追放令嬢、ルビイの小さな魔石店 〜婚約破棄され、身内にも見捨てられた元伯爵令嬢は王子に溺愛される〜

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13 波乱の舞踏会 trois(トロワ

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 王宮のグランドホールは不気味に静まり返っている。

 皆、ガウェイン第一王子殿下とブロン第三王子殿下の言い合いに夢中になっているからだ。

「兄上、貴方はルフィーリアとの婚約を破棄してまでカタリナと結ばれたかったのだろう?」

「そういうわけではない。ただ、魔石師の血族、そして真実の愛に気づいた結果そういう形になってしまっただけだ」

「ほう? ならば何故、またルフィーリアに迫ったのだ?」

 ついにブロンは、切り札と言わんばかりの表情でガウェインへと詰め寄った。

「な、なんの話だ!?」

「とぼけても無駄だ。兄上が隣国、ラダリニアにある魔石店の娘に婚約を迫った話はとっくに知り得ている」

(……やはりか)

 ガウェインの予想通りの展開。

「ぐっ! そ、それは……」

「ガウェイン様、そうなのですか?」

 ガウェインの隣にいたカタリナが目つきを細めて問い掛ける。

「い、いや、カタリナ! そんな事をこの私がするはずが……!」

 と、慌てふためく素振りを見せているガウェインと睨みつけるカタリナだが、この二人のコレは演技である。

(これでよろしいのでしょう? ガウェイン様)

(上手いぞ、カタリナ)

 当然ガウェインは、カタリナに全ての事情を予め話してある。その上で、ブロンやシルヴァ・オルブライトが自分たちをどう追い詰めてくるのか、そのネタを暴き、絞り出させる為の演技なのだ。

「その魔石師の娘は兄上に口説かれたと言っていたが?」

「そ、そんな娘は知らん!」

「本当か兄上?」

「知らんものは知らん! そもそもブロン、貴様は一体どこの誰からそんな話を聞いたのだ!?」

「目撃者がいてな。店の常連客だ。兄上が執拗に魔石師の娘に迫ったと言っていたが?」

「他人のそら似であろう! だいたいそのとか言う娘に私が迫ったという証拠などなかろう!?」

 ブロンがニヤリ、と笑う。

 と、同時にガウェインも思う。

(ほれ、ブロン。餌は撒いてやったぞ)

「ふむ、おかしいな兄上。私はいつ、魔石店の娘の名を兄上に教えたか?」

「し、しま……ッ!」

「墓穴を掘ったな。そうだ、兄上の言う通りその魔石店の娘の名はルビイ。その本名は、ルフィーリア・フランシスだッ!」

 ブロンの言葉が響くと、グランドホールはより一層大きなどよめきが起こる。

「どういう事だ……?」

「ガウェイン殿下は婚約破棄した相手をまた口説いたと……?」

「しかしルフィーリア嬢は何故隣国に……?」

「いえ、そもそもカタリナ様と婚約している身で、またルフィーリア様を口説くというのは、貞操観念的にどうなんですの……?」

 会場の貴族たちはブロン、そしてガウェインとカタリナの予想通りの反応を見せる。

(さあ、私を追い詰めてみせろブロン。貴様の底の浅い戦略など、私の話術で全て無に返してやろう)

「ガウェイン様ッ! どういう事なのですか!?」

「カ、カタリナ……落ち着いて聞いてくれ……」

「私というものがありながら、またお姉様を口説いたというのは本当なのですか!?」

 と、ガウェインとカタリナが揉める演技を続けると、

「カタリナ嬢、少し待ってくれるか? 私からはまだ兄上に聞かねばならん事があるのでな」

「……わかりましたわ」

 カタリナはブロンにそう言われ、大人しく席に戻る。

「兄上はやはりルビイ……いや、ルフィーリアを口説いたのだな。しかもそれは、ルフィーリアが優秀な魔石師だとわかったからだ。違うか?」

「ぐ……く……」

「皆、聞いてくれッ! 女性を軽んじ、利己的な考えで相手の将来を奪い、まるで物のように捨てるような男に果たして国を治めるような器があるだろうか!?」

 ブロンは声を張り、大勢の人々へと言葉を投げ掛ける。

「私は思うッ! そのように人の心、あまつさえうら若き女性の慕情を踏み躙るような下劣な行為、断じて許されるものではない!」

 そう声高らかに謳う。

 同時にブロンとガウェインは周囲を見渡す。

 二人ともダグラス王陛下を探しているのだ。

 しかしやはりグランドホールにはまだ、両陛下の姿は見受けられず。

 ガウェインとしてはダグラス国王がこの場にいてもらった方がこれからの逆転劇に都合が良かったのだが、いなければいないでそれを利用するか、と判断し次の手に移る。

「……すまないッッ!!」

 ガウェインはその場で勢いよく膝をつき、頭を地に降ろし、土下座した。

「ブロン……貴様の言う通りだ。私は……私は確かにルフィーリアを口説き直した。それは事実だ……」

 ガウェインの言葉に会場は再びどよめきを増す。

「だが聞いてほしい! 私の行動には意味があっての事だという事をッ!」

 ガウェインは顔を上げ、涙を流し、迫真の演技で会場の人々に訴えかける。

「こんな事、恥を承知で言うが、私は……私はルフィーリアを心から愛していた! だが、カタリナの言葉を聞き、彼女の辛さを知り、どうにかしてカタリナを地獄から救ってあげたかった! そして私は彼女の相談に乗っているうちに、彼女を愛するようになっていってしまった。カタリナは優秀な魔石師だ。彼女と結ばれればニルヴァーナ王国の発展に間違いはない。ならばここは国とカタリナの事を想い、カタリナと婚約すべきだと私と父上は判断し、ゆえに致し方なくルフィーリアとの婚約を破棄した……」

 ガウェインは表情を豊かに変化させ、悲壮感を目一杯に現し、切実な訴えを続ける。

「だが、ルフィーリアには隠れた才能があった事を最近知った。それはとてつもないほどの才能を秘めていたのだ。隣国へと行ってしまった彼女だが、私はそれをどうにかして我が国に帰って来てもらいたかった。それはニルヴァーナ王国の為でもあり……情けないかもしれないが、彼女への……ルフィーリアへの想いが残っていたからだ……」

「だから兄上はルフィーリアを再び口説いた、と?」

「そうだ。こんな事、カタリナの前で言うのはとても憚られるが……私はルフィーリアを断罪し追放した後も心のどこかで彼女の事を忘れられなかったのだ」

 そんなガウェインの言葉を人々は聞き、

「いや……そんな自分勝手許されないですわ……」

「殿下、いくらなんでもそれはカタリナ様が可哀想すぎます」

「結局殿下は自分の事しか考えていないのでは……」

 と、ガウェインを非難する声が沸き始める。

「すまないッ!!」

 再びガウェインは土下座し、涙を流し、

「私は……私には国を第一に考える義務があるッ! ニルヴァーナ王国の発展、そして諸外国とのより良い関係性など内政の他、外交についても深く深く考えねばならなかったッ! フランシス家との婚約はそれが第一であった! だからこそ、私は自分の恋心に揺れながらも、国を思う選択肢をしてしまった……」

「兄上、いくらなんでもそれは都合が良すぎる。ではカタリナ様への愛は完全に嘘だったという事か?」

「違うんだブロン。私は……私は本当に、カタリナの事も、ルフィーリアの事も愛してしまっていたのだッ!」

「ではルフィーリアが再度婚約を受けたらどうするつもりだったのだ?」

「私は……そうしたならば、カタリナを妾として側室に置こうと考えていた……。もちろん可能な限り、王家と同じ待遇で扱うつもりでだ」

「では、二人とも自分のものにしてしまおうと?」

「傲慢に聞こえるかもしれぬが、ハッキリと言えばそうだ。優秀な魔石師が二人も王家に揃えば、ニルヴァーナ王国の発展は著しく伸びる。その為ならば、私は恨まれても良いとすら思ったのだ……」

 ガウェインは肩を落として、力の無い声でそう言った。

「ガウェイン殿下、我が儘だったのかもしれないけれど、国を思っての行動だったのね……」

「確かにそんな浅はかな行為、国を思っていなければできないな……」

「どちらにしても魔石師二人が王家にいれば、ニルヴァーナ王国の発展は間違いない。ニルヴァーナの交易は更に大きく発展するだろうし……」

 ガウェイン殿下の話術と演技に乗せられ始めた貴族たちが、少しずつ賛同の声を漏らし始める。

(くくく、だいたい想定通りだ。おそらくこの後、ブロンの言う言葉はもう決まっている)

 ガウェインは内心でそう思っていると、

「だが兄上。ルフィーリアはそれを断った。それは何故だかわかるか?」

 ブロンがそう尋ねて来た。それを予想通り、とガウェインは思いつつも、

「それは……私の事など、もはや好きになどなれないからであろう……。私は国の事ばかり考えていたからな……。彼女の気持ちを思いやれなかった」

「いや、それもあるが、ルフィーリアにはすでに想い人がいるからだ」

「な、なんだと!?」

 驚いたふりをする。

「それはな……」

(それは、あのオルブライト商会のシルヴァという男、もしくはブロン、お前たちのどちらかなのだろう? そしてどちらにしても私には王位を継がせるのは不適切だとでも言うのだろう? だが甘いなブロン。私はそんな事などすでにカタリナにも、父ダグラスにも話してあるッ! それも私にとって都合の良いようにな。だから、何がどうあろうと、私の王位継承が揺さぶられる事などありえんのだッ!)


 内心ほくそ笑むガウェインだったが、この後ブロン殿下の言葉を続けたのは、彼にとっては想定外の人物であった。

 
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