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狂い始める歯車

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「だけど……俺も明ちゃんもパスだな。面白そうだってのは本心だけどさ、俺達がいなくなったら東軍はどうなる? まさか津堂と香月に任せて塔に行けって言うつもりか? うちは一枚岩じゃないんだよね。俺が離れると、あいつらは何するかわからねぇ」


上手く行ったと思ったが、東軍の内情を説明されてのご丁寧な断りに、恵梨香は目に見えてわかるように肩を落とした。


いつもヘルメットで顔を隠しているのは、表情を読まれないようにする為だったのかとさえ思える。


「チッ。どいつもこいつも……俺を置き去りにしやがる。ふざけるんじゃねぇぞ! 俺は黒井! 黒井風助だ!」


怒りを何度も爆発させた黒井は、不機嫌そうな表情を浮かべながら立ち上がって、南軍側の光の壁に顔を向けた。


街の中央部を越えて南軍に戻るつもりか、総力戦が始まるのを待つのも嫌なのだろう。


真治とは一時的に手を組んだだけで、塔に向かうというのは黒井とってら関係のない話だ。


「すみません名鳥さん。だったら一つだけ、俺の頼みを聞いてくれませんか?」


「ん? まあ、内容次第だよね。無茶苦茶なこと言われても、返事に困るしさ」


何本目のタバコだろうか。


地面に吸殻を並べて、新しいタバコを取り出すと、それを口にくわえて火を点けた。


「東軍に……守ってくれる人をなくした小さな女の子がいるんです。そして、その面倒を見てくれている子も。その二人を、名鳥さんで面倒見てくれませんか?」


「だからさ、そういうのを無茶苦茶なことって言うんだよね。何? 俺がおっさんだから子供一人くらいいてもおかしくないとか思った?」
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