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聞こえぬ死燕の足音

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「か、かはっ! テ、テメェ……」


PBMごと貫いた弓長の胸部。


苦しそうに日本刀を掴んで、必死に引き抜こうとするが、刃が手に食い込んで血がボタボタと流れ落ちるだけで、引き抜く事は出来なかった。


しばらくもがいた後、弓長はガクリとうなだれて動かなくなったのだ。


「ハァ、ハァ。死ぬかと思った……」


日本刀から手を放し、倒れ込むように長椅子に横になった俺は、立つ気力もなく、亜美の方を見た。


顔を殴られて泣いていたが、そこはさすが自軍と言うべきか。怪我は治り、痛みも消えたようですぐに泣き止んでいた。


日本刀が消え、支えを失った弓長の身体が床に崩れ落ちる。


PBMを破壊したということは、もう二度と復活しない。


これでもう、亜美が弓長に狙われることはなくなったわけだが、体力が回復したら真治が連れて行かなければならないだろう。


頼れる人がいなくなったわけだから。


「亜美ちゃん、ほら、もう大丈夫だから。怖い人はいなくなったよ」


真治がそう言っても悲しそうな顔のままで、亜美は動きもしなかった。


考えてみれば、大切なお姉ちゃんが死んでいると言われ、頼りにしていた弓長に裏切られたようなものだ。


大の大人でさえこの街は辛いというのに、こんな小さな子ならとても耐えられるとは思えない。


長椅子に横になりながら、悲しむ亜美を見ていることしか出来なかった。
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