平岸の骸たち

新たなごみ箱

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八つ橋滝

前編

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これは、1か月前の出来事、いつものように、事務所で小説を書いていると。

 「ごめんくださいー!」

 と、男の声が響き渡った。私が玄関に向かい、扉を開けると、男は少しビクッと反応した後、お辞儀をした。

 「怪奇現象相談所は、ここで間違いないでしょうか、ご依頼に来たんですけど...」

 敬語をあまり使わない人なのだろう。

 身長は私より少し小さく、丸眼鏡をかけている。おしゃれはあまりしていない、声変わりはしているようだから高校生くらいだろうか。小さいバッグを背負って、何かをしている。

 
 「うちの依頼料は割と高いけど、大丈夫?」

 「は、はい!大丈夫です!」

 そういうと、高校生はバッグから封筒を取りだし、私に手渡してくる。
 私が封筒を開けると、そこには10万円が入っていた。

 「お年玉を溜めていたんです!これでお願いします!」

 高校生はまたお辞儀をする。だが、困った。私は高校生から10万円を奪い取るほど生活に困窮していない。
 だが、お金をもらわなければ、信用を得ることはできない。お金とは、客と店の信頼関係のあかしなのだ。

 少し考えた後、私は封筒から1万円だけを抜き取り、残りを少年に返した。
 
 「え?あの...」

 「うちは学割が聞くんだ。残りは自分のために使うことだね」

 そう言って、私は事務所を案内する。高校生はまたお辞儀をしていたが、無視して来客用のソファーに座った。
 高校生は、私の向かいに座る。10秒ほどそんなことをした後、高校生ははっとした顔をして、バッグから写真を取り出した。

 「彼女を探してほしいんです。」

 写真には、高校生くらいの女性と目の前の男性が一緒に写っている写真が載せられてた。

 「この子は?」

 「古都美成『こと みなり』という名前で、一年前東京からこっちに引っ越してきた子です。趣味のことで仲良くなって、今は...その、僕の彼女です...」

 神崎美成と言われたこの子は、この男の子と身長は同じくらいのようだ、ただ、顔がかなり美人さんだ。
 左手薬指に銀の指輪をはめている。高校生君の左手薬指を見ると、同じデザインの指輪がはめてあった。
 
 「それで、この子がどうしたんだい?」

 「3日前の話なんですけど、僕達は西岡公園でデートをしていたんです。ただ、公園を歩くデート、それで、僕たち川を渡るために『八つ橋』という名前の橋を渡ろうとしたんです。」

 八つ橋、確か小さな滝が見える橋だったはずだ。

 「橋を渡る最中に二人で滝を見て、奇麗だねって話しかけようと美成のほうを見たら、いなくなっていたんです」

 「はぐれたとかじゃないのかい?」

 「私もはぐれたのかなと思ってたんです。でも、おかしいんです。僕は八つ橋にいるときには手をつないでいました。そして、僕達が滝を見るまでは、彼女の手の感触が確かにあったんです。滝の音を聞いた後、いきなり一人になって、霞のように消えてしまったんです。」

「はい、もちろん警察にも相談しました。学校にも話したんです。でもみんなそんな人知らないって言うんです。」

「…何?」

「あの、もしかしたら僕が元々おかしくて彼女なんていなくて…それで」

「ならなぜ君と彼女が写っている写真がある?」

「なら狐に化かされたとか」

「狐が人をばかすのは物語の中だけだ」
 
 いろんな可能性が考えられるが、今は情報が足りなすぎるな。

「とりあえず、現場に行ってみるとしようか」

「え?引き受けてくれるんですか!?」

「お金をもらった以上引き受けるのが私だからね」

「ありがとうございます!」

「何故お礼を言うんだい……まかいい、それで場所はどこなんだい、その八つ橋滝は」

 そういうと、高校生は自分のポケットからスマホを取り出す。
 
「はい、ええっと……ここです」

 そして左手で画面を操作し、マップを開き、私に画面を見せた。
 ____________

「まさかこんなところにあるとはな」

 私は今、八つ橋の滝を見るために、西岡公園と言うところまで来ていた。

 西岡公園、私の予想通り山の近くにある公園で、自然豊かな場所だった。

「それなにしても、ここまで駅から離れているとはね、どうやってきたんだい、こんな山の上」

 そうここらへん一体は坂になっており、ここまでは急な坂を10分ほど車で走る羽目になった。

 近くには駅はなく、バスも少ない。それに、正直言うと札幌とは思えないほどに田舎だ。

「公園は札幌には他にもかなりの数があるだろう。なのに何故ここを選んだんだい」

「えっと……」

 隣に座っていた高校生は気まずそうに俯いている。

「ここ、蛍が見られるんです。それで2人で蛍を見に行こうって」

「今は6月だぞ、今の季節に蛍は見られないだろう」

「……2人とも知らなくて」

「そうか……すまないね」

「ああ、いえ……」

 気まずくなり、その空気を逃げるするように車から出る。

 公園の入り口には事務所が立っている。事務所は一階建ての田舎の駅くらいの大きさでかなり綺麗になっている。

「事務所入るんですか?」

「ああ、聞き込みもしたいからね」

 それに、ここは山の上にある場所だ、ここが蛍が出てるような自然公園ならば、私の仮説が正しいことになる。

 事務所は自動ドアで、中の雰囲気は落ち着いた雰囲気であった。

 中に入ると、これまたかなり快適そうな空間が広がっていた。入って左側には虫や何かのマップ、公園で作ったであろうグッズが売られている。右側ではどこかの広場で子供たちが何かを見て遊んでおり、真ん中には受付と休憩所、そして休憩所の掲示板に私の求めていたものが飾ってあった。



 「あった」

 「これは、公園のマップですか?」

 「ああ、しかも子供が職員と作ったものだろうな」

 「これが怪異の正体ですか?」

 「馬鹿を言うな、違う。いいか、山っていうのは、時期によって状況が変化する。去年までいた生物が今年にはいないこともある」

 「それがどうかしたんですか?」

 「つまり、今年の主役は蛍じゃない可能性もあるということだ」

 カイツブリやカワセミ、スズメバチもいるのか、怖いな。ほかには。

 「あの、やっぱりあんまり信じられないというか」

 高校生が後ろで話しかける。私は振り返る。

 「ここって、心霊現象が起きるんですよね?なら、幽霊の仕業なんじゃ」

 「ああ、確かyoutuberとかが取り上げていたな、だがな、この世に漂っている幽霊なんていないんだよ。あれは全部デマだ」

 仲良しの木、八つ橋滝、他にもいろいろあるんだなぁ。ん?長老の木?

 「...まさか」

 「何かお探しですか?」

 二人で地図の前で話していると、職員の女性が話しかけてくる。

 「ああ、公園の生物を知りたくて、色々教えていただけませんか?」

 「この時期は、バートウォッチングをする人が多いですよ。今の時期は名物のホタルも見られないですしねぇ」

 「ホタルって八つ橋滝の場所ですよね?ホタルが出るとなると、結構問題が起きるんじゃないですか?」

 「それがねぇ、あんまり起きないんですよ、確かにホタルを捕まえようとしている人はいたんですけどねぇ、この張り紙を乗っけたらもう見なくなりましてねぇ。わかっていただけたようでよかったです」

 「張り紙?」

 掲示板をじっと見ると、八ツ橋滝での注意点が書いてあった。
 川に入ってはならない。そう書いてあるポスターは、結構当たらしめなものだった。

 「このポスター誰が作ったんですか?」

 「?誰でしたっけ、忘れてしまいました。少なくとも職員のだれかですね。」

 ...まさか。
 
 「どうしたんですか?」

 ...やはりあった。長老の木のほかにもう一つ。怪異を表すものが。

 私は駆け足で事務所を出る。
 
 「ちょっと待ってくださいよ、長老の木なんで長老の木に行くんですか!?」

 私は歩く、長老の木を目指して。公園の門に入り、一番最初に目に入ったのは、西岡水源池であった。

 大きな池に、大きな取水塔が見える。地図によれば、長老の木に行くには取水塔の前を通る必要がある。

 「事件が起きたのは八つ橋滝ですよ!なんで!」

 「ご神木の条件を知っているか」

 怒りと焦りで肩に手をかけた高校生に私は問いかける。焦っていた顔は何を言っているかわからないという顔に変わる。

 高校生を無視して、私は歩いて池のふもとまで下りる。高校生は意識を戻し、私を駆け足で追いかける。

 「あれじゃないですか。神社で祀られていることが条件なんじゃ」

 「それもある、他にもいろいろあるが一番の条件は2世紀以上生きているかだ、そういう木がある山にはルールができる。だが人間には知らされない。ルールはそこにいる生物にだけ伝えられる。神社っていうのは様々な用途で作られるが、ご神木のある神社はその山の住民として人間が認められるために贈り物として建てられるという意味もあるんだ」

 私は森までの階段を上る。

 「だから!それとなんの関係が!」

 階段を上り終わると、そこには、私の予想していたものが祀ってあった。

 「はぁ...はぁ...急に立ち止まって...どうしたんですか」

 「これを見てみろ」

 「これは...お地蔵様ですか?」

 「違うな、これは不動明王の像だよ、ずっと思っていたんだ。この場所は心霊スポットと呼ばれるにはあまりにも子供が多すぎると」

 「この像がどうしたんですか...?」

 「やはりだ、不動明王にはな、煩悩を払うという意味がある。この像は心霊現象が起きたから設置されたものじゃない」

 「つまり...どういうことなんですか!?」

 「この公園は地元民では大丈夫なんだ。地元の人には怪異は襲い掛からない。それはルールをしっかり守っているんだ」

 「つまり、神様がつれていってしまったということですか?」

「神様は人を隠したりなんてしない。いいか、今起こっていることは、ペナルティだ」

「ペナルティ?」

 「日本では神隠しと言われている現象だよ、まったく腹がたつ。神は人を隠したりなんてしない。人に与えられない限りは、いいかい今起こっていることはペナルティという名の自然の中での現象だ。」

「ええっと、どういうことですか?」

「君たち、馬鹿をしたね」

 私は高校生の胸ぐらをつかんだ、彼は必死に抵抗するが、私を振りほどけない。

 「ちょ!何をするんですか!」

 「川で何かを拾ったか!?何を奪った!」

 「奪ってないですよ!ただ、彼女との思い出に川の石を1つ拾っただけです。」

 「馬鹿が!」
 
「八ツ橋滝にあるルールを破ったことで、ペナルティが起きた。それによって彼女の存在は忘れ去られたんだ!」

「僕たちが悪いんですか!僕たちは石を1つもらっただけだ!そんなの事務所の子供たちもやっていたでしょ!」

 「いいか!自然っていうのは繊細だ!江戸時代、石を1つ川に置いただけで、川の流れが変わり、畑の作物が育たなくなり飢餓に苦しみ、滅んだ村だってある!蛍はな!奇麗な川にしか存在できないんだ!そんな場所の石を1つ奪うだけでどれだけの影響が出てくると思う!」

 「だけど!彼女の命を奪うことはないじゃないですか!そんなに自然が起こるなんて!」
 
「自然は、怒ってなんかいないよ」

「え?」

「怪奇現象っていうのは、あくまで現象なんだ。何かをした結果、何かが起きる。ただそれだけなんだよ、だから君の彼女がいなくなったのも、君と彼女が川の石を奪ったから、彼女が消えたんだ。何か悪いことをしたからこそ、本人に返ってきた。ただそれは幸いなことでもある」

「どこがですか!?」

「その石を正しい場所に返すことができれば彼女は助かるかもしれないということだ」

 高校生は押し黙る。納得していないという顔だ。

 「石を1つもらったくらいで、だって子供たちだって」

 「いいか、広場の子供たちはな森のルールに沿って木や石をいただいているんだ。山の影響が少ない場所で少ない量いただいている。だから彼らがしたことは山に許可をいただいて木や石を貰っている状況なんだ。お前らは、自分の思い出のためとかいうくだらない理由で、川の石を奪い、生態系を変化させ、様々な生物を殺そうとした。だから、奪われたんだ。同じように、これは君たちのせいなんだよ」

 「...石を返したら彼女は帰ってくるんですか」

 「それは山のルール次第だ、山がそういうルールだったら帰ってくる。違うルールだったら帰ってこない」

 「...なら、嫌ですよ。石を戻して彼女が返ってこなかったら、僕は彼女の形見すら失うことになります...そんなの嫌ですよ」

 「なら、そのまま奪われたまま石だけ見て過ごすといい。私はいく。」

 これは、神様になる前段階の怪異の仕業だ。

 こんな体験は二度とできない。もっともっと知りたい。

 「...」

 少年は無言で私についてくる。

 ここでスカルの能力を使ってもいいが、スカルの能力は一日に1回しか使えない。だから、使うのは少女を救ってからだ。

 ははは!!!楽しい!楽しすぎる。早く見せてくれ長老の木!
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