さくやこの

松丹子

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第三章 さくらさく

92 選択と確信

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 ドイツでは二年を過ごした。長期休暇には大抵ヨーロッパを周遊した。
 どこかで私は探し続けていた。咲也の父と母を。そして咲也自身を。奇跡のような偶然を、半ば願い、半ば恐れて、そんな自分に苦笑したりした。
 私は海外転勤にあたり、スマホを変えていた。契約の変更の過程で、連絡先が変わったが、咲也には知らせなかった。連絡を取る勇気がなかったのだ。
 咲也と、咲也の思い出は、私の大切な記憶になった。思い出というには、あまりに生々しすぎた。
 四季を感じる度に、笑う度にーー咲也のことを思い出した。想いを馳せた。
 それでも、咲也に連絡はできなかった。とてもじゃないけどーーできなかった。だいいち、なんて連絡すればいいかも分からない。
 元気?今どうしてる?どこにいるの?
 当たり障りのない問いはいろいろ浮かんだけれど、一番聞きたいのはそんなことじゃなかった。
 一番聞きたいこと。
 咲也。あんたはーー
 生と死、どちらを選んだの?
 そしてその答えを、私は聞く勇気が持てずにいるのだ。
 二年経った今でも。
 そしてそれが、私にとっての泣きどころなのだと、自分で分かっている。

 咲也は、私に気付かせてくれた。
 死を願った幼少期すらも、私は結局のところ生きることを選んでいたんだということに。
 朝が来なければいいと思いながら眠りにつき、翌朝目を覚ましては落胆する日々。
 それでも、私は死を選ばなかったのだ。
 間違いなく。だから、今、ここにいる。
 生きろと当然のように彼に言い放つには、私はあまりに生に無気力過ぎた。

 一度でも、自らの死を願ったことがある咲也にとって、彼の前に突きつけられた選択肢はどういう意味を持つのだろう。
 いずれにせよーー
 もし、咲也が選んだのが死であるなら。
 私はその事実を知らないまま、彼がどこかで生きていると信じつづけたい。
 もし、彼が生きることを選んだのなら。
 生きていく場所に私の隣を選ばなかったと、分かりたくない。

 ずいぶんわがままなものだ、と自嘲する。
 あれだけ、一人で生きていくんだと言っていたのに。
 誰も縛り付けず、誰からも縛られない日々を送るのだと、決意していたのに。
 もし許されるのであれば。受け止めてもらえるのであれば。
 私は咲也を縛り付けてでも、私が咲也に縛られてでも、彼の隣で生きていきたい。
 その思いは変わらないどころか、揺るがない確信になっていた。

 咲也に再び会える保証などーーどこにもないのに。
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