『私を飼いませんか?』家出少女は冷血公に『愛玩』されたい。

霜條

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第二十六話 春の塵、霙≪みぞれ≫を連れて道濡らす。

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「かいちょう公、さんですか──……」

 ご機嫌な響きに思わず息を飲みました。
 今夜はパジャマパーティーをしようと誘われた時のような、楽しい気持ちが胸に広がります。

「何を浮かれているんだ。瑪瑙めのう諧調公かいちょうこう、アカーテス様だ。……ヴィクター様より若輩じゃくはいであるが、真祖しんそのひとりでもある。気まぐれで癖が強い方だ。めた態度をしていると大変な目にうぞカタツムリ」

 フィルの冷たい注意に背筋を正しました。どうやら真面目な話だったようです。
 今は夜。食堂でリュカやアデルたちと夕食を取っているときに、フィルとジェイドがやって来ました。ヴィクター以外がここに集まっています。
 お客人が帰ってしばらく経ち、こよみの上では春に差し掛かる頃です。
 ですが、相変わらず地上は真っ白のまま。冷たい風ばかり吹く日常がここにあります。

「ムートの北にあるヴィヴィノと言う場所にお住まいでね。この前いらしたガガテス様の移動都市と違って、ここと同じように地上にきょを構えているわ。今度そこの公会堂こうかいどうで会議があるのよ」
「もうそんな時期なんだ~。マイマイは知ってる? ヴィヴィノって楽しい場所なんだよ。あちこちから音楽が聞こえて来くるんだ」
「アガーテス様が音楽好きでさー。あの街で暮らす人はみんな楽器が弾けるんだ」
「歌う人間も多いな。皆、良い声を持っているんだ」
「そうなんですか。────────歌う人間……?」
「へぇ。ブレイズにも音楽の良し悪しが分かるんだ~」
「良し悪しは分からないが、好き嫌いくらいはあるとも」

 さらりとブレイズが口にした意味に、急につまづいてしまいます。
 先日ここに来たヴィクターとは別の真祖と呼ばれる吸血鬼、黒玉こくぎょく坦懐公たんかいこう、ガガテス様────。私が人間と分かった瞬間、冷たい態度になったのは明らかでした。

「あの──、ここの留守番なら私に任せて下さい。と言っても、大したことは出来ないと思いますが」

 地上にも人がいるとみんなの話からなんとなく察していましたが、あまり良い意味に聞こえませんでした。皆さんの話について興味はあるけれど、ここも充分素敵な場所だからひとりでも大丈夫と、胸を叩きました。

「……トレデキム・レクスの会議は真祖エルダーの皆様が一同に集まり、そのファミリーも集まるものなのよ。マイラも私たちの一員ですもの。私たちと一緒に行くのは嫌かしら?」
「そうだよマイマイ! 一緒に行こうよ。みんなに紹介しなくっちゃ! マイマイは私たちのファミリーだって!」
「会議中はヴィクター様もいなくてつまんないけど、街にはいろんな人がいるから賑やかなんだ。こういうのをお祭りって言うんだっけ? マイマイと同じ人間もいるから、知り合いがいたりしてね」

 アデルとリュカが両側からそれぞれ腕を引っ張ってきました。二人の話を聞くと、我慢しようと思っていても気になってしまいます────!

「フン。本人が行きたくないならそれでもいいじゃないか。正直、他の家の連中がみんな、お行儀がいい訳じゃない」
「けれど挨拶は必要よ。誰もマイラのことを知らなければ、誰かがカリブンクルスにいらした際、いちいち説明するのも面倒じゃない。伏せておいて妙な憶測をヴィクター様が影で言われるのも、フィルは嫌じゃなくて?」

 フィルとジェイドが互いに目を合わせると、なんとなくバチバチしている空気を感じます……。
 フィルは私と同じで、行かない方がいいと思ってくれているのは分かります。

「あの、……その街って危なくはないんですか?」
「家同士の衝突は余計な混乱を招くだけだもの。会議中は特にね……。もし万一揉め事が起きても、すぐに他の家の人たちが止めるわ。騒ぎを起こした家にはペナルティがあるし、そんなに身構えなくてもいいと思うの」
「へー、ペナルティなんかあるんだ。ボク、知らなかったよ」
「毎回説明しても数字以外の事は忘れるのがリュカ、お前らしい……。起こした騒ぎに応じて、個人や一族、城主たちに直接ペナルティが下る」
「騒ぎを起こせばその家は無事でいられない。お互い目を光らせているのだから、逆に安全だわ。そう思わない?」

 ジェイドは手のひらをこちらへ差し出し、誘ってくれているようでした。────正直、今すぐにでもその手を取りたいと、心が浮き立ちました。
 みんなが楽しいという場所に、一緒に行けるなんてそんな嬉しいことはあるでしょうか。
 アデルやリュカと知らない街を探検して、ブレイズやジェイドたちとお店を回ってみるのも楽しそう。きっと私の知らないことや場所をたくさん知っているから、話を聞いていろんなことを試してみたいです。
 フィルとヴィクターは街に行ったらなにをするんでしょう。本を読んだり静かに話している姿を見かけますが、前みたいに、ヴィクターから話を聞いてみたい────。
 想像するだけでワクワクと心が動き出し、今すぐにでも夜が明けてしまいそうです。

「……もし、行ってもいいなら私も興味あります。本当はひとりで留守番するより、みんなと居たいんです」
「マイマイ────! 私も一緒が嬉しいよっ! ずっと一緒に居るからね!」

 アデルが喜びを全身で表現してくれると、他の皆も同じ気持ちと言わんばかりに笑顔を私に向けてくれました。

「…………参加のむね、ヴィクター様に伝えて来よう。分かっているだろうなジェイド。誘った以上、お前が責任を取れよ」
「えぇ、もちろん。新しくできた大切な家族ですもの。マイラとはこれからも長く一緒に居られたらと思っているもの」
「私もです! 音楽の街かぁ~。……もしかして音楽が出来ないと、追い出されるとかあります?」
「あはは~、何回か行ったことあるけど、ボクたちが音楽出来るように見える?」

 リュカが首を左右に振ったので、安心して大きなため息が出てしまいました。

「出かけるのは一週間後、それまでに忘れ物をしないよう準備をしましょうね」

 ジェイドが手を叩き乾いた音が響きました。
 みんなでお出かけ────。今度はどんなことが起きるのだろうと、新たな予感で胸がいっぱいです。
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