リセット令嬢の巻き戻し 〜不当な婚約破棄を覆す為に、時間を巻き戻す魔法で、私は何度でもやり直します〜

ごどめ

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前章 不当な婚約破棄

6 悪女、変身し魔法学院に編入する

「か……か……かんっぺきですわぁ!」

 私は目を輝かせる。

「それならアメリアお嬢様だと気づく者はいないでしょう」

 ビアンカがふふふ、と笑いながら私にそう言った。

「ええ、ビアンカ! さすがだわ!」
「こんな事もあろうかと、特殊メイク技術を学んでおいて良かったです」

 どんな事を想定していたのか知らないが、さすがはオールマイティのビアンカ。私のお願いを難なくこなしてくれた。彼女に頼めばできない事はないんじゃないかしら。

「おお……た、確かに。これはもはや魔法となんら変わらないな」

 クロノス様も目を丸くして驚いている。
 それもそのはず。私は今日からアメリアではなくなったのだから!
 私がビアンカに依頼した事。それは私がこれから普通の生活を送る為に、新しい私に変えてもらう事だった。今の姿形では学院はおろか、街中さえも自由に歩き回れないからだ。
 まず髪型を大きく変え、髪色は特殊な魔法を付与した染料でブラウンから赤毛に変えてもらい、目鼻立ちもこれまた魔力を付与したファンデーションで皮膚をデコレートしてもらったのである。

「そのファンデーションは普通の化粧水などでは簡単には落ちません。この私特製の薬剤を使わなければ取れませんので、安心してお過ごしください」
「凄いですわ……完全に別人ですもの!」

 あまりの変身っぷりに私は鏡を見て何度も声をあげる。

「まさか、とは思うのだがあの殿下の記憶具現化魔法リアライゼーションの映像のアメリア、あれはビアンカさんのような特殊メイクでアメリアそっくりに作ってもらった別人、という可能性はないだろうか?」

 クロノス様の言う通りだ。
 ビアンカのこのメイク術を施せば、私そっくりな人を作り出せるかも。

「それはないと思います。この特殊メイクは我がテイラー家に伝わる特別な魔法と魔導具をかけ合わせ、ごく最近完成させたばかりの試作物ですから。私の家系の者が協力しない限りは、ですが」

 このファンデーションを売り出したらテイラー家は大金持ちになれるんじゃないの? でもテイラー家の者がメイクをしないと駄目なのかしら。

「ビアンカの親族が実はイリーシャに協力して、とかは考えられる?」

 私が尋ねると、ビアンカは首を横に振る。

「ほぼないと思われます。そんな話は聞いておりませんし、そもそも私の家族は遠い辺境地で暮らしております。この地にいる我がテイラー家は私だけかと」

 つまりこのメイクはこの王都でビアンカにしかできない芸当という事だ。

「そうなのか。ではあの殿下の映像はいまだ謎のままだな……」
「何はともあれクロノス様。この度はアメリアをお救いくださり、大変お世話になりました。私からもお礼申し上げさせてくださいませ」
「なに、大した事はしていないさ」

 ビアンカに私の変身を依頼した理由は、まず普段の生活を不自由なく送れるようにする為と、私を魔法学院に通えるようにしてもらう為であった。
 新しい私は『ビアンカの遠戚』という事にしてもらい、名前もアリア・テイラーと変えた。
 そしてビアンカに全ての学院に編入する為の手続きをお願いして、私は数日後より晴れてアリア・テイラーとして魔法学院に通う事となった。
 しかしさすがのビアンカでも私の居住場所を提供できるほどの力はないので、

「厚かましいお願いで申し訳ございませんがクロノス様、どうかアメリア様をよろしくお願い致します」
「ああ、任せてくれ。可能な限り学院では彼女をフォローする」

 私は明日からこの学生寮の女子寮に住む事となった。
 クロノス様と同じで私もビアンカの遠戚という設定の為、寮を借りて住む事にはなんの問題もなかった。後で寮のルールや設備の使い方などをクロノス様からゆっくり教えてもらう事になっている。
 学院の学費についてはビアンカが当面のところは出してくれる事になった。これについてはビアンカから出世払いでお願いしますね、と軽く言われているけれど、ここの学費は相当に高い。ビアンカって想像以上にお金を持っておりますのね……。

「数日に一度、私はここに訪れます。その度にメイクの取り外し、お顔の洗浄、修繕を致しますね」

 ビアンカは最後にそう言い残し、学生寮からリセットのお屋敷へと帰って行った。

「とりあえずアメリアは何かあればすぐにまた言ってくれ。私が全力で協力する」
「ふふ、クロノス様。私は今日から『アリア』ですわよ?」
「そ、そうだったな。学院の中では気をつける、アリア」

 そんな風にして、私は新たな人生のスタートを切った。



        ●○●○●



「今日からこのEクラスに編入してきたアリア・テイラーさんです。皆さん仲良くしてあげてくださいね」

 と、まるで小等部に入ってきた子供のような自己紹介のされ方で私は高等部の一学年Eクラスに編入した。
 元々私はEクラスだったし、私が退学した事により空いた席に割り当てた感じだろう。なので顔ぶれは見知った者しかいない。

「アリアです。皆様よろしくお願い致します」

 朝のホームルームは簡単な挨拶と質疑応答で特に何事もなく終える。声だけはそのままなので正体がバレないかと多少なりとも不安はあったが、全く疑われる様子はなかった。
 これから私の第二の人生が始まるのだ、と思うと妙にワクワクした。

 こんな時期に編入してくる生徒は珍しいので、私はこの日、一日中色んな生徒から引っ張りだこだった。
 私としては正体がバレないかと内心ヒヤヒヤしながら演技をしていたが、なんだかんだ全く怪しまれる様子はなく、すぐに私はクラスに馴染んでいた。と言っても特別誰かと仲良くなったりはしないだろうな、とこの時までは考えていた。

「ねえねえアリアさん、今巷で噂のあの悪女の話、知ってる?」

 午前の授業を終え昼休みの昼食を済ませた後、人気ひとけの少ない廊下で突然二名のクラスメイトの女子生徒に囲まれ、いきなりそんな話を振られた。

「えっと……ご、ごめんなさい。私、遠い所から来ていてちょっと詳しい事はわからないの」

 下手な事を言うとボロが出そうなので適当にあしらおう。

「そうなんだ? えっとね、ついこの前エルヴィン殿下の婚約者の浮気が発覚して、今世間はその話題でもちきりなのよ」
「しかもその悪女っていうのがね、なんとこのクラスについ先日までいたのよ。アメリアっていう子なんだけど、アリアさんは全然聞いた事もない?」

 本人ですわ!

「聞いた事ないわ。殿下の婚約者なのに浮気するなんて、凄い人なのね」

 と、自分のことながらうまく合わせておく。

「そうでしょう? 私たちも驚いてるんだ。まさかあのアメリアがそんな事するなんて思いもよらなかったから」
「アメリア、急にいなくなっちゃうんだもんね。せめて最後に少しくらいお話ししたかったな」

 何を言ってるのかしらこの子たちは。
 今あなたたちはまさにアメリアと会話しているわ。と、そういうツッコミではなくて、今更何を言っているのか、という意味である。
 だってこの子たちは……。
 私は思わず目頭が熱くなったので顔を少し伏せた。

「どうしたのアリアさん?」
「ご、ごめんなさい。目に少しゴミが」

 私の事を気に掛け、こうやって話しかけてきてくれるこの子たちは私の一番の親友、だった者たち。
 黒髪でサラサラのロングヘア―の彼女はレイラ。
 薄いピンク色でショートボブの髪型の彼女はマリア。
 レイラとマリアは私、アメリアの大親友だった。彼女らとはこの魔法学院に入学した小等部の頃からの関係で、私たち三人はいつでもなんでも共に行動をして、楽しみは分かち合い、悲しきは共に泣き、恋の相談には親身になって考え合う、そんな大親友だった。
 そんな彼女らと大親友だったのは、エルヴィン殿下との婚約が決まる前までの話だ。
 私がエルヴィン殿下との婚約が決まった当初は二人共もの凄く喜んでくれたのに、それから数日後、突如彼女らはあからさまに私と距離を置きだした。
 気づけば私はクラスや学院内でも孤立してしまっていたのである。
 明らかに無視されるのではなく、それまで友人だと思っていた仲間たちは皆、「ご機嫌麗しゅうございますアメリア次期王太子妃殿下」と言った超他人行儀になり、私は距離を置かれ誰も私に近づこうとはしなくなっていた。
 そんな彼女たちを恨んでいるわけではないけれど、大親友だと思っていた二人からそんな風に避けられてしまうようになったのは本当にショックだった。

「アメリア、どこいっちゃったんだろうね」

 レイラが呟く。

「私、まだ借りた本、返してないのに……」

 マリアも悲しそうに言う。

「……ねぇあなたたち。アメリアの事は悪女だと言っていたじゃない。何故、そんな悲しそうな顔をするの? いなくなってせいせいしたでしょう?」

 私はストレートに尋ねてみた。
 するとレイラが首を横に振りながら、

「ううん、違うの。アメリアは悪女なんかじゃない」

 おかしな事を言い出す。
 悪女はあなたがさっき言ったのよ?

「そうなの。アリアさんがアメリアの噂をどう聞いてるかわからなかったから、そんな風に切り出したけれど、アメリアは皆が噂するような子じゃないわ」

 マリアも頷きながら、やや小声でそう言った。
 なるほど、様子を探りながら声を掛けてきたのね。

「ふうん。でもなんでそんな事を私に言うの? 私は最近ここに来たばかりで何も知らないし、アメリアって子が悪女でも良い子でも関係ないわ」
「えっと、ね。実は私たち仲間が欲しくて……」

 レイラがおずおずと言い出した。

「仲間?」

 私が訝しげに尋ねると、レイラは周囲を警戒した後、私にこう耳打ちした。


「アメリア捜索に協力して欲しいの」


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