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狂い始める歯車

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そんな名鳥に、恵梨香がゆっくりと近付く。


「お前は、狩野の為に戦っていたのか。四天王と呼ばれ、私達三人と互角に戦うお前が、自分の為ではなく人の為に戦おうというのか」


それに気付いているのかいないのか、名鳥はポケットからタバコを取り出して口にくわえた。


「明ちゃんは強いと言ってもまだ子供だ。俺が汚れなきゃならねぇならいくらでも汚れてやる。この子にはまだ早いと思わないかい? 大人の汚れた世界なんて見せるべきじゃねぇんだよ。俺が汚れて済むなら、いくらでも汚れてやるって決めたんだ」


火を点けて、煙を吹き出した名鳥の顔はどこか穏やかで。


だが気は抜いていないのが真治にはわかった。


「だったら、もう戦う必要はないですよね。俺は、死んでしまった同級生を埋葬する場所を探したいだけなんです。名鳥さんと戦うつもりは最初からありません」


「フッ。若いねぇ。もしもこれが演技で、お前さんが近付くのを待っていただけだとしたらどうする? 一撃で仕留められる距離まで誘導していたとしたら」


そう言いながら、素早く槍を取り出した名鳥。


槍の先端が真治の喉元にピタリと当てられた。


「俺が少しでも突けば、お前さんは死ぬ。この状況で敵を信用出来るかい? さっきの戦いは見事だったよ。だが、この件はそれとは別の話だ」
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