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第一章 白銀成長編
第三十七話 守れなかった命へ
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ソジュたちの元を発ってから数分後、護衛部門第一位のジョンと傭兵部門第三位のコンの2人は、敵の元へ近づくことができているのか不安を感じていた。
先を進んでいるはずのオニキスからは何の報告もない。
薄暗い森のせいで方向感覚を見失いそうになる。
それでも前に進むことができているのは、ヒイラギが先導しているからだった。
その足取りに迷いはなく、左手を鞘の上に置き、右手を柄にかけたまま進んでいく。
「ヒイラギくん。敵の居場所がわかるっすか?」
コンは特定の場所を目指しているかのようなヒイラギの歩みに質問を投げた。
その問いかけに前を向いたままではあるが、誠実にヒイラギは答えた。
「わかります。どうしてなのかを説明している時間はないのですが……。僕を信じてくれますか」
「もちろんっすよ! ちょっと不安になって聞いちゃっただけっす!」
短い問答だったが、すっかりコンの表情は晴れた。
対してジョンはまだ何か引っかかっていたが、ヒイラギの言葉を信じて進むことにした。
「止まれ」
そんな3人の行く手を、音もなく着地したオニキスが阻んだ。
「オニキス、何かあったのか」
「ああ。この先にまた複数人の敵影があった。今回は傭兵ではない」
ここでオニキスはヒイラギを見る。
「ほとんどは有象無象の賊だったが、その中に”武器狩り”の姿があった」
その通り名を聞いた途端、ヒイラギの目つきが変わった。
「”武器狩り”って、ヒイラギくんが討伐したやつっすよね……!」
「そうです……。トドメを刺したのはオニキスさんですが……」
「首を切って傭兵会に報告した。そんな状態のやつでも生き返らせられるということだな」
ヒイラギを除く3人は、ソジュに話を聞き、ダリーなどの実物を見てはいたが、やはり死人が蘇るという事象を消化できてはいなかった。
「”武器狩り”は僕に相手をさせてください」
ヒイラギは剣を抜き放つと、ジョンにそう申し出た。
オニキスが何も言わないのを見て、ジョンはそれを了承した。
そしてそのまま戦い方を伝える。
「彼らと戦ったときと同じようにしよう。俺が攻撃を防ぎ、コンとオニキスは各個撃破、ヒイラギは”武器狩り”に集中する」
”武器狩り”の攻撃をまともにくらったら、俺たちの武器は粉々になるしなとも付け加えると、再び盾を構えて斧で叩いた。
目を閉じてその音を聞いたジョンは、まとっている雰囲気が変わった。
「行くぞ」
「”天駆る暗殺者”がよかったが、お前も殺したかったからよいか」
賊と4人の戦いが始まった。
事前の打ち合わせ通り、ジョンは多くの敵の攻撃を寄せ、防ぎ、全体の負担の軽減を担っている。
コンは地上から、オニキスは空中からジョン及びヒイラギ周辺の敵を仕留めていく。
ヒイラギは”武器狩り”と睨み合っていた。
「僕はあなたを止めなくてはならない。あなたがこれ以上、命を奪うことがないように」
陽の光がほとんど差さないこの場所においても、ヒイラギの持つ剣は白銀色に浮かび上がっている。
「俺に殺されかけていたお前に、何ができるというんだ」
空気を押しのけて、先の鋭い鋼鉄のハンマーがヒイラギへと迫る。
ヒイラギは剣の側面を肩に当てると、真っ向からそのハンマーを防ぎにいく。
”武器狩り”の脳裏には、受け止めきれずに、そのまま吹き飛んでいった過去のヒイラギの姿が浮かんでいた。
そこから先、今に至るまでの過程を彼は知らない。
「……!」
激しい衝突音。
地面に足をめり込ませて、とてつもない力が乗ったハンマーを受け止める。
ほとんど動かないヒイラギの姿に”武器狩り”は目を見開いた。
受け止めたとき、ヒイラギ自身も少し驚いていた。
”運と実力の盾”を守ろうとしてもろとも飛ばされた記憶が強く、頭の冷静な部分では無理だと思っていた。
だが、なぜか体は受け止める構えを取り、そして本当に成し遂げた。
ヒイラギは自身の無力さを知り、自身の原点を思い出し、命を守りながらここまで来た。
それらの経験を得たこと、それに戦いを続けたことによって、初依頼の頃に比べて体が大きく、そして強くなっていた。
無自覚だったゆえに、知らず知らずのうちに力を抑えてしまっていたが、ソジュの剣を折ったことで自身の成長に気付いたのだった。
「あなたと会ったときの僕は弱かった。今もまだまだ理想の守護者には程遠い」
足を一歩踏み込んでハンマーをわずかに押し返す。
「そのせいで命を冒涜する者がいる……!」
白銀の剣が鈍い色のハンマーを振り払った。
”武器狩り”はその気味が悪い体の柔軟さを利用して、再び振り下ろす。
「僕はあなたを止めて、先にいるそいつを倒すんだ!」
ヒイラギはハンマーを受け流し、”武器狩り”の両腕を斬りつけた。
そして”武器狩り”が痛みにひるむよりも先に、流れるようにして腰のあたりを切り裂いた。
「また俺はお前に……!」
地に伏した”武器狩り”は、血走った目でヒイラギを睨む。
ヒイラギは振り返ってそれを見返すと、剣についた血を払った。
「僕はあなたの命とあなたが奪った命を絶対に忘れません。それらを背負い、これからも命を守ります」
「何を訳の分からないことを言う……!」
伏せた状態から放たれた不自然な姿勢での蹴りを剣で止めて、そのままその足の筋を断った。
「それが、僕が守れなかった命への償いです。誰にも理解されなくていい、僕だけの誓いです」
剣を鞘に入れると”武器狩り”から離れていく。
その背中に向けて何かをずっとわめいていたが、そのうち、水を打ったように静かになったのだった。
先を進んでいるはずのオニキスからは何の報告もない。
薄暗い森のせいで方向感覚を見失いそうになる。
それでも前に進むことができているのは、ヒイラギが先導しているからだった。
その足取りに迷いはなく、左手を鞘の上に置き、右手を柄にかけたまま進んでいく。
「ヒイラギくん。敵の居場所がわかるっすか?」
コンは特定の場所を目指しているかのようなヒイラギの歩みに質問を投げた。
その問いかけに前を向いたままではあるが、誠実にヒイラギは答えた。
「わかります。どうしてなのかを説明している時間はないのですが……。僕を信じてくれますか」
「もちろんっすよ! ちょっと不安になって聞いちゃっただけっす!」
短い問答だったが、すっかりコンの表情は晴れた。
対してジョンはまだ何か引っかかっていたが、ヒイラギの言葉を信じて進むことにした。
「止まれ」
そんな3人の行く手を、音もなく着地したオニキスが阻んだ。
「オニキス、何かあったのか」
「ああ。この先にまた複数人の敵影があった。今回は傭兵ではない」
ここでオニキスはヒイラギを見る。
「ほとんどは有象無象の賊だったが、その中に”武器狩り”の姿があった」
その通り名を聞いた途端、ヒイラギの目つきが変わった。
「”武器狩り”って、ヒイラギくんが討伐したやつっすよね……!」
「そうです……。トドメを刺したのはオニキスさんですが……」
「首を切って傭兵会に報告した。そんな状態のやつでも生き返らせられるということだな」
ヒイラギを除く3人は、ソジュに話を聞き、ダリーなどの実物を見てはいたが、やはり死人が蘇るという事象を消化できてはいなかった。
「”武器狩り”は僕に相手をさせてください」
ヒイラギは剣を抜き放つと、ジョンにそう申し出た。
オニキスが何も言わないのを見て、ジョンはそれを了承した。
そしてそのまま戦い方を伝える。
「彼らと戦ったときと同じようにしよう。俺が攻撃を防ぎ、コンとオニキスは各個撃破、ヒイラギは”武器狩り”に集中する」
”武器狩り”の攻撃をまともにくらったら、俺たちの武器は粉々になるしなとも付け加えると、再び盾を構えて斧で叩いた。
目を閉じてその音を聞いたジョンは、まとっている雰囲気が変わった。
「行くぞ」
「”天駆る暗殺者”がよかったが、お前も殺したかったからよいか」
賊と4人の戦いが始まった。
事前の打ち合わせ通り、ジョンは多くの敵の攻撃を寄せ、防ぎ、全体の負担の軽減を担っている。
コンは地上から、オニキスは空中からジョン及びヒイラギ周辺の敵を仕留めていく。
ヒイラギは”武器狩り”と睨み合っていた。
「僕はあなたを止めなくてはならない。あなたがこれ以上、命を奪うことがないように」
陽の光がほとんど差さないこの場所においても、ヒイラギの持つ剣は白銀色に浮かび上がっている。
「俺に殺されかけていたお前に、何ができるというんだ」
空気を押しのけて、先の鋭い鋼鉄のハンマーがヒイラギへと迫る。
ヒイラギは剣の側面を肩に当てると、真っ向からそのハンマーを防ぎにいく。
”武器狩り”の脳裏には、受け止めきれずに、そのまま吹き飛んでいった過去のヒイラギの姿が浮かんでいた。
そこから先、今に至るまでの過程を彼は知らない。
「……!」
激しい衝突音。
地面に足をめり込ませて、とてつもない力が乗ったハンマーを受け止める。
ほとんど動かないヒイラギの姿に”武器狩り”は目を見開いた。
受け止めたとき、ヒイラギ自身も少し驚いていた。
”運と実力の盾”を守ろうとしてもろとも飛ばされた記憶が強く、頭の冷静な部分では無理だと思っていた。
だが、なぜか体は受け止める構えを取り、そして本当に成し遂げた。
ヒイラギは自身の無力さを知り、自身の原点を思い出し、命を守りながらここまで来た。
それらの経験を得たこと、それに戦いを続けたことによって、初依頼の頃に比べて体が大きく、そして強くなっていた。
無自覚だったゆえに、知らず知らずのうちに力を抑えてしまっていたが、ソジュの剣を折ったことで自身の成長に気付いたのだった。
「あなたと会ったときの僕は弱かった。今もまだまだ理想の守護者には程遠い」
足を一歩踏み込んでハンマーをわずかに押し返す。
「そのせいで命を冒涜する者がいる……!」
白銀の剣が鈍い色のハンマーを振り払った。
”武器狩り”はその気味が悪い体の柔軟さを利用して、再び振り下ろす。
「僕はあなたを止めて、先にいるそいつを倒すんだ!」
ヒイラギはハンマーを受け流し、”武器狩り”の両腕を斬りつけた。
そして”武器狩り”が痛みにひるむよりも先に、流れるようにして腰のあたりを切り裂いた。
「また俺はお前に……!」
地に伏した”武器狩り”は、血走った目でヒイラギを睨む。
ヒイラギは振り返ってそれを見返すと、剣についた血を払った。
「僕はあなたの命とあなたが奪った命を絶対に忘れません。それらを背負い、これからも命を守ります」
「何を訳の分からないことを言う……!」
伏せた状態から放たれた不自然な姿勢での蹴りを剣で止めて、そのままその足の筋を断った。
「それが、僕が守れなかった命への償いです。誰にも理解されなくていい、僕だけの誓いです」
剣を鞘に入れると”武器狩り”から離れていく。
その背中に向けて何かをずっとわめいていたが、そのうち、水を打ったように静かになったのだった。
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