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一章 ”アルバス王国と騒乱” の段
9話~歴史は語る
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皆で場所を移して今現在、妾達はつかの間の休息を得るべく城内にある庭園に来て居る所じゃ。城門の所にある噴水がある場所とは違い、箱庭の様な佇まいでフォルカの自室前に作られた庭である。余り大きゅうありゃせんが、そこかしこに盆栽の如く鉢に入った草花が咲き乱れる良き作りじゃの。この位の大きさならば休憩にはもってこいじゃて。
「して、王子よ。こ奴らに妾達の紹介をしとかんでも良いのかの? ……あ~、話したところで信じるかは別じゃがな」
室外に待機する侍女が淹れた変わった香りのする茶を一口のみ干した所で、先ほどからちらちらと視線を寄越すデブデブとホーネミに妾と志乃を紹介するよう促す。こやつ等からしたら妾達は外の者、取分け妾などは一見幼き美少女じゃからして事情を説明しとかんと訳分からんしの。
「それもそう、ですね。では私の方から御二方に御説明をさせて頂きます」
三角眼鏡をきちっと掛け直してレンズを光らせるジェミニ。日頃はフォルカの秘書でもして居るのかとここに来る前にちらりと聞いてみたら案の定、こう言う説明する仕事の方が性に合っているのですが……等と話しておったわ。戦う秘書か……どこぞで聞いた様な響きじゃな。
「先ずはフォルカ様が先ほど御話下さった事をおさらいとして簡潔に話しますと――――此方が件のぽっちゃり少年と幼き少女の片割れこと、九ちゃん様です」
――簡潔すぎじゃろうよ。
先の二時間の話を十秒で纏めたジェミニの言葉で、妾の正面に座るフォルカが大海に沈む戦艦の如く沈黙する。この沈みよう、ありゃ素で引き伸ばしよったのか……夢想家じゃのう。
紅茶風の御茶を嗜みつつ説明が終わるのを待つこと十三分弱。一通り最後まで説明を聞き終えた二人はと言うと、妾と志乃に向かって深く頭を垂れて地べたに座っておる。草原だからまだましなものの、云わば土下座に近い座り方で感謝の意を妾達に示している様子じゃ。
大層な感謝を貰っておいて何じゃが、志乃を救ったのは奏の字じゃし、邪気の殲滅は妾達の使命であり修行内容の一つ。フォルカ達の時もそうじゃったが、こうまで深く感謝をされるとなるとこの先が些か心配じゃのう……下手を打てば領地でも押し付けられて国に拘束する輩が出て来かねんな。
「さて、もうそろそろ表を上げよ。人と話をする時は目と目を合わせねばいかんと、聞いたことはないかの? のう、デブデブ」
「はは、他ならぬ恩人で在らせられます九ちゃん様の御言葉とあれば……。あと、ダムデムです」
ようやっと顔を上げたデブデブ達に席へ座り直すよう進め、そこからこれからの展開を話しつつ邪気についての情報をある程度分かりやすく解説を始めるのじゃった。
「先にこの都市の周りで大規模な邪気との戦闘があったのは聞き及んでおるかの? ま、規模を大きくしたのは妾が千体以上の邪気を屠ったからに他ならんが。おぬし等があの数の邪気相手に如何戦うかはフォルカ達に見せてもろうた限りじゃが……よう今まで生きて来れたのう」
妾の一言でヒューマニアンの者共が一斉に沈黙する。が、それに反して顔を上げる者が一人だけ居った。それは意外にも王太子であるフォルカではなく、武官であるドルゲでも無し。そのフォルカの側近であるジェミニでもなければ、宮廷魔法術師長とやらのデブデブでもなかった。
「……御恐れながら申し上げます、九ちゃん様。その御言葉には一つ間違いが御座います」
「ほほう、何じゃ? 構わんぞ、言うてみやれ」
「は……。ではここは私、不肖ホーネミが……」
そう、一番気骨の無さそうな――あ、いや、ある意味では一番骨のありそうな名前じゃが――ホーネミじゃ。何ぞ懐から白濁した魔法石を取り出し丸テーブルの中央に設置、すると魔宝石へ魔力を流し込み紙媒体を写しこんだ映像が空へと映し出された。ほほう、映写機とは違い明るい場所でも見えるとは中々やるのう!
次いでホーネミが空に映された映像の幾つかを指でさわり、妾達の世界でも以前流行った”たぶれっと”とか言う薄い電子操作媒体を思わせる手つきで一枚の画像を妾達の前に示した。異界の文字を辿っていけば、そこに記載されているのは歴史に刻まれた邪気討伐の記録。何時何時に何体表れ、どんな被害を齎した上で討伐されたのかが克明に記載されておる様じゃ。
「……この資料はアルバス王国国立資料館にて、私が調べ上げました全ての記録を簡潔に書き記した写しに御座います。元々志乃様がこの地へと降臨なさるずっと以前より、大精霊モリリン様が居わす肥沃な土地柄上、この場所には様々な国家が立ちまた消えると言う事を繰り返してきました」
うむ、志乃が雲龍帝であった時代にヒューマニアンや他の種族で豊かな土壌を争って幾度の戦乱があったと話しじゃな。
「我らは今でこそ情報の伝承が如何に重要な事柄である事を理解しておりますが……他の地域ではその殆どが王朝の終焉と同時にその国の歴史そのものが屠られて来ました」
これもよくある話しじゃの。我らが故郷の日ノ本でさえ、幾度の戦乱で消えた資料などはたんまりあるじゃろうし。その隣の国やヨーロッパの国々、それにインディアンやアボリジニとか言う民族が居った土地では文化の伝承も含めほぼ人為的に消してきた背景がある。ここもそれと変わらんと、まあそう言う話じゃの。
「しかし、何時の時代にも情報が持つ重要性に気付く者が現れ、種族の如何を問わずその者達を総じて”賢人”と呼び記録が残されてきたのです」
静かに語るホーネミの姿にしきりに頷くフォルカ達。これらの事実は余り一般や果ては王族にも余り伝わっておらんか……。
しかしあれじゃのう。これだけの大規模な事実を調べ書き記すとなると、いくら智に長けた者であっても金が続かん。人一人で調べる事ができる範囲は高が知れておるからして、どこぞに支援者や協力者が居っても可笑しくは――ああ、そうか。
「賢人……確かその名前には聞き覚えがありますのう。そう、大精霊教会には賢人と呼ばれる名誉役職があると――もしや」
「……はい。ドルゲ閣下の御推察通り、各教会組織の中に必ず賢人と呼ばれる役があります。それは龍帝教会も然り、名誉の名が示す通りに実権などは露程もありませぬが確かに存在致します。幾ら時の賢人様と言えど、御一人で当時代全ての記録をまとめ上げる事は不可能。そこで目を付けたのが各教会でした」
然もありなん、か。現在進行で神や龍帝と言った存在が暮らす世界でならば、宗教団体もそれこそ民に浸透しやすい立場となる。教会が一声上げれば民草は協力を惜しまんだろうし、資金面や技術面でも宗教と言う名で様々な事が出来るからのう。
逆に主となる者が空想である場合は……それこそ戦乱の火種にしかならんがの。
「そこで、改めて話を戻しますと。……凡そ五万年の月日の内、瘴気の化け物――詰まる所の”邪気”が現れ討伐されたと言う報告は各時代事に存在致します。が、問題はその数。今回の九ちゃん様による殲滅対象には、この長き月日の流れで幾何か多い数でしか無いのです」
はは~ん、やはり妾の推測が当たりそうじゃの……。
ホーネミの話によれば、これまでの瘴気の化け物が討伐の内容では数に任せて大戦を仕掛け殲滅。しかし、肉を絶つ事は出来ても骨、つまりは瘴気の化け物の本体である邪気の浄化までは行う術が無く。各教会の大司教らが必死になって封印する手立てしか行えず、龍帝でも魂事滅するしかなかったと……こう言う訳じゃな。
それでも数としては生者が生き残る程度には抑えられていた。今日の規模で来られたら王都の城壁何ぞ唯の紙粘土も同然、瞬く間に蹂躙されて骨も残らん惨劇が繰り広げられた筈。そして戦乱が新たな邪気を生み、やがてはこの星が邪気によって生者の住めぬ世界となり果てる事じゃろう。
と、すると。やはり今回の事、誰かが裏で糸を引いて居る者に違いない。それとも――いや、これはまさかにしておいた方が良さそうじゃ。言霊は迂闊に口に出すものではないからしての……。
「ふむ。存外ヒューマニアン達も馬鹿には出来ん知恵を持つか……。私でも知らぬ事を記録して残していたとは、関心関心」
茶菓子のクッキーを食みつつ何やら嬉しそうに頷いて居る志乃じゃが、中々にのっぴきならない状況を目の前にしておる事実に気付いておろうか? これは奏の字が来るまで何とか妾達でこ奴を守らねばいかんな……畑違いとは言え、今少し浄化の術を天の字から師事しておくのじゃったわ。事浄化に関しては天の字が最も得意とする術じゃが、妾はどちらかと言えば攻撃型の戦術が得意だからのう……後悔先に立たずか。誠世の中は世知辛い。
妾の胸中にある一つの考えが正解である事を否定したが為にクッキーを口に入れるが、甘く香りの良い乳の匂いにも消される事無く徐々に大きく膨らみつつあった。
「故に、志乃様の直接的な庇護が無くとも我々だけでこれまで生き長らえる事が可能でした。最も近い所ですと一月ほど前に王都にて二体発生、内一体がフォルカ殿下のお近くで御学友が――――っ、申し訳ありません殿下。気が至りませんでした」
「……よい。よいのだ、ホーネミ。私も彼も突然の事だった、何の対処のしようも無い正に天災の様な出来事さ。それよりも民に被害が及ばぬ結果に終わったのが私にとっては大きい事だ」
「……はい、殿下」
これはフォルカにとっての敏感な話題じゃのう……。手の震え、呼吸の中にある僅かな震えが王族としての責務と私情の間で揺れておるのを伝えて来よる。余程親交が厚い仲じゃったのだろう。
今一度フォルカに詫びの言葉を入れた後にホーネミは再び語りだす。肉体を滅した後、王城から駆けつけた妹であり姫巫女でもあるアルフェルカによって結界特殊な結界の中に封じられたとの事じゃ。恐らくではあるが、邪気を封じる事の出来る事実からして若干でも霊力を扱う事が出来る者が大司教なのだろうの。で無ければじゃ、魔力だけを以って邪気を封じる事は叶わんからのう……。
「ふむ。封じて来たとの話だが、もしや先程の相手はその封じられた邪気が襲い掛かって来たものではなかろうか? いくら何でもあの短時間で発生するにしては数が多すぎると思うのだが……如何でしょうか、姉上」
「かも知れんのう……。何れにせよじゃ、此度の一件は人為的なもので動いとる様な気がしてならん。お主らも努々油断だけはするな。妾と志乃はどちらも加減は余り得意でなはいからして、奏の字が到着するまでの間隙を見せずに居れ。滅する事は出来ても浄化が出来ねば意味は無いのじゃからの」
志乃も含めて全員が妾の言葉に頷き返す。
話し込んで冷めた御茶を啜りつつ、国王との再びの話に向けて今は待つしかないが。奏の字よ、これはいよいよ敵の姿が入り組んできよったぞ……。
「して、王子よ。こ奴らに妾達の紹介をしとかんでも良いのかの? ……あ~、話したところで信じるかは別じゃがな」
室外に待機する侍女が淹れた変わった香りのする茶を一口のみ干した所で、先ほどからちらちらと視線を寄越すデブデブとホーネミに妾と志乃を紹介するよう促す。こやつ等からしたら妾達は外の者、取分け妾などは一見幼き美少女じゃからして事情を説明しとかんと訳分からんしの。
「それもそう、ですね。では私の方から御二方に御説明をさせて頂きます」
三角眼鏡をきちっと掛け直してレンズを光らせるジェミニ。日頃はフォルカの秘書でもして居るのかとここに来る前にちらりと聞いてみたら案の定、こう言う説明する仕事の方が性に合っているのですが……等と話しておったわ。戦う秘書か……どこぞで聞いた様な響きじゃな。
「先ずはフォルカ様が先ほど御話下さった事をおさらいとして簡潔に話しますと――――此方が件のぽっちゃり少年と幼き少女の片割れこと、九ちゃん様です」
――簡潔すぎじゃろうよ。
先の二時間の話を十秒で纏めたジェミニの言葉で、妾の正面に座るフォルカが大海に沈む戦艦の如く沈黙する。この沈みよう、ありゃ素で引き伸ばしよったのか……夢想家じゃのう。
紅茶風の御茶を嗜みつつ説明が終わるのを待つこと十三分弱。一通り最後まで説明を聞き終えた二人はと言うと、妾と志乃に向かって深く頭を垂れて地べたに座っておる。草原だからまだましなものの、云わば土下座に近い座り方で感謝の意を妾達に示している様子じゃ。
大層な感謝を貰っておいて何じゃが、志乃を救ったのは奏の字じゃし、邪気の殲滅は妾達の使命であり修行内容の一つ。フォルカ達の時もそうじゃったが、こうまで深く感謝をされるとなるとこの先が些か心配じゃのう……下手を打てば領地でも押し付けられて国に拘束する輩が出て来かねんな。
「さて、もうそろそろ表を上げよ。人と話をする時は目と目を合わせねばいかんと、聞いたことはないかの? のう、デブデブ」
「はは、他ならぬ恩人で在らせられます九ちゃん様の御言葉とあれば……。あと、ダムデムです」
ようやっと顔を上げたデブデブ達に席へ座り直すよう進め、そこからこれからの展開を話しつつ邪気についての情報をある程度分かりやすく解説を始めるのじゃった。
「先にこの都市の周りで大規模な邪気との戦闘があったのは聞き及んでおるかの? ま、規模を大きくしたのは妾が千体以上の邪気を屠ったからに他ならんが。おぬし等があの数の邪気相手に如何戦うかはフォルカ達に見せてもろうた限りじゃが……よう今まで生きて来れたのう」
妾の一言でヒューマニアンの者共が一斉に沈黙する。が、それに反して顔を上げる者が一人だけ居った。それは意外にも王太子であるフォルカではなく、武官であるドルゲでも無し。そのフォルカの側近であるジェミニでもなければ、宮廷魔法術師長とやらのデブデブでもなかった。
「……御恐れながら申し上げます、九ちゃん様。その御言葉には一つ間違いが御座います」
「ほほう、何じゃ? 構わんぞ、言うてみやれ」
「は……。ではここは私、不肖ホーネミが……」
そう、一番気骨の無さそうな――あ、いや、ある意味では一番骨のありそうな名前じゃが――ホーネミじゃ。何ぞ懐から白濁した魔法石を取り出し丸テーブルの中央に設置、すると魔宝石へ魔力を流し込み紙媒体を写しこんだ映像が空へと映し出された。ほほう、映写機とは違い明るい場所でも見えるとは中々やるのう!
次いでホーネミが空に映された映像の幾つかを指でさわり、妾達の世界でも以前流行った”たぶれっと”とか言う薄い電子操作媒体を思わせる手つきで一枚の画像を妾達の前に示した。異界の文字を辿っていけば、そこに記載されているのは歴史に刻まれた邪気討伐の記録。何時何時に何体表れ、どんな被害を齎した上で討伐されたのかが克明に記載されておる様じゃ。
「……この資料はアルバス王国国立資料館にて、私が調べ上げました全ての記録を簡潔に書き記した写しに御座います。元々志乃様がこの地へと降臨なさるずっと以前より、大精霊モリリン様が居わす肥沃な土地柄上、この場所には様々な国家が立ちまた消えると言う事を繰り返してきました」
うむ、志乃が雲龍帝であった時代にヒューマニアンや他の種族で豊かな土壌を争って幾度の戦乱があったと話しじゃな。
「我らは今でこそ情報の伝承が如何に重要な事柄である事を理解しておりますが……他の地域ではその殆どが王朝の終焉と同時にその国の歴史そのものが屠られて来ました」
これもよくある話しじゃの。我らが故郷の日ノ本でさえ、幾度の戦乱で消えた資料などはたんまりあるじゃろうし。その隣の国やヨーロッパの国々、それにインディアンやアボリジニとか言う民族が居った土地では文化の伝承も含めほぼ人為的に消してきた背景がある。ここもそれと変わらんと、まあそう言う話じゃの。
「しかし、何時の時代にも情報が持つ重要性に気付く者が現れ、種族の如何を問わずその者達を総じて”賢人”と呼び記録が残されてきたのです」
静かに語るホーネミの姿にしきりに頷くフォルカ達。これらの事実は余り一般や果ては王族にも余り伝わっておらんか……。
しかしあれじゃのう。これだけの大規模な事実を調べ書き記すとなると、いくら智に長けた者であっても金が続かん。人一人で調べる事ができる範囲は高が知れておるからして、どこぞに支援者や協力者が居っても可笑しくは――ああ、そうか。
「賢人……確かその名前には聞き覚えがありますのう。そう、大精霊教会には賢人と呼ばれる名誉役職があると――もしや」
「……はい。ドルゲ閣下の御推察通り、各教会組織の中に必ず賢人と呼ばれる役があります。それは龍帝教会も然り、名誉の名が示す通りに実権などは露程もありませぬが確かに存在致します。幾ら時の賢人様と言えど、御一人で当時代全ての記録をまとめ上げる事は不可能。そこで目を付けたのが各教会でした」
然もありなん、か。現在進行で神や龍帝と言った存在が暮らす世界でならば、宗教団体もそれこそ民に浸透しやすい立場となる。教会が一声上げれば民草は協力を惜しまんだろうし、資金面や技術面でも宗教と言う名で様々な事が出来るからのう。
逆に主となる者が空想である場合は……それこそ戦乱の火種にしかならんがの。
「そこで、改めて話を戻しますと。……凡そ五万年の月日の内、瘴気の化け物――詰まる所の”邪気”が現れ討伐されたと言う報告は各時代事に存在致します。が、問題はその数。今回の九ちゃん様による殲滅対象には、この長き月日の流れで幾何か多い数でしか無いのです」
はは~ん、やはり妾の推測が当たりそうじゃの……。
ホーネミの話によれば、これまでの瘴気の化け物が討伐の内容では数に任せて大戦を仕掛け殲滅。しかし、肉を絶つ事は出来ても骨、つまりは瘴気の化け物の本体である邪気の浄化までは行う術が無く。各教会の大司教らが必死になって封印する手立てしか行えず、龍帝でも魂事滅するしかなかったと……こう言う訳じゃな。
それでも数としては生者が生き残る程度には抑えられていた。今日の規模で来られたら王都の城壁何ぞ唯の紙粘土も同然、瞬く間に蹂躙されて骨も残らん惨劇が繰り広げられた筈。そして戦乱が新たな邪気を生み、やがてはこの星が邪気によって生者の住めぬ世界となり果てる事じゃろう。
と、すると。やはり今回の事、誰かが裏で糸を引いて居る者に違いない。それとも――いや、これはまさかにしておいた方が良さそうじゃ。言霊は迂闊に口に出すものではないからしての……。
「ふむ。存外ヒューマニアン達も馬鹿には出来ん知恵を持つか……。私でも知らぬ事を記録して残していたとは、関心関心」
茶菓子のクッキーを食みつつ何やら嬉しそうに頷いて居る志乃じゃが、中々にのっぴきならない状況を目の前にしておる事実に気付いておろうか? これは奏の字が来るまで何とか妾達でこ奴を守らねばいかんな……畑違いとは言え、今少し浄化の術を天の字から師事しておくのじゃったわ。事浄化に関しては天の字が最も得意とする術じゃが、妾はどちらかと言えば攻撃型の戦術が得意だからのう……後悔先に立たずか。誠世の中は世知辛い。
妾の胸中にある一つの考えが正解である事を否定したが為にクッキーを口に入れるが、甘く香りの良い乳の匂いにも消される事無く徐々に大きく膨らみつつあった。
「故に、志乃様の直接的な庇護が無くとも我々だけでこれまで生き長らえる事が可能でした。最も近い所ですと一月ほど前に王都にて二体発生、内一体がフォルカ殿下のお近くで御学友が――――っ、申し訳ありません殿下。気が至りませんでした」
「……よい。よいのだ、ホーネミ。私も彼も突然の事だった、何の対処のしようも無い正に天災の様な出来事さ。それよりも民に被害が及ばぬ結果に終わったのが私にとっては大きい事だ」
「……はい、殿下」
これはフォルカにとっての敏感な話題じゃのう……。手の震え、呼吸の中にある僅かな震えが王族としての責務と私情の間で揺れておるのを伝えて来よる。余程親交が厚い仲じゃったのだろう。
今一度フォルカに詫びの言葉を入れた後にホーネミは再び語りだす。肉体を滅した後、王城から駆けつけた妹であり姫巫女でもあるアルフェルカによって結界特殊な結界の中に封じられたとの事じゃ。恐らくではあるが、邪気を封じる事の出来る事実からして若干でも霊力を扱う事が出来る者が大司教なのだろうの。で無ければじゃ、魔力だけを以って邪気を封じる事は叶わんからのう……。
「ふむ。封じて来たとの話だが、もしや先程の相手はその封じられた邪気が襲い掛かって来たものではなかろうか? いくら何でもあの短時間で発生するにしては数が多すぎると思うのだが……如何でしょうか、姉上」
「かも知れんのう……。何れにせよじゃ、此度の一件は人為的なもので動いとる様な気がしてならん。お主らも努々油断だけはするな。妾と志乃はどちらも加減は余り得意でなはいからして、奏の字が到着するまでの間隙を見せずに居れ。滅する事は出来ても浄化が出来ねば意味は無いのじゃからの」
志乃も含めて全員が妾の言葉に頷き返す。
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