永久不変の剣を手に、人々の命の守護者となる

なで鯨

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第二章

第四十九話 自然に自然の国へ

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「アクロ君久しぶり! 元気にしてた? って色々お話ししたいけど、はいこれ! アクロ君への指名依頼だぜ!」

 王国に戻り、ジョンとスクイフの2人と別れたあと、傭兵会本部へと向かったヒイラギ。
 傭兵会会長のオルドウスに、例の剣と盾について話す時間を作れないかと相談するためだった。

「今回はなんと、の指名依頼だぜ! アクロ君のほかに、あのスリーク・ドライまでご指名だぜ!」

 そんなヒイラギの予定を狂わせたのは、かなり久しぶりに再会した”健脚”ナーラン・ハイズだった。
 依頼の書かれた紙をヒイラギに突き付けながら、急に説明を始めてしまっていた。

「えーっと、お、お久しぶりです。ナーランさん。それで、国からの指名依頼……ですか」

 そういって依頼書を受け取ろうとするが、ナーランは大げさに身振り手振りを行っていて、受け取るどころか内容すら読めなかった。

(そういえば、こういう人だったな……)

 ヒイラギは人柄を思い出しながら、ナーランの動きが止まった一瞬を見つけて、依頼書を奪い取った。

「それで依頼内容は……? グルーマス王国の調査……?」

 グルーマス王国といえば、以前、村同士の争いから逃げる親子を送り届けた国だった。
 その子ども、フォグは、ヒイラギにとてもよくなついていた。
 村同士の争いは、スリーク・ドライを雇った村が勝利し、平定したとヒイラギは聞いていた。

 懐かしい思い出に少し口角を上げたが、続く依頼理由に眉をひそめた。

「グルーマス王国がシーナリーム王国……この国に、戦争を仕掛けてくるとの噂がある!?」

 依頼書から弾かれるように顔を上げると、腕を組んで難しい顔をしているナーランに答えを求めた。

「あくまで噂だぜ! だけど、こうして国が依頼を出してくるってことは、まずい状況なのかも……だぜ」
「そういうことだ。今は少しの無駄な時間も許されない。今すぐ行くぞ」

 ヒイラギとナーランの会話に割り込んできたのは、ヒイラギと一緒に国から指名されている、スリーク・ドライだった。
 飾りの少ないこん棒を背負い、黒いハチマキを額に結んでいる、いつも通りの姿でヒイラギの後ろに立っていた。
 傭兵部門第一位”参近操術さんきんそうじゅつ”、スリーク・ドライの登場に、ヒイラギもナーランもまったく気づかなかった。

「詳細は移動しながら話す。行くぞ」

 珍しく余裕がないスリークの様子に、事態の深刻さを感じ取ったヒイラギは、真剣な表情でうなずいたのだった。


「急がなくてはならないが、馬は使えない。こちらが怪しんでいるということを察知されてはならない」
 
 シーナリーム王国を出るまではとてつもない速度で駆けていたが、王国を出てからは多少早い程度の移動にとどまっていた。
 あまりにも慌てて向かうと、不要な疑いをかけられてしまうことを危惧してのことだった。

「戦争を仕掛けてくるという噂の出どころは不明。しかし、最近グルーマス王国が人を集めていたという情報は聞いている」
「そうです。私も以前、そこまで護衛をしたことがありました。国を挙げて歓迎しているといった印象を受けました」
「俺は直接グルーマス王国で、その人集めをしている話を聞いたぜ。それで、その話を色々な場所でしてしまったぜ……。俺も知らず知らずのうちに、片棒を担いじゃったのかな……!?」

 顔を青くしてショックを受けているのは、ヒイラギとスリークの後ろを歩く、ナーランである。
 今回の指名依頼は、ヒイラギ、スリークと、ナーランの3名が指名されていたのだった。

「人を集めていたからといって、戦争の準備をしていた、なんて想像もできませんし、ナーランさんは悪くないですよ」

 思っている以上に落ち込んでそうなナーランの隣へ行き、ヒイラギはなぐさめる。

「戦争という噂が流れたことで、すべてが疑わしく見えている状態だ。わたしたちが調べれば色々とわかるだろう」

 スリークもナーランを気遣うような言葉を出した。
 ナーランは自分の顔を両手でたたくと、いったん気にしないぜ! と口にした。

 そのような会話や今後の話をしながら、なるべく自然体でグルーマス王国へと向かった。
 道中、シーナリーム王国へと向かう人たちと何人かすれ違ったが、その人たちからは特に変わった様子は見られなかった。

 そして、のんきに草をんでいる動物たちが増えてきたころ、3人はシーナリーム王国へと到着した。

「以前来たときには騎士の方々が人々を出迎えていましたが、今は門番の方がいらっしゃるくらいですね」

 巨大な木々の間に人工の門が設置されており、その門の前で2名の門番が入国する人たちに色々と質問をしていた。
 その列に並んでしばらく待つと、数分後にヒイラギたちの番がまわってきた。

「あなたがたは……。スリークさん、ヒイラギさん、ナーランさんですね。本日もお疲れ様です」
 
 傭兵会の支部がある国なだけあり、有名なスリークとナーランは顔を覚えられているようだった。
 ヒイラギは以前の騎士には覚えられていなかったが、ここ最近の活躍もあってか、この門番は認識していたようだった。

「このようなお三方がそろっていらっしゃるなんて……。何か、大きな依頼でも?」

 門番は少し身構えるように質問を投げかけた。

「いいえ。たまたまお会いしたので、一緒に来ただけです。入国したらそれぞれの依頼に動きます」

 ヒイラギは、事前に打ち合わせをしておいた通り答えた。
 入国後もまとまっていると怪しいため、調査は基本的には単独で行うことと決めていた。

「そうなのですね。通り名のある方々がまとまっているなんて、何か大事があるかとひやひやしてしまいました」

 門番は申し訳ないと謝って、3人を門の内側へと迎え入れた。

「では、予定通り。また今夜、傭兵会支部で落ち合おう」

 入国を終えたスリークは、どこかへと向けて歩いて行った。

「俺もちょっとツテを頼ってみるぜ!」

 ドドドドドドドと、ナーランもどこかへと走り去った。

 ひとり取り残されたヒイラギは、行く当てがなく、どこから噂を確かめていけばよいか悩む。
 目を閉じてうんうんうなっていると、誰かが走り寄ってきている気配を感じ、その方向を見た。

「ヒイラギさあああああん!!? ヒイラギさんだあああああ!」
「フォグ! どうして騎士のかっこうを?」
 
 そこには、軽装の騎士の姿でガチャガチャと音を立てながら走ってくる少年――フォグの姿があった。
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