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女の悔恨はその地へと

第四十三話

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誰かいる…という事は先輩方か。

「あ、稗田さんに賀茂君、無事だったのね」

私と似たような服を着て、片手に弓矢を持った如月先輩が私たちに気づいて振り返る。

弓矢…何故に…

『やっちゃんが走り出した時にはどうしようかと思ったよ』

朗らかな笑みを浮かべながら鬼のような容姿をした男、いや、鬼が話しかけてくる。

え、あれ、今“やっちゃん”って…?

てことは…

この褐色肌の好青年は…

「さ、佐々木先輩!?」

私の声に一度目を見開いてにやりと笑う。

『びっくりした?よく分かったね』

いやだって私のことを“やっちゃん”って呼ぶの佐々木先輩しか居ませんし…

「お前もやっぱりびっくりしたか」

するわ、普通に。というか吃驚なんて可愛いもんじゃない。仰天するわ。学校の先輩が鬼でした、なんて通常だったら信じられるか。

『なんで俺がこんな姿してるか、知りたい?』

佐々木先輩が人の悪い笑みを浮かべて問うてくる。

私達は顔を見合わせ、はい、と頷く。

気にならないわけがないのだ。

佐々木先輩はまたにぃっと笑うと

『それは…ひ・み・つ☆』

と言ってからかってきた。

意地悪だ。この人サディストだ。もういい、だったら私だって下の名前に先輩付けて呼んでやる。真人先輩って呼んでやる!

敬ってなんか絶対やらない!

子供っぽすぎる対抗心を剥き出しにし、親しみやすさが深くなる事には気付かない八千であった。

「ほら、いい加減呪詛主の所、おそらく鬼女の居る場所へ向かうよ」

私達のくだらないやり取りに痺れを切らした如月先輩が行くよ、と手で合図する。

そうだった。こんな所で油を売っている暇は私達には無いんだった。

本来の目的を思い出し慌てて気を引き締める私に如月先輩は微笑みながら言った。

「あまり気を張ることは無いよ。自然体で居た方が、私達には有利だから」

先輩の言葉に私は少しリラックスする。

「そう、それでいいの。じゃあ、行くよ。気を張るなとは言ったけど、気を緩ませてもダメだからね」

私達は瘴気の濃い方へと足を進め出す。
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