追放令嬢、ルビイの小さな魔石店 〜婚約破棄され、身内にも見捨てられた元伯爵令嬢は王子に溺愛される〜

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06 悪役令嬢の矜持

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「舞踏会?」

 ニルヴァーナ王宮、王家の一室。

 そこで自身のネイルの手入れをしながら、侍女たちから伝えられた言葉に、怪訝な表情で尋ねる女性。

「はい、カタリナ様。今度この王宮のグランドホールで開かれる舞踏会にございます」

 そう、ガウェイン第一王子殿下の新たな婚約者となったカタリナ・フランシスである。

「随分急ですわね? 先日も開かれたばかりではありませんの」

「ええ、どうやら陛下がお決めになられたようで……」

「私はまだ成人しておりませんし、踊るわけではないので関係はありませんけれど、主催者側の王家としては会場に顔出しくらいはしろ、と?」

「おそらく殿下はそう仰るでしょう。また、今回は初めていらっしゃる諸外国の貴族の方々もおりますから、カタリナ様を婚約者として発表したいというのもあるのでしょう」

 なるほど、とカタリナは察した。

 ガウェイン第一王子殿下はニルヴァーナ王国の王家に、ついに魔石師の令嬢が妃として迎え入れられた事を自慢したいのだ。
 
「で、それなら私が以前頼んでおいたオートクチュールのドレスは仕上がっているんですのよね? 今のうちに袖を通しておきたいですわ」

「そ、それがまだ……」

「はあ? まだなんですの!? 使えませんわね!」

「も、申し訳ございません」

 侍女たちは内心穏やかではなかった。

 それというのも、このカタリナというフランシス家の令嬢は、実に常日頃から傲慢な態度ばかりを取るからであった。

 だいたいドレスはすでに何着も持っているというのに、このカタリナは新しいドレスが仕上がる度に、アレが駄目だ、コレが駄目だと難癖ばかりつけて、すぐに新しいドレスを仕立てなさいと矢継ぎ早に注文ばかりするから、製作が間に合わないのである。

 侍女たちは以前の婚約者であるルフィーリアの方が良かったと思うばかりであった。

「ふん、まあいいですわ。とりあえず貴女たちは殿下に、この度の舞踏会では目一杯豪華に、豪勢にお金をかけなさいと伝えて」

「え? そ、それはどういう……」

「諸外国の方々がいらっしゃるのでしょう? 私の王宮がみすぼらしい夜会を開くだなんて思われたくないもの。料理も最高級のものを用意なさい。それと私にできる限りの高級宝石も準備なさい」

「ほ、宝石もでございますか?」

「当たり前でしょう? 魔石師の力をその会場で見せつけなくてどうするの」

「ですが、魔石精製には時間が掛かりますから、おひとつで充分なのでは……」

「馬鹿ですわね。見栄えですわよ、見栄え! 宝石に囲まれている方が華やかでしょう?」

「その……費用などの問題ですぐにそれが通るかはわかりませんが……」

「やれるだけやりなさい!」

「か、かしこまりました」

 侍女たちは頭を下げ、慌ててカタリナの部屋を出て行った。

「……ふう」

 カタリナは疲れたような表情で溜め息をひとつ吐いた。

 カタリナは常に不機嫌だ。

 第一王子殿下に見初められ、こうして婚約者の座を義理の姉から奪い取る事に成功したが、まだまだカタリナにはやらなければいけない野心がある。

 とにかく今はまだその弊害が多すぎるのだ。

 カタリナは早く成人して、ガウェインと結婚したかった。

 婚約では義理姉のようにいつどうなるかわからないからである。
 
 だからできるだけ、それまでに問題は起きない事を願っているのだ。

「全く、陛下も殿下も勝手な事を。下手に夜会で私を見せ物にして、何かトラブルがあったらどうするんですの」

 魔石師の令嬢。

 それだけで多くの貴族らは光に集まる羽虫の如く、わらわらと寄ってくる。

 そんな有象無象がカタリナに対して不埒な行動をしてこないとも限らないのだ。

「私が成人するまでは、少し夜会は控えてもらう様、進言しておかなくてはいけませんわね」

 カタリナには考えがある。

 自分の理想とする未来。

 その為に、こうして義理姉に嫌われても今の地位を奪い取ったのだ。

 だから結婚し、ガウェイン殿下にしっかり王位継承してもらい、自分がニルヴァーナ王妃となるまではなんとしても今の地位を、立場を保持し続けなくてはならない。

「……お姉様、今どこで何をしていらっしゃるのでしょうね」

 カタリナは小さく笑った。



        ●○●○●
 


「……ふう。今日はこれだけ作っておけば問題ありませんわね」

 夜。

 ルビイは魔石店の奥にある作業場で、一人魔石の精製を行なっていた。

 と言ってもルビイにとっての魔石精製は実に簡単なお仕事だ。何せ小石を手に取り、魔力を中へと流し込むだけなのだから。

 その上、作業はものの数秒から数十秒で終わる。その後は仕上がった魔石を店頭に並べ置くだけだ。

 ただしルビイが一日に作れる魔石は小石ほどの物で数十個、手のひら大の物でニ、三個といったところだ。それ以上はルビイの魔力が切れる。

 ちなみにルビイが作れる魔石は今現在数種類ある。

 光を放つ魔光石、声色を変化させる魔声石、高熱を放出する魔熱石、虫の嫌がる臭いを放つ魔臭石……と、色々だ。

 普通の魔石師ならそれを高価で希少な宝石にしか付与できないのだが、ルビイはそれをただの石ころに付与できる。

 その事を知ったのはもちろん最近になってから。

 ルビイは魔光石しか作れないと自分で思っていたからだ。

 それについてもシルヴァからのアドバイスを得て、魔力のコントロール方法を変える事で様々な魔石を作れる事をここ数ヶ月の間に学べたのである。

「でもこんなの、お父様やカタリナは前からやれていた事なんですのよね……」

 ルビイの言う通り、今ルビイが作れる魔石は、魔石師の初心者が作るような物ばかり。とてもギルドの戦士たちや軍事的な武力に貢献するような高難度の魔石ではない。

 ルビイの父、エメルドが優秀な魔石師として名を馳せている理由はそこにもあり、エメルドが作る最高品質の魔石は、持つ物の身体能力を大幅に上昇させたり、持ち主の身体を浮かせたりと更なる不思議で強力なものばかりだ。

 ルビイは実際まだまだ魔石師としては駆け出しだ。

 しかし彼女にはただの石ころを魔石にできるという類い稀なる力がある。

 それがどれほど大変な事なのか、ルビイはいまだに理解しきれていないのだ。

「でも私はこれで充分! 簡単な魔石を作って、売って、生活できるお金を稼げれば。ついでに買ってくれた人が喜んでくれればそれだけで満足ですもの」

 彼女はまだ知らない。


 簡単な魔石を石から作れる事の重大さを。
 


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