら、人影が盗賊の頭上に落ちてきた。
 人影は落下の勢いそのままに、盗賊の脳天へ短刀を突き立てた。
 地面に顎を打ち付けた盗賊はそのまま動かなくなる。
 あまりにも唐突で一瞬の出来事に、少年は目を見開き、盗賊たちは固まった。
 だが、盗賊の一人がすぐに怒りをあらわにする。

「てめえ何しやがる! 何もんだ! とりあえず死ねや!!」

 雄たけびを上げて降ってきた人に向かっていく。
 降ってきた人は、死体の頭に刺さしたままの短刀を引き抜き、盗賊の方へ大きく一歩を踏み込んだ。
 クロスカウンターのような形になり、盗賊はほくそ笑む。
 盗賊の得物は手斧。対する相手は短刀であり、リーチで圧倒的な有利を得ている。

「……っがふ」

 したり顔だった盗賊は、血を吐き出しながら勢いそのままに倒れこむ。
 いつの間にか逆の位置に立っていた降ってきた人は、血の滴る短刀を振り払った。
 がっちりした体格のその男は、残る盗賊に目を向ける。

「っひぃ!! た、助けてくれ! 死にたくねえ!!」

 腰が抜けた盗賊は地面をはいつくばって、慌てて逃げようとしている。
 その様子を見ながら、男は再び一歩踏み込んだ。

「待ってください!」

 銀髪碧眼の少年が男の進路を塞ぎ、盗賊を背でかばった。
 白銀色に光る刀身を男に向けるその表情からは、決意と何か別の感情がにじんでいる。

「彼はもう戦意を失っています。そのような人を殺すことは許せません。
 それに、先ほど殺した男たちも、殺さずに罪を償わせることもできたはずです」

 大柄な男は話を受け入れたのか、構えを解いて少年を見下ろす。
 構えを解きながらも、少年越しに背を向ける盗賊へと視線を飛ばすと、次の瞬間には地面を蹴り、少年を飛び越えていた。
 170センチ程度はある少年の頭上を越えると、空中を駆けるかのように移動し、落ちながら盗賊の背中から心臓を貫いたのだった。

 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
「僕の名前はヒイラギ・アクロ。先ほどは助けてくださりありがとうございました。
 しかし、こう言ってはなんですが、僕一人でもなんとかなりましたし、命を奪わなくても、無力化させることができました」

 どんどん前を歩いていく男の背を追いながら、銀髪の少年であるヒイラギは、お礼と文句を投げかける。
 その言葉は、男の大きな背中に当たって落ちてしまっているかのように、男は振り返りもしない。

「僕の信条として、命の恩人には感謝とお礼と、尊敬をしなくてはならないのです。
 ただ、命を大切にしない人は絶対に尊敬しないとも決めているのです。
 ……あの、聞いてますか?」

 あまりの無視っぷりに、顔を引きつらせるヒイラギ。
 とはいえ一方的に考えを押し付けているのを悪いと思ったのか、小さく息を吐いた。

「せめてお名前くらいは聞かせてもらえますか? どうであれ、命を救ってもらった形ですし。
 自分でどうにかできたとはいえ、ですけど」
「…………」
「もしもし?」

 不毛なやり取りを――やり取りというには一方的だが――していると、
 ドドドドドドドドドドドドド!
 と、二人の背後から地面を蹴る轟音が聞こえてきた。
 快晴の森林の小川の横の道の果てから、ものすごい速さで土ぼこりが迫ってくる。

「ん? おーい! オニキスー! 仕事終わりかー!?」

 声をかけながら、土ぼこりの主は、速度を落として二人と並走した。
 2メートルはあろうかという長身のその男は、声をかけた男――オニキスの後ろに銀髪の少年がいることに気が付くと、人懐っこい笑顔を浮かべて挨拶をした。

「君は初めて見る顔だ! はじめまして。
 俺はナーラン・ハイズ。この先の王国で運び手をやってるんだ。
 東西南北、山だろうと川だろうと、この足で走って、確実に手紙や荷物を届けるぜ。
 君の名前を聞いてもいいかな?」

 両肩から提げている大きな2つのショルダーバッグを見せながら、ヒイラギの名前を聞く。
 
「あ、僕はヒイラギ・アクロと言います。
 先ほどこちらの方に命を助けられまして。
 お知合いですか?」
「アクロ君ね、これからよろしく!
 オニキスと知り合いかって? もちろん知り合いさ。
 そしてなんと! このコロッガ・オニキスは、王国の傭兵会、暗殺部門、第二位の実力派の暗殺者だ!
 通り名は、”天駆る暗殺者”。
 原理は知らないけど、空中を駆けて対象を暗殺するっていう他の誰にもできない方法を使うところからついた名だ。
 オニキスの名前と通り名は、オニキスに狙われそうなやつらや、王国の人たちによく知られているぜ」

 聞いたこと以上の情報と、理解の難しい情報が一気に流れ込んできた。
 ヒイラギはいまだに背を向けて歩いているコロッガと、長身のナーランを交互に見ながら、情報を整理する。

「えーっと……。
 この、オニキスさんがすごい暗殺者だということはわかりました。
 あと、僕も傭兵会への入会のために王国へ向かっていたので、なんとなくそのあたりもわかります。
 ただ、1つ疑問がありまして」
「なんだい?」
「暗殺者なのに、名前も顔も、はたまた暗殺方法まで知れ渡っているのって、なんかおかしくないですか?」
「アクロ君の言う通り! だけど、それでも暗殺を成功させているからこそ、第二位なんだよね」

 その言葉に対して再び質問をしようとしたヒイラギを遮って、ナーランが提案をする。

「ここで出会ったのも何かの縁だし、俺とオニキスで傭兵会とかを案内するぜ!
 というわけで、俺はとっとと荷物を運び終えてくるから、また!」

 ドドドドドドドドドドドドドド
 走り去っていった。

「…………」
「…………」
「ちなみに」
「! はい」
「あいつは運び手部門の第一位だ」
「は、はぁ……」

 やっと言葉を発したかと思ったら、走り去っていった男の補足情報だった。
 ヒイラギはいきなり色々すごい人たちに出会ったと思いながら、王国へ向けて歩いていくのだった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...