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第二章 はなれる
73 突撃
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無事一週間の仕事を終え帰宅すると、もう21時をすぎていた。外食もスーパーの惣菜も飽きたので、気分転換がてら夕飯を作り、一人でゆっくり食べる。酒を飲もうか迷ったがやめた。
人心地ついたところで、電話が鳴った。端末に表示された橘彩乃の名前を確認し、時計を見ながら電話に出る。時計は23時を少し回っていた。今から帰るのかと検討をつける。
「もしもし?」
『あ、もしもし?』
受話器の向こうはなにやらざわついている。後ろで流れる放送に違和感を覚えたとき、橘が言った。
『今、福岡空港着いた。確認し忘れてたんだけど、神崎のとこって泊まっても大丈夫?』
俺は驚きに一瞬止めた息をゆるゆると吐き出した。
「……お前」
何と言っていいか分からないまま、先週末の会話を思い出す。
ーー善処します、って、本気でやっちゃうわけか、こいつは。
「……何やってんの。馬鹿なの」
『馬鹿って何よー!せっかくがんばって仕事段取りつけて、一泊だけでもと思って来たのに!』
ぷりぷり怒る様は到底30を過ぎた女とも思えない。最近休日出勤もしていることは承知なので、それが嘘ではないことは分かる。
「ったく。……休めよ」
苦笑とともにこぼれる言葉は思いの外優しい響きがこもった。橘がふと言葉を失う。
不思議と暖かい沈黙の後、橘は切なく呟くように言った。
『だって……会いたかったんだもん』
その声に、きゅうと胸が詰まる。何で今、目の前にいないんだろう。頭を掻き抱いて、胸の中に閉じ込めたい。ーー自然と湧く欲求を、口には出来ずに空いた手を握りしめる。
「博多まで迎えに行く。そこまでは来れるか?」
『馬鹿にしないでよ。行けるわよ』
むくれる声に頬が緩んだ。
「橘」
『何よ』
「……ありがとう。嬉しい」
橘はふふと笑った。その笑い声はどことなく得意げで、顔を見られないのがひどく残念に感じた。
「飯は食ったの?」
「飛行機の中で空弁食べた」
博多駅で合流し、電車を乗り換えて俺の住むマンスリーマンションの最寄り駅につくと、一泊分の荷物の入った橘のボストンバッグを片手に、もう片手には橘の手を握って夜道を歩く。
マンションは駅から徒歩10分程の場所にある。
「でも、さすがに疲れたぁ」
身の回りのものが入っているのであろう、小さなハンドバッグを片手に、橘は肩を回した。
「お疲れ。ーー一泊ってことは、明日帰んの?」
「明日の夜か、明後日の朝。……一日は出社した方が良さそうな感じ」
俺は苦笑した。
「仕事できる人間ばっかりの部署なのにその状態ってどうなの」
「そんなの人事課に言って」
橘が唇を尖らせた。
「無理したんじゃねぇの」
俺が気にして言うと、橘はからりと笑った。
「充電して帰るから大丈夫」
言いながら、握った手に腕を巻き付け、肩に頭をこすりつける。
「充電?」
「うん、充電」
俺もつられるように笑った。
人心地ついたところで、電話が鳴った。端末に表示された橘彩乃の名前を確認し、時計を見ながら電話に出る。時計は23時を少し回っていた。今から帰るのかと検討をつける。
「もしもし?」
『あ、もしもし?』
受話器の向こうはなにやらざわついている。後ろで流れる放送に違和感を覚えたとき、橘が言った。
『今、福岡空港着いた。確認し忘れてたんだけど、神崎のとこって泊まっても大丈夫?』
俺は驚きに一瞬止めた息をゆるゆると吐き出した。
「……お前」
何と言っていいか分からないまま、先週末の会話を思い出す。
ーー善処します、って、本気でやっちゃうわけか、こいつは。
「……何やってんの。馬鹿なの」
『馬鹿って何よー!せっかくがんばって仕事段取りつけて、一泊だけでもと思って来たのに!』
ぷりぷり怒る様は到底30を過ぎた女とも思えない。最近休日出勤もしていることは承知なので、それが嘘ではないことは分かる。
「ったく。……休めよ」
苦笑とともにこぼれる言葉は思いの外優しい響きがこもった。橘がふと言葉を失う。
不思議と暖かい沈黙の後、橘は切なく呟くように言った。
『だって……会いたかったんだもん』
その声に、きゅうと胸が詰まる。何で今、目の前にいないんだろう。頭を掻き抱いて、胸の中に閉じ込めたい。ーー自然と湧く欲求を、口には出来ずに空いた手を握りしめる。
「博多まで迎えに行く。そこまでは来れるか?」
『馬鹿にしないでよ。行けるわよ』
むくれる声に頬が緩んだ。
「橘」
『何よ』
「……ありがとう。嬉しい」
橘はふふと笑った。その笑い声はどことなく得意げで、顔を見られないのがひどく残念に感じた。
「飯は食ったの?」
「飛行機の中で空弁食べた」
博多駅で合流し、電車を乗り換えて俺の住むマンスリーマンションの最寄り駅につくと、一泊分の荷物の入った橘のボストンバッグを片手に、もう片手には橘の手を握って夜道を歩く。
マンションは駅から徒歩10分程の場所にある。
「でも、さすがに疲れたぁ」
身の回りのものが入っているのであろう、小さなハンドバッグを片手に、橘は肩を回した。
「お疲れ。ーー一泊ってことは、明日帰んの?」
「明日の夜か、明後日の朝。……一日は出社した方が良さそうな感じ」
俺は苦笑した。
「仕事できる人間ばっかりの部署なのにその状態ってどうなの」
「そんなの人事課に言って」
橘が唇を尖らせた。
「無理したんじゃねぇの」
俺が気にして言うと、橘はからりと笑った。
「充電して帰るから大丈夫」
言いながら、握った手に腕を巻き付け、肩に頭をこすりつける。
「充電?」
「うん、充電」
俺もつられるように笑った。
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