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怒りの咆哮

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痛いほどの沈黙が訪れる。


今までの人生に色恋沙汰などなく、理沙の時も向こうから来たから流れに乗っただけだった。


好きだったから出来たことだが、優は違う。


決して嫌いなわけではないのだが、真治はなぜ自分なのだとまだ理解が出来ていない様子。



「……ごめんなんて言わないでよ。ずっと待ってたんだから、少しくらい好きにさせてくれても良いでしょ」



待っててくれたことは真治にとってはとてもありがたいことだった。


今まで亜美の面倒を見ててくれたこともそうだ。


だが、器用に女の子を扱えるほど、真治にはそういった経験がない。


こんな時になんと言って良いのかさえもわからずに。


そんな風に戸惑う真治を見て、優の目がどんどん怖くなって行く。


「いや、あ……でも……俺はまだそういうのは……」


「……はぁ。なんでこんな意気地なしを好きになっちゃったんだろ。でも、そうじゃなかったら助けてくれなかったかもね」


少し話の流れが変わった。


内心は、無理矢理にでも次に進むしかないのかと思っていた真治は気が気ではない様子だったが。


それでも、まだ上に乗ったまま動かない優が何をして来るかわからなくて気が抜けないようだった。
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