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.第11章 祖父母と孫
297 奈良帰省(8)
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家に上がると、私は二階の栄太兄の部屋、栄太兄は一階の金田のおじいさんの部屋に通された。
一階に自分の荷物を置いた栄太兄が、私の荷物を手に二階へと付き添ってくれる。先に立って部屋のドアを開けた和歌子さんが「さすがに未婚の男女を同室に泊める訳にはいかないからね。その辺はうまくやって」と笑うので、思わず顔を赤くしたのは私だけじゃなかった。
「か、母さん、何言うてんねん!」
動揺しまくりの栄太兄に、和歌子さんは「あら」と頬に手を添える。
「だって、おつき合い始めたのいつだっけ?」
「に、2月からやけど……」
「じゃあ、もうちょっとで1年じゃない」
和歌子さんは首を傾げて栄太兄を見やる。栄太兄は顔を赤くしたり青くしたりしながら、「そ、それ、ちょ、待ってや」と驚愕の眼差しを母に向けた。
「――母さん、話が違うやん!」
「話? 話って――」
和歌子さんは首を傾げて、真剣に考える。栄太兄が慌てた。
「い、いや、真剣に考えへんでええねん――その話はまた――」
「……栄太郎、あんた、まさか――」
栄太兄の言葉を遮り、和歌子さんが驚愕の面持ちで息子を見つめる。
な、何だろう?
私がどきまぎしていると、栄太兄もうろたえたように目を泳がせた。和歌子さんは慎重に息を吐き出して、額を押さえる。
「……あんた、彼女いたことあるわよね?」
「あ、あるけど――」
「大学のときもいたし……就職してからもいたはずよね……?」
「母さん、頼むから礼奈の前で変なこと言わんでな……?」
「いや、だって……」
和歌子さんは、緊張した面持ちで栄太兄を見つめる。その目力が強すぎて、栄太兄も目を逸らせないまま表情を引き締めている。
緊迫した空気に、私が思わず二人の顔を見比べたとき、和歌子さんの口が動いた。
「まさかと思うけど、栄太郎、あんた、どう」
「わーーーーーー!!」
和歌子さんの言葉を遮って、栄太兄の手がその口を覆う。
かと思うや、「母さんちょっとこっち来ぃや!!」と一階へ連行されてしまった。
廊下に一人で残されて、ぽかんとする。
……どう?
…………どうって、なに??
どうしたものかと思いながら、開いた部屋のドアの前で待ちぼうけしていたけれど、しばらくして母子会議を済ませたらしい2人が戻って来た。
「すまんな、礼奈」
「う、うん……いいけど」
栄太兄が持って来てくれた荷物を受け取ると、ちらりと顔を見上げる。
いいけど……何で、目、合わせないのかな?
「あの……栄太兄?」
「いや、うん、気にしないで、礼奈ちゃん」
和歌子さんも私と目を合わせない。けど、栄太兄のような気まずさはなくて、笑いを堪えているだけのように見える。
「でも……あの……和歌子さん、笑ってません……?」
「笑ってないわよ……ぶはっ」
「母さんっ」
栄太兄が和歌子さんの背中を叩く。和歌子さんが「ごめんごめん」と手で口を覆う。
私は戸惑いながら二人を見比べた。
「……どんな話したの?」
じっと栄太兄を見上げて聞いてみたけど、栄太兄はやっぱり目を合わせてくれない。
「れ、礼奈は知らんでええねん」
「そうよ。大丈夫、いずれ分かるわ」
しれっと答えたのは和歌子さんで、栄太兄がまた慌てた。
「わ、分かるもんか……?」
「いやー、分かるでしょー、そりゃ」
言ってから、和歌子さんはふと考えるように腕組みをした。
「……そうね……そのときまでに、準備しておかなくちゃいけないわね」
「準備……?」
私が首を傾げると、和歌子さんは「ああ、違うの。礼奈ちゃんじゃなくてね」と手で制する。
と思うと、栄太兄の肩をぽんと叩いた。
「あんたよ、あんた。遊び人だった人が近くにいるんだからよく聞いておきなさい。まあ頭でっかちになっても困るけど――」
「ま、待てや母さん! 何言うてんの!? それ、聞く相手間違ってるやろ!? 絶対おかしいやろ!?」
「あら。だって、今までだってあれこれ相談してきたんでしょ? じゃあ、今さらじゃない。政人は知ってるの? あんたがどう――」
「母さん! 隠す気ないやろ!!」
栄太兄が半分泣き声でそう言って、「もう行くで!!」と和歌子さんを引っ張っていく。私はやっぱりぽかんとしたまま置いてけぼりになって、でも、栄太兄が本気で嫌がっているみたいだから、聞くのはやめてあげた方がいいみたいだ。
ぱたんとドアを閉じて、首を傾げる。
でも……どう、って何だろう。
気になるものは気になるので、ついつい疑問が脳裏をよぎる。
聞けば健人兄あたりが答えてくれそうな気はしたけど、それはぞれで、馬鹿にされそうだ。和歌子さんも、あんなに笑ってたんだし。
自分が何かとその手の知識に乏しいらしいとは、最近分かりつつあるけれど。
それがまた、子ども扱いに繋がらないといいなぁ、なんて、ちょっと不貞腐れたりもするのだった。
一階に自分の荷物を置いた栄太兄が、私の荷物を手に二階へと付き添ってくれる。先に立って部屋のドアを開けた和歌子さんが「さすがに未婚の男女を同室に泊める訳にはいかないからね。その辺はうまくやって」と笑うので、思わず顔を赤くしたのは私だけじゃなかった。
「か、母さん、何言うてんねん!」
動揺しまくりの栄太兄に、和歌子さんは「あら」と頬に手を添える。
「だって、おつき合い始めたのいつだっけ?」
「に、2月からやけど……」
「じゃあ、もうちょっとで1年じゃない」
和歌子さんは首を傾げて栄太兄を見やる。栄太兄は顔を赤くしたり青くしたりしながら、「そ、それ、ちょ、待ってや」と驚愕の眼差しを母に向けた。
「――母さん、話が違うやん!」
「話? 話って――」
和歌子さんは首を傾げて、真剣に考える。栄太兄が慌てた。
「い、いや、真剣に考えへんでええねん――その話はまた――」
「……栄太郎、あんた、まさか――」
栄太兄の言葉を遮り、和歌子さんが驚愕の面持ちで息子を見つめる。
な、何だろう?
私がどきまぎしていると、栄太兄もうろたえたように目を泳がせた。和歌子さんは慎重に息を吐き出して、額を押さえる。
「……あんた、彼女いたことあるわよね?」
「あ、あるけど――」
「大学のときもいたし……就職してからもいたはずよね……?」
「母さん、頼むから礼奈の前で変なこと言わんでな……?」
「いや、だって……」
和歌子さんは、緊張した面持ちで栄太兄を見つめる。その目力が強すぎて、栄太兄も目を逸らせないまま表情を引き締めている。
緊迫した空気に、私が思わず二人の顔を見比べたとき、和歌子さんの口が動いた。
「まさかと思うけど、栄太郎、あんた、どう」
「わーーーーーー!!」
和歌子さんの言葉を遮って、栄太兄の手がその口を覆う。
かと思うや、「母さんちょっとこっち来ぃや!!」と一階へ連行されてしまった。
廊下に一人で残されて、ぽかんとする。
……どう?
…………どうって、なに??
どうしたものかと思いながら、開いた部屋のドアの前で待ちぼうけしていたけれど、しばらくして母子会議を済ませたらしい2人が戻って来た。
「すまんな、礼奈」
「う、うん……いいけど」
栄太兄が持って来てくれた荷物を受け取ると、ちらりと顔を見上げる。
いいけど……何で、目、合わせないのかな?
「あの……栄太兄?」
「いや、うん、気にしないで、礼奈ちゃん」
和歌子さんも私と目を合わせない。けど、栄太兄のような気まずさはなくて、笑いを堪えているだけのように見える。
「でも……あの……和歌子さん、笑ってません……?」
「笑ってないわよ……ぶはっ」
「母さんっ」
栄太兄が和歌子さんの背中を叩く。和歌子さんが「ごめんごめん」と手で口を覆う。
私は戸惑いながら二人を見比べた。
「……どんな話したの?」
じっと栄太兄を見上げて聞いてみたけど、栄太兄はやっぱり目を合わせてくれない。
「れ、礼奈は知らんでええねん」
「そうよ。大丈夫、いずれ分かるわ」
しれっと答えたのは和歌子さんで、栄太兄がまた慌てた。
「わ、分かるもんか……?」
「いやー、分かるでしょー、そりゃ」
言ってから、和歌子さんはふと考えるように腕組みをした。
「……そうね……そのときまでに、準備しておかなくちゃいけないわね」
「準備……?」
私が首を傾げると、和歌子さんは「ああ、違うの。礼奈ちゃんじゃなくてね」と手で制する。
と思うと、栄太兄の肩をぽんと叩いた。
「あんたよ、あんた。遊び人だった人が近くにいるんだからよく聞いておきなさい。まあ頭でっかちになっても困るけど――」
「ま、待てや母さん! 何言うてんの!? それ、聞く相手間違ってるやろ!? 絶対おかしいやろ!?」
「あら。だって、今までだってあれこれ相談してきたんでしょ? じゃあ、今さらじゃない。政人は知ってるの? あんたがどう――」
「母さん! 隠す気ないやろ!!」
栄太兄が半分泣き声でそう言って、「もう行くで!!」と和歌子さんを引っ張っていく。私はやっぱりぽかんとしたまま置いてけぼりになって、でも、栄太兄が本気で嫌がっているみたいだから、聞くのはやめてあげた方がいいみたいだ。
ぱたんとドアを閉じて、首を傾げる。
でも……どう、って何だろう。
気になるものは気になるので、ついつい疑問が脳裏をよぎる。
聞けば健人兄あたりが答えてくれそうな気はしたけど、それはぞれで、馬鹿にされそうだ。和歌子さんも、あんなに笑ってたんだし。
自分が何かとその手の知識に乏しいらしいとは、最近分かりつつあるけれど。
それがまた、子ども扱いに繋がらないといいなぁ、なんて、ちょっと不貞腐れたりもするのだった。
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