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テケテケ&音楽室の怪

三十六曲目

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いや、「ような」ではなかった。


キョウジの匂いを嗅いでいたテケテケの首が、ブチッという嫌な音と共に千切れ飛び、壁に激突して床に転がる。


「うひっ!  ひゃあああっ!?」


頭部を失った身体の方は、まるで操り人形の糸が切れたかのように、キョウジに身を任せるように倒れ込んで動かなくなった。


汚い物でも払うかのように、慌ててテケテケの身体を押し退けて、壁際まで後退りをする。


「……も、もしかして倒したのか?  俺の黄金の右脚が、怪談の化け物をも倒したというのか」


「た、た、助かった……助かったよヤスダくん!  ありがとう!  キミは命の恩人だ!」


唖然とするヤスダに、涙を流して手を合わせるキョウジ。


普段、クラスメイトから助けてもらえることなどなかったキョウジにとって、この命が懸かっている場面で、危険をかえりみずに助けてくれる人などいないと思い込んでいたから余計だったのだろう。


「よ、よせ。俺は俺の役目を果たしただけだ。オカルトに疎い俺でも、何かの役に立てたならここに呼ばれた甲斐があったというものだ。仲間を助けるなど、当然のことだ。だろう?  キョウジ」


「へ、へへ。ヤスダくん、やっぱりかっこいいや。そんなセリフをサラッと言えるんだから……」


差し出された手を掴もうと、キョウジが手を伸ばしたが……まだこの空間が月明かりで照らされていたことに気付いた。


と同時に、何が起こったのか、目の前が赤く染まったのだ。
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