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後章 断罪、真相解明編
23 仄暗き思惑
「あ、あなたはまさか……!?」
「ええ、そうよ。私はアメリア! あなたたちにハメられ、嘘の冤罪をなすりつけられた者よッ!」
「っく、お、お姉様……」
私は仮面を投げ捨て、声を大にして叫ぶ。
エルヴィン殿下やクロノス様含め、会場の全員がこちらを見た。
「アメリアだと!?」
エルヴィン殿下がこちらに向かってくる。
「お待ちください殿下。アメリアの言っている事は事実ですか? そうすると、先ほどの映像は殿下の記憶ではない、と?」
それをクロノス様が立ち塞がり、そう問い詰めた。
「ち、違う! アレは……」
「殿下ッ!!」
エルヴィン殿下の言い訳を遮るようにイリーシャが声をあげた。
「殿下はお黙りになって! 私が全部お話し致しますわ!」
イリーシャ、あなた何を……?
「さきほどの記憶の映像。アレは確かに私、イリーシャの記憶です。何を隠そう、私も記憶具現化魔法が使えるのです」
彼女は観念したのか、そう素直に答える。
「……ふむ、そうか。ではイリーシャ、キミに問おう。あのアメリアの浮気現場はなんなのだ? アレはどう見ても立太子式の日。アメリアは自宅にいたはずだ」
クロノス様がこちらに歩み寄りながらそう続けた。
「全部話しますわ。だからお姉様、まずはこの手をお離しになってくださいますか?」
「イリーシャ……あなたが本当に……ッ」
「お姉様、腕が痛いのです。お願いしますわ……腕を……」
「あなたが逃げない保証がないですわッ!」
「逃げませんわ。だからお願い、お姉様……」
観念したかのように彼女はか細い声でそう言った。
私はもはやなんの抵抗もないだろうと思い、彼女の腕から手を離した。
「ありがとうございますわ。ではお話し致しますわ。私の……私たちの真実を」
そう言って彼女は会場の中心部へと戻るように歩き出し、エルヴィン殿下のもとへと近づいていく。
「イ、イリーシャ、わ、私は……」
「殿下はもう口を開かないでくださいませ」
二人がそんなやりとりをしている中、クロノス様はすでに陛下やお父上のカイロス様に目配せをし、周囲の出入り口を騎士団にて封鎖させてもらっている。
「皆様に全てをお話しする前に、どうか私を一度エルヴィン殿下の私室に行かせてくださらないでしょうか」
「イリーシャ様! 逃げようとしても無駄ですよ。ここまで来て往生際が悪い……ッ!」
ビアンカが憎々しそうに彼女に言うが、イリーシャはそれを無視してその視線を国王陛下とカイロス様の方へと向ける。
「陛下、どうかご慈悲を。私たちは罪を認めます。殿下の私室に行かねば話もできないのです」
ジッと陛下の目を見据え、また陛下もイリーシャを見据える。
「エルヴィンの部屋に何があるというのだ?」
「私の日記、です。私たちの罪を認めるなら、それがどうしても必要なのです」
「……ふむ、わかった」
陛下も頷く。
「ありがとうございますわ陛下」
「だが、イリーシャ。そなたをひとり、行かすわけにはいかん。見張りとして騎士二名を監視役に付けさせてもらう」
陛下も念には念をかけてくれている。それもそうよね、エルヴィン殿下をたぶらかしていたのがイリーシャだと知ったなら、彼女を放っておくわけにもいかないだろうし。
「陛下! 私とクロノス様、それとビアンカも付いて行ってよろしいでしょうか?」
それに、やはり私たちも付いていくべきだ。そう思い、陛下にお願いすると、
「おやめくださいお姉様。私は逃げも隠れも致しません。もしどうしてもというのでしたら、お姉様だけになさってください」
「イリーシャ、それは何故?」
「私は報復が怖いのです。中立である王国騎士の方だけなら良いですけれど、その他にお姉様だけならまだしもクロノス様とビアンカまで来られては、私をなぶり殺しにするかもしれませんもの」
「な、なぶり殺しって……そんな事するわけッ」
「お願い致しますお姉様。陛下。私に同行するのは陛下の騎士二名とお姉様だけ。それができないのなら私はもう何も話しませんわ」
イリーシャはそう言いながらエルヴィン殿下の方を見やる。
「そ、そうです父上。イリーシャと私はその……う、嘘を認めます。なのでどうかここはイリーシャの言う通りに……」
「わかった。アメリア、それで良いか?」
「ええ、構いませんわ、殿下」
私だけでも付いていけば十分だろう。すでに彼女は罪を認めているのだし。
「他の者はこの会場から出る事はまかりならん。エルヴィン、お前もだ。イリーシャとアメリアが戻るまで全員その場から離れず待機せよ」
陛下は通る声でそう言った。
●○●○●
王宮大ホールを出て、長い回廊を私たちは進む。
エルヴィン殿下の私室がある場所は三階の渡り廊下を超えたその先にある。
イリーシャは騎士二名に挟まれるように歩き、私はその背後を付いていく形だ。
「イリーシャ。あなたもまさか記憶具現化魔法が扱えるなんて思わなかったわ」
「ええ、ごめんなさいお姉様。私、実はもうとっくに魔法を習得しておりましたの」
「それにしてもあの映像、あれはいったいどういう事なの? アレがイリーシャの記憶だったとしても、私にはやっぱりあんな行動をした覚えはないわ」
「それはそうでしょう。アレはアメリアお姉様ではありませんから」
大ホールから離れ、静まり返る回廊にコツコツコツコツ、と四人の靴音が響き渡る。
それにしてもイリーシャは何を考えているの?
あそこまで追い込まれても、彼女には奇妙な余裕が伺えるのがとても気になる。
「アレが私ではないなら、いったい誰なの?」
「アレはナターシャ、という名のお姉様にそっくりな女ですわ」
「ナターシャ? どこかで……」
どこかで聞いた事のある名。
でもいったいどこで……。
「あら、よく覚えておいでですわね? 偉いですわ、お姉様。私も後から知りましたのよ。ナターシャの子孫がお姉様である事を」
「ナターシャの子孫が私……? いったい何を……」
「ナターシャはお姉様のお父様、マルクス・フィル・リセットの祖母にあたるお方、お姉様からすれば曾祖母にあたるお方ですわ」
いったいイリーシャは何を言っているの?
私には彼女の言葉の意味が理解できない。もし意味をそのままで理解するなら、イリーシャのあの記憶は何十年、下手をすれば百年近く昔のものという事になる。
そんなわけが……。
「ナターシャは実に汚い女でしたわ。私の愛するヴァルを……私から寝取ったのですから。ナターシャの罪はその家系の者が受けるのが一番合理的。だから私はあなたに、私と同じ目に合ってもらおうと考えたのですわ、お姉様」
「ちょ、ちょっと待ってイリーシャ。あなた、さっきからいったい何の話を……」
「本当なら私にエルヴィン殿下を奪われた後、お姉様には自死を選んで欲しかったんですの。もしくは嫉妬に狂ってエルヴィン殿下を付け回して牢で長い間を過ごす、というのも捨てがたかったのですけれど」
くすくすくす、とイリーシャは笑う。
この子はいったいなんなの。
「イリーシャ、あなたは……」
「お姉様はズルいですわ」
「え?」
「お姉様ばっかり、運が良くて」
「わ、私は別に運なんか」
「運しかないですわ。全部運だけでこの私をここまで追い込んで。本当に恐ろしい。でも……」
「イリーシャ、あなたは何を知っているの? もっとちゃんと私に説明して!」
「お姉様、本当に運だけですの? お姉様には何か……そう、特別な何かを感じますわ」
「イリーシャ、私の話を」
「お姉様は何か、おかしいですわ」
ピタリ、と突然イリーシャは歩みを止める。
「おい、コラ! お前、勝手に足を止めるな! 陛下がお待ちしているんだぞ!」
右隣の騎士がイリーシャにそう注意すると、
「ごめんなさい、足のヒールがズレてしまったみたいで。少し直すので少々をお待ちくださる?」
「全く、仕方のない奴……」
右隣の騎士がそこまで言い掛けた時。
左隣にいた騎士がゆっくりと左隣の騎士の背後へと回り込んだ。
(何をしているのかしら……?)
私が訝しげにその様子を眺めていると、
「うぐ、あ……!? お、お前……な、何……を!?」
右隣の騎士は左隣の騎士から、突然剣で喉元を斬られていた。
激しい血飛沫が噴き出す。
その瞬間、私は確かにイリーシャが笑うのを見た。
「……ッ! なんて酷い事をッ!」
私はすぐに大きく後ろに下がって間合いを取る。
「やっぱりイリーシャ、あなただったのね!」
「やっぱり? やっぱりってなんですの?」
「その騎士様を操っているのでしょう!?」
左隣にいた騎士は何も話す事はなく、ふらふらとイリーシャの横で立ち尽くしている。
「……よくわかりましたわね、お姉様」
「あくまで予測だけれどイリーシャ、あなたは精神系魔法を得意としているみたいだし、魅了系の魔法も扱えるのではなくて?」
「御名答ですわ。魅了系魔法こそ、私が最も得意とする魔法。これに比べれば記憶具現化魔法なんて、造作もありませんもの」
魅了系魔法にも種類はいくつかあるが、どれも精神系魔法に属しているので、記憶具現化魔法が扱えるイリーシャならば扱える可能性は十分に考えられる。
「魅了魔法は喧騒の中では効果が薄れるうえ、発動条件を満たすのに時間と魔力の練り上げが必要ですから、こうやって人気のない場所で扱うのが一番ですの。それに操れるのはひとりだけなので、騎士様二名の他にも誰かが付いて来られるのは非常に困るところでしたわ。でもお姉様だけなら……うふ、ふ。逆に、ね……?」
イリーシャは不敵に笑いながら、私を見る。
操られていた騎士の動きは、今でこそふらついているがおそらく命令がくだれば恐ろしい速度で私を攻撃してくるはずだ。
魅了魔法は、操った者の肉体を最大限に引き出して動かせる。操った者を壊してしまっても構わないというのであれば、一介の騎士様といえど、化け物並の力と速度で襲い掛かってくるわけだ。
つまり、私は。
「お姉様。ここまで凄い頑張ってきましたけれど、あなたはこれでゲームオーバーですの」
イリーシャが右腕をゆっくりと上げて、私の方へと指差した。
「ええ、そうよ。私はアメリア! あなたたちにハメられ、嘘の冤罪をなすりつけられた者よッ!」
「っく、お、お姉様……」
私は仮面を投げ捨て、声を大にして叫ぶ。
エルヴィン殿下やクロノス様含め、会場の全員がこちらを見た。
「アメリアだと!?」
エルヴィン殿下がこちらに向かってくる。
「お待ちください殿下。アメリアの言っている事は事実ですか? そうすると、先ほどの映像は殿下の記憶ではない、と?」
それをクロノス様が立ち塞がり、そう問い詰めた。
「ち、違う! アレは……」
「殿下ッ!!」
エルヴィン殿下の言い訳を遮るようにイリーシャが声をあげた。
「殿下はお黙りになって! 私が全部お話し致しますわ!」
イリーシャ、あなた何を……?
「さきほどの記憶の映像。アレは確かに私、イリーシャの記憶です。何を隠そう、私も記憶具現化魔法が使えるのです」
彼女は観念したのか、そう素直に答える。
「……ふむ、そうか。ではイリーシャ、キミに問おう。あのアメリアの浮気現場はなんなのだ? アレはどう見ても立太子式の日。アメリアは自宅にいたはずだ」
クロノス様がこちらに歩み寄りながらそう続けた。
「全部話しますわ。だからお姉様、まずはこの手をお離しになってくださいますか?」
「イリーシャ……あなたが本当に……ッ」
「お姉様、腕が痛いのです。お願いしますわ……腕を……」
「あなたが逃げない保証がないですわッ!」
「逃げませんわ。だからお願い、お姉様……」
観念したかのように彼女はか細い声でそう言った。
私はもはやなんの抵抗もないだろうと思い、彼女の腕から手を離した。
「ありがとうございますわ。ではお話し致しますわ。私の……私たちの真実を」
そう言って彼女は会場の中心部へと戻るように歩き出し、エルヴィン殿下のもとへと近づいていく。
「イ、イリーシャ、わ、私は……」
「殿下はもう口を開かないでくださいませ」
二人がそんなやりとりをしている中、クロノス様はすでに陛下やお父上のカイロス様に目配せをし、周囲の出入り口を騎士団にて封鎖させてもらっている。
「皆様に全てをお話しする前に、どうか私を一度エルヴィン殿下の私室に行かせてくださらないでしょうか」
「イリーシャ様! 逃げようとしても無駄ですよ。ここまで来て往生際が悪い……ッ!」
ビアンカが憎々しそうに彼女に言うが、イリーシャはそれを無視してその視線を国王陛下とカイロス様の方へと向ける。
「陛下、どうかご慈悲を。私たちは罪を認めます。殿下の私室に行かねば話もできないのです」
ジッと陛下の目を見据え、また陛下もイリーシャを見据える。
「エルヴィンの部屋に何があるというのだ?」
「私の日記、です。私たちの罪を認めるなら、それがどうしても必要なのです」
「……ふむ、わかった」
陛下も頷く。
「ありがとうございますわ陛下」
「だが、イリーシャ。そなたをひとり、行かすわけにはいかん。見張りとして騎士二名を監視役に付けさせてもらう」
陛下も念には念をかけてくれている。それもそうよね、エルヴィン殿下をたぶらかしていたのがイリーシャだと知ったなら、彼女を放っておくわけにもいかないだろうし。
「陛下! 私とクロノス様、それとビアンカも付いて行ってよろしいでしょうか?」
それに、やはり私たちも付いていくべきだ。そう思い、陛下にお願いすると、
「おやめくださいお姉様。私は逃げも隠れも致しません。もしどうしてもというのでしたら、お姉様だけになさってください」
「イリーシャ、それは何故?」
「私は報復が怖いのです。中立である王国騎士の方だけなら良いですけれど、その他にお姉様だけならまだしもクロノス様とビアンカまで来られては、私をなぶり殺しにするかもしれませんもの」
「な、なぶり殺しって……そんな事するわけッ」
「お願い致しますお姉様。陛下。私に同行するのは陛下の騎士二名とお姉様だけ。それができないのなら私はもう何も話しませんわ」
イリーシャはそう言いながらエルヴィン殿下の方を見やる。
「そ、そうです父上。イリーシャと私はその……う、嘘を認めます。なのでどうかここはイリーシャの言う通りに……」
「わかった。アメリア、それで良いか?」
「ええ、構いませんわ、殿下」
私だけでも付いていけば十分だろう。すでに彼女は罪を認めているのだし。
「他の者はこの会場から出る事はまかりならん。エルヴィン、お前もだ。イリーシャとアメリアが戻るまで全員その場から離れず待機せよ」
陛下は通る声でそう言った。
●○●○●
王宮大ホールを出て、長い回廊を私たちは進む。
エルヴィン殿下の私室がある場所は三階の渡り廊下を超えたその先にある。
イリーシャは騎士二名に挟まれるように歩き、私はその背後を付いていく形だ。
「イリーシャ。あなたもまさか記憶具現化魔法が扱えるなんて思わなかったわ」
「ええ、ごめんなさいお姉様。私、実はもうとっくに魔法を習得しておりましたの」
「それにしてもあの映像、あれはいったいどういう事なの? アレがイリーシャの記憶だったとしても、私にはやっぱりあんな行動をした覚えはないわ」
「それはそうでしょう。アレはアメリアお姉様ではありませんから」
大ホールから離れ、静まり返る回廊にコツコツコツコツ、と四人の靴音が響き渡る。
それにしてもイリーシャは何を考えているの?
あそこまで追い込まれても、彼女には奇妙な余裕が伺えるのがとても気になる。
「アレが私ではないなら、いったい誰なの?」
「アレはナターシャ、という名のお姉様にそっくりな女ですわ」
「ナターシャ? どこかで……」
どこかで聞いた事のある名。
でもいったいどこで……。
「あら、よく覚えておいでですわね? 偉いですわ、お姉様。私も後から知りましたのよ。ナターシャの子孫がお姉様である事を」
「ナターシャの子孫が私……? いったい何を……」
「ナターシャはお姉様のお父様、マルクス・フィル・リセットの祖母にあたるお方、お姉様からすれば曾祖母にあたるお方ですわ」
いったいイリーシャは何を言っているの?
私には彼女の言葉の意味が理解できない。もし意味をそのままで理解するなら、イリーシャのあの記憶は何十年、下手をすれば百年近く昔のものという事になる。
そんなわけが……。
「ナターシャは実に汚い女でしたわ。私の愛するヴァルを……私から寝取ったのですから。ナターシャの罪はその家系の者が受けるのが一番合理的。だから私はあなたに、私と同じ目に合ってもらおうと考えたのですわ、お姉様」
「ちょ、ちょっと待ってイリーシャ。あなた、さっきからいったい何の話を……」
「本当なら私にエルヴィン殿下を奪われた後、お姉様には自死を選んで欲しかったんですの。もしくは嫉妬に狂ってエルヴィン殿下を付け回して牢で長い間を過ごす、というのも捨てがたかったのですけれど」
くすくすくす、とイリーシャは笑う。
この子はいったいなんなの。
「イリーシャ、あなたは……」
「お姉様はズルいですわ」
「え?」
「お姉様ばっかり、運が良くて」
「わ、私は別に運なんか」
「運しかないですわ。全部運だけでこの私をここまで追い込んで。本当に恐ろしい。でも……」
「イリーシャ、あなたは何を知っているの? もっとちゃんと私に説明して!」
「お姉様、本当に運だけですの? お姉様には何か……そう、特別な何かを感じますわ」
「イリーシャ、私の話を」
「お姉様は何か、おかしいですわ」
ピタリ、と突然イリーシャは歩みを止める。
「おい、コラ! お前、勝手に足を止めるな! 陛下がお待ちしているんだぞ!」
右隣の騎士がイリーシャにそう注意すると、
「ごめんなさい、足のヒールがズレてしまったみたいで。少し直すので少々をお待ちくださる?」
「全く、仕方のない奴……」
右隣の騎士がそこまで言い掛けた時。
左隣にいた騎士がゆっくりと左隣の騎士の背後へと回り込んだ。
(何をしているのかしら……?)
私が訝しげにその様子を眺めていると、
「うぐ、あ……!? お、お前……な、何……を!?」
右隣の騎士は左隣の騎士から、突然剣で喉元を斬られていた。
激しい血飛沫が噴き出す。
その瞬間、私は確かにイリーシャが笑うのを見た。
「……ッ! なんて酷い事をッ!」
私はすぐに大きく後ろに下がって間合いを取る。
「やっぱりイリーシャ、あなただったのね!」
「やっぱり? やっぱりってなんですの?」
「その騎士様を操っているのでしょう!?」
左隣にいた騎士は何も話す事はなく、ふらふらとイリーシャの横で立ち尽くしている。
「……よくわかりましたわね、お姉様」
「あくまで予測だけれどイリーシャ、あなたは精神系魔法を得意としているみたいだし、魅了系の魔法も扱えるのではなくて?」
「御名答ですわ。魅了系魔法こそ、私が最も得意とする魔法。これに比べれば記憶具現化魔法なんて、造作もありませんもの」
魅了系魔法にも種類はいくつかあるが、どれも精神系魔法に属しているので、記憶具現化魔法が扱えるイリーシャならば扱える可能性は十分に考えられる。
「魅了魔法は喧騒の中では効果が薄れるうえ、発動条件を満たすのに時間と魔力の練り上げが必要ですから、こうやって人気のない場所で扱うのが一番ですの。それに操れるのはひとりだけなので、騎士様二名の他にも誰かが付いて来られるのは非常に困るところでしたわ。でもお姉様だけなら……うふ、ふ。逆に、ね……?」
イリーシャは不敵に笑いながら、私を見る。
操られていた騎士の動きは、今でこそふらついているがおそらく命令がくだれば恐ろしい速度で私を攻撃してくるはずだ。
魅了魔法は、操った者の肉体を最大限に引き出して動かせる。操った者を壊してしまっても構わないというのであれば、一介の騎士様といえど、化け物並の力と速度で襲い掛かってくるわけだ。
つまり、私は。
「お姉様。ここまで凄い頑張ってきましたけれど、あなたはこれでゲームオーバーですの」
イリーシャが右腕をゆっくりと上げて、私の方へと指差した。
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