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テケテケ&音楽室の怪

三十二曲目

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教室のある棟に逃げ込んだヤスダは、一番近くにある教室に入った。


普通なら少しでも遠くにと考えて、窓際まで移動して机の影にでも隠れるだろうが、ヤスダは違う。


一番廊下側の窓の下、身を低く息を潜めていた。


「はぁ……はぁ……音楽室までがなんて遠いんだ。これは、謎を解くまでに後一人か二人は殺されるかもしれないぞ」


そう呟いたと同時に、廊下が淡い光で包まれた。


そして、ピアノの音に紛れて、「ヒタッ」という独特の音がヤスダの耳に届いたのだ。


不思議だった。


テケテケに追われているが、暗闇で追い掛けられた記憶が全くない。


いつもその不気味な姿がしっかりと見えていて、見えなかったことが一度もなかったから。


となれば答えは一つである。


(もしや、テケテケが現れる場所は月の光が……)


腕を押さえて痛みに耐え、そう考えたヤスダはさらにもう一つ気付いた。


(……なるほど、だからか)


呟きにもならない思考であったが、それはヤスダにとって少しの自信になりつつあった。


ただ逃げるしか存在価値がない自分が、もしかしたら役に立てる可能性があるのではないかと。


ヒタヒタと、廊下を歩く音がピアノ演奏の合間に微かに聞こえる。


恐らく、今は壁を挟んだ向こう側にテケテケがいる。


呼吸音一つ、衣擦れ一つでも気付かれてしまいそうな緊張感の中、ヤスダは息を止めた。
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