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死神と荒獅子

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「うぉいっ!  誰かそいつを捕まえてくれ!  絶対に殺すなよ!  出来れば傷も付けるな!」


考え込む真治の耳に、そんな大声が正面から聞こえた。


ハッと我に返り、前方を見ると、手首を鎖で固定された男性が真治と奈央がいる方へと走って来ていたのだ。


その手にはナイフを握り、追い掛けている男から逃げている様子。


「傷付けずに捕まえろって……無茶を言うわね!  手首が青いから、東軍の捕虜ってわけ?」


「うおおおおおおっ!  退け退け!  殺すぞ!」


捕虜となれば、必死に逃げるのもなりふり構っていられないのもよくわかる。


下手に手を出せば、手にしたナイフで逆に殺されてしまうかもしれないのだ。


だが、真治にはそれが大した気迫には思えなかった。


動きも遅ければ、手首を縛られているから攻撃範囲も狭い。


「奈央さん、下がっててください。俺が止めます」


「え?」


鞘に納められたままの日本刀を取り出し、男に向かってゆっくりと歩き始める真治。


鬼気迫る表情で、ナイフを振り回している男が真治に迫る。


「そこをどきやがれ!  殺すぞっ!」


男がナイフを振り下ろしたと同時に真治は踏み込んで、兜金と呼ばれる柄の先端を男の腹部に思い切り突き付けた。


殺さないとわかっていれば、真治に迷いはない。


強烈な一撃を食らった男は、白目を剥いて唸りながら地面に前のめりに倒れ込んだ。
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