モテ男とデキ女の奥手な恋

松丹子

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第一章 ちかづく

35 小悪魔の涙

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「お姉さんは、政人がバスケしてるとこ、見たことある?」
 栄太郎はカフェの前で合流するなり、大事そうにバスケボールを抱えて言った。
 頬は寒さのせいか赤くなり、目は少年らしく生き生きと輝いている。
「ううん、ないよ」
 橘は首を振って答えて、俺を見た。
「神崎、バスケやってたの?」
「学生んときな」
 隼人が持ってきた草履に履き替えた橘が、へぇと感心したように微笑む。
 ーーで、このガキはどういう流れに持っていこうとしてるんだ?
「さて、もうそろそろ日も暮れるぞ。よい子は帰る時間ーー」
 先手必勝、と思い、言いかけた俺の手を、栄太郎がぐいと引っ張った。
「政人!行くで!俺が政人をこてんぱんにするとこ、お姉さんに見せたる!」
「誰がお前に負けるか。ーーって、そうじゃないだろ」
 またも流されそうになって、慌てて踏み止まる。さすがに子供にいいようにされるわけには行かない。
「へぇ、私、見たい。隼人くんがバスケするとこ」
 香子ちゃんが嬉しそうに微笑む。隼人も照れている。ああもう、勝手にやってろ。俺を巻き込むな。
「風邪でもひいたらどうすんだよ。また今度、明るいときにしろ」
「今度、言うたかて」
 栄太郎は唇を尖らせた。
「隼人兄ちゃんは時々会いに来てくれはるけど、政人はそうやないやろ。会えたときにたくさんせぇへんと、全然一緒に遊べへん」
 ちょっと寂しそうな顔で、可愛いことを言いやがる。
「今な、隼人兄ちゃんと作戦立ててん。政人に勝つ作戦や」
 小さな胸をぐいと張った栄太郎は、びしりと俺に指を突きつけた。その目は少しだけ赤くなっている。
「それとも、女の前で負けるのが怖いんか、意気地なし!」
 俺は苦笑して、その指を軽く叩いた。
「んなわけあるか。分かったよ、つき合ってやる。一回だけな」
 言って、微笑んで見ている橘に声をかけた。
「お前は気にせず帰れよ。和服は冷えるだろ」
 橘はきょとんとしてから笑った。
「せっかくだもの、見せてもらうわ」
 俺は深々と嘆息して、好きにしろ、と歩き出した。
 隼人と栄太郎が顔を見合わせ、嬉しそうに後ろをついて来る。
 さらにその後ろを、女三人が楽しげに会話しながらついて来た。
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