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53.開幕は蒼穹の『剣舞』より③
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レンガ作りの講堂へと辿り着く。丸みを帯びた褪せた青色の屋根と、白い壁が晴天に反射していた。
馬車を降りると、賑やかさがずっと大きくなる。顔を合わせている学生たちも、週末振りの再会だからか、集会の前は毎回こんな感じだ。
ただ、なんとなくいつもより喧噪が大きい気がする。周囲を見渡せば、こちらに向かって制服を着た者たちの視線が多いことに気付いた。
先日、街を歩いたせいかもしれない。
あの人なら彼らにも手を振り声に応えてくれるのだろうが、いつも通り気にせず先へ続く階段へと進んだ。
講堂には備え付けの席がずらりと並んでおり、集会で使うことも出来るが演劇などの舞台として活用することもある。一応、席を撤去して開けた場所として活用することも可能だ。
到着した順に適当な場所に座るのだが、下流の学生は一階、上流は二階と三階の席を使うよう分かれている。
三階の中央にしきりがあるのだがそこが自分たちの居場所であり、祖母が普段使う王座もひとつ分高い位置に用意されている。毎回顔を出すわけじゃないので空席の事が多く、また父が来た時にそこに座ることもあるため、軽率に寄れない一角となっていた。
「おはよう、二人ともやっと来たのね」
姉といとこたちが既に座っており、叔父も彼女たちの傍らで立っていた。
「おはようございます、姉さま!」
しきりの中に入るなり姉の元へ弟が駆けて行き、今度は姉にくっついていた。
「なにやら楽しいことになっているそうね」
レティシアがご機嫌そうに艶っぽい笑みを見せていた。
昨日の件は、既に皆知っているのだろう。
「……えぇ、さっきもその件でコルネウスたちに話しかけられました」
「ふふっ、みんなで取り合って楽しいわね。私も絶対見に行くわ」
「……決闘だぞ? 荒事なんて見てなにが楽しいんだ」
叔父がため息交じりに呟いていた。
「そうよ、ディアスもいい迷惑でしょう。別にロサノワも毎日活動しているんだから、いつでも見に行けばいいじゃない」
コレットが不機嫌そうに言うと、心配げにこちらを伺っていた。
「戦う殿方が近くで見れる上に、従弟が賭けられているなんてこれ以上面白いことなんてあるかしら」
上機嫌なレティシアは腕を組み、高みの見物と言わんばかりだった。彼女の嬉々とした様子に小さくため息をつく。――そのレティシアが隣に座るコレットにひとつ席をズレるよう指示をすると、横に座れと手招きされる。
「それで? ――コルネウスたちはなんと言っていたのかしら」
仕方なしに座るや否や腕を絡まれ、彼女に付き合うことになった。――ここで避けると後々が面倒なので、素直に従った方が賢明だろう。
「別に大した話は……」
「昨日はアイベルが現場にいたのでしょう? ……どんな感じだったの?」
コレットが後ろに立つアイベルへと声を掛けていた。
「偶然居合わせただけですので、全てを知っている訳じゃないのですが……、フィフスは決闘に勝つ自信があるようでした」
「それは貴方の感想でしょう? なんて言ってたのかしら」
レティシアの好奇心に満ち溢れた瞳に大いに見られ、アイベルがたじろいだ。
「…………その、皆さまのお耳に入れるには少々憚られるのですが」
今朝はさらりと言っていたが、もしかしたら気を使い婉曲的に伝えたのだろうか。皆の注目が侍従へと向く。
「まぁ! どんなことなの? 聞かせてちょうだい」
レティシアの好奇心に満ちた瞳に催促され、観念した様子でひとつ呼吸を整えていた。
「……決闘の件で殿下が心配されるかもとお伝えしたら、『どのような立ち位置の者たちか興味はないが、この私に足元を掬われ、不様に地に這う様でも見せてやろう』――――。確かそう仰っていました」
強い言葉にぱっとレティシアの顔が華やいだ。
「なんて不遜な言葉なの? なら不様に地を這うさまを見に行って差し上げなくてはね。コルネウスは特にいい顔をしてくれそうね」
うんうんと頷きながら、期待感に胸を膨らませているようだった。
「やめてあげなさい……。あのプライドの高い彼のことよ? そんなことになったら逆に面倒だわ」
姉が横から呆れた様子でレティシアを窘めていた。
「はぁ……いいわねぇ、私もそう言ってもらいたいわ。――ディアス、そんなことを言ってもらってどんな気持ちなの?」
急に話題を振られ、口元を隠して考えた。
正直悪い気はしない。
先程も絡まれて辟易したが、あの人が味方でいることの方がずっと大きい。
だが姉たちにそんな気持ちを伝える気はなかった。ふと小さく笑い、
「――――そこまで言ってくれるなら勝ってもらうしかない、と」
「そうよねぇ。強い言葉を使っておきながら負けたら、それはそれで面白いのだけれど」
「負けることはないかと」
「あら、自信ありげね? いいわ、私と賭けましょう」
つい張り合ってしまい余計なことを口走れば、レティシアの賭け事が始まりかけた。
「……そこ、賭け事はやめなさい」
後ろに立つ叔父が嘆息した。振り返り見れば、あまり元気がない姿だった。
「ふふっ、お父様ってばブランディ様をへこませてしまったようで、さっきから気落ちしているようなの」
少し声を落とし、楽し気にレティシアがそう教えてくれた。
「そんなことをするつもりはなかったんだ……」
近くの席に腰を落とし深く後悔している様子に、レティシアだけが楽しげだ。叔父の様子も深刻だが、あの彼がへこむようなことがあったのかと若干戸惑う。
「何があったんですか?」
誰ともなく尋ねてみれば、腕を離したレティシアが頬杖をついて考えていた。
「なんでも伯父様にブランディ様の話をしたら、セーレの耳に入ったらしいの。――そこからブランディ様へ連絡があったせいで元気がなくなってしまった上に、それを知ったお父様もなぜかへこんでいるという話らしいわ」
謎の負の連鎖が起きているようだ。いつもならもう少し話をしてくれそうな叔父だが、よほど深く落ち込んでいるようでひとり何かを抱えていた。
「今朝、会ったのですか?」
昨日の出来事かもしれないが、もしかしてと思い尋ねる。――朝はヴァイスが友人を迎えに行くと聞いていたので、その折に叔父もガレリオにも会うことがあったのではと、何か得られるのではと期待もあった。
「そうみたい。――フィフスから気にしなくていいと言われていたそうだけど、なんだか思いつめているのよねぇ」
レティシアが苦笑していると下手から一人の教師が現れ、同時に校舎の一等高いところにある鐘の音が鳴った。
――――八時半を知らせる鐘の音だ。これから集会が始まる――――。
徐々に講堂の中が静まり返る中、背後にヒールの音が近付いた。ある人物が来ていることを察する。
誰も振り返りはしないが、この国の元統治者であり、現在この学園に君臨する女王陛下がこの場に現れたようだ。
さらさらとドレスの衣擦れの音がより近くなり、椅子に腰かけた気配が伝わる。特に言葉を発する様子はないものの、威圧感が周囲を張り詰めさせる。
一方眼下に広がる舞台を見れば、先ほど現れた教師が女王が席に着いたのに合わせ恭しく一礼し、演台の元へ移動した。
演台の上には、発言者の声をより多くの者たちへ届くよう増幅させる魔術が施された集音機が置かれており、起動させていた。拾われた音は周囲に配置された拡音機を伝い、講堂内に音を届かせる。一呼吸おき、集会の開始を宣言すると、一枚の紙を広げて書かれている伝達事項を読み上げた。
肘をつき舞台の上をぼんやりと眺めてみれば、淀みなく集会が進んでいく。――――ここまではいつもの光景だ。
恙無く進む中、話に飽きたのか人々の囁きが少しずつ聞こえ始める。主にこの声の主は階下にいる者たちだ。振り返り見上げなければ女王が来ていることに気付かないらしく、いつもこれくらいの時分から方々から囁き声が聞こえてくるものだった。
目に余る場合は壁際に待機している教師陣に注意されるが、女王はこの状況を自ら注意したことはない。
わざわざ頂きに立つ者が足元の小石に気を払わないのと同じ、それに触れさせないよう注意を払うべきは周りの人間だ。存在に気付いた教師たちが恐怖に萎縮しながら生徒たちを窘めていく。
「――――続きまして、締結式のためにお招きした聖国からの使節の皆様をご紹介致します」
その声に階下からの騒めきが一層大きくなる。静かにと集音機を通して伝えられるもそのざわめきが鎮まることはなく、いつもと違う空気に教師陣も慌てていた。
舞台の上手からミラを先頭にエリーチェ、リタと順番に現れ、彼女たちの登場に合わせて拍手の音が聞こえる。足りない人物に戸惑っていると、遅れてガレリオとフィフスが上手から登場した。
許可をもらっているのだろう、どちらも帯剣しており、前を行く三人とは立場が違うのが分かる。
また、ガレリオの歩く姿に確かに元気がないように見受けられると思った刹那――――、一気に女子たちの歓声が上がり、講堂内の温度が一瞬で変わった。
普段こんな熱狂的に空気が変わることなどない。どうやら一階にいる学生たちが盛り上がっているようで、歓声まで聞こえてくる始末だ。この状況に三階にいる周囲の人間も戸惑っており、隣のレティシアですらこの空気を不思議そうに見ていた。かすかに見える二階席も戸惑っているのか忙しなくこの状況を確かめているようだ。
なにも気にした素振りもない舞台上のあの人は、歓声に応えるように客席側を眺めては、軽く笑みを送ったり手を挙げて応えていた。――――その対応にまた嬌声が高く上がる。
端にいたリタの近くまでくると、ガレリオが彼女たちの後ろを回りミラの側へ立った。フィフスがリタの側に来れば、エリーチェと三人でなにか声で話しているようだ。
舞台上の人間、教師以外この状況を気にした様子はなかった。
幾人かの教師が場を沈めようと慌てている様子が見えるが、その声が届く気配がないようでなかなか静かにならなかった。
「……これは、なんなんだ?」
叔父もさすがにこの空気に戸惑っているようで、うめくような声が聞こえる。
「――ねぇ、エリーチェの胸ポケットにあるのって……」
コレットがこわごわと声を上げ小さく指で指し示せば、エリーチェの胸ポケットに黒い薔薇が一輪刺さっていた。
「あれって昨日の……?」
それに気付く人がいたのか、次第にどよめく声が混じっていく。
「あら……、煽っているのかしら? ふふっ、なかなかやるじゃない」
軽い調子で関心しているレティシアの声が耳に届くが、内容が入ってこない。
何を話しているのか、舞台上の留学生たちには緊張というものが見えなかった。舞台中央にいるミラはなにか言いたげにガレリオを見ているが、どうにもできず諦めて姿勢を正していた。
「でも、煽るつもりならエリーチェに持たせる意味なんてないんじゃないかしら」
「そうかしら、――これ見よがしに可愛い子に持たせたら、ロサノワとなにかあったと気付く人がほとんどでしょう? 今日は観客が増えそうね」
心配そうな姉と面白がるレティシアが舞台上を見ながら話している。
「あの人どういうつもりなの……? エリーチェまで巻き込むつもりなの――?」
コレットが不安そうに声を掛けてきた。
「……多分、彼女に見せてあげたんじゃないか」
頓着しない性格から、用済みとなった花を彼女に渡した気もするが、昨日渡されたと聞いていたがわざわざここに持ってきて彼女に見せたのだろうか。それも違和感があり、コルネウスたちへ宣戦布告くらいはしそうな気配に、煽り行為の可能性も否定できなかった。
なかなか鎮まらない様子に教師が何度も静かにするよう呼びかけている。
「それにしても、なんで一階の子たちあんなに盛り上がっているのかしら。――ここに来てから学生と交流する時間なんかなかったでしょう?」
姉が前に身体を軽く倒し、レティシアの隣にいる大きな弟を見た。その奥からもエミリオも同じようにこちらを見ているが、こちらとしてもこの状況がよく分からず困った顔で二人を見るだけった。
ただ、あの人がいろんな空気を変えていく空気を直に感じる。
意図したものなのか自然とこうなったのか分からないが、普段とは異なる学園生活が始まる予感だけはおおいに伝わってきた。
舞台上のフィフスがすっと人差し指を口にあて、生徒たちに視線を送れば、混沌とした空気が静かさを取り戻す。
「この場を支配したのはアイツか――」
静かになったところに上から女王の声が降り注ぐ。
「あの小童が既に下流の学生たちの人心を手中に収めている。――数の利を彼奴が手にした以上、ここの全てを変えていく気だ。……くれぐれも足元を掬われるなよ」
皆が振り返れば、薄く笑い眼下の舞台を女王が見ていた。数の利――――、一階には6学年から8学年に在籍する貴族以下の者たちがいる。在籍する年数は少ないけれど、この学園の半分以上の人数がここに集中している。
それもそうだろう――、この国の大半が下流の者たちで形成されており、上位者となる王侯貴族など数で見れば取るに足らない数字でしかない。
慌てて姉弟たちが眼下に広がる光景を見た――。静かになったこの場所で、ミラが演台に近付きなにか話そうとしているところだった。この静寂を齎したその人をみれば、静かに後ろ手を組んで立っていた。
いつどうやって、彼らの関心をあの人は集めたというのか。
ミラの声が滔々と聞こえ始めるが、話しがひとつも入ってこない。
「いつ、そんなことを……?」
「今までずっと仕込んでいたんだろう。それくらいのことは同時に進める奴だ」
戸惑う叔父の問いかけに、目線を舞台上に注ぎながら言った。――いつもの冷たい声に少しだけこの場の高揚が乗っているのか、この状況を楽しんでいるようにも聞こえる。女王の後ろに立つ侍女が静かに微笑んでいた。
肘掛けに乗せていた腕を組み、背もたれに深く身体を預け、喉を鳴らして笑っている声が届く。
「ここの騎士見習い共もさぞかし狼狽えていることだろう、喧嘩を売る相手を間違えたとな。――ヨアヒム、決闘の際気を付けろよ。あの小童は勝敗などに興味はないからな」
「興味がない? ……フィフスは勝つ気でいると聞きましたが」
「勝ち負けなんぞ二の次だ。アレは手加減も手心もしないが、飽きるまで何度でも立たせて戦わせるぞ。階下の連中たちの前でそんなことでもさせてみろ? 流石に貴族共も立ち直れないだろう」
女王の話に一斉に振り返る。――――貴族たちの我慾に巻き込まれたと考えていたが、彼らの実力を見たがっていた楽しげな顔を思い出した。
「……決闘って一度切りじゃないんですか?」
『栄光の黒薔薇』のことを知らないであろうエミリオが尋ねた。
決闘といえば一度きりの勝負が普通だろう。――女王が小さな問いを投げる弟に視線を向け、組んだ腕をまた肘掛けに乗せた。
「学園での決闘など、ただの児戯だ。生死を決するわけでもない以上、いくらでもやり直すことは可能だろう? ――それにあの小童のことだ。力量を悟られない内に迅速に勝ちを拾いに行き、なんだかんだと理由を付けて彼らを戦わせるだろうな。早めに打ち切ってやれよ」
やはり機嫌がよさそうに思える女王へと、戸惑う叔父が尋ねた。
「……陛下は彼と知り合いなのですか?」
「あんな小童、誰が知るか」
興覚めした声でつれなく応えると、頬杖をつき退屈そうに足を組んだ。――ちょうどミラの話も終わったところで拍手が起きていた。
「賭けなくてよかったわね」
レティシアがくすくすと笑いなが耳打ちしてきた。賭ける気などなかったが、きっと終わらぬ勝負に互いに途方に暮れたかもしれない。
「――確かに」
演台に立つガレリオを横目に、従姉につられてくすりと笑った。緊張しているのか表情が硬く、うつむきがちな空気にどことなしに微かな笑い声が起こる。
昨日人前で話すのは無理だと言っていたが、そのせいだろうか。ポケットから原稿を取り出したものの、あまり自信のなさそうな態度に見えこちらも不安になる。
「……えー、本日は貴重な機会を設けていただき、ありがとうございます。……お、私は聖国から来た――」
読み上げるだけのはずだが、この場の空気に負けている。初日にこちらに声を掛けてくれた時よりもずっと頼りなく見えた。
先程叔父がへこませたと言っていたが、それも理由なのだろうか。兵士らしからぬ態度に周囲のざわめきが大きくなる。
「まぁ。あれってお父様のせいかしら」
悪気なくレティシアが言葉を口にすれば、後ろからダメージを食らったようなくぐもった声が聞こえた。
たどたどしい口上が続く中、あの人が前に出た――。先程と同じよう口に指を当て、静かにするようにジェスチャーすると、ざわめきが消えていく。静寂が訪れたのを確認するとガレリオの側へと行く。歩く速さはいつも通りなのに硬い木製の床の上を音もなく静かに移動しており、あの場所だけが切り取られたような不思議な感覚を覚える。――ミラが一瞬止めようとしたが、躊躇いがちに手をひっこめた。
あまりにも静かなのでガレリオも近付いていることに気付いていない。彼の後ろに立つともう一度静かにするよう、衆目にジェスチャーだけで伝えた。その様子にくすくすと笑う声もあったが、先ほどのものよりかは幾分耳に障るようなものではなかった。
一体なにをする気なのか――――?
多くの者がそう思った刹那――――。直立した静かな姿勢のまま右手を上げ勢いよく彼の背中を叩き、パァンと心地よい音が講堂内に響いた。叩かれた拍子に演台に手をつき前のめりになったガレリオが目を大きくしており、何が起きたのかと後ろをゆっくりと確かめていた。
「――――なにしてるんすか…………?」
集音機が驚き戸惑っている彼の声を拾っている。
「それはこっちのセリフだ、なんて様を晒している。皆も聞くに堪えないと困ってるぞ、――――なぁ?」
皆と呼びかけた相手を見ながら同意を求めれば、微かな笑い声に同意が混じる。
「はぁ……? 本当になんなんですか、叩かれた拍子に心臓が飛び出てどっか行ったじゃないですか!」
「蚤みたいな心臓だろ、そんなもの捨てておけ。……申し訳ない。皆の貴重な時間を使わせているのに、随分とつまらぬものを見せた。」
驚き素が出たガレリオを気に留めることはなく、聴衆へと向き直ってこの状況を詫びていた。
舞台上の彼らのやり取りに笑い声が上がっているため、喜劇でも繰り広げられているのではという錯覚すら覚える。今の時間は、一体何だっただろうか――。
「普段はもう少しマシなんだが少々こういう場が苦手でな。……悪いがガレリオを応援してやってくれないか?」
一階にいる学生に語り掛けているようで歩みを舞台のツラまで進め、学生たちのギリギリ傍までやってくる。ずっと見ているのは一階席だ。上にも席があることは分かるはずだが、見上げる気配はない。――この講堂には外からの光を遮光する暗幕カーテンもあるのだが、それは使っていないため陽光が窓から入ってきているので非常に明るい。
舞台上に照明も降り注いでいるが、あの程度で視界が悪くなるということもなかったはずだ。まして舞台上を移動しており、ライトから外れている今も上階を見ようとしないのは、意図して眼中に入れないつもりなのか――――。
「頑張れガレリオー!」
「情けないぞしだんちょー!」
「いいとこみせろー!」
「ガレリオならできるよ! 頑張ってー!」
などと男女の声があがり、徐々にガレリオの名を呼ぶ声が増えていく。
「……何か仕込みでもしてたのかしら?」
ひとつ離れた席の姉がそんな疑問を口にする。舞台上ではまだ声が足りないのか、ゆっくりと舞台上を往復しながら彼らの反応をひとつひとつ拾っては確認しているようだった。
「実は彼、役者だったりする?」
レティシアがこちらにに身を寄せてきたが、明後日の問が耳を抜けていく。
演台に腕をついて前傾姿勢を取っていたガレリオが起き上がると、そちらに注目が集まる――。乱暴に二、三度頭を掻くと集音機を手に取り顔を上げた。
「そ・こ・は、ガレリオ『さん』でしょうが! ――君たちもこの人を真似して呼び捨てにしないで?! 俺、一応の聖国の代表なんですけど!?」
怒声、という程ではないが勢いのある声に自分たちの周囲は鎮まるが、一階の学生たちの琴線に触れたのか、彼を面白がって一層笑い声が大きくなる。
ガレリオにやっと昨日見たような気安さが戻ってきた。一階の学生と舞台上だけが、妙な一体感が出来上がっていることに嫌でも気付く。
「まったくもう……、こんなはずじゃなかったんすけど。――はい、そこの自由人、元の場所に戻りなさーい!」
独り言ちた声が拡声器に乗っていることに気付いてないのか、気を取り直したガレリオがびしりと舞台ツラに立つフィフスを指差した。その人はガレリオを一瞥し、満足げにリタの隣へと戻っていった。
素直に言うことを聞いていることが何かの演目の最中だったかと思う程不自然でありながら、当然の帰結のようにも思えた。その二人の様子にもくすくすとこの舞台を楽しんでいる声が響く。
「スピーチの原稿貰って何度か練習したけど、こういう堅っ苦しい言葉の羅列を読むのは性に合わないんでやめさせてもらいます。――――改めまして、俺は聖都テトラドテオスで東方軍第三師団の長を務めているガレリオ・ブランディだ」
演台に集音機を置き、そのまま両手をついて真剣な顔で前方を見据える。
「どうやら俺の部下たちが君たちに何か言ったようだが、どうせろくでもない事だろ。さっきの件と合わせて忘れてくれ……。締結式を無事に迎えるために来たってことだけ覚えててくれればいい。しばらくヨアヒム様の仕事を手伝わせてもらうことになったから、もし見かけたら声を掛けてくれ。――この学園のことも、君たちの事も教えてくれると助かるし、故郷にここでの話を聞かせてやりたいからな!」
頼りなさげな姿から一転、勢いのある話し方に師団長という肩書がようやく似合う人物に見えた。そして叔父の名を出した際、まっすぐと立ち三階を見上げそちらに手を伸ばし示せば、彼の手の動きに一階の生徒たちが振り返り叔父の存在を確かめようと仰ぎ出す。――――そこで幾人かが女王がいることにも気付いたようで、慌てる顔に変わる者も見えた。
「話は以上だ。今後ともよろしく!」
最後に聴衆に人の好さそうな笑顔をにこりと向けて話は終わった。演台の前で敬礼をすればミラの隣へと帰っていく。――あっという間に終わる挨拶に遅れて拍手が起こり、緩んでいた空気もなくなり講堂内に落ち着きが戻ってくる。
「ね、大丈夫だったでしょ? いつも通りのガレリオくんに戻ったから、ヨアヒムも気にする必要はないさ」
無事に役目を終えたガレリオへと拍手を送っていると、背後から聞き覚えのある声がした。
「君たちも楽しんでるかーい? ふふっ。我らが女王様がいらっしゃるのにあの態度。面白いよね~」
「ヴァイス――、さっきのは何だったんだ……?」
叔父の隣に座ろうとするヴァイスがそこにいた。この状況について何か知っているのではと叔父が尋ねるも、きょとんとした顔をしている。
「……なにって、何が?」
「いや、一階の学生たちが盛り上がっていただろう? あれは何だったんだ?」
「あぁ~、あれね。――この土日にフィフスくんが方々に顔出してたから、その所為じゃない?」
愉快そうに腕を組み、舞台を見ていた。――今はエリーチェが簡単な自己紹介をしているところで、昨日一緒に作った文章を読んでいるようだった。
「その所為って……、昨日なんかはほとんど私たちといたはずだけれど……」
少なくとも朝から夜までほとんど一緒だった。
ふと、途中でフィフスが外出していたことを思い出し、姉と目が合った。
「おやおや、君たちが親睦を深めているようでなによりだよ。なら東方軍の人たちじゃない? 特に昨日はみんな非番だったから観光に出てたみたいだし。その時にあの二人のことを広めていたんじゃないかなー」
あと電話か、と悪戯っぽくウィンクしながら付け足した。
「みんな話し好きだし気安いからね。いつでもどこでも誰とでもすぐに打ち解けちゃうのが第三師団のいいところであり、面白いところなんだよ~」
確かに朝に寄宿へ寄った際、夕方に邪魔したときに比べと静かだった。――――どうやらあの時、実際に宿舎に人がいなかったようだ。
拍手の音がし、舞台を見れば今度はリタが緊張した面持ちで演台についていた。元の場所に戻ったエリーチェがあの人と小さく話かけているようで、穏やかな表情から舞台と客席で一線が引かれているようにも思えた。
「……それだけなの?」
コレットが釈然としないようでヴァイスに尋ねた。
「多分ね。さすがに僕も全部聞いている訳じゃないから分からないけど、陛下なら何か知ってるじゃない?」
「……私は子守りじゃないんだぞ。だがヴァイスの言う通り、アレの麾下が勝手にやったことだ。あの師団はよくサボることで有名だからな」
「サボる……?」
頬杖をついていた女王が姿勢を起こしながら、こちらに目を向けた。
「聖都の警護の傍ら、民衆としゃべっていることが多くてな。その気安さに初めて聖都を訪れる者は随分と気を許すそうだ。だが、本当にサボっている訳じゃない。――――話しながらも虎視眈々と周囲を警戒し、人の話しや様子から異変を察知する能力が高い連中が揃っているという話だ」
腕を組み、最初に登場したときよりも頼もし気に戻るガレリオを見ているのか、鼻で一笑した。
「面白い駒が手元にある今、存分に使ってやれよ。扱いに癖はあるが、お前の元に就かせた今、若造からしっかりと情報を吸い上げろ」
緊張しながらも、リタが昨日共に作った挨拶文を読み終わり一礼した。それに拍手を送り、改めて舞台を見れば後ろ手で静かに立つフィフスが目に入る。リタと入れ替わりで演台に向かった。
すべての注目が、あの人に一心に降り注いでいる。
「……新しい風を欲してるのは、何もあいつらだけではないからな」
拍手の音の中、誰にともなく呟かれた言葉がその人の後ろに立つ侍女にだけ届き、誰にともなく温和な微笑みでその言葉を受け止めていた。
馬車を降りると、賑やかさがずっと大きくなる。顔を合わせている学生たちも、週末振りの再会だからか、集会の前は毎回こんな感じだ。
ただ、なんとなくいつもより喧噪が大きい気がする。周囲を見渡せば、こちらに向かって制服を着た者たちの視線が多いことに気付いた。
先日、街を歩いたせいかもしれない。
あの人なら彼らにも手を振り声に応えてくれるのだろうが、いつも通り気にせず先へ続く階段へと進んだ。
講堂には備え付けの席がずらりと並んでおり、集会で使うことも出来るが演劇などの舞台として活用することもある。一応、席を撤去して開けた場所として活用することも可能だ。
到着した順に適当な場所に座るのだが、下流の学生は一階、上流は二階と三階の席を使うよう分かれている。
三階の中央にしきりがあるのだがそこが自分たちの居場所であり、祖母が普段使う王座もひとつ分高い位置に用意されている。毎回顔を出すわけじゃないので空席の事が多く、また父が来た時にそこに座ることもあるため、軽率に寄れない一角となっていた。
「おはよう、二人ともやっと来たのね」
姉といとこたちが既に座っており、叔父も彼女たちの傍らで立っていた。
「おはようございます、姉さま!」
しきりの中に入るなり姉の元へ弟が駆けて行き、今度は姉にくっついていた。
「なにやら楽しいことになっているそうね」
レティシアがご機嫌そうに艶っぽい笑みを見せていた。
昨日の件は、既に皆知っているのだろう。
「……えぇ、さっきもその件でコルネウスたちに話しかけられました」
「ふふっ、みんなで取り合って楽しいわね。私も絶対見に行くわ」
「……決闘だぞ? 荒事なんて見てなにが楽しいんだ」
叔父がため息交じりに呟いていた。
「そうよ、ディアスもいい迷惑でしょう。別にロサノワも毎日活動しているんだから、いつでも見に行けばいいじゃない」
コレットが不機嫌そうに言うと、心配げにこちらを伺っていた。
「戦う殿方が近くで見れる上に、従弟が賭けられているなんてこれ以上面白いことなんてあるかしら」
上機嫌なレティシアは腕を組み、高みの見物と言わんばかりだった。彼女の嬉々とした様子に小さくため息をつく。――そのレティシアが隣に座るコレットにひとつ席をズレるよう指示をすると、横に座れと手招きされる。
「それで? ――コルネウスたちはなんと言っていたのかしら」
仕方なしに座るや否や腕を絡まれ、彼女に付き合うことになった。――ここで避けると後々が面倒なので、素直に従った方が賢明だろう。
「別に大した話は……」
「昨日はアイベルが現場にいたのでしょう? ……どんな感じだったの?」
コレットが後ろに立つアイベルへと声を掛けていた。
「偶然居合わせただけですので、全てを知っている訳じゃないのですが……、フィフスは決闘に勝つ自信があるようでした」
「それは貴方の感想でしょう? なんて言ってたのかしら」
レティシアの好奇心に満ち溢れた瞳に大いに見られ、アイベルがたじろいだ。
「…………その、皆さまのお耳に入れるには少々憚られるのですが」
今朝はさらりと言っていたが、もしかしたら気を使い婉曲的に伝えたのだろうか。皆の注目が侍従へと向く。
「まぁ! どんなことなの? 聞かせてちょうだい」
レティシアの好奇心に満ちた瞳に催促され、観念した様子でひとつ呼吸を整えていた。
「……決闘の件で殿下が心配されるかもとお伝えしたら、『どのような立ち位置の者たちか興味はないが、この私に足元を掬われ、不様に地に這う様でも見せてやろう』――――。確かそう仰っていました」
強い言葉にぱっとレティシアの顔が華やいだ。
「なんて不遜な言葉なの? なら不様に地を這うさまを見に行って差し上げなくてはね。コルネウスは特にいい顔をしてくれそうね」
うんうんと頷きながら、期待感に胸を膨らませているようだった。
「やめてあげなさい……。あのプライドの高い彼のことよ? そんなことになったら逆に面倒だわ」
姉が横から呆れた様子でレティシアを窘めていた。
「はぁ……いいわねぇ、私もそう言ってもらいたいわ。――ディアス、そんなことを言ってもらってどんな気持ちなの?」
急に話題を振られ、口元を隠して考えた。
正直悪い気はしない。
先程も絡まれて辟易したが、あの人が味方でいることの方がずっと大きい。
だが姉たちにそんな気持ちを伝える気はなかった。ふと小さく笑い、
「――――そこまで言ってくれるなら勝ってもらうしかない、と」
「そうよねぇ。強い言葉を使っておきながら負けたら、それはそれで面白いのだけれど」
「負けることはないかと」
「あら、自信ありげね? いいわ、私と賭けましょう」
つい張り合ってしまい余計なことを口走れば、レティシアの賭け事が始まりかけた。
「……そこ、賭け事はやめなさい」
後ろに立つ叔父が嘆息した。振り返り見れば、あまり元気がない姿だった。
「ふふっ、お父様ってばブランディ様をへこませてしまったようで、さっきから気落ちしているようなの」
少し声を落とし、楽し気にレティシアがそう教えてくれた。
「そんなことをするつもりはなかったんだ……」
近くの席に腰を落とし深く後悔している様子に、レティシアだけが楽しげだ。叔父の様子も深刻だが、あの彼がへこむようなことがあったのかと若干戸惑う。
「何があったんですか?」
誰ともなく尋ねてみれば、腕を離したレティシアが頬杖をついて考えていた。
「なんでも伯父様にブランディ様の話をしたら、セーレの耳に入ったらしいの。――そこからブランディ様へ連絡があったせいで元気がなくなってしまった上に、それを知ったお父様もなぜかへこんでいるという話らしいわ」
謎の負の連鎖が起きているようだ。いつもならもう少し話をしてくれそうな叔父だが、よほど深く落ち込んでいるようでひとり何かを抱えていた。
「今朝、会ったのですか?」
昨日の出来事かもしれないが、もしかしてと思い尋ねる。――朝はヴァイスが友人を迎えに行くと聞いていたので、その折に叔父もガレリオにも会うことがあったのではと、何か得られるのではと期待もあった。
「そうみたい。――フィフスから気にしなくていいと言われていたそうだけど、なんだか思いつめているのよねぇ」
レティシアが苦笑していると下手から一人の教師が現れ、同時に校舎の一等高いところにある鐘の音が鳴った。
――――八時半を知らせる鐘の音だ。これから集会が始まる――――。
徐々に講堂の中が静まり返る中、背後にヒールの音が近付いた。ある人物が来ていることを察する。
誰も振り返りはしないが、この国の元統治者であり、現在この学園に君臨する女王陛下がこの場に現れたようだ。
さらさらとドレスの衣擦れの音がより近くなり、椅子に腰かけた気配が伝わる。特に言葉を発する様子はないものの、威圧感が周囲を張り詰めさせる。
一方眼下に広がる舞台を見れば、先ほど現れた教師が女王が席に着いたのに合わせ恭しく一礼し、演台の元へ移動した。
演台の上には、発言者の声をより多くの者たちへ届くよう増幅させる魔術が施された集音機が置かれており、起動させていた。拾われた音は周囲に配置された拡音機を伝い、講堂内に音を届かせる。一呼吸おき、集会の開始を宣言すると、一枚の紙を広げて書かれている伝達事項を読み上げた。
肘をつき舞台の上をぼんやりと眺めてみれば、淀みなく集会が進んでいく。――――ここまではいつもの光景だ。
恙無く進む中、話に飽きたのか人々の囁きが少しずつ聞こえ始める。主にこの声の主は階下にいる者たちだ。振り返り見上げなければ女王が来ていることに気付かないらしく、いつもこれくらいの時分から方々から囁き声が聞こえてくるものだった。
目に余る場合は壁際に待機している教師陣に注意されるが、女王はこの状況を自ら注意したことはない。
わざわざ頂きに立つ者が足元の小石に気を払わないのと同じ、それに触れさせないよう注意を払うべきは周りの人間だ。存在に気付いた教師たちが恐怖に萎縮しながら生徒たちを窘めていく。
「――――続きまして、締結式のためにお招きした聖国からの使節の皆様をご紹介致します」
その声に階下からの騒めきが一層大きくなる。静かにと集音機を通して伝えられるもそのざわめきが鎮まることはなく、いつもと違う空気に教師陣も慌てていた。
舞台の上手からミラを先頭にエリーチェ、リタと順番に現れ、彼女たちの登場に合わせて拍手の音が聞こえる。足りない人物に戸惑っていると、遅れてガレリオとフィフスが上手から登場した。
許可をもらっているのだろう、どちらも帯剣しており、前を行く三人とは立場が違うのが分かる。
また、ガレリオの歩く姿に確かに元気がないように見受けられると思った刹那――――、一気に女子たちの歓声が上がり、講堂内の温度が一瞬で変わった。
普段こんな熱狂的に空気が変わることなどない。どうやら一階にいる学生たちが盛り上がっているようで、歓声まで聞こえてくる始末だ。この状況に三階にいる周囲の人間も戸惑っており、隣のレティシアですらこの空気を不思議そうに見ていた。かすかに見える二階席も戸惑っているのか忙しなくこの状況を確かめているようだ。
なにも気にした素振りもない舞台上のあの人は、歓声に応えるように客席側を眺めては、軽く笑みを送ったり手を挙げて応えていた。――――その対応にまた嬌声が高く上がる。
端にいたリタの近くまでくると、ガレリオが彼女たちの後ろを回りミラの側へ立った。フィフスがリタの側に来れば、エリーチェと三人でなにか声で話しているようだ。
舞台上の人間、教師以外この状況を気にした様子はなかった。
幾人かの教師が場を沈めようと慌てている様子が見えるが、その声が届く気配がないようでなかなか静かにならなかった。
「……これは、なんなんだ?」
叔父もさすがにこの空気に戸惑っているようで、うめくような声が聞こえる。
「――ねぇ、エリーチェの胸ポケットにあるのって……」
コレットがこわごわと声を上げ小さく指で指し示せば、エリーチェの胸ポケットに黒い薔薇が一輪刺さっていた。
「あれって昨日の……?」
それに気付く人がいたのか、次第にどよめく声が混じっていく。
「あら……、煽っているのかしら? ふふっ、なかなかやるじゃない」
軽い調子で関心しているレティシアの声が耳に届くが、内容が入ってこない。
何を話しているのか、舞台上の留学生たちには緊張というものが見えなかった。舞台中央にいるミラはなにか言いたげにガレリオを見ているが、どうにもできず諦めて姿勢を正していた。
「でも、煽るつもりならエリーチェに持たせる意味なんてないんじゃないかしら」
「そうかしら、――これ見よがしに可愛い子に持たせたら、ロサノワとなにかあったと気付く人がほとんどでしょう? 今日は観客が増えそうね」
心配そうな姉と面白がるレティシアが舞台上を見ながら話している。
「あの人どういうつもりなの……? エリーチェまで巻き込むつもりなの――?」
コレットが不安そうに声を掛けてきた。
「……多分、彼女に見せてあげたんじゃないか」
頓着しない性格から、用済みとなった花を彼女に渡した気もするが、昨日渡されたと聞いていたがわざわざここに持ってきて彼女に見せたのだろうか。それも違和感があり、コルネウスたちへ宣戦布告くらいはしそうな気配に、煽り行為の可能性も否定できなかった。
なかなか鎮まらない様子に教師が何度も静かにするよう呼びかけている。
「それにしても、なんで一階の子たちあんなに盛り上がっているのかしら。――ここに来てから学生と交流する時間なんかなかったでしょう?」
姉が前に身体を軽く倒し、レティシアの隣にいる大きな弟を見た。その奥からもエミリオも同じようにこちらを見ているが、こちらとしてもこの状況がよく分からず困った顔で二人を見るだけった。
ただ、あの人がいろんな空気を変えていく空気を直に感じる。
意図したものなのか自然とこうなったのか分からないが、普段とは異なる学園生活が始まる予感だけはおおいに伝わってきた。
舞台上のフィフスがすっと人差し指を口にあて、生徒たちに視線を送れば、混沌とした空気が静かさを取り戻す。
「この場を支配したのはアイツか――」
静かになったところに上から女王の声が降り注ぐ。
「あの小童が既に下流の学生たちの人心を手中に収めている。――数の利を彼奴が手にした以上、ここの全てを変えていく気だ。……くれぐれも足元を掬われるなよ」
皆が振り返れば、薄く笑い眼下の舞台を女王が見ていた。数の利――――、一階には6学年から8学年に在籍する貴族以下の者たちがいる。在籍する年数は少ないけれど、この学園の半分以上の人数がここに集中している。
それもそうだろう――、この国の大半が下流の者たちで形成されており、上位者となる王侯貴族など数で見れば取るに足らない数字でしかない。
慌てて姉弟たちが眼下に広がる光景を見た――。静かになったこの場所で、ミラが演台に近付きなにか話そうとしているところだった。この静寂を齎したその人をみれば、静かに後ろ手を組んで立っていた。
いつどうやって、彼らの関心をあの人は集めたというのか。
ミラの声が滔々と聞こえ始めるが、話しがひとつも入ってこない。
「いつ、そんなことを……?」
「今までずっと仕込んでいたんだろう。それくらいのことは同時に進める奴だ」
戸惑う叔父の問いかけに、目線を舞台上に注ぎながら言った。――いつもの冷たい声に少しだけこの場の高揚が乗っているのか、この状況を楽しんでいるようにも聞こえる。女王の後ろに立つ侍女が静かに微笑んでいた。
肘掛けに乗せていた腕を組み、背もたれに深く身体を預け、喉を鳴らして笑っている声が届く。
「ここの騎士見習い共もさぞかし狼狽えていることだろう、喧嘩を売る相手を間違えたとな。――ヨアヒム、決闘の際気を付けろよ。あの小童は勝敗などに興味はないからな」
「興味がない? ……フィフスは勝つ気でいると聞きましたが」
「勝ち負けなんぞ二の次だ。アレは手加減も手心もしないが、飽きるまで何度でも立たせて戦わせるぞ。階下の連中たちの前でそんなことでもさせてみろ? 流石に貴族共も立ち直れないだろう」
女王の話に一斉に振り返る。――――貴族たちの我慾に巻き込まれたと考えていたが、彼らの実力を見たがっていた楽しげな顔を思い出した。
「……決闘って一度切りじゃないんですか?」
『栄光の黒薔薇』のことを知らないであろうエミリオが尋ねた。
決闘といえば一度きりの勝負が普通だろう。――女王が小さな問いを投げる弟に視線を向け、組んだ腕をまた肘掛けに乗せた。
「学園での決闘など、ただの児戯だ。生死を決するわけでもない以上、いくらでもやり直すことは可能だろう? ――それにあの小童のことだ。力量を悟られない内に迅速に勝ちを拾いに行き、なんだかんだと理由を付けて彼らを戦わせるだろうな。早めに打ち切ってやれよ」
やはり機嫌がよさそうに思える女王へと、戸惑う叔父が尋ねた。
「……陛下は彼と知り合いなのですか?」
「あんな小童、誰が知るか」
興覚めした声でつれなく応えると、頬杖をつき退屈そうに足を組んだ。――ちょうどミラの話も終わったところで拍手が起きていた。
「賭けなくてよかったわね」
レティシアがくすくすと笑いなが耳打ちしてきた。賭ける気などなかったが、きっと終わらぬ勝負に互いに途方に暮れたかもしれない。
「――確かに」
演台に立つガレリオを横目に、従姉につられてくすりと笑った。緊張しているのか表情が硬く、うつむきがちな空気にどことなしに微かな笑い声が起こる。
昨日人前で話すのは無理だと言っていたが、そのせいだろうか。ポケットから原稿を取り出したものの、あまり自信のなさそうな態度に見えこちらも不安になる。
「……えー、本日は貴重な機会を設けていただき、ありがとうございます。……お、私は聖国から来た――」
読み上げるだけのはずだが、この場の空気に負けている。初日にこちらに声を掛けてくれた時よりもずっと頼りなく見えた。
先程叔父がへこませたと言っていたが、それも理由なのだろうか。兵士らしからぬ態度に周囲のざわめきが大きくなる。
「まぁ。あれってお父様のせいかしら」
悪気なくレティシアが言葉を口にすれば、後ろからダメージを食らったようなくぐもった声が聞こえた。
たどたどしい口上が続く中、あの人が前に出た――。先程と同じよう口に指を当て、静かにするようにジェスチャーすると、ざわめきが消えていく。静寂が訪れたのを確認するとガレリオの側へと行く。歩く速さはいつも通りなのに硬い木製の床の上を音もなく静かに移動しており、あの場所だけが切り取られたような不思議な感覚を覚える。――ミラが一瞬止めようとしたが、躊躇いがちに手をひっこめた。
あまりにも静かなのでガレリオも近付いていることに気付いていない。彼の後ろに立つともう一度静かにするよう、衆目にジェスチャーだけで伝えた。その様子にくすくすと笑う声もあったが、先ほどのものよりかは幾分耳に障るようなものではなかった。
一体なにをする気なのか――――?
多くの者がそう思った刹那――――。直立した静かな姿勢のまま右手を上げ勢いよく彼の背中を叩き、パァンと心地よい音が講堂内に響いた。叩かれた拍子に演台に手をつき前のめりになったガレリオが目を大きくしており、何が起きたのかと後ろをゆっくりと確かめていた。
「――――なにしてるんすか…………?」
集音機が驚き戸惑っている彼の声を拾っている。
「それはこっちのセリフだ、なんて様を晒している。皆も聞くに堪えないと困ってるぞ、――――なぁ?」
皆と呼びかけた相手を見ながら同意を求めれば、微かな笑い声に同意が混じる。
「はぁ……? 本当になんなんですか、叩かれた拍子に心臓が飛び出てどっか行ったじゃないですか!」
「蚤みたいな心臓だろ、そんなもの捨てておけ。……申し訳ない。皆の貴重な時間を使わせているのに、随分とつまらぬものを見せた。」
驚き素が出たガレリオを気に留めることはなく、聴衆へと向き直ってこの状況を詫びていた。
舞台上の彼らのやり取りに笑い声が上がっているため、喜劇でも繰り広げられているのではという錯覚すら覚える。今の時間は、一体何だっただろうか――。
「普段はもう少しマシなんだが少々こういう場が苦手でな。……悪いがガレリオを応援してやってくれないか?」
一階にいる学生に語り掛けているようで歩みを舞台のツラまで進め、学生たちのギリギリ傍までやってくる。ずっと見ているのは一階席だ。上にも席があることは分かるはずだが、見上げる気配はない。――この講堂には外からの光を遮光する暗幕カーテンもあるのだが、それは使っていないため陽光が窓から入ってきているので非常に明るい。
舞台上に照明も降り注いでいるが、あの程度で視界が悪くなるということもなかったはずだ。まして舞台上を移動しており、ライトから外れている今も上階を見ようとしないのは、意図して眼中に入れないつもりなのか――――。
「頑張れガレリオー!」
「情けないぞしだんちょー!」
「いいとこみせろー!」
「ガレリオならできるよ! 頑張ってー!」
などと男女の声があがり、徐々にガレリオの名を呼ぶ声が増えていく。
「……何か仕込みでもしてたのかしら?」
ひとつ離れた席の姉がそんな疑問を口にする。舞台上ではまだ声が足りないのか、ゆっくりと舞台上を往復しながら彼らの反応をひとつひとつ拾っては確認しているようだった。
「実は彼、役者だったりする?」
レティシアがこちらにに身を寄せてきたが、明後日の問が耳を抜けていく。
演台に腕をついて前傾姿勢を取っていたガレリオが起き上がると、そちらに注目が集まる――。乱暴に二、三度頭を掻くと集音機を手に取り顔を上げた。
「そ・こ・は、ガレリオ『さん』でしょうが! ――君たちもこの人を真似して呼び捨てにしないで?! 俺、一応の聖国の代表なんですけど!?」
怒声、という程ではないが勢いのある声に自分たちの周囲は鎮まるが、一階の学生たちの琴線に触れたのか、彼を面白がって一層笑い声が大きくなる。
ガレリオにやっと昨日見たような気安さが戻ってきた。一階の学生と舞台上だけが、妙な一体感が出来上がっていることに嫌でも気付く。
「まったくもう……、こんなはずじゃなかったんすけど。――はい、そこの自由人、元の場所に戻りなさーい!」
独り言ちた声が拡声器に乗っていることに気付いてないのか、気を取り直したガレリオがびしりと舞台ツラに立つフィフスを指差した。その人はガレリオを一瞥し、満足げにリタの隣へと戻っていった。
素直に言うことを聞いていることが何かの演目の最中だったかと思う程不自然でありながら、当然の帰結のようにも思えた。その二人の様子にもくすくすとこの舞台を楽しんでいる声が響く。
「スピーチの原稿貰って何度か練習したけど、こういう堅っ苦しい言葉の羅列を読むのは性に合わないんでやめさせてもらいます。――――改めまして、俺は聖都テトラドテオスで東方軍第三師団の長を務めているガレリオ・ブランディだ」
演台に集音機を置き、そのまま両手をついて真剣な顔で前方を見据える。
「どうやら俺の部下たちが君たちに何か言ったようだが、どうせろくでもない事だろ。さっきの件と合わせて忘れてくれ……。締結式を無事に迎えるために来たってことだけ覚えててくれればいい。しばらくヨアヒム様の仕事を手伝わせてもらうことになったから、もし見かけたら声を掛けてくれ。――この学園のことも、君たちの事も教えてくれると助かるし、故郷にここでの話を聞かせてやりたいからな!」
頼りなさげな姿から一転、勢いのある話し方に師団長という肩書がようやく似合う人物に見えた。そして叔父の名を出した際、まっすぐと立ち三階を見上げそちらに手を伸ばし示せば、彼の手の動きに一階の生徒たちが振り返り叔父の存在を確かめようと仰ぎ出す。――――そこで幾人かが女王がいることにも気付いたようで、慌てる顔に変わる者も見えた。
「話は以上だ。今後ともよろしく!」
最後に聴衆に人の好さそうな笑顔をにこりと向けて話は終わった。演台の前で敬礼をすればミラの隣へと帰っていく。――あっという間に終わる挨拶に遅れて拍手が起こり、緩んでいた空気もなくなり講堂内に落ち着きが戻ってくる。
「ね、大丈夫だったでしょ? いつも通りのガレリオくんに戻ったから、ヨアヒムも気にする必要はないさ」
無事に役目を終えたガレリオへと拍手を送っていると、背後から聞き覚えのある声がした。
「君たちも楽しんでるかーい? ふふっ。我らが女王様がいらっしゃるのにあの態度。面白いよね~」
「ヴァイス――、さっきのは何だったんだ……?」
叔父の隣に座ろうとするヴァイスがそこにいた。この状況について何か知っているのではと叔父が尋ねるも、きょとんとした顔をしている。
「……なにって、何が?」
「いや、一階の学生たちが盛り上がっていただろう? あれは何だったんだ?」
「あぁ~、あれね。――この土日にフィフスくんが方々に顔出してたから、その所為じゃない?」
愉快そうに腕を組み、舞台を見ていた。――今はエリーチェが簡単な自己紹介をしているところで、昨日一緒に作った文章を読んでいるようだった。
「その所為って……、昨日なんかはほとんど私たちといたはずだけれど……」
少なくとも朝から夜までほとんど一緒だった。
ふと、途中でフィフスが外出していたことを思い出し、姉と目が合った。
「おやおや、君たちが親睦を深めているようでなによりだよ。なら東方軍の人たちじゃない? 特に昨日はみんな非番だったから観光に出てたみたいだし。その時にあの二人のことを広めていたんじゃないかなー」
あと電話か、と悪戯っぽくウィンクしながら付け足した。
「みんな話し好きだし気安いからね。いつでもどこでも誰とでもすぐに打ち解けちゃうのが第三師団のいいところであり、面白いところなんだよ~」
確かに朝に寄宿へ寄った際、夕方に邪魔したときに比べと静かだった。――――どうやらあの時、実際に宿舎に人がいなかったようだ。
拍手の音がし、舞台を見れば今度はリタが緊張した面持ちで演台についていた。元の場所に戻ったエリーチェがあの人と小さく話かけているようで、穏やかな表情から舞台と客席で一線が引かれているようにも思えた。
「……それだけなの?」
コレットが釈然としないようでヴァイスに尋ねた。
「多分ね。さすがに僕も全部聞いている訳じゃないから分からないけど、陛下なら何か知ってるじゃない?」
「……私は子守りじゃないんだぞ。だがヴァイスの言う通り、アレの麾下が勝手にやったことだ。あの師団はよくサボることで有名だからな」
「サボる……?」
頬杖をついていた女王が姿勢を起こしながら、こちらに目を向けた。
「聖都の警護の傍ら、民衆としゃべっていることが多くてな。その気安さに初めて聖都を訪れる者は随分と気を許すそうだ。だが、本当にサボっている訳じゃない。――――話しながらも虎視眈々と周囲を警戒し、人の話しや様子から異変を察知する能力が高い連中が揃っているという話だ」
腕を組み、最初に登場したときよりも頼もし気に戻るガレリオを見ているのか、鼻で一笑した。
「面白い駒が手元にある今、存分に使ってやれよ。扱いに癖はあるが、お前の元に就かせた今、若造からしっかりと情報を吸い上げろ」
緊張しながらも、リタが昨日共に作った挨拶文を読み終わり一礼した。それに拍手を送り、改めて舞台を見れば後ろ手で静かに立つフィフスが目に入る。リタと入れ替わりで演台に向かった。
すべての注目が、あの人に一心に降り注いでいる。
「……新しい風を欲してるのは、何もあいつらだけではないからな」
拍手の音の中、誰にともなく呟かれた言葉がその人の後ろに立つ侍女にだけ届き、誰にともなく温和な微笑みでその言葉を受け止めていた。
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