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後章 断罪、真相解明編
22 私を死に追いやるモノ
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「では希望通りやってやろう。……ふむ、その辺りが良いか。私の記憶具現化魔法、とくと見よッ」
……戻って、これた。
場面は同じ、三度目のエルヴィン殿下の断罪シーンの冒頭だ。
けれど違うのは今の私の心臓の動機。あんな衝撃的なところを目の当たりにしてしまったのだ。当然と言えば当然だ。
「はっ……はっ……」
荒くなっている呼吸を整える。落ち着け、落ち着け私。大丈夫だ。
ゆっくり息を吸って吐け。もう大丈夫だ。
……少し、落ち着いてきた。
前回のあの場面、私を殺した犯人はクロノス様ではなかった。
前回、バルコニーでクロノス様の胸を突き刺し、私の事も手に掛けようとしていた犯人。それは……。
「グランローズ!? なんだそれは!?」
クロノス様とのやりとりが進行し、エルヴィン殿下の断罪シーンでグランローズの花束について無知なエルヴィン殿下の言葉。
「おいおい、マジか。殿下はそんな常識も知らんのか」
「あの馬鹿殿下が近年、女や賭け事ばかりに遊び呆けているっていうのは本当なんだな。数年前までは神童と持て囃されていたというのに」
「それ以前にこの断罪、見ていてスカっとするな。俺はアメリアさんの事、前々から不憫だなと思っていたし」
「そうそう、それな。俺もあんな馬鹿殿下にはもったいない淑女だと思ってたよ」
そしてそれを聞いた彼らの反応、
そう、彼らだ。
私とクロノス様を殺す犯人は彼ら。
エルヴィン殿下の無知さをヒソヒソ声で嘲笑うように話す彼ら。
彼らはこの王国の剣。そう、つまり王国騎士団である。
私があのバルコニーで見た最後のシーン。あそこでクロノス様の背後に立っていたのはこの王宮に大勢といる王国騎士団のひとりの騎士だったのだ。
この国の騎士は基本的に警備に当たっている時はフルフェイスの鉄仮面で頭を覆っている。なので、その中身を知る事はできなかった。
でも、おそらくきっとあの騎士の中身が私を殺す犯人なのだ。
私はそう考え周囲を見渡す。
そういえばこのシーンもすでに三度目。今更気づいたけれど、やっぱりすでにこの段階からイリーシャの姿は会場内のどこにもない。
イリーシャはエルヴィン殿下が不利になる事を理解して、すぐに行方をくらましていたのね。
本当ならイリーシャの行方を捜す事もしたいけれど、今はまずあの犯人が誰なのかを完全に突き止めなくてはならない。
しかしそうなると、一度目の時、クロノス様が私を殺そうとバルコニーから突き落としたのはいったいどういう事なのだろう。二度目の時はそのクロノス様も殺されてしまいそうだった。
何者かの指示を受けて、クロノス様かもしくは騎士の誰かが私を殺害しようと企んでいる?
いったいどういう指示を出せば必ずそう仕向けられるのかは理解できないが、そう考えると犯人はこの中にいる誰にも可能性がある、という事になる。
そうだ。だからきっと、このまま何もせずあの場面に行きつけばきっと多少展開は違かろうと、結局は私は何者かに殺害されてしまうのだ。
わからない。わからない。
私ひとりじゃこれ以上わからないわッ!
いったい、何をどうすればいいの?
誰が、これから私を殺す犯人なの!?
「此度、エルヴィン殿下はイリーシャ様との婚約も発表されましたね。それについて、この録音記録も併せてお聞きください」
エルヴィン殿下の断罪シーンの後半。ビアンカによる録音魔法の再生の続きだ。この後、エルヴィン殿下とイリーシャの浮気の決定的証拠の録音内容のシーンである。
変わらない。ここまでは何も。
殿下とイリーシャの会話が流され、騒然とする。
断罪は進み、そして。
「更に言わせてもらえば、イリーシャ様はアメリア様を亡き者にしようと画策もされておりました。この紅茶です」
ビアンカが毒入り紅茶を提示するシーン。
そうだ。
私を直接殺害しようと試みているのは、これまででイリーシャしかいない。
そうだ。
私は彼女の狂気をすでに知っていた。
そうだ。そうだ。そうだ!
何を考える事があったのか。何故犯人捜しなどする必要があったのか。犯人など、最初から一人しかいないし、そんな事は決まりきっている。
そう、イリーシャしかいない!
今、姿を消しているイリーシャがなんらかの方法で私を亡き者にしようと画策しているのだ。
その為にこうやって早くから姿を消していたんだ。
そう考えついた時、全てに納得する。
果たしていったいイリーシャがどうやってクロノス様や王国騎士を唆したのかまではわからないが、彼女が全ての真相だとするならこれほどわかりやすい答えはない。
ああ、そうか。だから……。
だから、もう……。
「ア、アメリアお嬢様!? どこへ行かれるのですか!?」
私は駆け出した。ビアンカの静止も聞かずに。
まだエルヴィン殿下の断罪は終わりきっていないが、すでにもう手遅れなのだ。
この段階では。
だから、私の巻き戻しは必ずあのエルヴィン殿下の断罪シーンの開幕にまで、巻き戻してくれていたのだ。
あの段階で私がやらなくてはならない事。
それはイリーシャを探し出す事なのだとようやく理解した。
つまりすでに彼女が行方をくらましてしまった現段階では圧倒的に手遅れなのだ。
私は走る。
王宮の最上階、バルコニーへ。
手遅れなら巻き戻す。
何度だってやり直してやる。
私にはそれしか……ううん、私にはそんな奇跡が起こせるのだから!
そしてこの身を投げる。バルコニーの縁から。
「……イリーシャ。必ずあなたを見つけてみせる」
次の巻き戻しに賭けて――。
●○●○●
「では希望通りやってやろう。……ふむ、その辺りが良いか。私の記憶具現化魔法、とくと見よッ」
四度目。
私は自ら命を投げ捨て、巻き戻しボタンを押し、帰ってきた。
殿下の断罪シーンの冒頭へ。
この段階なら私はまだ仮面を付けている。素性を明かしていない。
今しかないんだ。イリーシャを探すには。
イリーシャはどこ!?
イリーシャは殿下が記憶具現化魔法を使った後からその姿を見せていない。
彼女は何故この時、姿を消していたのだろうか。まさかすでにこの段階で私たちに殿下の嘘が暴かれる事を予見していた、とか?
と、思った時。
「い、いた……イリーシャ。あんな所でいったい何を……?」
イリーシャは王宮大ホールの隅、薄暗い廊下が続く人気のない物陰に隠れ、両手を前に出して何かをやっていた。
イリーシャの両手の先が薄らと青白い光を放っている。アレは……魔法!?
彼女はいったい何の魔法を!?
「殿下、失礼ながらこの部分を少しだけ大きく移すように調整できますか?」
今はクロノス様がエルヴィン殿下に記憶具現化魔法の拡大化を依頼しているところだ。
その時、私は遠目でイリーシャを見てハッとさせられた。
「……馬鹿にするな。可能だ」
殿下がそう言った直後。
イリーシャは両手をもぞもぞと動かして何かをした。
まさか、と私は直感しエルヴィン殿下とイリーシャを交互に見る。
そしてイリーシャの両手の先にあるものにようやく気づく。
「そう……だったの? そういう事、だったの!?」
あの魔法。
殿下の記憶具現化魔法は、殿下のではなくイリーシャが使っている魔法なのだ、と。
今ならイリーシャはまだこちらに気づいていない。
それなら……。
私はイリーシャに気づかれないように、少しずつ彼女との距離を詰めていく。
そして――。
「ッ!?」
ガシっとイリーシャの腕を掴んだ。
「なっ、なんですのあなたは!?」
彼女は慌てて魔法を解除したが、もう遅い。
「今の……これまでの殿下の記憶具現化魔法は、イリーシャ、全てあなたの記憶だったのねッ!?」
私は声を大にして、イリーシャへと問いただすのだった。
……戻って、これた。
場面は同じ、三度目のエルヴィン殿下の断罪シーンの冒頭だ。
けれど違うのは今の私の心臓の動機。あんな衝撃的なところを目の当たりにしてしまったのだ。当然と言えば当然だ。
「はっ……はっ……」
荒くなっている呼吸を整える。落ち着け、落ち着け私。大丈夫だ。
ゆっくり息を吸って吐け。もう大丈夫だ。
……少し、落ち着いてきた。
前回のあの場面、私を殺した犯人はクロノス様ではなかった。
前回、バルコニーでクロノス様の胸を突き刺し、私の事も手に掛けようとしていた犯人。それは……。
「グランローズ!? なんだそれは!?」
クロノス様とのやりとりが進行し、エルヴィン殿下の断罪シーンでグランローズの花束について無知なエルヴィン殿下の言葉。
「おいおい、マジか。殿下はそんな常識も知らんのか」
「あの馬鹿殿下が近年、女や賭け事ばかりに遊び呆けているっていうのは本当なんだな。数年前までは神童と持て囃されていたというのに」
「それ以前にこの断罪、見ていてスカっとするな。俺はアメリアさんの事、前々から不憫だなと思っていたし」
「そうそう、それな。俺もあんな馬鹿殿下にはもったいない淑女だと思ってたよ」
そしてそれを聞いた彼らの反応、
そう、彼らだ。
私とクロノス様を殺す犯人は彼ら。
エルヴィン殿下の無知さをヒソヒソ声で嘲笑うように話す彼ら。
彼らはこの王国の剣。そう、つまり王国騎士団である。
私があのバルコニーで見た最後のシーン。あそこでクロノス様の背後に立っていたのはこの王宮に大勢といる王国騎士団のひとりの騎士だったのだ。
この国の騎士は基本的に警備に当たっている時はフルフェイスの鉄仮面で頭を覆っている。なので、その中身を知る事はできなかった。
でも、おそらくきっとあの騎士の中身が私を殺す犯人なのだ。
私はそう考え周囲を見渡す。
そういえばこのシーンもすでに三度目。今更気づいたけれど、やっぱりすでにこの段階からイリーシャの姿は会場内のどこにもない。
イリーシャはエルヴィン殿下が不利になる事を理解して、すぐに行方をくらましていたのね。
本当ならイリーシャの行方を捜す事もしたいけれど、今はまずあの犯人が誰なのかを完全に突き止めなくてはならない。
しかしそうなると、一度目の時、クロノス様が私を殺そうとバルコニーから突き落としたのはいったいどういう事なのだろう。二度目の時はそのクロノス様も殺されてしまいそうだった。
何者かの指示を受けて、クロノス様かもしくは騎士の誰かが私を殺害しようと企んでいる?
いったいどういう指示を出せば必ずそう仕向けられるのかは理解できないが、そう考えると犯人はこの中にいる誰にも可能性がある、という事になる。
そうだ。だからきっと、このまま何もせずあの場面に行きつけばきっと多少展開は違かろうと、結局は私は何者かに殺害されてしまうのだ。
わからない。わからない。
私ひとりじゃこれ以上わからないわッ!
いったい、何をどうすればいいの?
誰が、これから私を殺す犯人なの!?
「此度、エルヴィン殿下はイリーシャ様との婚約も発表されましたね。それについて、この録音記録も併せてお聞きください」
エルヴィン殿下の断罪シーンの後半。ビアンカによる録音魔法の再生の続きだ。この後、エルヴィン殿下とイリーシャの浮気の決定的証拠の録音内容のシーンである。
変わらない。ここまでは何も。
殿下とイリーシャの会話が流され、騒然とする。
断罪は進み、そして。
「更に言わせてもらえば、イリーシャ様はアメリア様を亡き者にしようと画策もされておりました。この紅茶です」
ビアンカが毒入り紅茶を提示するシーン。
そうだ。
私を直接殺害しようと試みているのは、これまででイリーシャしかいない。
そうだ。
私は彼女の狂気をすでに知っていた。
そうだ。そうだ。そうだ!
何を考える事があったのか。何故犯人捜しなどする必要があったのか。犯人など、最初から一人しかいないし、そんな事は決まりきっている。
そう、イリーシャしかいない!
今、姿を消しているイリーシャがなんらかの方法で私を亡き者にしようと画策しているのだ。
その為にこうやって早くから姿を消していたんだ。
そう考えついた時、全てに納得する。
果たしていったいイリーシャがどうやってクロノス様や王国騎士を唆したのかまではわからないが、彼女が全ての真相だとするならこれほどわかりやすい答えはない。
ああ、そうか。だから……。
だから、もう……。
「ア、アメリアお嬢様!? どこへ行かれるのですか!?」
私は駆け出した。ビアンカの静止も聞かずに。
まだエルヴィン殿下の断罪は終わりきっていないが、すでにもう手遅れなのだ。
この段階では。
だから、私の巻き戻しは必ずあのエルヴィン殿下の断罪シーンの開幕にまで、巻き戻してくれていたのだ。
あの段階で私がやらなくてはならない事。
それはイリーシャを探し出す事なのだとようやく理解した。
つまりすでに彼女が行方をくらましてしまった現段階では圧倒的に手遅れなのだ。
私は走る。
王宮の最上階、バルコニーへ。
手遅れなら巻き戻す。
何度だってやり直してやる。
私にはそれしか……ううん、私にはそんな奇跡が起こせるのだから!
そしてこの身を投げる。バルコニーの縁から。
「……イリーシャ。必ずあなたを見つけてみせる」
次の巻き戻しに賭けて――。
●○●○●
「では希望通りやってやろう。……ふむ、その辺りが良いか。私の記憶具現化魔法、とくと見よッ」
四度目。
私は自ら命を投げ捨て、巻き戻しボタンを押し、帰ってきた。
殿下の断罪シーンの冒頭へ。
この段階なら私はまだ仮面を付けている。素性を明かしていない。
今しかないんだ。イリーシャを探すには。
イリーシャはどこ!?
イリーシャは殿下が記憶具現化魔法を使った後からその姿を見せていない。
彼女は何故この時、姿を消していたのだろうか。まさかすでにこの段階で私たちに殿下の嘘が暴かれる事を予見していた、とか?
と、思った時。
「い、いた……イリーシャ。あんな所でいったい何を……?」
イリーシャは王宮大ホールの隅、薄暗い廊下が続く人気のない物陰に隠れ、両手を前に出して何かをやっていた。
イリーシャの両手の先が薄らと青白い光を放っている。アレは……魔法!?
彼女はいったい何の魔法を!?
「殿下、失礼ながらこの部分を少しだけ大きく移すように調整できますか?」
今はクロノス様がエルヴィン殿下に記憶具現化魔法の拡大化を依頼しているところだ。
その時、私は遠目でイリーシャを見てハッとさせられた。
「……馬鹿にするな。可能だ」
殿下がそう言った直後。
イリーシャは両手をもぞもぞと動かして何かをした。
まさか、と私は直感しエルヴィン殿下とイリーシャを交互に見る。
そしてイリーシャの両手の先にあるものにようやく気づく。
「そう……だったの? そういう事、だったの!?」
あの魔法。
殿下の記憶具現化魔法は、殿下のではなくイリーシャが使っている魔法なのだ、と。
今ならイリーシャはまだこちらに気づいていない。
それなら……。
私はイリーシャに気づかれないように、少しずつ彼女との距離を詰めていく。
そして――。
「ッ!?」
ガシっとイリーシャの腕を掴んだ。
「なっ、なんですのあなたは!?」
彼女は慌てて魔法を解除したが、もう遅い。
「今の……これまでの殿下の記憶具現化魔法は、イリーシャ、全てあなたの記憶だったのねッ!?」
私は声を大にして、イリーシャへと問いただすのだった。
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