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襲い来る野獣

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「まだだ。お前はまだ俺に本気を見せてねぇだろ。俺を恐怖させろよ」


実力差がある相手に対して、それは無理な注文というものである。


黒井よりも、真治の方が南軍最強の男に恐怖しているくらいだ。


こんな、お互いに何の得もない戦いなど、早く終わらせたいと思っているのに、黒井はそうは思っていないのだろうか。


「こんな戦いになんの意味があるんですか。俺は死ねないんですよ! 仲間を助ける為に!」


「だったら、俺を倒してみせろよ! お前が死ぬのが先か、俺が恐怖するのが先か、理不尽な選択を迫られる事なんて世の中には沢山あるだろうが! これもその一つだ! 覚悟を決めやがれ!」


なるほど話が通じないというか、頑固で考えを曲げない感じだ。


黒井を恐怖させることが出来れば、終わりに出来るのならば、いつまでもこんなことをしている暇なんてない。


呼吸を一つ、トンッと地面を蹴って黒井に近付いて、真治は微かな違和感に気付いた。


黒井の視線が、真治が移動する前にいた場所を見ている。


「は?」


驚いたように、視線を下に向けて真治の顔を見た黒井だったが、驚いたのは真治の方だ。


ほんの一瞬。


だが大きな一瞬。


ランスとソードブレイカーの内側に飛び込んだ真治は、何が何だかわからないまま日本刀を振り下ろした。
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