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厳しい優しさ

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「あの……それで、いつまで俺の腕を掴んでるんですか?」


掴まれた腕を軽く振ってみると、今気付いたといった様子で恵梨香は慌てて手を放した。


「す、すまない。痛かったか? ついうっかり握っているのを忘れてしまってな……」


そんなことを忘れるのかと、真治はクスリと笑った。


想像していたよりもずっととぼけた人なのかもしれないと。


「だ、大丈夫ですよ。恵梨香さんは一応女性ですしね。戦ってなければ、そんなに力も強くないし……ゴリラみたいな人だったら、腕が潰れていたかもしれませんね」


笑いながら精一杯の冗談を言ったつもりの真治だったが、恵梨香はそうとは取らなかったようで、ムッとした様子でヘルメットに手を当てた。


「美人とは言わないが……ゴリラではないと思うぞ? どうだ? 誤解は解けたか?」


ヘルメットを取ると、その中から綺麗なブロンドの髪が外灯の明かりに映えて現れた。恵梨香の白い肌、そして息を飲むほど整った顔がそこにはあったのだ。


「……や、やっぱりゴリラに見えるか、そうか……」


真治が言葉を失っているのを勘違いして、少し落ち込んだ様子で俯いた恵梨香。


その姿を見て、真治は慌てて首を横に振った。


「な、何言ってるんですか! ゴリラだなんて……いや、物凄い美人で驚いて……」


「な! お、おだてても何も出ないぞ!? 私が美人などと……この街で一度もそんな風に言われた事がないのに!」
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