たつのおとしご(保存版)

未月玲音

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小話

とある少年と守護精霊のお話

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この世界の者達は、極稀な例外以外は10の歳を重ねると魔力が芽生える。それと同時に一人一人に守護精霊という存在がいて、呼び出す簡単な儀式がある。
両親に見守られながら初めての精霊召喚術に招かれた自分を守護する存在は、黒い蛇だった。

ヨルムンガンド、闇属性の蛇の精霊。

自身が芽生えさせた魔力が闇であると知れた瞬間。


数日後、自分は孤児院へと捨てられた。闇属性は危険で禁忌であるという昔からそういう考えが浸透しているから。
『ごめん、カゲロウ…』
誰も近くにいないことを確認して精霊のカガチがそっと自分に寄り添う。
「謝ることはない。親に捨てられたが…まだ俺にはカガチがいる…そうだろう?」
守護精霊は守るべき存在が死ぬまでずっとその名の通り守護し続ける。裏切らない絶対の存在。俺の言葉に、少しだけ安心したような少しだけ悲しそうな複雑そうな笑みを浮かべた蛇は言う。
『…俺、カゲロウがこの先幸せになれるように頑張るから…俺が幸せにしてみせるから』
本などで読んだ守護精霊という存在は、宿主である生き物の魔法の補助をする程度のものだと書いてあったがこの精霊は一般的に邪悪と恐れられる闇の精霊というには自分に甘く優しい。
元々精霊には個体名は無い。
本で得た知識で龍神族の言葉でも古称にあたる、蛇という意味の《カガチ》という名をこのヨルムンガンドに付けた。
そのことが嬉しかったのだろうか。
「…そろそろ皆が起きる。カガチは戻るといい」
『あぁ、またな』
また朝が来る。これからの事を考えるとため息が出た。


やってしまった。自分が闇の属性を持つものだとバレてしまった。
同じ年頃の施設の仲間が俺の事を魔法も使えない腰抜けだというから、その言葉が聞きたくなくて強制睡眠の魔法を相手に使った。
一人一人と自分を責めた者達が倒れていく姿を孤児院の先生は見てしまっていた。そして己の力の制御が未熟だった所為もあり3日間、魔法をかけた相手を昏睡状態にさせた。
当然そのまま俺がそのまま居られる訳もなく、別の孤児院に移される事になった。先生に「魔法はもう使うな」と散々言い含められて。

次に送られる先は北の国にある施設らしい。街から街へと往復する乗合馬車の中、少ない荷物と共に揺られながら膝を抱える。
空気が冷たい。
馬車の中にあった備え付けの薄毛布を身体に巻きつけ少しでも暖をとれるように。無言が続く。他にも自分と同じく、馬車を利用している客がいるのでカガチは喚び出せない。
そんな中、突然馬車が大きく揺れた。
同時に馬が嘶く声。
「魔物だ!!!…まずい、馬がやられた!!!」
馬車の持ち手が声を荒げる。
魔物という言葉に客だった女性一人が悲鳴をあげる。
腕に覚えがあるのだろうか、同じく客の一人が手持ちの剣を手にして馬車外へ出た。
「誰か、戦える者は手伝ってくれ!」
「…嫌よ、こんなところで死にたくないわ!」
援護を求める声と、怯える声が交互に飛び交う。
「くっ…数が多い、逃げられる奴は今すぐここから逃げ…うわぁあああああ!!」
馬車から出ていた男が幌布越しに中に残る者達に逃げるように指示を出したがすぐ、悲鳴。それを聞いた馬車の客達が青ざめた顔で馬車から転がるように逃げ出した。
最後に残ったのは自分一人。
荷物を手にして同じく馬車の外へと飛び出した。
『カゲロウ…!』
同時に喚んでも居ないのにカガチが姿を現した。
「喚んでないぞ、カガチ」
『そんな事言ってる場合かよ!』
足を地面につけると、さくっと音。
白い、これが雪か初めて見た。
が、しかし同時に赤く染まったものを見て顔を顰めた。
薄々感じてはいたが今、自分が置かれている状況がとても良くないという現実が突き刺さる。
『カゲロウ魔法だ、自分の力を使え』
カガチが焦りながら言う。
「だが、先生はもう使うなと言った」
『そんな約束守ってお前が死んだらどうにもならないじゃないか!生きてくれよ…俺は、まだお前の守護精霊でいたい!』
本当にこの精霊はどうして自分の事のように必死なのか。精霊にとって人の一生など一瞬と同じようなものな筈なのに。自分など親に捨てられた先、何を頼りに生きればいいのか迷っているのに。
縋りつくカガチの背に手をやる。
「…だが、俺は攻撃系の魔法はまだ知らない…」
闇魔法に関わる書物は殆ど見たことがない。眠りの魔法はカガチから教わってはいたがそれ以上は知らない。小さくそれを告げると、カガチが力強く俺に言う。
『俺が補助するから、腕を伸ばして…それからカゲロウ自身の影を武器に具象するんだ、イメージするんだ』
言う通り、腕を伸ばし頭の中で欲しい武器をイメージする。
扱うなら鋭く斬れる刀がいい。
『影は主を守るが為に姿を変える 地より離れ主を守る刃と成れ』
自分の代わりにカガチが詠唱を唱える。
すると、自分を形取った影がじわりと動き俺にと絡む。
その黒はそのまま伸ばした腕先にと移動し、黒い刀へと変化した。
「………」
『どうだ、カゲロウ?』
「正直驚いている」
『そういうわりには、すごい冷静な顔してるけど…って、こっちに一匹きた!』
影の魔物と対峙するなど初めてだ。
怖くなかった訳じゃない。だが元からの自身の性格故か、その場では冷静に物事を受け止めていた。
自分の背丈程ある4本足の獣型の影の魔物、飛び掛ってくるそれがコマ送りのように見えて。躊躇いもなく影の刃を魔物の眉間に突き立てた。
深々と突き刺さった魔物は、そのまま結晶石へと姿を変えて消え去った。
「やったか…」
『すごいな、初めての実践でこの度胸…流石俺の…』
喜ぶようなカガチの言葉が途切れる。
視線をあげれば、7~8匹の先程倒した同じ種類の魔物がこちらに近づいていた。
「…これは、駄目かもしれないな…」
『…っ』
近くに守ってくれるような大人は居ない。散り散りになったからか。
流石にこれはカガチには悪いが死を覚悟した。
じりじりと魔物が迫る。
地面を蹴り、一斉に俺に向かって魔物たちが飛びかかってきた。

その瞬間
「今だ!!一斉射撃!!撃て!!!!!」
背後から凛と張る男の声と共に、飛び交う弓矢。矢は俺に向かって襲い掛かってきた魔物全てを射抜き、その姿を結晶石へと変え地面に転がる。
「………」
「大丈夫か、少年」
呆気に取られていると背後から先程聞こえた声。振り向くと年老いた、しかし貫禄も威厳もありそうな服装からして騎士だろうか。
「よく堪えたな、もう大丈夫だ」
肩に手を置かれ引き寄せられる。
「まだ近くに魔物がいるかもしれん厳戒態勢!それとこの少年のように生き延びている者を探すように捜索隊を組め!」
「はっ!」
黒い外套を羽織った老騎士は、近くの部下の兵士と思わしき者達に指示を出していた。
「………」
呆けたように、その老騎士の顔を見上げると視線が交わった。
「危なかったな…遠征からスフィーリア国に戻る途中にこのような場面に出くわすとは。しかし助けられてよかった」
「…助かった、のか」
「そうだな、お前さんは助かった」
「…そう、か」
生死を決めるような場面に直面して、想像していたよりも緊張で張り詰めていたらしい。
そしてカガチの力を借りていたはいたが、魔法を使った。子供の自分ではまだ扱うには魔力が足りなかったようだ。
魔力を使い切ると身体は激しい眠気を訴える。俺はそのまま老騎士に寄り掛かるように眠気に身を任せた。
『カゲロウ…!』
カガチの声が遠くからのように耳に届いた。



気が付くと自分は、暖かなベットに寝かされていた。ふかふかで、今まで自分が寝てた寝具よりも上等のものだ。
起き上がり周りを見渡すと、質素ながら細かな装飾が綺麗な調度品が備えられているのが分かる。そして窓から見る外は白い雪が舞っている。
「ここは…」
『…カゲロウ、起きたか?』
「カガチ、ここは何処だ?」
『それは…』

「儂の家だよ」
問いの答えは別方向からきた。視線を向けると部屋の扉を開けて、あの老騎士が笑みを浮かべて立っていた。
「貴方は…」
「すまんね、勝手な判断でお前さんを連れ帰ってしまった。此処はスフィーリア…エストリス大陸最北の国だ」
「あ、俺は…」
本当ならあの馬車の行く先だった街の孤児院に移される筈で、自分はそれよりもっと遠くの国へと着いてしまっていることに気づく。
「そんな顔をするな少年、いやカゲロウ…。勝手ながら荷物を見させてもらったよ、孤児院に向かう手筈だった書類もな…そして」
視線がカガチに向く。
「そこの必死にお前さんの側を離れなかった守護精霊からも色々聞いた」
闇の精霊を目にしても目の前の老人は、視線を初めて交わした時と同じく優しいままだった。
「闇の力を持ったというだけで酷い目に遭ってきたようだな。お前さんが行くはずだった孤児院には向かわなくて良いだろう…」
「それは、どういう意味ですか?」
「スフィーリアという国は他に比べて闇属性持ちの人間に関して寛容だ、それはこの国の王家の方々で闇の魔力を持つお方がたびたび生まれるものでな」
歩み寄り、ベットの近くに備え付けてあった椅子に老騎士が座る。
「闇属性は他の属性には無い心や精神を脅かす魔法があるから危険なのだという意見もあるかもしれないが、だからと言って本人まで邪悪であるという考えはおかしい、そういう考えを持っている国なんだよ…ここは」
「…では、スフィーリア国の孤児院に行けと?」
「何故そういう考えになるんだ…そんな理由でここまで連れてきたのではないよ」
困ったように白いひげを触る老人は、少し間を置いて続けた。
「儂はジェデ、ジェディル・アディー…この国で黒将軍と呼ばれている地位にいる」
「こく…将軍…」
「実はな、儂は仕事に打ち込みすぎてな…気がつけばこの歳まで独り身で後を継ぐ子供も居ない寂しい独り身の老人だ」
そっと手を伸び、自分の手と重なる。
「あの場で出会ったのも縁だ。カゲロウ…儂の養子とならないか?」
思ってもみなかった言葉に驚く。
「10の年齢ながら魔物を目の前にして一歩も引かなかった度胸、そして戦闘の才もありそうだ…。お前さんの精霊から大人が読むような難しい本を読み漁るのが好きだと聞いた、その知識欲も良い」
目線を添われた手からジェデ老へと向ける。

「カゲロウよ、どうか儂の家族になってくれんか」
家族。
一度は無くなったもの。それがまた新しい形で蘇るというのか。
「儂も年老いた、もしかしたら早く逝ってしまうかもしれん…。だが迎えが来るまで、お前さんに色々生きる術を教えよう」
冗談ではないことは、声の真剣さで分かる。
だけど本当に俺でいいのか。困ったように見つめるとジェデ老は続ける。
「家柄の事など気にせんで良い、この国は実力主義だ。そして騎士になるとも学者を目指すともまたそれとも違う別の道でもいい好きに将来を選べ」
止はしない、とその言葉を聞いて俺は漸く口を開いた。
「なら…俺は騎士になりたい…貴方に助けられた命、無駄にしたくない」
多分、この人が一番に望むのは騎士として継ぐことだと思うから。嫌だとかそんな感情は微塵も無かった。
俺の答えにジェデ老は、嬉しそうに笑みを浮かべて
「そうか」
と口にした。
「では、今日から儂とカゲロウは家族だ…よろしく頼むよ」
「はい…あの、どのように貴方の事を呼べばいいですか?」
「なんでもよいよ、ジジイでも親父でも好きに呼んでくれて」
「…では………これからよろしくお願いします、父上」
『良かったな、カゲロウ!』
「…そうだな、カガチ」

寄り添うカガチをなでて自然に嬉しいと笑みが溢れる。
これが新しい始まり。


そして数年後、騎士見習いとなった頃にプラチナム王家の王位継承順位一位の王子が闇の属性を宿したと報せが届き指南役に選ばれるのが、俺とフロスト様との初めての出会いとなる。



_________________________
本編に登場しないかもしれないけど縁深い方の幼少エピソード。
常時ねむねむタイムが無くなって文章や絵をかけるレベルまで持ち直したら追加したいですねカゲロウくんとカガチの絵とか
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