41 / 95
33.隣の部屋④
しおりを挟む
人を待つというのは、こんなにも心が落ち着かないことなのかと、なんだか初めて知った。待たされるなんて経験は何度かあるはずだ。
一体その時はどうやって時間をつぶしていたのか、思い出せないほど今は考えがまとまらなかった――。
ひとりの時間をいままでどう過ごしていただろう――。読書や勉強に費やしていた気がする。姉弟たちといれば歓談することもあったが、それでもなにかひとりでいたはずだ。自分がどうしてこうなっているのか分からなかった。
本を手にしても一行も頭に入ってこない。ふと時間を見ると大して過ぎていない。今度は予習でもと教科書やノートを開いてみるも、同じように思考が散漫とするばかりでどことなくぼんやりする。
今日が楽しかったから、思ったより疲れているのだろうか。
意味もなくちらりと時計を見るも、待ち人がくる気配を教えてはくれなかった。――忙しいのだろう。半ば今日はもう来ないかもとぼんやり考えているとアイベルがいつの間にか傍に来ており、なんだか見覚えのある封筒を手にしていた。
「――今朝ヴァイス卿がお持ちしたこちらの封筒、中身を確認いたしませんか? 無用のものであればいつも通りいたしますので」
あぁ、そんなものがあったな。なんて言って持ってきたかは忘れたが、結構な大きさのあるそれを受け取る。
ずしりと重みのあるそれは硬く、それなりに厚みがあった。――手の感触からハードカバーの本のように思えた。
もし本であるなら、結構な大きさのあるこれもやはり禄でもないものの気がして、このまま処分してもいいのではと投げやりに考える。
裏返すと丸タックと玉紐がついており、マチも付いているこれは書類用の封筒のようだ。封筒自体は何度か使用したのか真新しいものには見えず、きっと流用したのだろう。――どちらかというとこういう細かい部分まで気を遣うタイプなので、気にかかるも、中身がそれほど大したものではないということなのかもしれない。
丸タックにかかる紐をくるくると外し、フラップを開き中からそれに手をかけ取り出す――。
「…………?」
封筒から取り出したそれがよくわからなかった。
本ではある。ハードカバーに巻かれたフルカラーの表紙に大きく人物が映っており、取り出した拍子に目が合う。
「――そ、そんなものがあるのですね……」
少し困った様子のアイベルがなけなしの感想を述べているが、やはりよくわからなかった。
「誰?」
「えっ、これは、その……。私見ですが、東方天さまのように見受けられますが……」
――東方天? 今日何度か写真を見る機会があったけれど、ブロンドと青い眼は同じだが、同一人物には見えなかった。裏返してみるも、この人物が誰かは書いていない。表紙をもう一度見返し、こちらに視線を送る人物を見てみる。
「……違くないか」
愛嬌のある笑み――、と言えなくもないが、手にした相手に媚びるように細められた表情に、隙の無い白い軍服を着た少女だ。
「そうでしょうか……? ヴァイス卿の姪御様ですし、彼がわざわざ似た他人の写真集を持ってくるなんて……」
アイベルもそこまで言ってから、あり得る可能性に思い当たったのか言葉を濁す。やっぱり禄でもないものだ。ため息とともに封筒に戻し机の上に放り出しながら、ソファに深く身体を預けた。
乱暴な態度に驚く侍従は、機嫌を損ねたと慌てていた。
「でも、もしご本人様でしたら――」
そんな訳があるはずがない。こんなにも違うと頭が拒否しているのだ。――次にヴァイスにあった際に伝える文句が増えていき、不快感も募る。
頬杖をつき、火の灯る暖炉に目を向ける。誰だか知らないが、あの人を汚すような真似をしているこの本を投げ入れてもいいのではと考えた。
コンコン。
小さなノックの音が聞こえる。――だが背後から届くその音に二人で振り返る。扉は自分の正面にあり、背後にあるのは窓なのだ。――しかもここは七階だ。
「――殿下、お下がりください」
警戒から傍に寄り、小さな声で下がるように侍従が言いながら腰の剣に手を伸ばしていた。
でも分かる。――あの人が来たのだ。以前セーレが、窓から出入りして困っていると話していたことを、期待感と共に思い出す。
忠告を無視し、閉じられたカーテンを開ける。――自分を呼ぶ声がするが、ガラスの向こうに見えるものが先に映る。
「すまない、随分遅くなってしまった……。」
どうやって立っているのか分からないが、宙に立っているように見えた。真っ暗な窓の向こうにいる人物に驚ているようで、アイベルは言葉を失っている。
「入口で追い返されてな。――仕方なくこちらから様子を見に来た。……驚かせてしまったな。」
昼間会ったときとは違い、コートを羽織っているようだった。硝子越しに伝わる不明瞭な声が申し訳なさそうにしているのだが、窓の開け方が分からず、アイベルに頼むことにした。呆気に取られていた侍従が、なんとか来訪者を部屋に入れると、夜風が一緒に部屋に入り一瞬冷える。
「ど、どうして……」
「見るからに学生でもないからな。普通に不審者として追い返されてしまった。――きちんと仕事をしていて偉いな彼は。」
なぜここから来たのか理解し難かったようで、アイベルが尋ねた。
不審者として追い返されたというのが申し訳なかった。
「守衛に伝えるべきだった……。――気が利かなくてすまないことをした」
「いや、警備体制がしっかりしていることが分かって安心したくらいだ。別に窓から伺えばいいと思っていたし。」
ふっと不敵に笑う自信のある力強さのある目が、先ほど見たものと全然違った。――自分が知っているのはこの目だ。安堵感から先ほどのいら立ちが消える。
「どうやって窓の外に立って、……浮遊術か?」
「いや、精霊を足場にして立っていただけだ。――これ、遅れた分のお詫びだ。」
コートのポケットから小さな包みを渡される。
「うちの者が、借りている宿舎のキッチンをいたく気に入ったようでな。たくさん作っていたからお裾分けだ。」
アイベルにも同じ包みを渡す。開いてみるとフィナンシェだろうか。焼き菓子が三つ出て来た。
「……正直、中を通るよりこの窓の方が宿舎から近いから楽だな。ちなみにあそこだ。なにか用があれば立ち寄ってくれ。いつも誰かいるし、話し好きの奴らだから声を掛ければ皆喜ぶだろう。」
中途半端に開かれたカーテンの先を指さす。普段は使用していない建物のひとつに明かりがついていることに気付く。――目と鼻の先にいたのかと初めて知る。
羽織っているコートを脱ぐと、日中見たときと服が変わっているようだった。わざわざ着替えたのだろうか。――まだ状況についていけてないアイベルが、慌てて彼からコートを預かった。
身軽になった彼に席を勧め、昨日と同じように隣に座った。
「……随分と会議が長引いたんだな」
「あぁ……。少し予定が変わってしまってな、別のことを考えていたらあっという間に夜だ。ヨアヒム殿下が来てくれなければもっと遅くなっていたかもしれん。――もしかして、もう休むところだったか?」
夕方まで一緒にいた叔父とあの後会ったのか。会うとは聞いていなかったので、変わった予定のおかげで無事に来てくれたのだと感謝する。
「いや、少しアイベルと話してただけだから気にしないでくれ」
「それならよかった。――ここに来る前に少し良くない場所にいたから身を清め、今日の分の雑事を終わらせていたせいでだいぶ遅れた。」
余程慌ただしかったのだろう、言葉に疲労感が滲んでいるようだった。
「……まさか、伽を?」
「アイベル、――失礼なことを言うな」
ふとした疑問だったのだろうが、彼の不愉快な邪推に、暖かだった気持ちに水を差されて冷めていく。
「も、申し訳ありません……。フィフス殿、大変失礼致しました」
「――? よく分からないが、私は気にしていない。」
「彼が失礼なことを言ってすまない……。どうか忘れてくれ」
「わかった。――だが、もしなにか武器の手入れが必要なら慣れているから任せろ。私も砥石なら持っている。」
自信満々に見当違いなことを言う様を見て、アイベルも本当に違うことを理解したようだった。しかし不躾な言葉をこの人にぶつけられたことが許せず、気持ちの切り替えがすぐにはできそうになかった。
「もしかしてこの部屋にもなにかあるのか? できれば魔剣というものを見てみたい。――普段誰か所持しているのか? 武器保管庫とかこの寮にあったりするのだろうか。」
「いえ、殿下は所持しておりませんし、この寮にもそのようなものは……」
「そうなのか? 護身用に何も持っていないのか?」
うつむく自分の顔を覗き込まれ、こちらを伺う青い眼が懸念に満ちていた。
「一本くらい所持していた方がいいんじゃないのか? 私も普段隠し武器も含めて十は持っているぞ。」
「…………そんなに?」
「あぁ。――見てろよ。」
その場で立つと、どこからともなく大小さまざまなナイフが次々に出てきて、机の上に並べていく。服の下にいくつ隠していたのかと、呆気にとられてしまう程だった。
「あとこのブーツは特注でな。この中に仕込みナイフがある。さすがにこれは危ないから見せてやれないが。」
「……重そうだ」
一通り出し終わったようで、満足そうにまたソファに座る。先ほど失言した侍従もこの様子に呆気に取られていた。
「普段からこれくらいの備えを私でもしている。この重さも別に鍛錬だと思えば大したことはない。体重のかさましになるしな。」
身長だけでなく体重もかさまししているのかと、いらない知識が増えふっとひとつ気が抜ける。こちらの様子に満足したのか、一度出されたナイフたちが元の場所に仕舞われていく。
「――剣もあるのに、厳重なんだな」
「あぁ、これは飾りだからな。仕掛けがついていて、簡単に抜けないようになっている。」
飾りと言う言葉の意味が分からなくて、帯剣しているそれを見る。――鞘はシンプルな作りで、鍔や握りが金の細かな装飾が施されており、交差したところに乳白色で透明感のある石がはめられているようだった。宝石の類ではないようで、いくつもの雪の結晶が石の中にあるようにも見える。
「当家からこちらでの過度な戦闘は禁止されていてな、抜けば抜剣したことが分かるようになっている。――そういう制約の剣だ。」
「……どうしてそのような制約が――?」
アイベルが尋ねる。今日も護衛役としてついていたと思っていたからだろう。
「鍛錬のひとつだな。――ひとつの事に頼りすぎるのはよくないと教えられていて、その一環だ。別にこれは剣として使えなくても、受け身もとれるし、殴れば鈍器だ。問題ない。――剣がなくとも私は強いからな。」
剣を鈍器に使うとは、さすがにそのような発想がなかったためか、侍従もなにやら真面目に話を聞いているようだった。
――この人のおかげで気まずい空気がなかったことになる。
もしかしたらわざと話をずらしてくれたのかもしれない。そんな気遣いを、忙しい中来てくれてたこともどれもが申し訳なかった。
「それで、頼んでいた新聞だが、読ませてもらってもいいだろうか? ――今日も疲れているだろう? 遅れてしまった私が言うべきでないが、あまり遅くなってはお前たちにも申し訳ないからな。」
彼の言葉に侍従が用意していた新聞を運んでくる。普段は聖都、ピオニール、王都と全部で三種類の新聞を読んでいた。一応今日の分もあるが、聖都の新聞はちょうど襲撃事件後からしばらく手を付けていなかったため二週間とちょっとが手元にあり、移動の間読めなかった分も目を通すかと思い用意してもらっていた。
「こんなにあるのか――。正直驚いた。用意してくれて感謝する。」
「普段は何を読んでいるの?」
聖都の新聞がやはり気になるようで、手にして日付順に、新聞の名が見えるように重ねて並べていた。――少し不思議な並びに、どうやって読むつもりなのか気になった。
「……そうだな。聖国関係の新聞の新聞を一通りだな。それ以外は他の者から話を聞くことが多い。」
並べ終わるとじっと並べたそれを見ているようだった。――見えている部分が新聞名と天気、あとは隙間から見える記事の一部でしかないのだが、そこから何を読み取っているのか不明だ。だが、前のめりになってそれを見る目は真剣そのものだった。
「何を――?」
声が聞こえていないのか、返事はなく視線もこちらを向かない。――そういえばヴァイスも何か新聞について触れていたと思い出す。
この友人が落ち込んでいるという説明があり、それが新聞を見ればわかるとも言っていたはずだ。――見えている情報が天気しかないのだが、それのことだろうか。
触れていいか分からない話題に悩んでいると、深いため息とともに彼がソファに深く座り直した。
「はぁー……、これほど多くのもを用意してくれて感謝する。おかげで心配事がひとつ解決できた。」
「もう……、新聞はいいのか?」
「いや、目を通す。――少し読んでいってもいいか? 持って帰ると面倒だから、ここで読ませてもらうと助かるんだが……。」
ちらりと並んでいるものに目をやる。その欄を気にしたことがないので向こうの普段の天気がわからないのだが、何日か曇りが並んだ後、晴れや雨といった天気が続き、こちらとあまり変わらないように見えた。聖都は砂漠に隣接した場所にあるので、気温や湿度を見ても正直変なところがあるのかよくわからなかった。
「好きにするといい。こちらの新聞は今日の分しかないけど、それもよければ……」
「気遣いに感謝する。だが、他のはいい。――私があまり情報を得るものよくないからな。」
断られると思わず、驚いていると、申し訳なさそうな顔がこちらに向いた。
「……悪く思わないで欲しいんだが、向こうでもそうなんだ。人を介した情報であればいいのだが、公開されているものでも、こちらのことを私が深く知ることは控えている。――女王がいい顔しない。」
「祖母が――?」
先ほど叔父から聞いた話と関わりがあるのだろうか。
「あぁ、うちの当代はよく頭が回る。――私の知る情報はアイツも知ることになると考えれば警戒するのも当然だ。……決して害意がある訳じゃないんだが、女王からすれば小賢しくて嫌なんだろう。……何度も言い負かされているしな。」
「オクタヴィア様が……?」
アイベルも思わず口に出してしまう。強く隙のない祖母が誰かに言い負かされるなど誰も想像もしたことがないことだ。――確かその当代と呼ばれる人は四年前は15歳だったと聞いたが――それほど年齢の変わらない頃から、あの祖母に対峙できるだけの度胸を持ち合わせているのだろうか。
「面白い話でなくてすまないな。だからお前たちに不利になるようなことは私に言わない方がいい。耳にした時点で情報を持ち帰ることになるから、聞かなかったフリはできかねる。」
真面目に忠告をしてくれるも、見えない線が引かれている事実を目の前に出されたようだ。寂寥感が薄ら寒い気持ちと一緒にやって来る。
「……その、昨日会ったとき、あまり俺のことが分からなかったようだが、――それが理由だったりするのか?」
「そうだ。向こうにいる文官たちもその件を知っているから、直接家に関わることやこちらの内政については情報を精査した上で共有してくれている。……みんなうちの当代のことを知っているからな。」
誰も伝えてくれなかった理由が分かるも、あまり心は晴れなかった。
「だが皆お前たちに会えば分かる、と以前から揃って口にしていた。グライリヒ陛下についても多くの者たちが尊敬しているし、その子ども達もいいやつらなんだろうと思っていた。……昨日は顔合わせする予定もあったから、ただ会えばいいと思っていた。――今日の街の反応から見ても彼らの言に間違いはなかったようだ。」
にこりと穏やかな笑みが向けられる。
「街の……?」
「誰もお前たちのことを邪魔しに来なかったただろう? 誰もがお前たちの時間を尊重していた。――もちろん王家の人間だからというのもあるだろうが、治世が安定していることや、お前たちの普段の行いが良くなければあぁはなるまい。誰も邪険にしている様子はなかったと、少なくとも私は感じた。」
「それは、多分普段関わらないからなだけかと……」
今日の出来事に、そのような意味を見出していたとは知らず、目の前の人物からの優しい評価が晴れない胸に響く。
「まぁ、それもいいところなんじゃないか? 相手のことをよく知らなくても、好意を持ってもらえることなんてよくある。――人に好かれるのも長所のひとつだ。私なんかは動物に避けられるしな。」
最後に自嘲が付け足される。だがどの言葉も飾っていないからか、その評価がどれも嬉しく感じた。――単純すぎる自分の心が少し恥ずかしくもなったが、向けられるさやかな想いが悪くなかった。
ローテーブルに広げられていた新聞をまとめると、一番新しいものを手に取り、各ページに目を通し始めた。広げられたスペースにアイベルがいつの間にか用意した紅茶を置く。
手にした新聞紙が擦れ、めくられる音だけが響く。昨日とはまた別の静かな時間だ。
先ほどまではこの静寂が落ち着かないものだったのに、今は違うことが不思議でならなかった。
「――おかげで向こうの状況が知れて助かった。感謝する。」
三日分の新聞を読んで満足したようで、ようやく紙面から目が離される。
「……もういいのか?」
「あぁ。――また次都合がいい時があれば、読ませてくれるとありがたい。」
「いつでも問題ない。――今度は守衛に伝えておくから、……」
誘っておきながら、寮に入ることができなかったのは最大の失態だったろう。――だが、思い直す。
「――いや、また窓から来てもいい。大したことはしていないと思うから、部屋にいるときならばいつもで構わない」
何か言いたげなアイベルが視界の端で見えたが、口出しすることはなかった。
「許可がもらえてありがたい。……窓から来るなと言われるかと思った。」
思わぬ許可が面白かったようで笑っていた。
「――そういえば昨日思ったが、お前は相当疲れているんだな。あの時秒で寝落ちするとは思わなかった。――最速記録だぞ。」
その流れで昨日の夜の話を突然され、心臓が跳ねる。――記憶がすぐなくなったが、そのことだろう。
「……あのとき何を?」
アイベルも相当疲れているという話に心配そうに身を乗り出している。気まずい。
「よく眠れるようにしただけだ。――効きのいいときは二秒くらいでだいたいみんな寝るんだが、まさかあんなに効くとは思わなかった。」
「今朝、殿下がよくお休みになっていたのはフィフス殿のおかげだったのですね。――ありがとうございます」
「昨日みたいなひどい日は休むのも大変かと思ってな。役に立てたならよかった。」
満足そうにしている様子がなんだか微笑ましく思う。先ほどまで気まずさが勝っていたのだが、気になることをついでに確認することにした。
「昨日、ここで寝た後、どうしてベッドにいたのか分からないんだが……」
「それは外にいたゾフィの執事たちに任せたからだ。それ以外は何もしていない。」
「帰らせたはずだけど、まだ――」
まさかまだいたとは――、気付かなかった。
「あぁ。でもゾフィは女王の命令で来てたし、最後まで命を遂行するまで帰らないヤツだろ。」
自分よりもあのメイドについて詳しい様子に、叔父から聞いた話を思い出す。――何か面倒に巻き込まれているんじゃないかと。朝叔父の前で行われたゾフィとヴァイスのやり取りについての話などを考えると、ただの知り合いに思えなかった。
「……叔父上から今朝の話を聞いたけれど、祖母や父となにかあったのだろうか。叔父上が貴方が面倒に巻き込まれているんじゃないかと心配していた」
先ほどまで笑顔を見せていた顔がなくなり、こちらの質問におもむろに横へ逸れる。何かあるのだろうが、言いたくない様子だ。――隠し事が心底苦手な様子に苦笑する。
「――言いたくないならいい。ただ困っていることがあればと」
悩ましげに背けた顔が言葉を探しているようで、眉間に手を当てている。
「……何かあったといえばそうなのだが、今は言いたくない。――この件について、いずれお前たちに協力して欲しいこともある。……だがどうすべきかまだ検討中で、……とりあえず今は親しくしてるだけで十分だ。」
「親しく……? それだけでいいのか?」
「あぁ。そうしてくれると助かる。――ヨアヒム殿下にもそう伝えてくれればありがたい。」
困っていることが親しくすることで解消されることなのだろうか。関連性が分からないが、今のような関係を続けることが友人の助けになるのであれば、悪い話ではないような気がしてくる。
そうだ――、親しくなれることは自分にとっても嬉しい話だ。
「分かった。何かあれば教えてくれ。――貴方のことが大事だから、これからも親しくありたい」
すぐ隣に座る彼に向かいまっすぐと伝えると、煩わしげに困っていた顔がこちらを向く。
言葉に気持ちが乗ったとしても、その気持ちがすべて相手に届くことはないだろう。届かないものがあったとして、できるだけ短い言葉に、この気持ちが少しでも伝わって欲しいと願いを込めてまっすぐと見つめた。
このような機会を得るなんて考えたことがなかったのだ。たとえ束の間、須臾の夢ほどの短い時間だとしても、今の気持ちを少しでも伝えたかった。
黒く染められたまつ毛がその目を隠し、再び開かれると力強くまっすぐとこちらに注がれる。
「有難い申し出だ。――どうか、よろしく頼む。」
握手を求められ、自分よりも小さなその手を握る。力強く握り返されるその手の平が頼もしくもあるが、やはり小さくてどこか頼りなげに感じた。
「もう寝るならまた寝かしつけてやろうか。」
さらりと先ほどの続きに引き戻される。
「……あれって、他の人にもやってるの?」
「嫌だったか? 身内や友人にはしている。」
なら昨日から友人にカウントしてくれているのだろう。悪くない話だ。――昨日は距離の詰め方に戸惑ったが、気兼ねする時間も今はもったいないとすら感じる。アイベルのいる手前気まずいと思っていたが、開き直った今はもう気にする必要もないだろう。
「嫌じゃない、今日もしてほしい――」
立ち上がり、寝室へ向かう。侍従が何が始まるのかと戸惑っている様子が伝わり、その場で待機してもらう。昨日の様子から別に時間のかかることではないのだ。――眠りに落ちる前まで傍にいてくれるなど、こんなに嬉しいことはないだろう。
「……もしかして眠いのか? すぐ寝かしつけてくるから少し待っててくれ。」
アイベルに話しかけているようで、戸惑う彼を置いてついてきてくれた。
「でっか――! なんだこのベッド!」
灯りのない寝室に入るなり視界に入るそれに驚いたようで、フィフスのテンションが上がったようだった。まさかそこでそういう反応をされると思わず、振り返る。
「え? ……お前の身長がそんなにあるのも、まさかベッドがでかいから……?」
信じられないものを見るように、驚きに満ちた眼差しがこちらに向けられる。
「……たぶん関係ないと思う」
「まて、一体何人寝れるんだ。……詰めれば四,五人はいけそうだな。――ちょっと大きさを測ってもいいか?」
すぐに別のことに気が移ったようで、どこに持っていたのかメジャーを取り出しおもむろに測量を始めた。
「……そんなものまで持ってるんだ」
どういうタイミングで使うのだろうか。――いや、今使っているなと思わず自分で突っ込んでしまう。突然そんな情熱をこのような場所で発揮され、しばし様子を眺めることにした。
楽しんでいるのだろうか、生き生きとした様子がなんだかおかしかった。
「殿下、大丈夫でしょうか……」
待つように指示をされたものの、何か様子がおかしいことを心配したアイベルが遠くから声を掛ける。
「なぁ――、王子がこのサイズなら王とか女王って更にベッドが大きくなるのか……?」
図り終わったのかこちらに来て、神妙な顔で尋ねられる。
「どうだろう……。父は確か大きかったけれど、祖母の部屋は尋ねたことがないから分からないな……」
「なるほど――。ありがとう、勉強になった。」
何か学びを得るものがあっただろうか。
「待たせてすまない。――さぁ。こっちへ早く。」
そのままのテンションで急かされる。先ほどの少し真面目だった雰囲気も台無しだ。――でも存外悪い気がしないのは、この気安さからか。
普段暗く静かで味気ないこの寝室が、今はこの友人のおかげで賑やかでいつもより明るく楽しい場に感じる。
背が高すぎるからとベッドに腰かけるよう言われ、友人の方が少し目線が高くなる。
「遅くなって悪かったな。今日もゆっくり休むといい。」
昨日ヴァイスにしていたように友人が両手を広げると、触れていいのかとためらいがちに抱き寄せる。――細い身体だ。伝わる体温が心地よく、呼吸とともに友人の匂いがする。――あまりよろしくないのではと、片隅で思うもそのまま意識は今日も沈んでいく。
一体その時はどうやって時間をつぶしていたのか、思い出せないほど今は考えがまとまらなかった――。
ひとりの時間をいままでどう過ごしていただろう――。読書や勉強に費やしていた気がする。姉弟たちといれば歓談することもあったが、それでもなにかひとりでいたはずだ。自分がどうしてこうなっているのか分からなかった。
本を手にしても一行も頭に入ってこない。ふと時間を見ると大して過ぎていない。今度は予習でもと教科書やノートを開いてみるも、同じように思考が散漫とするばかりでどことなくぼんやりする。
今日が楽しかったから、思ったより疲れているのだろうか。
意味もなくちらりと時計を見るも、待ち人がくる気配を教えてはくれなかった。――忙しいのだろう。半ば今日はもう来ないかもとぼんやり考えているとアイベルがいつの間にか傍に来ており、なんだか見覚えのある封筒を手にしていた。
「――今朝ヴァイス卿がお持ちしたこちらの封筒、中身を確認いたしませんか? 無用のものであればいつも通りいたしますので」
あぁ、そんなものがあったな。なんて言って持ってきたかは忘れたが、結構な大きさのあるそれを受け取る。
ずしりと重みのあるそれは硬く、それなりに厚みがあった。――手の感触からハードカバーの本のように思えた。
もし本であるなら、結構な大きさのあるこれもやはり禄でもないものの気がして、このまま処分してもいいのではと投げやりに考える。
裏返すと丸タックと玉紐がついており、マチも付いているこれは書類用の封筒のようだ。封筒自体は何度か使用したのか真新しいものには見えず、きっと流用したのだろう。――どちらかというとこういう細かい部分まで気を遣うタイプなので、気にかかるも、中身がそれほど大したものではないということなのかもしれない。
丸タックにかかる紐をくるくると外し、フラップを開き中からそれに手をかけ取り出す――。
「…………?」
封筒から取り出したそれがよくわからなかった。
本ではある。ハードカバーに巻かれたフルカラーの表紙に大きく人物が映っており、取り出した拍子に目が合う。
「――そ、そんなものがあるのですね……」
少し困った様子のアイベルがなけなしの感想を述べているが、やはりよくわからなかった。
「誰?」
「えっ、これは、その……。私見ですが、東方天さまのように見受けられますが……」
――東方天? 今日何度か写真を見る機会があったけれど、ブロンドと青い眼は同じだが、同一人物には見えなかった。裏返してみるも、この人物が誰かは書いていない。表紙をもう一度見返し、こちらに視線を送る人物を見てみる。
「……違くないか」
愛嬌のある笑み――、と言えなくもないが、手にした相手に媚びるように細められた表情に、隙の無い白い軍服を着た少女だ。
「そうでしょうか……? ヴァイス卿の姪御様ですし、彼がわざわざ似た他人の写真集を持ってくるなんて……」
アイベルもそこまで言ってから、あり得る可能性に思い当たったのか言葉を濁す。やっぱり禄でもないものだ。ため息とともに封筒に戻し机の上に放り出しながら、ソファに深く身体を預けた。
乱暴な態度に驚く侍従は、機嫌を損ねたと慌てていた。
「でも、もしご本人様でしたら――」
そんな訳があるはずがない。こんなにも違うと頭が拒否しているのだ。――次にヴァイスにあった際に伝える文句が増えていき、不快感も募る。
頬杖をつき、火の灯る暖炉に目を向ける。誰だか知らないが、あの人を汚すような真似をしているこの本を投げ入れてもいいのではと考えた。
コンコン。
小さなノックの音が聞こえる。――だが背後から届くその音に二人で振り返る。扉は自分の正面にあり、背後にあるのは窓なのだ。――しかもここは七階だ。
「――殿下、お下がりください」
警戒から傍に寄り、小さな声で下がるように侍従が言いながら腰の剣に手を伸ばしていた。
でも分かる。――あの人が来たのだ。以前セーレが、窓から出入りして困っていると話していたことを、期待感と共に思い出す。
忠告を無視し、閉じられたカーテンを開ける。――自分を呼ぶ声がするが、ガラスの向こうに見えるものが先に映る。
「すまない、随分遅くなってしまった……。」
どうやって立っているのか分からないが、宙に立っているように見えた。真っ暗な窓の向こうにいる人物に驚ているようで、アイベルは言葉を失っている。
「入口で追い返されてな。――仕方なくこちらから様子を見に来た。……驚かせてしまったな。」
昼間会ったときとは違い、コートを羽織っているようだった。硝子越しに伝わる不明瞭な声が申し訳なさそうにしているのだが、窓の開け方が分からず、アイベルに頼むことにした。呆気に取られていた侍従が、なんとか来訪者を部屋に入れると、夜風が一緒に部屋に入り一瞬冷える。
「ど、どうして……」
「見るからに学生でもないからな。普通に不審者として追い返されてしまった。――きちんと仕事をしていて偉いな彼は。」
なぜここから来たのか理解し難かったようで、アイベルが尋ねた。
不審者として追い返されたというのが申し訳なかった。
「守衛に伝えるべきだった……。――気が利かなくてすまないことをした」
「いや、警備体制がしっかりしていることが分かって安心したくらいだ。別に窓から伺えばいいと思っていたし。」
ふっと不敵に笑う自信のある力強さのある目が、先ほど見たものと全然違った。――自分が知っているのはこの目だ。安堵感から先ほどのいら立ちが消える。
「どうやって窓の外に立って、……浮遊術か?」
「いや、精霊を足場にして立っていただけだ。――これ、遅れた分のお詫びだ。」
コートのポケットから小さな包みを渡される。
「うちの者が、借りている宿舎のキッチンをいたく気に入ったようでな。たくさん作っていたからお裾分けだ。」
アイベルにも同じ包みを渡す。開いてみるとフィナンシェだろうか。焼き菓子が三つ出て来た。
「……正直、中を通るよりこの窓の方が宿舎から近いから楽だな。ちなみにあそこだ。なにか用があれば立ち寄ってくれ。いつも誰かいるし、話し好きの奴らだから声を掛ければ皆喜ぶだろう。」
中途半端に開かれたカーテンの先を指さす。普段は使用していない建物のひとつに明かりがついていることに気付く。――目と鼻の先にいたのかと初めて知る。
羽織っているコートを脱ぐと、日中見たときと服が変わっているようだった。わざわざ着替えたのだろうか。――まだ状況についていけてないアイベルが、慌てて彼からコートを預かった。
身軽になった彼に席を勧め、昨日と同じように隣に座った。
「……随分と会議が長引いたんだな」
「あぁ……。少し予定が変わってしまってな、別のことを考えていたらあっという間に夜だ。ヨアヒム殿下が来てくれなければもっと遅くなっていたかもしれん。――もしかして、もう休むところだったか?」
夕方まで一緒にいた叔父とあの後会ったのか。会うとは聞いていなかったので、変わった予定のおかげで無事に来てくれたのだと感謝する。
「いや、少しアイベルと話してただけだから気にしないでくれ」
「それならよかった。――ここに来る前に少し良くない場所にいたから身を清め、今日の分の雑事を終わらせていたせいでだいぶ遅れた。」
余程慌ただしかったのだろう、言葉に疲労感が滲んでいるようだった。
「……まさか、伽を?」
「アイベル、――失礼なことを言うな」
ふとした疑問だったのだろうが、彼の不愉快な邪推に、暖かだった気持ちに水を差されて冷めていく。
「も、申し訳ありません……。フィフス殿、大変失礼致しました」
「――? よく分からないが、私は気にしていない。」
「彼が失礼なことを言ってすまない……。どうか忘れてくれ」
「わかった。――だが、もしなにか武器の手入れが必要なら慣れているから任せろ。私も砥石なら持っている。」
自信満々に見当違いなことを言う様を見て、アイベルも本当に違うことを理解したようだった。しかし不躾な言葉をこの人にぶつけられたことが許せず、気持ちの切り替えがすぐにはできそうになかった。
「もしかしてこの部屋にもなにかあるのか? できれば魔剣というものを見てみたい。――普段誰か所持しているのか? 武器保管庫とかこの寮にあったりするのだろうか。」
「いえ、殿下は所持しておりませんし、この寮にもそのようなものは……」
「そうなのか? 護身用に何も持っていないのか?」
うつむく自分の顔を覗き込まれ、こちらを伺う青い眼が懸念に満ちていた。
「一本くらい所持していた方がいいんじゃないのか? 私も普段隠し武器も含めて十は持っているぞ。」
「…………そんなに?」
「あぁ。――見てろよ。」
その場で立つと、どこからともなく大小さまざまなナイフが次々に出てきて、机の上に並べていく。服の下にいくつ隠していたのかと、呆気にとられてしまう程だった。
「あとこのブーツは特注でな。この中に仕込みナイフがある。さすがにこれは危ないから見せてやれないが。」
「……重そうだ」
一通り出し終わったようで、満足そうにまたソファに座る。先ほど失言した侍従もこの様子に呆気に取られていた。
「普段からこれくらいの備えを私でもしている。この重さも別に鍛錬だと思えば大したことはない。体重のかさましになるしな。」
身長だけでなく体重もかさまししているのかと、いらない知識が増えふっとひとつ気が抜ける。こちらの様子に満足したのか、一度出されたナイフたちが元の場所に仕舞われていく。
「――剣もあるのに、厳重なんだな」
「あぁ、これは飾りだからな。仕掛けがついていて、簡単に抜けないようになっている。」
飾りと言う言葉の意味が分からなくて、帯剣しているそれを見る。――鞘はシンプルな作りで、鍔や握りが金の細かな装飾が施されており、交差したところに乳白色で透明感のある石がはめられているようだった。宝石の類ではないようで、いくつもの雪の結晶が石の中にあるようにも見える。
「当家からこちらでの過度な戦闘は禁止されていてな、抜けば抜剣したことが分かるようになっている。――そういう制約の剣だ。」
「……どうしてそのような制約が――?」
アイベルが尋ねる。今日も護衛役としてついていたと思っていたからだろう。
「鍛錬のひとつだな。――ひとつの事に頼りすぎるのはよくないと教えられていて、その一環だ。別にこれは剣として使えなくても、受け身もとれるし、殴れば鈍器だ。問題ない。――剣がなくとも私は強いからな。」
剣を鈍器に使うとは、さすがにそのような発想がなかったためか、侍従もなにやら真面目に話を聞いているようだった。
――この人のおかげで気まずい空気がなかったことになる。
もしかしたらわざと話をずらしてくれたのかもしれない。そんな気遣いを、忙しい中来てくれてたこともどれもが申し訳なかった。
「それで、頼んでいた新聞だが、読ませてもらってもいいだろうか? ――今日も疲れているだろう? 遅れてしまった私が言うべきでないが、あまり遅くなってはお前たちにも申し訳ないからな。」
彼の言葉に侍従が用意していた新聞を運んでくる。普段は聖都、ピオニール、王都と全部で三種類の新聞を読んでいた。一応今日の分もあるが、聖都の新聞はちょうど襲撃事件後からしばらく手を付けていなかったため二週間とちょっとが手元にあり、移動の間読めなかった分も目を通すかと思い用意してもらっていた。
「こんなにあるのか――。正直驚いた。用意してくれて感謝する。」
「普段は何を読んでいるの?」
聖都の新聞がやはり気になるようで、手にして日付順に、新聞の名が見えるように重ねて並べていた。――少し不思議な並びに、どうやって読むつもりなのか気になった。
「……そうだな。聖国関係の新聞の新聞を一通りだな。それ以外は他の者から話を聞くことが多い。」
並べ終わるとじっと並べたそれを見ているようだった。――見えている部分が新聞名と天気、あとは隙間から見える記事の一部でしかないのだが、そこから何を読み取っているのか不明だ。だが、前のめりになってそれを見る目は真剣そのものだった。
「何を――?」
声が聞こえていないのか、返事はなく視線もこちらを向かない。――そういえばヴァイスも何か新聞について触れていたと思い出す。
この友人が落ち込んでいるという説明があり、それが新聞を見ればわかるとも言っていたはずだ。――見えている情報が天気しかないのだが、それのことだろうか。
触れていいか分からない話題に悩んでいると、深いため息とともに彼がソファに深く座り直した。
「はぁー……、これほど多くのもを用意してくれて感謝する。おかげで心配事がひとつ解決できた。」
「もう……、新聞はいいのか?」
「いや、目を通す。――少し読んでいってもいいか? 持って帰ると面倒だから、ここで読ませてもらうと助かるんだが……。」
ちらりと並んでいるものに目をやる。その欄を気にしたことがないので向こうの普段の天気がわからないのだが、何日か曇りが並んだ後、晴れや雨といった天気が続き、こちらとあまり変わらないように見えた。聖都は砂漠に隣接した場所にあるので、気温や湿度を見ても正直変なところがあるのかよくわからなかった。
「好きにするといい。こちらの新聞は今日の分しかないけど、それもよければ……」
「気遣いに感謝する。だが、他のはいい。――私があまり情報を得るものよくないからな。」
断られると思わず、驚いていると、申し訳なさそうな顔がこちらに向いた。
「……悪く思わないで欲しいんだが、向こうでもそうなんだ。人を介した情報であればいいのだが、公開されているものでも、こちらのことを私が深く知ることは控えている。――女王がいい顔しない。」
「祖母が――?」
先ほど叔父から聞いた話と関わりがあるのだろうか。
「あぁ、うちの当代はよく頭が回る。――私の知る情報はアイツも知ることになると考えれば警戒するのも当然だ。……決して害意がある訳じゃないんだが、女王からすれば小賢しくて嫌なんだろう。……何度も言い負かされているしな。」
「オクタヴィア様が……?」
アイベルも思わず口に出してしまう。強く隙のない祖母が誰かに言い負かされるなど誰も想像もしたことがないことだ。――確かその当代と呼ばれる人は四年前は15歳だったと聞いたが――それほど年齢の変わらない頃から、あの祖母に対峙できるだけの度胸を持ち合わせているのだろうか。
「面白い話でなくてすまないな。だからお前たちに不利になるようなことは私に言わない方がいい。耳にした時点で情報を持ち帰ることになるから、聞かなかったフリはできかねる。」
真面目に忠告をしてくれるも、見えない線が引かれている事実を目の前に出されたようだ。寂寥感が薄ら寒い気持ちと一緒にやって来る。
「……その、昨日会ったとき、あまり俺のことが分からなかったようだが、――それが理由だったりするのか?」
「そうだ。向こうにいる文官たちもその件を知っているから、直接家に関わることやこちらの内政については情報を精査した上で共有してくれている。……みんなうちの当代のことを知っているからな。」
誰も伝えてくれなかった理由が分かるも、あまり心は晴れなかった。
「だが皆お前たちに会えば分かる、と以前から揃って口にしていた。グライリヒ陛下についても多くの者たちが尊敬しているし、その子ども達もいいやつらなんだろうと思っていた。……昨日は顔合わせする予定もあったから、ただ会えばいいと思っていた。――今日の街の反応から見ても彼らの言に間違いはなかったようだ。」
にこりと穏やかな笑みが向けられる。
「街の……?」
「誰もお前たちのことを邪魔しに来なかったただろう? 誰もがお前たちの時間を尊重していた。――もちろん王家の人間だからというのもあるだろうが、治世が安定していることや、お前たちの普段の行いが良くなければあぁはなるまい。誰も邪険にしている様子はなかったと、少なくとも私は感じた。」
「それは、多分普段関わらないからなだけかと……」
今日の出来事に、そのような意味を見出していたとは知らず、目の前の人物からの優しい評価が晴れない胸に響く。
「まぁ、それもいいところなんじゃないか? 相手のことをよく知らなくても、好意を持ってもらえることなんてよくある。――人に好かれるのも長所のひとつだ。私なんかは動物に避けられるしな。」
最後に自嘲が付け足される。だがどの言葉も飾っていないからか、その評価がどれも嬉しく感じた。――単純すぎる自分の心が少し恥ずかしくもなったが、向けられるさやかな想いが悪くなかった。
ローテーブルに広げられていた新聞をまとめると、一番新しいものを手に取り、各ページに目を通し始めた。広げられたスペースにアイベルがいつの間にか用意した紅茶を置く。
手にした新聞紙が擦れ、めくられる音だけが響く。昨日とはまた別の静かな時間だ。
先ほどまではこの静寂が落ち着かないものだったのに、今は違うことが不思議でならなかった。
「――おかげで向こうの状況が知れて助かった。感謝する。」
三日分の新聞を読んで満足したようで、ようやく紙面から目が離される。
「……もういいのか?」
「あぁ。――また次都合がいい時があれば、読ませてくれるとありがたい。」
「いつでも問題ない。――今度は守衛に伝えておくから、……」
誘っておきながら、寮に入ることができなかったのは最大の失態だったろう。――だが、思い直す。
「――いや、また窓から来てもいい。大したことはしていないと思うから、部屋にいるときならばいつもで構わない」
何か言いたげなアイベルが視界の端で見えたが、口出しすることはなかった。
「許可がもらえてありがたい。……窓から来るなと言われるかと思った。」
思わぬ許可が面白かったようで笑っていた。
「――そういえば昨日思ったが、お前は相当疲れているんだな。あの時秒で寝落ちするとは思わなかった。――最速記録だぞ。」
その流れで昨日の夜の話を突然され、心臓が跳ねる。――記憶がすぐなくなったが、そのことだろう。
「……あのとき何を?」
アイベルも相当疲れているという話に心配そうに身を乗り出している。気まずい。
「よく眠れるようにしただけだ。――効きのいいときは二秒くらいでだいたいみんな寝るんだが、まさかあんなに効くとは思わなかった。」
「今朝、殿下がよくお休みになっていたのはフィフス殿のおかげだったのですね。――ありがとうございます」
「昨日みたいなひどい日は休むのも大変かと思ってな。役に立てたならよかった。」
満足そうにしている様子がなんだか微笑ましく思う。先ほどまで気まずさが勝っていたのだが、気になることをついでに確認することにした。
「昨日、ここで寝た後、どうしてベッドにいたのか分からないんだが……」
「それは外にいたゾフィの執事たちに任せたからだ。それ以外は何もしていない。」
「帰らせたはずだけど、まだ――」
まさかまだいたとは――、気付かなかった。
「あぁ。でもゾフィは女王の命令で来てたし、最後まで命を遂行するまで帰らないヤツだろ。」
自分よりもあのメイドについて詳しい様子に、叔父から聞いた話を思い出す。――何か面倒に巻き込まれているんじゃないかと。朝叔父の前で行われたゾフィとヴァイスのやり取りについての話などを考えると、ただの知り合いに思えなかった。
「……叔父上から今朝の話を聞いたけれど、祖母や父となにかあったのだろうか。叔父上が貴方が面倒に巻き込まれているんじゃないかと心配していた」
先ほどまで笑顔を見せていた顔がなくなり、こちらの質問におもむろに横へ逸れる。何かあるのだろうが、言いたくない様子だ。――隠し事が心底苦手な様子に苦笑する。
「――言いたくないならいい。ただ困っていることがあればと」
悩ましげに背けた顔が言葉を探しているようで、眉間に手を当てている。
「……何かあったといえばそうなのだが、今は言いたくない。――この件について、いずれお前たちに協力して欲しいこともある。……だがどうすべきかまだ検討中で、……とりあえず今は親しくしてるだけで十分だ。」
「親しく……? それだけでいいのか?」
「あぁ。そうしてくれると助かる。――ヨアヒム殿下にもそう伝えてくれればありがたい。」
困っていることが親しくすることで解消されることなのだろうか。関連性が分からないが、今のような関係を続けることが友人の助けになるのであれば、悪い話ではないような気がしてくる。
そうだ――、親しくなれることは自分にとっても嬉しい話だ。
「分かった。何かあれば教えてくれ。――貴方のことが大事だから、これからも親しくありたい」
すぐ隣に座る彼に向かいまっすぐと伝えると、煩わしげに困っていた顔がこちらを向く。
言葉に気持ちが乗ったとしても、その気持ちがすべて相手に届くことはないだろう。届かないものがあったとして、できるだけ短い言葉に、この気持ちが少しでも伝わって欲しいと願いを込めてまっすぐと見つめた。
このような機会を得るなんて考えたことがなかったのだ。たとえ束の間、須臾の夢ほどの短い時間だとしても、今の気持ちを少しでも伝えたかった。
黒く染められたまつ毛がその目を隠し、再び開かれると力強くまっすぐとこちらに注がれる。
「有難い申し出だ。――どうか、よろしく頼む。」
握手を求められ、自分よりも小さなその手を握る。力強く握り返されるその手の平が頼もしくもあるが、やはり小さくてどこか頼りなげに感じた。
「もう寝るならまた寝かしつけてやろうか。」
さらりと先ほどの続きに引き戻される。
「……あれって、他の人にもやってるの?」
「嫌だったか? 身内や友人にはしている。」
なら昨日から友人にカウントしてくれているのだろう。悪くない話だ。――昨日は距離の詰め方に戸惑ったが、気兼ねする時間も今はもったいないとすら感じる。アイベルのいる手前気まずいと思っていたが、開き直った今はもう気にする必要もないだろう。
「嫌じゃない、今日もしてほしい――」
立ち上がり、寝室へ向かう。侍従が何が始まるのかと戸惑っている様子が伝わり、その場で待機してもらう。昨日の様子から別に時間のかかることではないのだ。――眠りに落ちる前まで傍にいてくれるなど、こんなに嬉しいことはないだろう。
「……もしかして眠いのか? すぐ寝かしつけてくるから少し待っててくれ。」
アイベルに話しかけているようで、戸惑う彼を置いてついてきてくれた。
「でっか――! なんだこのベッド!」
灯りのない寝室に入るなり視界に入るそれに驚いたようで、フィフスのテンションが上がったようだった。まさかそこでそういう反応をされると思わず、振り返る。
「え? ……お前の身長がそんなにあるのも、まさかベッドがでかいから……?」
信じられないものを見るように、驚きに満ちた眼差しがこちらに向けられる。
「……たぶん関係ないと思う」
「まて、一体何人寝れるんだ。……詰めれば四,五人はいけそうだな。――ちょっと大きさを測ってもいいか?」
すぐに別のことに気が移ったようで、どこに持っていたのかメジャーを取り出しおもむろに測量を始めた。
「……そんなものまで持ってるんだ」
どういうタイミングで使うのだろうか。――いや、今使っているなと思わず自分で突っ込んでしまう。突然そんな情熱をこのような場所で発揮され、しばし様子を眺めることにした。
楽しんでいるのだろうか、生き生きとした様子がなんだかおかしかった。
「殿下、大丈夫でしょうか……」
待つように指示をされたものの、何か様子がおかしいことを心配したアイベルが遠くから声を掛ける。
「なぁ――、王子がこのサイズなら王とか女王って更にベッドが大きくなるのか……?」
図り終わったのかこちらに来て、神妙な顔で尋ねられる。
「どうだろう……。父は確か大きかったけれど、祖母の部屋は尋ねたことがないから分からないな……」
「なるほど――。ありがとう、勉強になった。」
何か学びを得るものがあっただろうか。
「待たせてすまない。――さぁ。こっちへ早く。」
そのままのテンションで急かされる。先ほどの少し真面目だった雰囲気も台無しだ。――でも存外悪い気がしないのは、この気安さからか。
普段暗く静かで味気ないこの寝室が、今はこの友人のおかげで賑やかでいつもより明るく楽しい場に感じる。
背が高すぎるからとベッドに腰かけるよう言われ、友人の方が少し目線が高くなる。
「遅くなって悪かったな。今日もゆっくり休むといい。」
昨日ヴァイスにしていたように友人が両手を広げると、触れていいのかとためらいがちに抱き寄せる。――細い身体だ。伝わる体温が心地よく、呼吸とともに友人の匂いがする。――あまりよろしくないのではと、片隅で思うもそのまま意識は今日も沈んでいく。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
《作者からのお知らせ!》
※2025/11月中旬、 辺境領主の3巻が刊行となります。
今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。
【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん!
※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。
詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~
Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」
病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。
気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた!
これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。
だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。
皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。
その結果、
うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。
慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。
「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。
僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに!
行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。
そんな僕が、ついに魔法学園へ入学!
当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート!
しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。
魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。
この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――!
勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる!
腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる