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決意

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梅雨の湿った日の昼下がり、彼女は恥ずかしそうに顔を隠し続けた。平然を装う私の隣から聞き慣れた声が直接聞こえてきて、たまに触れる手にも緊張が止まらなかった。あまりの可愛さに声も手も出ず、ただその場をやり過ごした。彼女の家に帰ると昼食を作ってくれた。鳥の照り焼きとジャーマンポテト、ご飯にスープは普段コンビニで一食しか食べない私には多過ぎた。家族が遊びに来るからと、二人でホテルに泊まることになっていた。彼女の家が落ち着かない私は早く移動しようと食事早々に彼女を急かした。ホテルに着き、狭い部屋にはベッドが精一杯で、そこに横並びに座る他なかった。喜びと緊張、隠せない下心に今度は彼女が冷静を装っていた。私は、彼女と出会ってから一度もあの時の事を思い出す事がなかった。なかなか手を出さない私に痺れを切らした彼女の口は気付くと重なっていた。何とか先導しなければという焦りと上手くやらなければいけないという不必要な使命感、そして愛せなかったらという恐怖。一気に押し寄せる感情に自分を失い、気付けばまた雑に扱っていた。心惹かれる彼女にまでさえも無感情になっていた自分が許せなかった私は、痛がる彼女に何度も求めた。ただ、他とは違うと信じたかった。最後の一回、彼女は道具を出した。あまりの表情と反応の違いに私はあの時の事を思い出してしまった。自分ではない誰かで感じている姿に見えて恐怖で震えが止まらなくなった。あの時とは違うと理解していても、勝手に涙が溢れた。彼女は困惑した表情で私の顔を覗き込んできた。陰鬱な雰囲気のまま、私達は初対面を終えた。
自宅に帰り、冷静になった私は彼女に涙の理由を薄っぺらの上だけを取った様な内容に短縮して話した。話してくれてありがとうと真剣に返す彼女の言葉に何があっても寄り添い続けると誓った。
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