天使になりたかった悪魔

がる

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天使になりたかった悪魔

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ジャンヌは天使になりたい悪魔でした。
自分が悪魔であることは知っていました。
だけれど、
ジャンヌがまだ右も左も、
正義も悪も知らない頃のこと。
ジャンヌは歌を聴いたのです。

水辺に歌う天使の歌。
ジャンヌは目を閉じ聴き惚れました。
その美しさに酔い、時を忘れ、
次に目を開けた時、
天使の姿はありませんでした。
ただ、木々の緑と木漏れ日だけが、
歌の余韻を響かせるだけでした。


それからジャンヌは毎日歌い、
毎日天使を探しました。
天使の書かれた本を読んでは、
その心の在り方を探し、
どうしたらあんな歌が歌えるのか、
どんな心があんな音を響かせるのか、
ただただそれを追い求めました。

悪魔の友達を嫌いではありませんでしたが、
みんながジャンヌを避けました
みんなもジャンヌを嫌いじゃなかったけれど
天使を忌み恐れる大人の悪魔たちから
避けるように言われていたのです

それでもジャンヌは学び、歌いました
天使の心と天使の歌を


ある日のこと

いつものように歌いながら
ジャンヌは空を見上げました
天使は空に住むらしい。
その空に届くように、
心の限り歌いました

すると、後ろから声がします。

「歌をやめろよ、悪魔。
世界を呪うのはやめろ。
天使を呪うのはやめるんだ」

振り返ったジャンヌが見たのは
天使でも悪魔でもなく、
人間でした。

「私は何も呪ってない!
世界を讃え、天使を讃えているだけだ!」

ジャンヌは必死で言い返しましたが、
人々が返したのは石や卵、
そして罵倒の言葉でした。

「聴いてくれ!
私の歌を聴いてくれ!
私は悪魔だ!分かっている!
この歌は確かに悪魔の歌だ!
分かっている!
でもこの歌は呪いの歌じゃない!
賛美の歌だ!」

その声は人々には届きませんでした
悪魔の歌う歌が、
賛美の歌のはずがないというのです
それでもジャンヌは歌いました
憧れたあの天使のように
音を響かせることが出来れば
そうすればみんな分かってくれる
そう信じて歌い続けました

しばらくのち

人々は去り
ジャンヌは息も絶え絶えに
倒れ伏していました
体中から血が流れ
それでもジャンヌは歌っていました

「素敵な歌をありがとうジャンヌ」

唐突に声が聞こえ
ジャンヌは歓喜しました

やっと
やっと届いた

目が腫れ上がり
声の主は見えないけれど
とにかくようやく誰かに届いた

「お礼に私も君に歌おう」

声の主はそう言って
ジャンヌに合わせて歌い始めました

その途端、ジャンヌは歌えなくなってしまいました
だってその声は
あの日からずっと憧れてきた
あの天使の声だったから

ジャンヌはもう歌わず、
ただただ歌に聴き惚れていました


「あぁ、私はただこの歌になりたかったんだ」


ジャンヌは静かにそう呟き
そのまま2度と動きませんでした


「君は悪魔だ。」

動かなくなったジャンヌに天使は言いました

「だが君の歌は世界を讃えていた。
私と同じ心で世界を響かせた。」


天使は泣いていました


「君は悪魔で私は天使だ」

天使はもう一度言い、空に叫びました

「だからなんだって言うんだ!」



それから天使は街に下り、
歌を歌いました

人々は天使の歌声に酔い、
そして讃えました

「あぁなんという祝福だ!
天使の歌の美しさよ!
賛美の歌の美しさよ!」

人々は涙を流し、互いに抱き合いながら
天使を讃えました

天使は泣いていました
泣きながら歌い続けました

それが天使として最初で最後の
呪いの歌だったからです。

みるみる悪魔の姿に変わる
人々と自分を眺めながら
天使は呟きました

「ジャンヌ、君は天使で私達は悪魔だ。
私も姿は悪魔になるが、
これから私が歌う全ての歌は
君を讃える歌だと誓おう」

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