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女の悔恨はその地へと

第十四話

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あー…やだな…入りたくない…

「おい…稗田お前いつまでそうしてるつもりだ…」

『やーちー!ほらこっちにくる!』

『めんどうなことはちゃっちゃとおわらせたほうがいいでしょー!』

いやね、言い分は最もなんだよ?

「お前…覚悟出来たんじゃなかったのかよ…」

覚悟ですか、ええ出来てますよ、出来てますとも

でもさ…やっぱいざ入るとなると身体が回れ右しそうになると言いますかなんと言いますか…

そんなやり取りを延々とやり続けて早10分。

私達は生徒会室前で右往左往していた。

早く入れよとか言う碧君は地味に私より少し後ろにいるし…?

この場で入れと急かしてるのは実質狐達だけだった。

まあなんと言うか勝手に入るのも少し気後れするんだよな…

何かきっかけさえあれば大丈夫なんだけど…

言い訳めいた事を悶々と考えていたせいで、後ろから近づく気配に私達は全く気づかなかった。

急に手を肩にとんと置かれて身体をビクッとさせる。

「ひっ!」

「っ!!」

慌てて後ろを振り返るとそこには人の悪い笑みを浮かべた男子生徒が立っていた。

「だ…誰…?」

思わず呟くと目の前の彼はその表情を一層深くした。

「君達が一年A組の稗田 八千さんと、賀茂 碧君だね?」

名前を呼ばれた事で碧君はハッとする。

「なんで…俺の名前…」

あ…そうだこの人、今、“賀茂 碧君”って…

「なんでだと思う?」

男子生徒…恐らく先輩は彼の質問に質問で返す。

会った時からずっと、張り付いたような笑みを浮かべながら。

その笑顔を見ていると、何だかゾッとした。

な、なんで…?この人の事を…怖いだなんて…どうして…

自分が感じた恐怖に疑問を持って自問自答した。

狐達が青ざめた私に気づいて声をかけるが自分の意識に潜ってしまった私は気づかない。

「だ…?ひ…だ?お…、稗田 八千!」

誰かに名を呼ばれた事で奥に潜っていた私の意識が引っ張られる。

ハッとして目を開く。

目の前には私の肩を揺さぶっていたのか私の両肩に手を乗せた碧君が居た。

そこで私は、私を呼んだ声の主が碧君だと気付いた。
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