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「小松さんって、食べ方綺麗だよね」
焼き魚をほぐしながら口に運んでいた春菜は、隣に座る小野田に言われて動きを止めた。
目の前に焼き魚定食が出てきてからは、おいしそうな見た目と匂いに惹かれて何も考えず無心に食べていた。それをまじまじと見られていたとは。
「……そうでしょうか」
少し一口分を控えめにしてみる。先ほどまでは相当大口を開けて食べていたような気がする。
「うん、なんていうか、食べ物への愛を感じる」
小野田は微笑んだ。
「大事に食べてますよー、っていう感じ」
言いながら、自分もから揚げをおいしそうに口元に運ぶ。春菜は笑った。
「課長だって、美味しそうに食べてるじゃないですか」
「そう?それは小松さんが一緒だからじゃない」
もぐもぐしながら春菜を見る小野田がさらりと言う。
(なんか……今日、ちょいちょい変なこと言うよね……)
気のせいだと流してきたのだが、いい加減気付かざるを得ない。気のせいではないということに。
「私が一緒だと、美味しそうに食べたくなるんですか?」
春菜が問うと、小野田は笑った。
「違うよ。美味しそうに食べたくなるんじゃなくて、本当に美味しく感じられるんだ」
(それはつまり、日頃一人で食べているから、誰かと一緒に食べると美味しいという現象?)
「一応言っておくけど、誰とでも美味しくなるわけじゃないよ」
春菜の心を読んだように、小野田は言った。春菜は唇を尖らせる。
「そりゃ、気を使う人と食べたら美味しくないでしょうけど……」
小野田の優しい視線を感じて、ついまた照れ臭くなった春菜は、みそ汁を口にした。
小野田はふふ、と面白そうに笑った。
「小松さんなら、どんな人と一緒に食べると美味しく感じる?」
その聞き方は、仕事で考えを問う調子と同じだ。春菜は意識的に視線を感じる方を見ないようにしながら、うーんと考えた。
「気のおけない人……家族とか、友達とか……」
「他には?」
「他?うーん」
春菜は首を傾げた。
「恋人……は、ちょっと緊張するかな……。でも、美味しそうにしてくれると、美味しく感じるかも……」
首をひねりひねり呟く。
小野田は満足げに笑って、また春菜の髪を撫でた。
「そうかもね」
春菜は慌てて振り返りながら、頭を守るように手で覆う。その手は一瞬、小野田の手と触れ合った。
「だから、お触り禁止ですって!」
「えー」
小野田は唇を尖らせるが、その目は笑っている。
「そんな。可愛いものは愛でたくなるのは、自然なことでしょ」
「かわっ、……めで、……」
春菜はまた顔が赤くなるのを感じた。
「もー勘弁してくださいよぉ」
ぶんぶんと手を振り払い、まだ温もりを残した定食に改めて向き合う。
「早く食べて行きましょう。みんな待ってます」
「少しゆっくりしてもいいじゃない。僕ら、他のメンバーより進んでたよ」
「早く帰れるならそれに越したことないじゃないですか」
春菜の言葉を、小野田は否定も肯定もしない。
「……違いますか?」
当然同意を得られると思っていた春菜は、思わず眉を寄せた。
小野田が微笑む。
「小松さんと一緒にいられるなら、終電逃してもオールになってもいいかなぁ」
「いーやーでーすー!私は帰りますー!」
冗談めかした小野田の言葉に答えて、春菜はご飯を口に運びはじめた。
焼き魚をほぐしながら口に運んでいた春菜は、隣に座る小野田に言われて動きを止めた。
目の前に焼き魚定食が出てきてからは、おいしそうな見た目と匂いに惹かれて何も考えず無心に食べていた。それをまじまじと見られていたとは。
「……そうでしょうか」
少し一口分を控えめにしてみる。先ほどまでは相当大口を開けて食べていたような気がする。
「うん、なんていうか、食べ物への愛を感じる」
小野田は微笑んだ。
「大事に食べてますよー、っていう感じ」
言いながら、自分もから揚げをおいしそうに口元に運ぶ。春菜は笑った。
「課長だって、美味しそうに食べてるじゃないですか」
「そう?それは小松さんが一緒だからじゃない」
もぐもぐしながら春菜を見る小野田がさらりと言う。
(なんか……今日、ちょいちょい変なこと言うよね……)
気のせいだと流してきたのだが、いい加減気付かざるを得ない。気のせいではないということに。
「私が一緒だと、美味しそうに食べたくなるんですか?」
春菜が問うと、小野田は笑った。
「違うよ。美味しそうに食べたくなるんじゃなくて、本当に美味しく感じられるんだ」
(それはつまり、日頃一人で食べているから、誰かと一緒に食べると美味しいという現象?)
「一応言っておくけど、誰とでも美味しくなるわけじゃないよ」
春菜の心を読んだように、小野田は言った。春菜は唇を尖らせる。
「そりゃ、気を使う人と食べたら美味しくないでしょうけど……」
小野田の優しい視線を感じて、ついまた照れ臭くなった春菜は、みそ汁を口にした。
小野田はふふ、と面白そうに笑った。
「小松さんなら、どんな人と一緒に食べると美味しく感じる?」
その聞き方は、仕事で考えを問う調子と同じだ。春菜は意識的に視線を感じる方を見ないようにしながら、うーんと考えた。
「気のおけない人……家族とか、友達とか……」
「他には?」
「他?うーん」
春菜は首を傾げた。
「恋人……は、ちょっと緊張するかな……。でも、美味しそうにしてくれると、美味しく感じるかも……」
首をひねりひねり呟く。
小野田は満足げに笑って、また春菜の髪を撫でた。
「そうかもね」
春菜は慌てて振り返りながら、頭を守るように手で覆う。その手は一瞬、小野田の手と触れ合った。
「だから、お触り禁止ですって!」
「えー」
小野田は唇を尖らせるが、その目は笑っている。
「そんな。可愛いものは愛でたくなるのは、自然なことでしょ」
「かわっ、……めで、……」
春菜はまた顔が赤くなるのを感じた。
「もー勘弁してくださいよぉ」
ぶんぶんと手を振り払い、まだ温もりを残した定食に改めて向き合う。
「早く食べて行きましょう。みんな待ってます」
「少しゆっくりしてもいいじゃない。僕ら、他のメンバーより進んでたよ」
「早く帰れるならそれに越したことないじゃないですか」
春菜の言葉を、小野田は否定も肯定もしない。
「……違いますか?」
当然同意を得られると思っていた春菜は、思わず眉を寄せた。
小野田が微笑む。
「小松さんと一緒にいられるなら、終電逃してもオールになってもいいかなぁ」
「いーやーでーすー!私は帰りますー!」
冗談めかした小野田の言葉に答えて、春菜はご飯を口に運びはじめた。
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