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愛する

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13年前の夏、隠すべきだとカテゴライズされた性同一性障害、そして同性愛。まだそんな時代に私たちはベッドの上にいた。同性の先輩彼女、そして性同一性障害の先輩の友人。同じ空間に三人、そいつの実家だった。
「俺はあっちに行ってるからどうぞ。」今からアダルトビデオでも盗み聞きするかのような顔で部屋を出て行った。すかさず彼女は服を脱ぎ始め、私に甘えてくる。挑発と刺激的な環境が彼女の頭をおかしくさせたのだろうか。振り払おうとする手を強く掴み、私は彼女をきつく叱り泣かせた。喧嘩をした二人の間に入り彼女を慰めるそいつと、冷静になろうと外に出る私。一本の煙草の煙が消えると同時に部屋へ戻り、帰ろうと声を掛けた彼女の目はしっかりと私を見ていた。実際は一秒も経っていなかったのだろうか。何故か、とても長い時間が流れるその中で聞こえたのは、彼女の嬌声と溺れる目だった。それ以上思い出すことが出来ない記憶の代わりに、私は人を愛することが出来なくなった。
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