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本編
04
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ブブブブブ、とバイブ特有の振動音が狭いリビングに響く。
「っ……ん……はぁ……」
理都子は小刻みに揺れるそれをショーツの上から押し当て、甘い吐息を吐き出す。
目をつぶって思い浮かべるのは、2ヶ月ほど前に楽しんだ消防士2人との情事だ。
その後も全く男と寝ていないわけではないが、視覚的にも触覚的にも、あれ以上に刺激的な経験は最近なかった。
男の堅い身体が、理都子の柔らかな肌を、乱暴なまでに歪めていくーー
果てない欲望と快感ーー
その瞬間、友人ーー詩乃の冷たい目がまぶたに浮かんで、わずかに目を開く。
そう、消防士との合コンには、彼女もいた。長い黒髪、冷めた目。
浮かべる笑顔はぎこちなく、常に人を突き放したような態度。
理都子は舌打ちしてバイブを止める。
(どうして、詩乃の顔なんか浮かんだんだろ)
大学時代、仲のいい友人は四人いる。一人は堅実な委員長タイプ。大学時代からの付き合いの彼氏もいるから合コンには呼ばれなかった。
理都子と詩乃に声をかけたのはもう一人の紗也加だった。消防士の弟がいて、男女共にすぐ仲良くなる典型的なお元気キャラ。
一方の詩乃はつんけんしていて、表情に乏しい孤高の花ーーそれを高嶺の花と見るか、ただの無愛想と見るかは評価が分かれるところだろうが、多くは前者と見るようだった。
理都子が3人中2人の男を両手に引き連れ、二次会と称して飲み直した一方、紗也加と詩乃は3人目の男と帰ってしまった。
その男は飲み会の間、詩乃の隣に座っていた。ときどき二人で話をしているようではあったが、理都子にはあまり印象が残っていない。
両手に華ーーもとい頑強な筋肉を堪能していて、もう一人の記憶が曖昧になった、というより、なんとなく人が良さそうな雰囲気の男だったので、興味を持てなかったのだ。
理都子が気に入るのは、アクの強い男。もしくは、てのひらで転がってくれる単純な男。
大概そのどちらかだ。
ため息をついて、バイブをぽいと床に放る。
熱が冷めてしまった。
「詩乃のせいだ」
苛立ち紛れに呟いて、今日のメッセージを思い出す。今夜約束していた相手、秀治が、詩乃の元カレだった。
(そういえば、ちょっと雰囲気似てるかも)
秀治と合コンの3人目の男が、だ。
顔立ちとしてはそこそこ整っているのだが、ただただ人が良さそうで、理都子からすれば面白みを感じない。
詩乃は大学時代以降も何人か彼氏がいたが、その中には1ヶ月という男もいた。その点、秀治とのつき合いが一番長かったように思う。
(あんなのっぺらぼうみたいな男、どこに魅力を感じたんだろ)
来るもの拒まず、でいただけかーーそれとも、それなりに、愛情を感じていたのか。
なんとなく胸糞悪く思えた。
理都子は柔らかいビーズクッションに胸を預け、深々とため息をつく。
すっかり気分は萎えてしまったーーむしろ気が滅入ってしまった。ズボンを履くのも面倒だ。
そのとき、ガチャ、とドアが開く。拓哉が仕事部屋から出てきて、ちらと理都子を見下ろした。
軽蔑するようなその視線を下から見上げ、悪びれもせず脚をばたつかせてみる。
「一人じゃつまんなーい」
「だろうな」
拓哉は一言答えて、キッチンとは名ばかりの小さな水場からコップを取り出す。
冷蔵庫を開けてアイスコーヒーを出し、コップに注いで一口飲むと、眼鏡の下から目頭を揉んだ。
ずっと画面を睨んでいるから疲れたのだろう。
理都子はそんな姿を数歩の距離から見上げながら、これ見よがしに脚を振る。拓哉はそれでもマイペースにコーヒーを口に運ぶ。
深夜に下着姿の女が転がっているのに、全く触手を動かす気はないらしい。分かってはいたがふてくされて「甲斐性なし」と呟くと、ちらと冷たい視線が下りてきた。
その視線にもたじろぐことなく、理都子は言う。
「ねー、手伝ってよ」
「なにを」
「オナニーに決まってんじゃん」
明け透けな言い方が気に食わないのか、拓哉はまた嫌そうな顔をした。とはいえ、彼にとってはデフォルトの表情なので、理都子も全く気にならない。
「ひとりでしてもつまんないけど、二人でしたら楽しいかも」
「どういうこっちゃ」
ため息をついた拓哉がコップを流しに置いた。
彼は理都子になにか飲むかと聞くことすらしないのだ。いつだったかそれを不満げに口にしたら、「そもそも家に上げてやってるだけありがたく思え。大人なんだから自分が必要なものは自前で用意しろ」と一刀両断されただけだった。
これだけ嫌そうにする割に、拓哉は理都子の来訪を拒まない。呆れ、怒り、形だけは追い返そうとするが、強硬にそうしようとはしない。
その理由が何なのかは分からないが、知りたいとも思わない。知らない方がいいような気がしていた。
「そういえば、見せ合いっことか、したことない」
理都子は口に出してから、自分の思いつきに満足して唇の端を引き上げた。
にやつく頬に片手を添え、頬杖をついて拓哉を見上げる。
「ね、してみようよ。見せ合いっこ」
「しねーよ」
拓哉はいつも通りつれない返事を寄越して、部屋に戻っていくーー
かと思いきや、足を止めて理都子を見下ろした。
「見せ『合う』必要はないよな」
「え?」
理都子は丸い目をますます丸くする。拓哉が立ち止まったことも、拒否以外の反応をしたことも、今までの態度から思えば意外すぎて、頭が追いついていない。
拓哉は静かに、理都子を見下ろしている。
「俺が、お前のを見てればいいんだろ。……そういうプレイも無くはない」
拓哉は言って、唇の端を引き上げた。その表情には、不思議なほど欲情の気配がない。冷静に、冷淡に見下ろされて、理都子は痺れのようなものを感じた。
もちろん恐怖ではない。今まで経験したことのないものへの好奇心。
「うん、いいよ。……それで」
理都子は笑った。それは、男に愛想を振り撒くいつもの笑顔ではない。妖艶な、挑発するような、それでいて心底楽しそうな笑顔になった。
「っ……ん……はぁ……」
理都子は小刻みに揺れるそれをショーツの上から押し当て、甘い吐息を吐き出す。
目をつぶって思い浮かべるのは、2ヶ月ほど前に楽しんだ消防士2人との情事だ。
その後も全く男と寝ていないわけではないが、視覚的にも触覚的にも、あれ以上に刺激的な経験は最近なかった。
男の堅い身体が、理都子の柔らかな肌を、乱暴なまでに歪めていくーー
果てない欲望と快感ーー
その瞬間、友人ーー詩乃の冷たい目がまぶたに浮かんで、わずかに目を開く。
そう、消防士との合コンには、彼女もいた。長い黒髪、冷めた目。
浮かべる笑顔はぎこちなく、常に人を突き放したような態度。
理都子は舌打ちしてバイブを止める。
(どうして、詩乃の顔なんか浮かんだんだろ)
大学時代、仲のいい友人は四人いる。一人は堅実な委員長タイプ。大学時代からの付き合いの彼氏もいるから合コンには呼ばれなかった。
理都子と詩乃に声をかけたのはもう一人の紗也加だった。消防士の弟がいて、男女共にすぐ仲良くなる典型的なお元気キャラ。
一方の詩乃はつんけんしていて、表情に乏しい孤高の花ーーそれを高嶺の花と見るか、ただの無愛想と見るかは評価が分かれるところだろうが、多くは前者と見るようだった。
理都子が3人中2人の男を両手に引き連れ、二次会と称して飲み直した一方、紗也加と詩乃は3人目の男と帰ってしまった。
その男は飲み会の間、詩乃の隣に座っていた。ときどき二人で話をしているようではあったが、理都子にはあまり印象が残っていない。
両手に華ーーもとい頑強な筋肉を堪能していて、もう一人の記憶が曖昧になった、というより、なんとなく人が良さそうな雰囲気の男だったので、興味を持てなかったのだ。
理都子が気に入るのは、アクの強い男。もしくは、てのひらで転がってくれる単純な男。
大概そのどちらかだ。
ため息をついて、バイブをぽいと床に放る。
熱が冷めてしまった。
「詩乃のせいだ」
苛立ち紛れに呟いて、今日のメッセージを思い出す。今夜約束していた相手、秀治が、詩乃の元カレだった。
(そういえば、ちょっと雰囲気似てるかも)
秀治と合コンの3人目の男が、だ。
顔立ちとしてはそこそこ整っているのだが、ただただ人が良さそうで、理都子からすれば面白みを感じない。
詩乃は大学時代以降も何人か彼氏がいたが、その中には1ヶ月という男もいた。その点、秀治とのつき合いが一番長かったように思う。
(あんなのっぺらぼうみたいな男、どこに魅力を感じたんだろ)
来るもの拒まず、でいただけかーーそれとも、それなりに、愛情を感じていたのか。
なんとなく胸糞悪く思えた。
理都子は柔らかいビーズクッションに胸を預け、深々とため息をつく。
すっかり気分は萎えてしまったーーむしろ気が滅入ってしまった。ズボンを履くのも面倒だ。
そのとき、ガチャ、とドアが開く。拓哉が仕事部屋から出てきて、ちらと理都子を見下ろした。
軽蔑するようなその視線を下から見上げ、悪びれもせず脚をばたつかせてみる。
「一人じゃつまんなーい」
「だろうな」
拓哉は一言答えて、キッチンとは名ばかりの小さな水場からコップを取り出す。
冷蔵庫を開けてアイスコーヒーを出し、コップに注いで一口飲むと、眼鏡の下から目頭を揉んだ。
ずっと画面を睨んでいるから疲れたのだろう。
理都子はそんな姿を数歩の距離から見上げながら、これ見よがしに脚を振る。拓哉はそれでもマイペースにコーヒーを口に運ぶ。
深夜に下着姿の女が転がっているのに、全く触手を動かす気はないらしい。分かってはいたがふてくされて「甲斐性なし」と呟くと、ちらと冷たい視線が下りてきた。
その視線にもたじろぐことなく、理都子は言う。
「ねー、手伝ってよ」
「なにを」
「オナニーに決まってんじゃん」
明け透けな言い方が気に食わないのか、拓哉はまた嫌そうな顔をした。とはいえ、彼にとってはデフォルトの表情なので、理都子も全く気にならない。
「ひとりでしてもつまんないけど、二人でしたら楽しいかも」
「どういうこっちゃ」
ため息をついた拓哉がコップを流しに置いた。
彼は理都子になにか飲むかと聞くことすらしないのだ。いつだったかそれを不満げに口にしたら、「そもそも家に上げてやってるだけありがたく思え。大人なんだから自分が必要なものは自前で用意しろ」と一刀両断されただけだった。
これだけ嫌そうにする割に、拓哉は理都子の来訪を拒まない。呆れ、怒り、形だけは追い返そうとするが、強硬にそうしようとはしない。
その理由が何なのかは分からないが、知りたいとも思わない。知らない方がいいような気がしていた。
「そういえば、見せ合いっことか、したことない」
理都子は口に出してから、自分の思いつきに満足して唇の端を引き上げた。
にやつく頬に片手を添え、頬杖をついて拓哉を見上げる。
「ね、してみようよ。見せ合いっこ」
「しねーよ」
拓哉はいつも通りつれない返事を寄越して、部屋に戻っていくーー
かと思いきや、足を止めて理都子を見下ろした。
「見せ『合う』必要はないよな」
「え?」
理都子は丸い目をますます丸くする。拓哉が立ち止まったことも、拒否以外の反応をしたことも、今までの態度から思えば意外すぎて、頭が追いついていない。
拓哉は静かに、理都子を見下ろしている。
「俺が、お前のを見てればいいんだろ。……そういうプレイも無くはない」
拓哉は言って、唇の端を引き上げた。その表情には、不思議なほど欲情の気配がない。冷静に、冷淡に見下ろされて、理都子は痺れのようなものを感じた。
もちろん恐怖ではない。今まで経験したことのないものへの好奇心。
「うん、いいよ。……それで」
理都子は笑った。それは、男に愛想を振り撒くいつもの笑顔ではない。妖艶な、挑発するような、それでいて心底楽しそうな笑顔になった。
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